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Disease Atlas · 消化器 · 病態

慢性偽性腸閉塞

Chronic intestinal pseudo-obstruction

別名
CIPO
臓器系
消化器
科目
Medical PhysiologySurgery
トピック
生理学 6/2:消化管の運動機能とその制御外科学 S-24:麻痺性イレウスと機械的腸閉塞
鑑別疾患
急性大腸偽性閉塞(Ogilvie症候群)ヒルシュスプルング病
合併症
小腸内細菌異常増殖
治療薬
エリスロマイシンメトクロプラミドプルカロプリド
原因微生物
Trypanosoma cruzi
症状
腹部膨満悪心嘔吐早期満腹感便秘
検査値
抗Hu抗体(ANNA-1)小腸内圧測定(アントロデュオデナルマノメトリー)
画像所見
消化管通過シンチグラフィ
原因となる疾患
アミロイドーシスシャーガス病パーキンソン病全身性強皮症

🧠 全体像:慢性(CIPO)は「機械的な閉塞が無いのに、腸管が閉塞したかのような症状と拡張所見を・反復的に呈する」病態である。名前が似た()とは別疾患——は重症患者・術後に急性発症し結腸に限局する自律神経性の一過性病態であるのに対し、CIPOは小腸を含む広範囲かつ慢性・再発性で、腸管の筋層・神経叢・(ICC)ネットワークという構造そのものの異常を背景に持つ。原因は・・ICC異常の3系統に大別され、強皮症・・のような二次性の原因と、のまたは遺伝性の神経筋変化による一次性(特発性)の原因に分かれる。診断はの除外(画像)→内視鏡→→マノメトリー(腸管内圧測定)という順に進み、治療は栄養サポートを軸に据え、経口摂取の工夫から栄養へと段階的にエスカレーションする。

Ogilvie症候群との違い

⚠️ 「」という言葉だけで同一視しない。 両者は「がない」という一点は共通するが、病態の成り立ちも対応も別物である。

観点 () 慢性(CIPO)
経過 急性・一過性 慢性・再発性1
結腸(盲腸からまで)に限局1 小腸を含む広範囲になりうる
主な機序 自律神経バランスの破綻(交感神経優位・副交感神経活動低下)2 腸管の神経・筋層・ICCネットワークの1
背景 重症患者・術後・外傷・電解質異常・オピオイド投与 全身性疾患の二次性、または特発性・遺伝性3
初期対応 保存的治療→静注→→手術 の除外→原因検索→栄養サポート中心

病因:神経原性・筋原性・ICC異常の3系統

💡 CIPOは単一の疾患ではなく、を担う3つの構成要素のどれが壊れても起こりうる症候群である。 神経障害・筋障害・(ICC)の異常のいずれもがCIPOの原因として同定されている1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal motility'>腸管運動</span>を担う3要素のいずれかが障害される"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurogenic'>神経原性</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enteric nervous system (ENS)'>腸管神経系</span>の変性・炎症)"]
    A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myogenic'>筋原性</span><br>(平滑筋そのものの障害)"]
    A --> D["ICC異常<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pacemakers'>ペースメーカー</span>ネットワークの障害)"]
    B --> E["パーキンソン病・糖尿病による<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='enteric nervous system (ENS)'>腸管神経系</span>の変性"]
    B --> F["強皮症・ループス・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paraneoplastic syndrome'>傍腫瘍症候群</span>による<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune-mediated'>免疫介在性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enteric nerve'>腸管神経</span>・平滑筋障害"]
    B --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Chagas disease'>シャーガス病</span>(最多の感染性原因)"]
    C --> H["強皮症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fabry disease'>ファブリー病</span>などの<br>平滑筋そのものの障害"]
    D --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hirschsprung disease'>ヒルシュスプルング病</span>など<br>ICCネットワークの分布異常"]
    E --> J["CIPO:慢性・再発性の<br>腸閉塞様症状+腸管拡張"]
    F --> J
    G --> J
    H --> J
    I --> J

⭐ 二次性の原因は多岐にわたる。 神経筋の経路を障害する既知の疾患として、・パーキンソン病・・糖尿病・・・が挙げられる1。強皮症・ループス・(・・が抗ニューロン核抗体〈anti-Hu〉を介してに炎症を起こす経路)はのCIPOに関連し、感染性の原因としては(Trypanosoma cruzi感染)が最多である1。もとして腸管の神経・筋層への沈着を介した二次性の原因に挙げられる。

⚠️ 特発性の中にも2つの亜群がある。 二次性の原因がすべて除外された「一次性・特発性」のCIPOも一枚岩ではなく、①の自己免疫・炎症性機序によるものと、②神経筋の変化が遺伝的に規定されているもの(家族性内臓筋症など)の2群に分かれ、それぞれ治療アプローチが異なりうる3。大部分の症例はだが、稀に遺伝性の原因も関連づけられている1。

疫学

CIPOは小児にも成人にも生じる1。米国での疫学データは限定的だが、日本の研究では成人のが男性10万人あたり0.8、女性10万人あたり1.0、はそれぞれ0.21・0.24とされる1。⭐ 在宅栄養を受けている患者の約20%がCIPOを有すると推定されており、栄養不全が高度になりうる病態であることを示している1。

臨床像

腹部膨満、悪心、嘔吐、、便秘、びまん性の腹痛を呈し、これらは急性・慢性・反復性のいずれの経過も取りうる。基礎に神経筋疾患があれば、その疾患自体の症状も併せて認める1。

診断

⚠️ と同様、まずを除外することが出発点になる。 そのうえでCIPOは「除外と段階的な機能評価」を積み重ねて確定する。

flowchart TD
    A["慢性・反復性の腸閉塞様症状+腸管拡張"] --> B["単純X線・造影CTで<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='mechanical obstruction'>機械的閉塞</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='transition point'>移行点</span>・ヘルニア・狭窄・腫瘤)を除外"]
    B --> C["ビタミンB12・葉酸・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thyroid-stimulating hormone'>TSH</span>・セリアック血清学などで<br>代謝性・自己免疫性の原因を評価"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper gastrointestinal endoscopy'>上部消化管内視鏡</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='colonoscopy'>大腸内視鏡</span>で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='organic lesion'>器質的病変</span>を除外"]
    D --> E{"内視鏡で異常なしか"}
    E -->|"はい"| F["消化管通過<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scintigraphy'>シンチグラフィ</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='motor'>運動機能</span>を評価"]
    F --> G{"通過異常があるか"}
    G -->|"あり"| H["食道・胃・小腸のマノメトリー<br>(内圧測定)"]
    H --> I{"収縮パターン・振幅は<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='myogenic'>筋原性</span>か<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurogenic'>神経原性</span>か"}
    I -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myogenic'>筋原性</span>を示唆"| J["平滑筋の障害を疑う<br>(強皮症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fabry disease'>ファブリー病</span>など)"]
    I -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurogenic'>神経原性</span>を示唆"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enteric nervous system (ENS)'>腸管神経系</span>の障害を疑う<br>(パーキンソン病・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Chagas disease'>シャーガス病</span>など)"]
    J --> L["高度の運動障害があれば<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='full-thickness biopsy'>全層生検</span>で確定"]
    K --> L

診断の起点は画像診断によるの除外である1。慢性症状の患者ではビタミンB12・葉酸・・セリアック血清学検査で代謝性・自己免疫性の異常を評価し、・でを除外する。異常が見つからなければ、レジン顆粒を用いた消化管通過でそのものを評価し、通過異常があれば食道・胃・小腸のマノメトリー(内圧測定)で収縮パターンと振幅からとを鑑別する。高度の運動障害があり診断がついている場合は、での異常を組織学的に同定できる1。

治療:栄養サポートを軸にした段階的エスカレーション

⚠️ CIPOに特化した標準治療アルゴリズムは無く、栄養サポートが治療の中心に置かれる。 はの補助にとどまり、長期の症状コントロールを担う薬剤としての効果は確立していない。

flowchart TD
    A["CIPOと診断・症候性"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='small frequent meals'>少量頻回食</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='empty calories'>高カロリー</span>飲料などの食事の工夫"]
    B --> C{"目標カロリーを達成できるか"}
    C -->|"できる"| D["経過観察を継続"]
    C -->|"できない"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enteral nutrition, EN'>経腸栄養</span>へ移行<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastrostomy'>胃瘻</span>。<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gastroparesis'>胃不全麻痺</span>合併なら<span class='jp-term jp-term-diagram' title='jejunostomy'>空腸瘻</span>)"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enteral nutrition, EN'>経腸栄養</span>で管理できるか"}
    F -->|"できる"| D
    F -->|"できない・重症"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central vein'>中心静脈</span>栄養(TPN)"]
    A --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute exacerbation'>急性増悪</span>時:<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythromycin'>エリスロマイシン</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='motilin receptor'>モチリン受容体</span>刺激)"]
    H --> I{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tolerability'>忍容性</span>が低いか"}
    I -->|"はい"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='metoclopramide'>メトクロプラミド</span>を代替"]

⭐ 栄養サポートは「経口摂取の工夫→→栄養」という順に段階的にエスカレーションする。 ・飲料といった工夫でも目標カロリーを達成できなければからのへ、を合併していればへ、それでも管理できない重症例では栄養が必要になる1。⚠️ 栄養そのものが合併症のリスクを伴う——CIPO患者の3分の1が栄養を要し、その合併症の頻度は45〜80%と見積もられている1。

の効果は限定的である。 はを刺激することでの治療には有用だが、長期治療での有効性は示されていない。が低い患者にはが代替となるが、こちらも同様に長期の有効性は証明されていない。プルカロプリド・はと症状緩和の改善を目的として検討段階にある1。

💡 のであるMMC(運動複合体)が消失すると、内容物が停滞してを合併しやすくなる——CIPOの症状悪化や吸収不良には、原病そのものだけでなくこの二次的なの関与も考える。

予後

成人CIPOの死亡率は約10%とされる。前述のとおり患者の3分の1が栄養を要し、その合併症が45〜80%に生じる。小児例はさらに厳しく、死亡率10〜40%、栄養への依存が60〜80%に達する1。

まとめ

  • CIPOはのない慢性・反復性の腸閉塞様症状+腸管拡張で、急性・結腸限局・一過性のとは別疾患である。
  • 原因は・・ICC異常の3系統に大別され、・パーキンソン病・強皮症・・などの二次性と、または遺伝性神経筋変化による一次性(特発性)の2亜群に分かれる。
  • 在宅栄養患者の約20%がCIPOを有すると推定されるほど、栄養面への影響が大きい。
  • 診断はの除外(画像)→代謝性・自己免疫性の評価→内視鏡→消化管通過→マノメトリー(内圧測定)→という順に進み、マノメトリーがとの鑑別の鍵になる。
  • 治療は栄養サポート(食事の工夫→→栄養)が軸で、はの補助にとどまり長期有効性は確立していない。
  • 予後は成人の死亡率約10%、栄養とその合併症への依存度が高い病態である。

出典

  1. 1.Intestinal Pseudo-Obstruction(StatPearls (NCBI Bookshelf)(Ahmed S, Sharman T)・2023)本文を取得して確認した(Last Update: July 3, 2023)。慢性偽性腸閉塞(CIPO)は神経障害(neuropathy)・筋障害(myopathy)・Cajal介在細胞の異常のいずれかに起因するとされ、この病態理解には複数の原因が同定されていること。神経筋の経路を障害する既知の疾患としてヒルシュスプルング病・パーキンソン病・強皮症・糖尿病・エーラス・ダンロス症候群・ファブリー病・シャーガス病が挙げられ、大部分は孤発性だが稀に遺伝性の原因も関連づけられていること。小細胞肺癌・カルチノイド腫瘍・胸腺腫による傍腫瘍症候群も抗ニューロン核抗体(anti-Hu)を介してCIPOに関連しうること。強皮症・ループス・傍腫瘍症候群は腸管神経と平滑筋細胞を傷害する免疫介在性のCIPOに関連し、感染性の原因として最も多いのはシャーガス病であること。CIPOは小児にも成人にも生じ、在宅中心静脈栄養を受けている患者の約20%がCIPOを有すると推定されること。日本の疫学研究では成人男女それぞれ10万人あたり有病率0.8・1.0、発生率0.21・0.24とされること。診断では、慢性症状の患者にビタミンB12・葉酸・TSH・セリアック血清学検査で代謝性・自己免疫性異常を評価し、単純X線・造影CTで機械的閉塞のないびまん性の腸管拡張を確認したうえで、上部消化管内視鏡・大腸内視鏡で器質的病変を除外し、異常がなければレジン顆粒を用いた消化管通過シンチグラフィで運動機能を評価し、異常があれば食道・胃・小腸の内圧測定(マノメトリー)で収縮パターン・振幅から筋原性と神経原性を鑑別すること、高度の運動障害があり診断がついている場合は全層生検で腸管神経系の異常を同定できること。治療は慢性症状の患者では少量頻回食・高カロリー飲料といった食事の工夫から始め、それで目標カロリーを達成できなければ胃瘻、胃不全麻痺を合併していれば空腸瘻、重症例では中心静脈栄養が必要になること。プロキネティクスのうちエリスロマイシンはモチリン受容体刺激により急性増悪の治療に有用だが長期治療での有効性は示されておらず、忍容性が低い患者にはメトクロプラミドが代替となるが同様に長期有効性は証明されていないこと、プルカロプリド・シサプリドは胃排出と症状緩和の改善を目的として検討段階にあること。予後は成人CIPOの死亡率が約10%、CIPO患者の3分の1が中心静脈栄養を要し合併症の頻度は45〜80%と推定されること、小児では死亡率10〜40%・中心静脈栄養依存が60〜80%に達すること。急性大腸偽性閉塞(ACPO)はCIPOとは別に論じられており、盲腸から脾彎曲までの結腸拡張という特徴的画像所見を呈し、機械的閉塞を伴わず重症患者・術後患者に生じる急性の病態であること、ネオスチグミン静注などの段階的治療で対応することを確認した。閲覧 2026-09-08
  2. 2.Acute Colonic Pseudo-Obstruction(Clinics in Colon and Rectal Surgery(Arthur T, Burgess A)・2022)急性結腸偽性閉塞の病態は交感神経優位・副交感神経活動低下またはその両方によるとする説が有力であること、入院症例1,000件あたり約1件の頻度で外傷・産婦人科・感染・心疾患・神経疾患の背景に多いこと、Vanek・Al-Saltiによる穿孔リスク推定で盲腸径12 cm未満は0%、12〜14 cmは7%、14 cm超は23%とされ12 cm超で積極的介入が必要とされること、造影CTが機械的閉塞を除外する診断標準であること、ネオスチグミン静注はモニター下で1〜60分かけて投与され中央値4分で効奏し有効率は約90%だが徐脈のため心電図モニターを要すること、内視鏡的減圧の初期成功率は61〜95%で未前処置結腸での穿孔リスクは約2%であること、穿孔や虚血が疑われる場合は右半結腸切除+回腸瘻が行われ一次吻合は原則禁忌であることを確認した閲覧 2026-08-19
  3. 3.Chronic intestinal pseudo-obstruction in adults: A practical guide to identify patient subgroups that are suitable for more specific treatments(Neurogastroenterology & Motility(Basilisco G, Marchi M, Coletta M)・2024)抄録のみを閲覧しており全文は未取得。CIPOは、機械的な閉塞病変を伴わずに小腸または大腸の拡張・air/fluid levelを画像上に呈する、腸閉塞症状が再発する稀で不均一な症候群であること。CIPOに関連する疾患は多数あり、その場合の予後・治療は基礎疾患に応じて決まること。「一次性・特発性」の形にも臨床的に区別すべき2つの亜群があり、孤発性の自己免疫・炎症性機序によるCIPOと、神経筋の変化が遺伝的に規定されているCIPOに分かれ、それぞれより特異的な治療アプローチを要すること。本総説はこの異質な成人CIPO集団の中から、基礎病態に基づいて特異的治療の恩恵を受けうる患者群を同定するための実践的な診断手順を要約することを目的としていることを確認した。閲覧 2026-09-08