生理学

生理学 · 6.2

消化管の運動機能とその調節。

Motor functions of the gastrointestinal tract and their control

応用トピック
食道・胃疾患胃食道逆流症・嚥下障害の鑑別便秘の鑑別診断過敏性腸症候群妊娠と消化器疾患小児の嘔吐薬剤性有害反応:便秘・下痢・嘔吐
疾患
慢性偽性腸閉塞
検査値
Cajal介在細胞小腸内圧測定(アントロデュオデナルマノメトリー)
画像所見
消化管通過シンチグラフィ

🧠 は「が刻むのリズムに乗って、は収縮・肛門側は弛緩する」という一貫した振動+方向性のセットとして理解する。この同じ基本パターン(slow wave→閾値到達で、腸の法則による方向性)が、食道の蠕動から胃の、小腸の分節・蠕動、大腸の集団運動まで一貫して繰り返される。

徐波:消化管平滑筋のリズム

消化管のはで、により電気的に連結され、活動電位が周囲に拡がり協調収縮が可能になる。

  • SMCは脱分極と再分極を周期的に繰り返すという特徴的な膜電位変動を示す。
  • 自体はAPではなく、「膜電位の陰性度が周期的に浅くなる→深くなるを繰り返す」動き。
  • のが自発的・周期的な脱分極/再分極を起こし、それが隣接細胞に伝播することでが発生する——はのであり、各消化管部位の収縮頻度を決める1。

2つの閾値と収縮の種類

閾値 収縮の種類
(threshold for contraction、APを伴わない) 脱分極がを超えない→(基礎活動)
(APが発生) 脱分極がを超える→(AP頻度↑→収縮力↑)

SMCの活動電位の発生過程

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cation'>陽イオン</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='leak channel'>リークチャネル</span>開口→脱分極(Na+流入)"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrical threshold'>電気的閾値</span>到達→L型VDCC開口→AP群発"]
  B --> C["[Ca2+]IC上昇→Ca2+依存性K+チャネル開口"]
  C --> D["緩徐な再分極/過分極"]
  D --> E["VDCC閉鎖(再分極/過分極のため)→[Ca2+]低下"]
  E --> F["Ca2+依存性K+チャネル閉鎖"]

消化管運動の力学的機能

機能 内容
表面積↑→との接触増加、食物移動を助ける
混合 腸壁近くで吸収された分だけ新しい内容物を壁に近づける「更新」
貯留 消化・吸収の最適化
決められた量ずつの移送
反射性抑制 食物・(chyme)が方向へ逆流するのを防ぐ(を除く)

上部消化管の運動

口腔・口咽頭の機能

  1. 病原体の免疫学的サンプリング(Waldeyer咽頭輪, Waldeyer ring)
  2. 食物の潤滑化
  3. 味覚(, taste bud)
  4. 歯による保護
  5. 発声——唾液がないと発声できない(=xerostomia→喪失)
  6. :随意・不随意の両方があり、不随意は口腔内の食物→→脳幹へので開始される律動的反射パターン
  7. 嚥下(3相)
    • 口腔相(随意):舌がを咽頭へ押し戻す。咽頭には体性感覚受容器が豊富にあり、不随意な嚥下を開始させる。
    • 咽頭相(不随意):が挙上し食物の鼻腔流入を防ぐ。UESが弛緩し食物が食道へ移動、波が開いた括約筋を通して食物をする。
    • 食道相(不随意):一次で食物が食道をされる。不十分な場合、食道の伸展により二次が誘発される。

食道

UES(, upper esophageal sphincter)・体部・LES(, lower esophageal sphincter)から構成される。

  • UES(横紋筋):を受容器が検出すると反射的に弛緩する(迷走神経を介する)。
  • LESへ向かう食物移動時、がLESと胃の(圧低下・容積増大)を引き起こす。
  • LES(平滑筋):NOにより抑制/弛緩される。
  • → その後のが食物を下方へ移動させる。

⚠️ 迷走神経が切断されると: UES(随意=横紋筋)は収縮できなくなり弛緩したまま(開いたまま)になる一方、LES(不随意=平滑筋)は弛緩できなくなり収縮したまま(閉じたまま)になる。結果、食物は食道の中間で「詰まり」、LESを通過できなくなる。UESに関しては、迷走神経がのように振る舞っている点に注意。

胃の運動

胃の主な機能: 摂取食物の貯留(最大1.5L)、胃分泌物との混合・、の十二指腸へのゆっくり制御された排出、脂質・蛋白質の消化、脂質の限定的吸収、を介した食物摂取調節、ビタミンB12取り込みへの関与、病原体への化学的バリア。

1. 近位胃:貯留機能

膜電位が安定しておりは起こらない。食物受容前の、充填時の(いずれもNOによる弛緩)が生じる。

2. 遠位胃:・混合・機能

()がを開始し、次第に強い蠕動性収縮波(混合波, mixing wave)へと発展する。収縮輪による混合の仕組み:

  1. がをへ押し出す。
  2. 幽門開口部が小さいため、の大半は逆方向に押し戻される(retropulsion)。

💡 の速さは食物の性状(固形か液体か)で大きく異なる。 ヒトを対象とした研究では、液体成分の排出は単一のパターンに従うのに対し、固形成分の排出は・混合に時間を要するため遅延期(lag period)があり、その後は一定速度の直線的な排出パターンをとる——同じ食事でも固形成分は液体成分より一貫して遅く排出される2。

⭐ は約1mm以下の小さな粒子のみを通過させる。 大きな粒子ではなく、酵素との接触に有利な小さな粒子・大きな表面積を優先するための仕組み。

胃排出の調節

胃側因子(排出促進=幽門開放)

  • 食物量増加による胃壁伸展→筋層間反射の活性化。
  • 粘膜のからの放出→の刺激。

十二指腸側因子(排出抑制)

  1. : 食物が十二指腸に入ると神経反射が誘発され、胃へフィードバックして排出を/停止させる(十二指腸の過多を防ぐ)。
  2. ホルモンフィードバック: 脂肪が抑制性ホルモン放出を刺激。が胃運動亢進をブロックし、・GIPがを減少させる。

小腸の運動

小腸の主な機能: の混合と制御された、栄養素の制御された消化・吸収、鉄レベル調節への関与(によるFe²⁺恒常性)、分泌された各種分子の再吸収、、細菌との。

小腸内の運動パターン

1.

層の収縮によりを中央でつまみ、再結合することで混合する。新しい栄養素が吸収のために壁に近づけるよう内容物を混ぜるのが目的——前後運動でを混合するが、前方へは移動させない。

2.

性の運動(1cm/秒)でを腸内でする。の後方が収縮し前方が弛緩することでが前方へ押される。幽門からまでのは3〜5時間(1cm/分)。筋層間反射とホルモンにより調節される(・・インスリン・セロトニン↑、・グルカゴン↓)。

⭐ ():(MMC)とモチリン。 食後の消化中はここまでの分節・が主体だが、絶食が続くには胃から小腸にかけて周期的なが生じる。4相からなり、最も強い収縮が生じる第3相(activity front)はまたは十二指腸から始まって遠位へ伝播する。ヒトでは活動前線が平均137分間隔で出現し、その直前にモチリン(由来の)の血中濃度がピークに達する——モチリンのは低用量でもこの間隔を短縮できる3。MMCは「に消化管内を掃除する」機能を持つと考えられ、その消失は・・と関連する4。

腸の法則

が粘膜でを検出しセロトニン(5-HT)を放出することで蠕動反射が活性化される。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enterochromaffin cell'>腸クロム親和性細胞</span>(機械的伸展・化学刺激)"] --> B["セロトニン(5-HT)放出"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oral side (proximal, toward the mouth)'>口側</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='excitatory neurotransmitter'>興奮性伝達物質</span>(ACh・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='substance P'>サブスタンスP</span>)→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='circular muscle'>輪状筋</span>収縮・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='longitudinal muscle (layer)'>縦走筋</span>弛緩"]
  B --> D["肛門側:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibitory transmission'>抑制性伝達</span>物質(NO・ATP・VIP)→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='circular muscle'>輪状筋</span>弛緩・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='longitudinal muscle (layer)'>縦走筋</span>収縮(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='receptive relaxation'>受容性弛緩</span>)"]

💡 治療薬の多くはに作用するため、副作用として便秘が生じうる。 腸の法則のがセロトニンである以上、その系への薬理学的介入がに波及するのは当然の帰結。

大腸の運動

大腸の主な機能: 内容物の制御された、水・電解質バランスの調節、糞便の貯留、、細菌との。

  • での: 内容物を盲腸方向へ押し戻す。
  • ・括約筋の機能: 弁は盲腸内腔に突出し内容物の逆流を防止する。胃回腸反射とが括約筋の開放を誘導し、盲腸の伸展/刺激は括約筋を閉鎖させる。
  • 緩徐な(5〜10cm/時間)、での、+帯(, taenia coli)による(→形成)、を伴わない運動(からS状結腸への集団運動=mass movement)。

排便反射(伸展反射)

糞便が直腸に達すると伸展刺激により(平滑筋)が弛緩する。(随意・骨格筋)は緊張を高めてこの反射を一時的に抑制し、排便の欲求が生じるまで収縮を維持する。欲求が生じると括約筋が弛緩し、直腸壁の平滑筋が収縮して圧を作り、糞便が排出される。

特殊な運動パターン

嘔吐

上部消化管が刺激・された内容物を排除する機構。迷走神経とSYMが脳幹のへ信号を伝達する。初期には悪心と自律神経症状(悪心・頻脈・蒼白・発汗)が生じ、続いて(消化管を逆方向に上る蠕動)が起こる。嘔吐そのものは腹筋の収縮(口・鼻孔を閉じた)と胃の、食道括約筋の開放が組み合わさって生じる。

下痢

flowchart TD
  A["ウイルス・細菌"] --> B["肥満細胞:ヒスタミン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='substance P'>サブスタンスP</span>放出"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory mediator'>炎症性メディエーター</span>↑"]
  C --> D["ENS活性化"]
  D --> E["平滑筋:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='propulsion'>推進</span>↑"]
  D --> F["上皮:分泌↑"]
  D --> G["血管:血管拡張↑"]

⚠️ 下痢は病原体排除という防御反応である一方、水・電解質バランスの重篤な障害(脱水・)を招きうる。 またに生じることもある。

まとめ

  • は由来の(電位)に駆動され、超過の有無で緊張性/が決まる。
  • 嚥下は口腔相(随意)→咽頭相→食道相(ともに不随意)の3相からなり、がUES/LESの弛緩を制御する(迷走神経切断でUES開・LES閉という対照的な麻痺が生じる)。
  • 胃は近位(貯留・)と遠位(・混合・retropulsion)に機能分化し、排出は胃側促進因子と十二指腸側(・//GIP)のバランスで決まる。
  • 小腸は(混合のみ)と()を組み合わせ、腸の法則(セロトニン→収縮・肛門側弛緩)が方向性を与える。大腸は緩徐なと形成の後、集団運動で内容物を送り、排便反射はの不随意弛緩との随意制御からなる。

出典

  1. 1.Interstitial cells of Cajal as pacemakers in the gastrointestinal tract(Annual Review of Physiology・2006)消化管平滑筋の徐波(slow wave)がCajal介在細胞(ICC)で発生し能動的に伝播すること、ICCネットワーク内のCa2+動態が徐波頻度を規定すること、多くのヒト消化管運動障害でICCの減少がみられ発症機序の仮説になっていることを確認した閲覧 2026-08-26
  2. 2.Gastric emptying in normal subjects--a reproducible technique using a single scintillation camera and computer system(Gut・1983)健常成人24名を対象としたシンチグラフィで、固形成分の胃排出は液体成分より遅く、遅延期(lag period)に続く直線的な排出パターンを示す一方、液体成分の排出は単一指数関数パターンに従うという固形・液体間の排出動態の違いを確認した(ヒトのデータ)閲覧 2026-08-26
  3. 3.Motilin and the interdigestive migrating motor complex in man(Digestive Diseases and Sciences・1979)健常成人14名の空腹時上部小腸内圧測定で、MMCの活動前線(activity front)が平均137分間隔で出現しその直前に血漿モチリン濃度のピークが生じること、外因性モチリン投与(0.4 pmol/kg/min という低用量でも)が活動前線の間隔を平均46分に短縮したことを確認した(ヒトのデータ)閲覧 2026-08-26
  4. 4.The migrating motor complex: control mechanisms and its role in health and disease(Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology・2012)ヒトを含む多くの種で空腹時(食間期)に胃・小腸で生じる周期的な運動パターンである移動性運動複合体(MMC)が4相からなり、最も活動的な第3相(activity front)は幽門洞または十二指腸に起始してモチリン・エリスロマイシン・グレリンの静脈内投与で誘発できること、MMCの消失が胃不全麻痺・腸管偽閉塞・小腸内細菌異常増殖と関連することを確認した閲覧 2026-08-26