病態生理学

病態生理学 · P-2-1

消化管疾患 症例1

Gastrointestinal disease, Case 1

前提:病態
消化管:炎症性腸疾患

🧠 若年女性の3週間続く血性下痢(4日前からは発熱と粘液も加わる)に、内視鏡で直腸・S状結腸・の炎症 → 直腸からへ広がる分布としての初発を考える。 陰性だけでは感染を除外しきれない。1日7〜8回の血性便にが加わる時点で Truelove and Witts の重症にあたり、入院で扱う急性重症として読む。

症例提示

25歳女性。3週間前から水様性下痢が続き、便にの血液が間欠的に混入していた。4日前から発熱が出現し、その後は下痢回数が増加(1日7〜8回)し、便には持続的に血液と粘液が混じるようになった。嘔吐は数回あるが、やはない。臍周囲に持続する疝痛様痛を認める。既往歴なし、なし。

: 苦悶様の25歳女性。舌は乾燥して鱗状、低下。胸郭は左右対称、呼吸音清、両側胸郭運動は保たれる。心拍は整、清、雑音なし。HR: 96/min、RR: 100/75 mmHg。腹部は軟で、異常抵抗なし、なし。ただし臍周囲・左・下腹部に圧痛が著明。末梢血管拍動は良好で、は聴取しない。

注目すべき検査異常: Hgb: 118 g/l, Htk: 33%, RBC: 4 T/l, WBC: 11.9 G/l, BUN: 8.5 mmol/l, K: 3.3 mmol/l, CRP: 117.4 mg/l。

: 病原性細菌は培養されなかった。

腹部超音波: およびS状結腸壁に浮腫・炎症を認める。腹腔内遊離液はない。

: 直腸、S状結腸、に中等度の炎症と小潰瘍を少数認める。

主要所見と解釈

引用 / 値 解釈
“3週間の水様性下痢 … 血便 … ”、1日7〜8回 な血性・下痢であり、単独ではなく炎症性大腸炎を示唆
“: 病原性細菌なし” 一般的なの可能性は下がるが、通常のでは()の毒素や()は検出されない。増悪を疑う患者は全例の検査を行うべきとされており1、新規発症例・増悪例ではこれらを別途除外してからと判断する
: “直腸、S状結腸、” に炎症/潰瘍 直腸からにへ広がり、skip lesionを伴わない病変で、に典型的。は性・病変が典型でこの所見とは合わない
“舌乾燥・皮膚張力低下”、K⁺ 3.3(低値)、 8.5(高値) 長期下痢に伴う脱水とK喪失
CRP 117 mg/L、WBC 11.9 G/L、発熱、1日7〜8回の血性便、HR 96/min が強く、活動性増悪を示す。古典的なTruelove and Witts基準では、1日6回以上の血性便に加えて①脈拍90/分超、②体温37.8 °C超、③Hgb 10.5 g/dL未満、④30 mm/h超のいずれか1つ以上を伴えば重症と判定する2(の代わりに 30 mg/L超を用いる改変版もある)。本例は血性便7〜8回/日に加え、HR 96/分(90/分超)だけで追加基準を1つ満たす。発熱はあるが実測体温の記載が無く、は測られていない( 117 mg/Lは改変版なら該当)。Hgb 11.8 g/dLは非該当。以上から急性重症(ASUC)にあたり、外来経過観察ではなく入院管理の適応となる
Hgb 118 g/L、Htk 33%(軽度貧血) 出血および

要点整理

  • 診断: (の一型)の新規発症・急性重症型。既往歴なしで初発のため「」(既知UCの)ではなく、初回発症としてASUCの基準を満たす重症度で提示している点に注意。
  • 鑑別上の特徴:
    • 直腸から連続してへ広がる炎症で、skip lesionを伴わない(と異なる)
    • 血性・下痢
    • での
  • 感染の除外: 陰性は一般の可能性を下げるが、_C. difficile_毒素やは別に検査しないと除外できない。
  • 重症度: 1日7〜8回の血性便に頻脈(96/分、90/分超)を伴い、Truelove and Witts基準で急性重症(ASUC)にあたる(発熱・高値も炎症の強さを裏づける)。
  • 入院後の管理( 2025): 入院72時間以内・可能なら24時間以内に軟性S状結腸内視鏡で重症度を評価し、腸炎を調べる生検を得る。の有無を評価し、静注ステロイド(60 mg/日または100 mgを1日3〜4回)で治療する。薬理学的な予防は強く推奨される。静注ステロイドに3日で十分反応しなければまたはによるへ進み、外科にも相談する3。
  • ⚠️ 避ける薬: ・オピオイドはの誘因となる。 2025は・・をもつ薬をASUCで避けるとしている3。
  • 病態生理: の/炎症により、、出血、水・電解質が生じる。
  • 本症例で示された合併: 脱水、低K血症、貧血、強い全身炎症反応。

出典

  1. 1.Management of Clostridium difficile Infection in Inflammatory Bowel Disease: Expert Review from the Clinical Practice Updates Committee of the AGA Institute(Clinical Gastroenterology and Hepatology (AGA Institute)・2017)炎症性腸疾患の増悪で受診した患者は全例クロストリディオイデス・ディフィシル感染症の検査を行うべきであること(Best Practice Advice 1)を確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.Are Truelove and Witts criteria for diagnosing acute severe colitis relevant for the Indian population? A prospective study(Intestinal Research・2018)Truelove and Witts criteriaは1日6回以上の血性便に加え、ヘモグロビン105 g/L未満・ESR 30 mm/h超・体温37.8℃超・脈拍90/min超の4つの追加基準のうち1つ以上を満たす場合に急性重症大腸炎と定義することを本文で確認した閲覧 2026-08-26
  3. 3.ACG Clinical Guideline Update: Ulcerative Colitis in Adults(American College of Gastroenterology・2025)UNCリポジトリ(cdr.lib.unc.edu)の組版PDF(Am J Gastroenterol 2025;120:1187–1224、オンライン公開日欄が「XXX」の校正段階の版)で確認した。急性重症潰瘍性大腸炎(ASUC)では、全例で入院72時間以内・可能なら24時間以内に軟性S状結腸内視鏡を行い重症度評価とサイトメガロウイルス腸炎の評価のための生検を得ること、中毒性巨大結腸症の有無を評価すること、NSAIDs・麻薬性鎮痛薬・抗コリン作用をもつ薬を避けること(以上 Key concepts 48・49・51)、薬理学的な深部静脈血栓症予防を強く推奨すること(推奨47、エビデンスの質は低い)、静注ステロイドはメチルプレドニゾロン60 mg/日またはヒドロコルチゾン100 mgを1日3〜4回とすること(推奨50)、静注ステロイドに3日で十分反応しなければインフリキシマブまたはシクロスポリンによる内科的救済療法を強く推奨すること(推奨51、エビデンスの質は中等度)、3日で反応不十分な例では外科に相談すること(Key concept 52)を確認した閲覧 2026-08-26