検査値ノート一覧へ

Lab values · Published

水素呼気試験

Hydrogen breath test

別名
呼気水素試験
臓器系
消化器
科目
Internal MedicinePathophysiology
トピック
内科学 G-02:小腸疾患・吸収不良・消化不良病態生理学 2-1:消化管:胃と小腸の疾患
関連疾患
小腸内細菌異常増殖

🧠 全体像を解釈する土台はただ一つ——ヒト自身は水素を産生できず、呼気中の水素はすべて腸内細菌が未消化の糖を発酵して初めて生じるという事実である。だから呼気水素の上昇は「摂取した糖が小腸で吸収されずに細菌の待つ場所(大腸、あるいは小腸内で異常増殖した細菌)まで届いた」ことを意味する。この一点さえ押さえれば、基質を変えることで(SIBO)という全く異なる病態を、同じ原理の検査で拾い分けられる理由が理解できる。

何を測っているか

被検者に特定の糖(基質)を経口摂取させ、一定間隔で呼気中の水素濃度(および多くはメタン濃度も同時に)をppm単位で測定する。摂取した糖が小腸で十分に消化・吸収されれば、大腸へ届くは少なく、細菌発酵によるガス産生も乏しい。逆に消化・吸収に失敗した糖、あるいは本来無菌に近いはずの小腸で細菌が異常増殖している状況では、糖が細菌にさらされる機会が増え、発酵産物としての水素・メタンが増える。

flowchart TD
    A["糖(基質)を経口摂取"] --> B{"小腸で消化・吸収されるか"}
    B -->|"される(正常)"| C["大腸に届く<span class='jp-term jp-term-diagram' title='undigested sugar'>未消化糖</span>はわずか"]
    B -->|"されない、または<br>小腸内で細菌に先取りされる"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='undigested sugar'>未消化糖</span>が腸内細菌にさらされる"]
    D --> E["細菌による発酵"]
    E --> F["水素・メタンなどのガスを産生"]
    F --> G["血流経由で肺から呼気中へ排出"]
    C --> H["呼気水素はほとんど上昇しない"]
    G --> I["呼気水素・メタンが基礎値から上昇"]

基質で見ているものが変わる

基質 何を評価するか 陽性の意味
乳糖 小腸活性低下による乳糖吸収不良(を参照)
小腸での輸送能力を超えた摂取による吸収不良
グルコース 通常は無菌に近い近位小腸に細菌が異常増殖し、摂取直後からグルコースを発酵してしまう
SIBO(グルコースの代替基質) ヒトので分解されず本来は大腸まで届く糖だが、上昇のタイミングが早いことでSIBOを示唆する

⚠️ は口盲腸の評価には使わない。 かつての指標として用いられたが、自体が浸透圧性に腸管通過を促進してしまい再現性にも乏しいため、コンセンサスでは推奨されていない1

判定基準

基礎値からのと、上昇が起きるまでの時間の組み合わせで判定する。⭐ は記憶で書かず一次資料で確認する——グルコース・を用いたSIBO判定では、検査開始から90分以内に基礎値から水素が20ppm以上上昇した場合を陽性とする。メタンは上昇幅ではなく、検査中いずれかの時点での実測値が10ppm以上であれば陽性とする点が水素とは判定の考え方が異なる1の判定でも基礎値から20ppmを超える上昇を吸収不良の目安とする点は同じだが、こちらは検査終了時点(通常2〜3時間)までの上昇を見る2

💡 SIBOでは「早期の急な上昇」が鍵になる。 通常なら基質が大腸に達して初めて上昇するはずの水素が、摂取後早期(近位小腸を通過する時間帯)にすでに立ち上がっていれば、それは小腸内に異常に細菌が存在する証拠になる。

⚠️ 測定上の注意

  • 偽陰性:一部の被検者はの構成上、に水素をほとんど産生しない体質(報告では数%程度)を持ち、その場合はメタンを同時測定しないと陽性を見逃す。また検査直前の抗菌薬使用はそのものを減らし偽陰性の原因になる1
  • 偽陽性:前日に発酵性の複合炭水化物を摂取していると基礎値がすでに上昇した状態で検査を始めてしまう。喫煙は呼気水素を上昇させ、腸管運動を促進する薬剤によるの短縮も、基質が早く大腸に届くことで偽陽性を生む1
  • が結果を左右する:検査前日は発酵性食品を避け、8〜12時間絶食し、抗菌薬は検査の4週間前から中止し、検査当日は喫煙を避けることが推奨される1が守られていない検査結果は、陽性・陰性いずれも額面どおりに解釈しない。

まとめ

  • 呼気水素はヒト自身ではなく腸内細菌が未消化の糖を発酵して産生するため、上昇は「糖が細菌にさらされたこと」を意味する。
  • 基質を変えることで・SIBOという異なる病態を同じ原理で評価でき、は口盲腸の評価には推奨されない。
  • SIBO判定は基礎値から90分以内に水素20ppm以上の上昇、メタンは上昇幅ではなく実測値10ppm以上を陽性とし、は検査終了時までに水素20ppm超の上昇を目安とする。
  • 水素非産生体質・直前の抗菌薬は偽陰性を、前日の発酵性食品・喫煙・の短縮は偽陽性を来すため、が守られたかを確認してから結果を解釈する。

出典

  1. 1.Hydrogen and Methane-Based Breath Testing in Gastrointestinal Disorders: The North American Consensus(The American Journal of Gastroenterology・2017)グルコース・ラクツロース呼気試験でのSIBO判定は基礎値から90分までに水素が20ppm以上上昇した場合を陽性とすること、メタンは10ppm以上を陽性とすること、ラクツロースは腸管通過を促進し再現性にも乏しいため口盲腸通過時間の評価には推奨されないこと、固定的な水素非産生者が3.4%存在すること、偽陽性因子として喫煙・通過亢進薬剤による通過時間の短縮があること、前処置として前日の発酵性複合炭水化物の回避・8〜12時間の絶食・検査4週間前からの抗菌薬中止・検査当日の喫煙回避が推奨されることを確認した(Results:Indications for breath testing/Preparation of patients for breath testing/Interpretation of breath testing results の各節)閲覧 2026-08-11
  2. 2.Lactose Intolerance(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)乳糖水素呼気試験は基礎値から20ppmを超える上昇で乳糖吸収不良と判定すること、非侵襲的で広く用いられる標準的な確認検査であることを確認した閲覧 2026-08-11