病態生理学

病態生理学 · 2-1

消化管:胃と小腸の疾患

GI system: diseases of the stomach and small intestine

応用トピック
小腸疾患・吸収不良・消化不良消化管疾患 症例2
検査値
水素呼気試験

🧠 胃は「vs 」のバランス。 消化性潰瘍はこの均衡が崩れた結果で、二大犯人は H. pylori と NSAIDs。小腸疾患(・セリアック病)は“吸収できない”ことから下痢・を起こす。

消化性潰瘍

H. pylori

flowchart TD
  HP["H. pylori が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='antrum'>幽門洞</span>に定着"] --> NH3["NH₃産生(酸を緩衝→好都合な環境)"]
  NH3 --> IR["粘膜を刺激 → 酸産生↑"]
  HP --> IM["持続的免疫応答 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='mucosal injury'>粘膜障害</span>"]
  IR --> HA["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperacidity'>過酸</span>→ 潰瘍"]
  IM --> HA
  • 潰瘍は非感染者の6–10倍。診断(ウレアーゼ活性):
    • ウレアーゼ呼気試験
    • 生検の/組織

除菌治療

⚠️ の広がりにより、感受性不明の経験的一次除菌ではを含む(+アモキシシリン+)を無条件の第一選択にしない。 欧州のMaastricht VI/Florence合意(2022)は、個別のが利用できない場合、率が高い(15%超)か不明の地域の一次治療をとし(治療WG Statement 2、合意率92%、Grade B1)、それも使えなければ非含有の併用四剤療法を考慮しうるとしている。(++アモキシシリン)を用いるのは、局所で有効性が示されているか感受性が判明している場合に限られる1。同合意はまた、または培養でが利用できるなら、を含むレジメンを処方する前に感受性を確認すべきとしている(診断WG Statement 9、合意率91%、Grade A1)1。⚠️ Gradeの英字はエビデンスの質(A高〜D非常に低)、数字は推奨の強さ(1=強い/2=弱い)を表す。

⚠️ どのレジメンを一次治療に置くかは国によって違う。 日本ではが使えず四剤療法の選択機会が限られるため、日本ヘリコバクター学会2024年版はを行わない一次除菌にを用いたまたは+アモキシシリン+メトロニダゾールを強く推奨している2。表の「位置づけ」欄は、この国差を含めて読む。

レジメン 構成 位置づけ
/P-CAB++メトロニダゾール+テトラサイクリン系、10〜14日間 感受性不明の経験的初回治療で国際指針が置く推奨レジメン。⚠️ 日本ではが使用できず選択機会は限られる
ベースの +アモキシシリン+、7日間 日本ではを行わない一次除菌の推奨レジメン(推奨の強さ「強い」、エビデンスの確実性A)。ベースより除菌率が高い
+アモキシシリン+メトロニダゾール メトロニダゾールでを置き換える、7日間 日本ではもう一方の推奨レジメン(同じく推奨の強さ「強い」)。日本はメトロニダゾール耐性率が低く、国内RCTのみの解析で除菌率89.7%と+アモキシシリン+の69.9%を上回った
+アモキシシリン+ 7〜14日間 が既知に低い、または感受性が確認できた場合に限り選択する

米国の 2024も、未治療例で感受性が不明な場合の推奨レジメンは14日間のとし、ペニシリンアレルギーの無い例では14日間のまたは二剤療法を経験的な代替に挙げている3。の構成は・・テトラサイクリン・メトロニダゾールである1。

💡 はでもの除菌率を大きく落とすため(アモキシシリン耐性はまれで、だけで失敗の原因になる)、「地域の耐性率」または「個別の感受性」を確認せずにを選ぶと除菌に失敗しやすい24。

⚠️ 除菌に成功しても胃癌リスクはゼロにならない。 ・まで進行した粘膜は除菌後も組織学的変化が残りやすいため、の範囲が広い患者では除菌後もを継続する。のとの詳細は胃炎・胃癌ノートを参照。

慢性 NSAID 使用

💡 の害の正体: 全身性阻害 → プロスタグランジン↓(本来は粘液・分泌、粘膜血流、上皮修復を保つ)→ が壊れて酸に弱くなる。酸そのものが増えるわけではなく、H. pylori の直接的な酸産生刺激とは機序が異なる。でもGI出血リスクが上がり、やの併用で軽減できる。

⚠️ 潰瘍の予防( 併用の適応): を中止できず、かつ①潰瘍・出血の既往、②高齢、③高用量または複数併用、④アスピリン・・抗凝固薬・副腎皮質ステロイドの併用、のいずれかがある高リスク患者ではの予防投与を併用する。低リスクで単剤・短期使用ならルーチンの併用は必須ではない。

症状と合併症

警告徴候と内視鏡の要否

⚠️ 症状にが重なるときは、(H. pylori検査やの先行投与)で済ませてよいかを立ち止まって考え、の要否を判断する。 一般にとして挙げられるのは以下のとおり。

  • 原因不明の体重減少
  • 嚥下障害・
  • 消化管出血の徴候(・)
  • 貧血(など)
  • 持続する嘔吐
  • 60歳以上での新規発症、悪性腫瘍の家族歴、

💡 をどこまで重く見るかは、指針によって違う。 米国・カナダの/CAG 2017は年齢を主軸に置き、60歳以上のには内視鏡を条件付きで提案する一方、60歳未満ではがあっても自動的に内視鏡へ進めず、個別に判断するとしている5。英国の 2022は、他の症状が無い場合の緊急内視鏡を「体重減少を伴うの55歳以上」と「胃癌の多い地域の出身か家族歴のある40歳超」に絞り、55歳以上の治療抵抗性や・悪心・嘔吐を伴う場合は非緊急の内視鏡を考慮するとしている。年齢を問わず嚥下障害は緊急内視鏡の対象である(英国の紹介基準)6。上の一覧は「どの指針でも同じ重みで即内視鏡」という意味ではない。

がなく60歳未満であれば、内視鏡を先行させずにH. pylori非侵襲検査(・)から始め、陽性なら除菌、陰性や無効ならを試す5。

乳糖不耐症

種類 原因
原発性 後天性(加齢性)欠損(最多);先天性(稀AR);(早産)
続発性 SIBO()、()、(セリアック病、()、薬/放射線)

セリアック病

💡 が引き金、tTG が抗原を作り、Th1(IFN-γ)が指揮し上皮内CD8⁺リンパ球が絨毛を壊す。 抗tTG-IgA抗体は感度・特異度ともに高いが、100%ではない——IgA欠損例では偽陰性になりうるため、必ず総IgAを同時に測定する。

診断

⚠️ 血清学的検査(抗tTG-IgA抗体)とは、必ずを含む食事を続けたまま行う。 検査前にを始めてしまうと、も絨毛の組織所見も改善し偽陰性になるため、疑った時点でまだを除去していないことを確認してから検査に進む。

  • 第一選択: 抗tTG-IgA抗体+総IgA同時測定。総IgAが欠乏していれば(一般人口よりセリアック病患者で高頻度)tTG-IgAが偽陰性になりうるため、ペプチド抗体IgG(DGP-IgG)または抗tTG-IgG抗体で代替評価する。⚠️ ただしIgG系の検査は感度が低く、陰性でも除外できない。吸収不良を疑う所見があれば、IgG系の結果によらずへ進む7。
  • 確定診断: +(の評価)。成人では十二指腸下行部から4個以上と球部から2個を採り、修正Marsh分類で判定する7。血清学陽性のみで生検を省略する「無生検診断」は、内視鏡が困難な成人など限られた状況、または一定の条件を満たす小児で用いられてきた。
  • 成人の無生検診断(ESsCD 2025): 欧州セリアック病学会の2025年版は、成人でも初回のIgA抗tTG抗体がの10倍以上なら血清学だけで診断を確定できるとした(条件付き推奨)。初回の結果は別の血液検体で確認する必要があり、確認まで摂取を続け、判断は二次医療で行う。血便・嚥下障害・閉塞徴候など他疾患を疑う赤旗症状があればこの方法を使わない。安全性のデータが揃うまでは45歳未満に限る()7。
  • 注意: 除去食を先に始めた患者を評価する場合は、-DQ2/DQ8検査(陰性なら除外に有用)や、負荷後の再検査を検討する。

帰結: 未治療・診断遅延が続くと死亡率↑、リンパ腫+GI癌↑。

まとめ

疾患 押さえること
消化性潰瘍 との均衡が崩れた粘膜欠損。二大原因は H. pylori と で、併存するとリスクがさらに上がる
H. pylori に定着し、NH₃産生と持続的な免疫応答で亢進・を起こす。潰瘍は非感染者の6–10倍
除菌の一次治療 感受性不明なら国際指針は。日本ではまたは+アモキシシリン+メトロニダゾールを強く推奨。は感受性が分かっている場合に限る
潰瘍 プロスタグランジン低下でが壊れる。中止できない高リスク患者ではを併用する
内視鏡の要否 と年齢で判断する。重みづけは指針で違う(/CAG 2017は60歳、 2022は55歳を軸にする)
欠損で未吸収乳糖が発酵し、腹痛・下痢・。診断は、管理は乳糖制限と Ca²⁺・ビタミンD
セリアック病 →tTGによる→-DQ2/DQ8提示→CD4⁺ T細胞が指揮し上皮内CD8⁺リンパ球が上皮を破壊。と
セリアック病の診断 摂取を続けたまま抗tTG-IgA+総IgAを測る。確定はが基本で、無生検診断は条件付き(成人はESsCD 2025が45歳未満に限定)

出典

  1. 1.Management of Helicobacter pylori infection: the Maastricht VI/Florence consensus report(Gut(European Helicobacter and Microbiota Study Group ほか、29か国41名の専門家)・2022)リポジトリ版(repositorio.uam.es)から全文PDFを取得して確認した。取得できたのは Gut 2022;0:1-39 と表記されるonline-first 版で、誌上版 71(9):1724-1762 とはページ番号が異なる。H. pylori 感染はICD-11で感染症として正式に位置づけられ、原則として感染者全員が治療対象になる。診断ワーキンググループのStatement 9は「Clarithromycin susceptibility testing, if available through molecular techniques or culture, is recommended before prescribing any clarithromycin containing therapy.」(合意率91%、Grade A1)で、分子生物学的手法または培養による感受性検査が利用できる場合という条件つきの推奨である。治療ワーキンググループのStatement 2(合意率92%、Grade B1)は、個別の感受性検査が利用できない場合、クラリスロマイシン耐性率が高い(15%超)か不明の地域の一次治療をビスマス四剤療法とし、それも利用できなければビスマス非含有の併用(concomitant)四剤療法を考慮しうるとする。図1の凡例はビスマス四剤療法をPPI・ビスマス・テトラサイクリン・メトロニダゾール、クラリスロマイシン三剤療法をPPI・クラリスロマイシン・アモキシシリンと定義し、後者は局所で有効性が示されているかクラリスロマイシン感受性が判明している場合にのみ用いるとする。治療Statement 1(Grade D2)は一次治療前でも感受性検査をルーチンに行うことを reasonable とするが、原文自身が「そのような感受性検査に基づく戦略を日常診療で一般的に用いることの妥当性はまだ確立されていない」と続けている。なおMethodsの定義により、Gradeの英字はエビデンスの質(A高〜D非常に低)、数字は推奨の強さ(1強い/2弱い)を表す閲覧 2026-09-08
  2. 2.H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2024 第2章「治療」(日本ヘリコバクター学会・2024)CQ2-5が、日本で感受性検査を行わない一次除菌に「ボノプラザン+アモキシシリン+クラリスロマイシン」または「PPI+アモキシシリン+メトロニダゾール」のいずれかを推奨していること(推奨の強さ「強い」、合意率90.5%、エビデンスの確実性A)。日本はクラリスロマイシン耐性化率が高くメトロニダゾール耐性化率が低いため、国内RCTのみの解析ではPPI+アモキシシリン+メトロニダゾール89.7%がPPI+アモキシシリン+クラリスロマイシン69.9%を上回ったこと。ボノプラザンを用いた三剤療法の除菌率89.4%はPPIを用いた同レジメンの79.1%より有意に高いこと。総論が、日本ではビスマス製剤を使用できないため四剤療法が選択される機会は限られると述べていること閲覧 2026-08-14
  3. 3.ACG Clinical Guideline: Treatment of Helicobacter pylori Infection(American College of Gastroenterology・2024)未治療例で抗菌薬感受性が不明な場合は14日間のビスマス四剤療法(BQT)が推奨レジメンであり、ペニシリンアレルギーの無い例では14日間のリファブチン三剤療法またはP-CAB二剤療法が経験的な代替になること。既治療の持続感染例では「最適化」BQTの14日間が優先されること。クラリスロマイシンまたはレボフロキサシンを含む救済レジメンは感受性が確認された場合にのみ用いるとされること。⚠️ 誌上版本文は取得できておらず、以上はいずれも抄録に記載された内容である。BQTの構成薬の内訳は抄録に無い閲覧 2026-08-14
  4. 4.Treatment of Helicobacter pylori Infection in Korea: An Evidence-Based Analysis of the Upcoming 2025 Guideline(The Korean Journal of Helicobacter and Upper Gastrointestinal Research・2026)ビスマス四剤療法(BQT)の構成がPPI・ビスマス・テトラサイクリン・メトロニダゾールであること。国際ガイドラインはクラリスロマイシン耐性率が15%を超える地域では感受性検査なしの三剤療法を一次治療として推奨しておらず、一次治療として推奨されるには intention-to-treat 除菌率が80%以上必要とされること。クラリスロマイシンが無効になると三剤療法の除菌率が落ちること(アモキシシリン耐性はまれで、クラリスロマイシン耐性だけで失敗の原因になる)閲覧 2026-09-08
  5. 5.ACG and CAG Clinical Guideline: Management of Dyspepsia(American College of Gastroenterology (ACG) / Canadian Association of Gastroenterology (CAG)・2017)抄録(Europe PMC)で確認した。60歳以上のディスペプシアには器質的疾患の除外のため上部消化管内視鏡を行うことを提案し(条件付き推奨。胃癌高リスク国で幼少期を過ごした人や家族歴のある人ではより若い年齢での内視鏡も考慮しうる)、60歳未満では警告徴候(alarm features)があっても自動的に内視鏡へ進めず個別に検討するとしていること。60歳未満にはH. pylori非侵襲検査と陽性時の除菌を推奨し、陰性または無効ならPPIの試行、さらに三環系抗うつ薬・消化管運動促進薬へ進むこと。誌上版本文は取得しておらず、以上は抄録の記載である閲覧 2026-08-14
  6. 6.British Society of Gastroenterology guidelines on the management of functional dyspepsia(Gut(British Society of Gastroenterology)・2022)全文(PMC9380508)で確認した。ほかに上部消化管の警告症状・徴候が無い場合、緊急内視鏡が必要なのは体重減少を伴うディスペプシアの55歳以上、または胃癌リスクの高い地域出身か食道胃癌の家族歴をもつ40歳超に限られるとし(強い推奨、エビデンスの質は非常に低い)、55歳以上の治療抵抗性ディスペプシアや、血小板増多・悪心・嘔吐を伴うディスペプシアでは非緊急の内視鏡を考慮するとしていること(強い推奨)。Box 1が英国NICEの胃食道癌疑いの紹介基準として、年齢を問わない嚥下障害と、体重減少を伴う55歳以上のディスペプシア・上腹部痛・逆流を緊急内視鏡の対象に、吐血と55歳以上の治療抵抗性ディスペプシアなどを非緊急内視鏡の対象に挙げていること閲覧 2026-09-24
  7. 7.European Society for the Study of Coeliac Disease 2025 Updated Guidelines on the Diagnosis and Management of Coeliac Disease in Adults. Part 1: Diagnostic Approach(United European Gastroenterology Journal・2025)全文(PMC12704582)で確認した。成人の生検は十二指腸下行部から4個以上+球部から2個を必須とし修正Marsh分類を基準とすること。成人でも初回IgA抗TG2抗体が基準上限の10倍以上なら血清学のみで診断を確定できるとし(無生検診断。中等度のエビデンス、条件付き推奨)、初回の結果は別の血液検体で確認することを要し、確認までグルテン摂取を続けること(専門家意見)、生検省略と最終診断の判断は二次医療で行うこと、血便・嚥下障害・閉塞徴候など他疾患を疑う赤旗症状があればこの方法は適さないこと、安全性のデータが揃うまで45歳未満に限るべきとすること(専門家意見)。総IgA欠損ではIgG抗TG2・IgG抗DGPなどIgG系検査を用いるが感度が低く陰性でも除外できず、吸収不良を疑う所見があればIgG血清学の結果によらず十二指腸生検を行うこと閲覧 2026-09-24