生理学

生理学 · 6.5

栄養素の分解と吸収。水・カリウム・ナトリウムの吸収。鉄とビタミンB12の吸収。

Degradation and absorption of nutrients. Absorption of water, potassium and sodium. Absorption of iron and vitamin B12.

応用トピック
小腸疾患・吸収不良・消化不良鉄欠乏性貧血大球性貧血感染性胃腸炎下痢の鑑別診断吸収不良と消化不良小児の下痢貧血の徴候・症状と評価健常児・早産児の栄養、エネルギー必要量と栄養療法急性胃腸炎の原因と治療吸収不良:セリアック病・乳糖不耐・果糖吸収不良吸収不良、セリアック病腸管ストーマの種類と適応
疾患
食物アレルギー

🧠 3大栄養素(糖質・蛋白質・脂質)の消化・吸収は「→→(必要なら細胞内消化)→吸収」という共通のパイプラインを辿るが、吸収の出口だけが異なる:糖質・蛋白質・水溶性物質は血流(門脈)へ、脂質はとしてリンパへ。イオン・水・(Fe・B12・Ca)はそれぞれ専用の輸送体と回腸/十二指腸という「持ち場」を持つ点を押さえる。

消化と吸収の全体像

平均的な1日摂取量: 糖質()300g、蛋白質40〜100g(を含む)、脂質50〜100g、50〜100g(便形成に重要)、水1.5〜2L。

消化: 大きな分子を小さな分子へ切断する過程(主に小腸)。吸収: 小分子が上皮細胞層を通過し、血液またはリンパへ入る過程。

消化が起こる3つのレベル: ①(各消化管セグメントの内腔)、②小腸()消化(上皮細胞の細胞膜に組み込まれた膨大な)、③細胞内消化。

吸収の2経路: ①(能動過程)、②(受動過程)。

消化管各相における消化・吸収

相 消化 吸収
口腔相 (消化開始)、(乳児で重要:膵組織未成熟のため母乳脂質の分解に使用、をグリセロール+脂肪酸3分子へ) 脂溶性物質:アルコール、舌下薬(NO)、、麻薬
→(、寄与率15〜20%)、、炭水化物消化はごく僅か アルコール、医薬品・薬物(アスピリンは産生を阻害しを傷害しうる)
小腸相 消化・吸収の大部分を担う —
結腸相 — Na⁺・水、一部の薬物

💡 のは2〜3日ごとに入れ替わる。 小腸で表面積を稼いでいるのは管腔を輪状に走る(を巻き込む肉眼的なひだ)と絨毛であり1、その上に食物移動による継続的な上皮細胞の脱落が起こるため、高い率が必要になる。

flowchart TD
  A["円柱としての腸管:表面積1(0.33m²)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plicae circulares'>輪状ヒダ</span>:3倍(1m²)"]
  B --> C["絨毛:30倍(10m²)"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brush border'>刷子縁</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microvilli'>微絨毛</span>):600倍(200m²)"]

💡 上の倍率と面積は古典的な教科書の値である。 健常成人の生検標本をで測り直した研究では、による拡大は約1.6倍、絨毛とを合わせて60〜120倍で、消化管内腔のの合計は平均約32 m²(うち大腸が約2 m²)と見積もられている。「テニスコート大(260〜300 m²)」という表現は過大評価であり、実測はバドミントンコートの半分ほどにあたる2。覚えるべきは倍率の絶対値ではなく、ヒダ→絨毛→と段階を重ねて表面積を稼ぐという設計のほうである。

糖質の消化・吸収

主な糖質: (分岐鎖のグルコース)、アミロース(amylose、直鎖α-1,4結合グルコース)、(cellulose、β-1,4結合——消化管酵素はβを分解できず未消化のままとなる)、グリコーゲン、・ラクトース(, disaccharide)、グルコース・(, monosaccharide)。

⭐ 未消化のは「無駄」ではなく、大腸で第二の栄養源に変わる。 小腸で吸収されずに大腸へ到達したなどのは、大腸の嫌気性細菌叢によって(酢酸・プロピオン酸・酪酸)へ発酵される。ヒトの剖検データでは濃度は盲腸で最も高くほど低下し、から血にかけて濃度が下がる(酪酸は大腸上皮細胞自身のエネルギー源として、プロピオン酸は主に肝で優先的に取り込まれるため)3。とりわけ酪酸は大腸上皮細胞(コロノサイト)の主要なエネルギー源であり、は宿主の全体にも組み込まれる4。

消化: ①——唾液・が内部のα-1,4結合を加水分解し、・・αを生成。②——がをへ加水分解。

酵素 生成物
ラクトース グルコース+
グルコース+
・ (グリコ) グルコース
α グルコース

⚠️ : 欠損によりラクトースが十分に分解されず結腸へ到達→酸性代謝物・ガス産生→下痢を来す。

吸収: による一次性能動輸送が大きなNa⁺勾配を作り、の輸送を駆動する。

輸送体 部位 基質 機序
(sodium-glucose cotransporter 1) グルコース・ (Na⁺共役)
GLUT5 (能動的でないため大量摂取で飽和しやすい)
基底外側膜 グルコース・・全て

蛋白質の消化・吸収

1日摂取量(40〜100g)に加え、細胞由来の蛋白質(50g)・由来のアミノ酸が加わる。消化の終わりにはアミノ酸の97%が再吸収され、3%が便に残る——は体内合成できないため食事から摂取する必要がある。

消化は3相:

  1. 胃内消化: 蛋白質の15〜20%がここで消化される。胃酸性pHによりポリペプチドへ加水分解。は低pHで自己活性化されとなる(主細胞由来)。
  2. : 小腸で膵臓がプロテアーゼ前駆体()を分泌。腸壁のがをへ切断し、がさらに他のプロテアーゼ前駆体(プロ→など)を活性化する。
  3. : 膵プロテアーゼが蛋白質をオリゴペプチドへ、がオリゴペプチドをアミノ酸・ジ/へ変換する。

吸収:

  • アミノ酸吸収(75%): と同様の(Na⁺共役)。吸収後はで細胞外へ放出される。
  • ジ/吸収(25%): (H⁺共役、PepT1)。細胞内でさらにアミノ酸へ消化(細胞内消化)された後、で間質→血管へ。

全蛋白質の吸収: ・ともに無傷の蛋白質を取り込みうる。稀に(例:母乳中のIgなど)無消化のままファゴサイトーシスされ間質側へ直接移行することがある。内のリゾソームプロテアーゼがエンドサイトーシスされた蛋白質の約90%を分解する。

⚠️ 無傷蛋白質の吸収がの原因となりうる(5-HT放出→下痢)。

脂質の消化・吸収

1日摂取量(50〜100g)に加えの脱落由来(10〜12g)。

消化: 物はトリアシルグリセリド用のリパーゼ、コレステロール用のエステラーゼ、リン脂質用の(phospholipase A2)に加え、リパーゼが表面でしか作用できないため補助するを含む。脂肪は胆汁と全体的な撹拌によりされ、が脂肪酸と2-へ切断する。

滴からへの分解: 胆汁とGI運動によりはますます小さくなり、リパーゼが表面で作用して脂質分子を放出、それらが胆汁形成時に産生されるに取り込まれる。

による輸送: がのを形成し、を表面へ輸送する。表面近傍の「」というマイクロクライメート帯でpH変化により脂質分子がから解離し、がその層を拡散して吸収される。

吸収: 細胞内に入った脂肪酸はsER→ゴルジへ運ばれ、rER由来の蛋白質を得て(脂質含有率99%と最高)となる。はリンパ管毛細血管へ入り最終的に血液循環へ合流する。

回腸末端での胆汁酸/塩の吸収

が空になる(脂質がすべて吸収される)と、で胆汁酸/塩が能動輸送過程で取り込まれる。はとNa⁺-の両方で吸収される——抱合型は主に、は拡散で吸収される。

イオンの吸収

  • 栄養素共役型Na⁺吸収は小腸全体で起こる。食後のNa⁺吸収の主要機序はグルコース/アミノ酸共役吸収で、絨毛上皮細胞でのみ生じ、・Na⁺-アミノ酸()が媒介する。
  • でも(アルドステロンにより)を介したNa⁺吸収がある。

カルシウムの吸収

消化管でCa²⁺取り込みがされうる。1日平均摂取量約1g、平均約0.4g(主に十二指腸・空腸から、傍細胞性受動または能動輸送)。ホルモン調節は。

鉄の吸収(十二指腸)

体内総プール量:約4g。1日平均:約0.1g(女性で喪失↑)。

鉄の取り込み経路:

  1. : に無傷のまま吸収される。
  2. : Fe²⁺のみがにより取り込まれる。

⭐ 鉄の全身恒常性を最終的に決めるのはそのものではなく、肝臓が産生する「」である。 は・マクロファージの鉄輸送体をリソソーム分解へ導くことで、鉄吸収と鉄の再利用(マクロファージからの動員)を同時に遮断する——鉄が過剰になれば分泌が増え吸収を抑え、不足すれば分泌が減り吸収を促す、全身の鉄恒常性の中心的な調節点である5。

水の吸収

水の吸収は純粋に受動過程であり、が(経細胞性または傍細胞性)。

  • 小腸(空腸・回腸)から約80〜85%
  • 結腸から約15〜20%
摂取水2L/日+消化管分泌液7L/日=総量9L/日\text{摂取水2L/日} + \text{消化管分泌液7L/日} = \text{総量9L/日}

このうち約7〜8 L/日が小腸で吸収され、残る約1〜2 L/日が結腸へ送られる。結腸はそのほとんどを吸収し、約100 mL/日が便として排泄される。1

⭐ 小腸で大半、大腸で残りという2段階吸収の全体像: 経口摂取2L+唾液1.5L+胃分泌2L+胆汁0.5L+膵液1.5L+腸液1.5L=約9L/日が消化管を通過する水の総量である。このうち小腸が約7〜8L/日を除去し、結腸へ送られるのは約1〜2L/日にとどまる。結腸はそのほとんどを除去し、便中に残るのは約0.1L/日である。1 総量9Lに対して便に出るのが0.1Lという比が、吸収のわずかな障害でも下痢と脱水に直結する理由である。

ビタミンの吸収

分類 ビタミン 吸収機序
脂溶性 A、D、E、K 主に受動的拡散吸収
水溶性 C、B1、B2、B6、B12、、、葉酸 主にNa⁺依存性輸送

ビタミンB12(コバラミン)の吸収

ビタミンB12(, cobalamin, CBL)は微生物のみが合成し、動物性食品(肉・魚・卵)を介して摂取される。B12欠乏は貧血の原因となる。

flowchart TD
  A["食物中の蛋白質に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cobalamin'>コバラミン</span>が結合"] --> B["胃酸+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pepsin'>ペプシン</span>が食事性蛋白質から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cobalamin'>コバラミン</span>を遊離"]
  B --> C["唾液腺・胃腺が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='haptocorrin'>ハプトコリン</span>(R蛋白)を分泌し結合"]
  C --> D["胃<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parietal cell'>壁細胞</span>が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intrinsic factor'>内因子</span>(IF)を分泌"]
  D --> E["膵臓がプロテアーゼ+HCO3-(アルカリ性分泌)を分泌"]
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='haptocorrin'>ハプトコリン</span>からCBLが遊離しCBL-IF複合体を形成"]
  F --> G["回腸<span class='jp-term jp-term-diagram' title='enterocyte'>腸細胞</span>がCBL-IF複合体を吸収"]
  G --> H["血中で特異的キャリア蛋白と結合"]

結腸相

Na⁺と水は大腸でも吸収されうる(一部の薬物も)。消化管を通る約9 L/日のうち小腸が約7〜8 L/日を除去し、約1〜2 L/日を結腸へ送る。大腸はそのほとんどを除去し、約0.1 L/日が便中に残る。

まとめ

  • 糖質・蛋白質はいずれも→を経て・アミノ酸/ジへ分解され、Na⁺共役ので吸収される(糖質は/GLUT5→、蛋白質はアミノ酸75%+ジ25%)。
  • 脂質は胆汁による→による分解→形成→での再合成→としてリンパへという、他の栄養素と異なる出口を持つ。
  • 水の吸収は純粋な受動過程(駆動)で、消化管を通る約9 L/日のうち小腸が約7〜8 L/日を吸収し、結腸へ送られる約1〜2 L/日もそのほとんどが吸収され、便中に残るのはわずか約0.1 L/日。
  • 鉄は十二指腸で(無傷吸収)とFe²⁺(DMT-1)の2経路、ビタミンB12は→→回腸のCBL-IF複合体という多段階の特異的機序で吸収される。

出典

  1. 1.Physiology, Small Bowel(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)小腸粘膜で表面積を拡大している構造が輪状ヒダ(原文 "plicae circularis")と絨毛であること、および逐語で "Approximately 9 liters of water travels to the GI tract daily, and the small intestine absorbs 7 to 8 liters, while the colon absorbs the remaining 1 to 2 liters." とあることを確認した。章の最終更新は2024年1月31日(NCBIのライブページで確認。Europe PMC の bookXML も同じ更新日を持つ)閲覧 2026-09-13
  2. 2.Surface area of the digestive tract – revisited(Scandinavian Journal of Gastroenterology・2014)健常成人の生検標本を光学顕微鏡・電子顕微鏡で形態計測した研究の抄録で、小腸粘膜が輪状ヒダにより約1.6倍に、絨毛と微絨毛を合わせて60〜120倍に拡大されること、消化管内腔の粘膜表面積の合計が平均約32 m²(うち大腸が約2 m²)であること、教科書の260〜300 m²(テニスコート大)が過大評価であることを確認した(本文は非OAで未取得、抄録に載る範囲のみを根拠にしている)閲覧 2026-09-13
  3. 3.Short chain fatty acids in human large intestine, portal, hepatic and venous blood(Gut・1987)突然死したヒト剖検例の大腸内容物・門脈血・肝静脈血・末梢静脈血を分析し、短鎖脂肪酸濃度が盲腸で最も高く(131±9 mmol/kg)遠位結腸へ向かうほど低下すること、門脈血(375±70 µmol/L)から肝静脈血(148±42 µmol/L)にかけて濃度が下がり酪酸が大腸上皮に、プロピオン酸が肝で優先的に取り込まれることを確認した(ヒトのデータ)閲覧 2026-08-26
  4. 4.The role of short-chain fatty acids in the interplay between diet, gut microbiota, and host energy metabolism(Journal of Lipid Research・2013)消化酵素で分解できず大腸に到達した食物繊維は、嫌気性の腸内細菌叢によって短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)へ発酵され、これらが大腸上皮で吸収されて宿主のエネルギー代謝に組み込まれることを確認した総説閲覧 2026-08-26
  5. 5.Physiology, Hepcidin(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)ヘプシジンが肝細胞で産生され鉄輸送体フェロポルチンに結合してリソソーム分解の対象にすることで、十二指腸腸細胞からの鉄吸収とマクロファージからの鉄動員の両方を遮断する、全身の鉄恒常性の中心的な調節ホルモンであることを、本ノート(鉄の吸収)用に確認した閲覧 2026-08-26