病態生理学

病態生理学 · P-2-2

消化管疾患 症例2

Gastrointestinal disease, Case 2

前提:病態
消化管:胃と小腸の疾患

🧠 でアスピリンを飲む68歳男性の・脱力・めまい・頻脈 → 。 内視鏡での潰瘍からの出血が確認された。で入院の要否を判断し、止血後は、H. pylori の検索、のアスピリンをいつ続ける/再開するかが要点になる。

症例提示

68歳男性が、脱力とめまいをに救急外来を受診。2日前から便色が変化し、非常に黒色の便を大量に排泄しているという。嘔吐、血便、血尿はない。喫煙歴、IHD()、高血圧、の既往あり。内服は 10mg 夕1錠、 100mg 1日1錠、 10mg 1日1錠、 25mg 1日1錠。

: 蒼白な男性。RR: 115/70 mmHg、HR: 102/min。胸郭は左右対称、呼吸音清、両側胸郭運動良好。心拍整、清、雑音なし。腹部は軟で、に軽度圧痛、異常抵抗なし、なし、音は正常。RDE()でを確認。末梢血管拍動は良好で、は聴取しない。

: Hgb: 110 gr/l, Htk: 32%, RBC: 3.9 T/l, : 84 fl, PTL: 360 G/l, WBC: 9.8 G/l, : 6.2 mmol/l, : 6.0 mmol/l, クレアチニン: 126 μmol/l, : 40 U/l, : 60 U/l, : 112 U/l, : 45 U/l, コレステロール: 6.0 mmol/l, コレステロール: 0.7 mmol/l, トリグリセリド: 1.6 mmol/l, ナトリウム: 145 mmol/l, カリウム: 4.0 mmol/l。尿所見に異常なし。

内視鏡: 胃内に少量の血。粘膜はで、に直径約1 cmの表在性潰瘍を認め、同部から血液の滲出あり。生検と止血処置(クリップ留置、Tonogen注入)を施行。

主要所見と解釈

引用 / 値 解釈
“非常に黒色の便を大量に排泄” + RDE: “” は上部消化管(結腸より)由来の消化血を示唆
“脱力・めまい”、蒼白、HR 102/min、BP 115/70 mmHg に伴う症状と、初期の悪化の徴候
“ 100 mg 1日1錠” アスピリンによる低下は消化性潰瘍・出血の主要危険因子
Hgb 110 g/L、Htk 32%(貧血)、 84() 急性〜亜急性出血に伴う貧血像
内視鏡: “の表在潰瘍から出血” 活動性出血性で、出血源が確認され治療された
“嘔吐なし、血便なし” 劇症上部出血(なし)や(なし)をやや否定するが、大量で通過が速い上部出血はとして現れうるため、この所見だけで下部出血を除外しない
6.0 mmol/l、Hgb 110 g/l(男性)、115 mmHg、脈拍102/min、あり、失神・肝疾患・心不全の既往なし 試算:0点+Hgb 3点(男性10.0以上12.0未満 g/dL、12.0〜12.9 g/dLは1点)1+0点+脈拍1点+1点=5点。が外来経過観察での退院を提案する0〜1点の超低リスク域2を超えており、入院で評価し内視鏡を行う対象になる
Hgb 110 g/L(11.0 g/dL) 2021は入院したの閾値をHb 7 g/dLとすることを提案しており2、本例の値はこれを上回る。ただしの直後はが進む前でHbが実際の失血を反映しにくいので、に追う
クレアチニン 126 μmol/L(約1.4 mg/dL)、 6.0 mmol/l クレアチニンは軽度高値。既存の腎機能低下か、出血によるの影響かはこの1回の値では区別できない。では腸管内の血液蛋白の吸収で尿素が上がりやすいが、本例のは上がっていない(の尿素項目も0点)

要点整理

  • 診断: 出血性による(非静脈瘤性)。
  • 重要徴候: は上部出血を示す局在所見であり、内視鏡で確認された。
  • 初期: 内視鏡前でも(本症例では5点前後)で入院・の必要性を評価できる。肝疾患既往や身体所見に静脈瘤性出血を積極的に示唆する所見はなく、静脈瘤性か非静脈瘤性かの初期鑑別では非静脈瘤性出血として矛盾しない(静脈瘤を疑う場合は内視鏡を待たず+短期抗菌薬を先行させる)。
  • 危険因子: 心血管疾患背景下での毎日のアスピリン内服(+)。
  • 病態生理: アスピリンによる阻害でプロスタグランジン産生が低下し、粘膜の粘液・分泌や粘膜血流など防御機構が破綻する→通常濃度の酸・でも上皮傷害・が進む→で出血する。アスピリンのは、いったん血管が破綻した後の止血をさらに妨げる。
  • 本症例での対応: (クリップ+アドレナリン〈Tonogen〉注入)と生検。後は高用量を3日間(持続または)、その後は内視鏡後最初の2週間、経口を1日2回とする2。
  • 見落としやすい次のステップ: 生検からのHelicobacter pylori検査は本症例の記載に含まれていないが、出血性では原因検索として必須。中は検査感度が下がり得るため、陰性でも疑いが強ければ後日の・で再検査する。
  • アスピリンの取り扱い: 本例のアスピリンはのである。-CAG 2022は、のアスピリンを内服中の急性消化管出血では中断しないことを提案し、中断した場合は内視鏡で止血が確認された日に再開することを提案している(いずれも「提案」の強さ)3。漫然と中止を続けず、再出血リスクと心血管リスクを踏まえて循環器・消化器で確認する。

出典

  1. 1.Assessment of the Prognostic Value of the ABC Score in Non-Variceal UGIB Showing Superiority to Traditional Scores, With Room for Improvement: A Retrospective Observational Study(Korean Journal of Helicobacter and Upper Gastrointestinal Research・2025)本文Table 1(各スコアの構成要素の一覧)から、Glasgow-Blatchfordスコアのヘモグロビン項目は男性で12〜13 g/dLが1点、10〜12 g/dLが3点、10 g/dL未満が6点であることを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.ACG Clinical Guideline: Upper Gastrointestinal and Ulcer Bleeding(American College of Gastroenterology・2021)抄録(Europe PMC)で確認した。救急外来でのリスク評価で超低リスク(例:Glasgow-Blatchfordスコア0〜1点)の患者は外来経過観察での退院を提案し、入院例では赤血球輸血の閾値をHb 7 g/dLとすることを提案し、内視鏡は受診後24時間以内を提案する。内視鏡的止血後は高用量プロトンポンプ阻害薬を3日間持続的または間欠的に投与し、その後は内視鏡後最初の2週間は1日2回の経口プロトンポンプ阻害薬とすることを推奨する。閲覧 2026-08-26
  3. 3.American College of Gastroenterology-Canadian Association of Gastroenterology Clinical Practice Guideline: Management of Anticoagulants and Antiplatelets During Acute Gastrointestinal Bleeding and the Periendoscopic Period(American College of Gastroenterology / Canadian Association of Gastroenterology・2022)抄録(Europe PMC、PMID 35297395)で確認した。急性消化管出血で受診した、二次予防として心血管系のアスピリンを内服している患者では、アスピリンを中断しないことを提案し、すでに中断している場合は内視鏡で止血が確認された日に再開することを提案する。抗血小板薬内服中の患者に血小板輸血を行わないことも提案している閲覧 2026-09-24