内科学

内科学 · H-03

大球性貧血

Macrocytic anemia

前提:病態
造血低下による貧血(低形成性貧血など)貧血治療薬
前提:正常
ビタミンB12欠乏とメチルマロン酸血症鉄とビタミンB12の吸収
疾患
亜急性連合性脊髄変性症巨赤芽球性貧血
検査値
ホモシステインメチルマロン酸過分葉好中球血算

🧠 全体像:は一般に > 100 fLの貧血で、とに分ける。では合成障害によりとを認め、代表原因はビタミンB12または葉酸欠乏である。ビタミンB12欠乏は不可逆的な神経障害を生じ得るため、貧血やがなくても疑う必要がある。12

分類

分類 主な原因 塗抹・臨床の手掛かり
ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、メトトレキサート、など 、、
飲酒、肝疾患、、、、薬剤 円形大赤血球、、異形成など
見かけ上の 高度、高血糖、 測定上のを再検で確認

はより大きいため、溶血や出血からのにもが上昇する。

ビタミンB12欠乏と葉酸欠乏

項目 ビタミンB12欠乏 葉酸欠乏
主な原因 、胃切除、・疾患、厳格な菜食、、曝露 摂取不足、飲酒、妊娠、、薬剤、需要増大
体内貯蔵 数年分 数か月分
神経症状 あり得る 通常ない
上昇 上昇
上昇 通常正常

ビタミンB12欠乏の神経所見

神経症状が疑われる場合は、検査結果を待って治療を不必要に遅らせない。2

病態

flowchart TD
    A["ビタミンB12または葉酸欠乏"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='deoxyribonucleic acid'>DNA</span>合成障害"]
    B --> C["核成熟の遅延"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='megaloblastic hematopoiesis'>巨赤芽球性造血</span>"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ineffective erythropoiesis'>無効造血</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='macrocytic anemia'>大球性貧血</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Leukopenia'>白血球減少</span>・血小板減少"]
    E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lactate dehydrogenase'>LDH</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='indirect bilirubin'>間接ビリルビン</span>上昇"]
    A --> H["B12欠乏の場合"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='methylmalonic acid (MMA)'>メチルマロン酸</span>蓄積"]
    I --> J["神経障害"]

診断アプローチ

  1. 、、を確認する。
  2. ビタミンB12、葉酸、肝機能、を測定する。
  3. B12が域(下表)で症状・徴候があれば、MMAの追加測定を考慮する。2
  4. 溶血が疑われれば、、を調べる。
  5. 原因不明、他系統の血球減少、異形成があればなどを考え、血液専門医によるを検討する。

B12の初回検査の判定(英国NICE NG239)

総B12 活性B12(ホロトランス) 判定
180 ng/L(133 pmol/L)未満 25 pmol/L未満 B12欠乏と確定
180〜350 ng/L(133〜258 pmol/L) 25〜70 pmol/L (欠乏の可能性あり)
350 ng/L(258 pmol/L)超 70 pmol/L超 欠乏の可能性は低い

この表はNG239の表1をそのまま写したもので2、次の限定が付いている(詳細はを参照)。

  • 総B12の検証済み閾値に施設間で大きな差がある場合は、検査施設が定めた閾値を使う。この閾値自体、B12欠乏にの検査が無くエビデンスも無いなかで委員会が経験に基づいて定めたもので、偽陽性が増えうることを委員会自身が認めている2。
  • MMAには一般に受け入れられたが無いため、検査施設ので判定する2。
  • でも、急速に悪化してに大きく影響しうる神経・血液の病態(失調・貧血など)、不可逆的な原因(など)、B12欠乏を起こしうる手術の既往、妊娠・授乳のいずれかがあれば、MMAの結果を待たずに補充を始める2。

💡 単位に注意する。ng/L は pg/mL と同じ値で、pmol/L とは数値が違う。MMAを測る引き金となるB12の範囲は資料によって違うので、どの資料の閾値かを確かめてから使う(を参照)。

⚠️ MMAは腎機能低下でも上がる。 域のB12(201〜350 ng/L)にある内科入院患者127例の前向き研究では、血漿MMAはに依存し(p=0.004)、しかも 100 mL/min/1.73 m²未満という早期の低下から上昇が始まっていた(同集団の50.4%が該当)3。単独のMMA高値だけでB12欠乏と決めない。なおNG239自身は、推奨・根拠・文脈・研究推奨のいずれの章でも腎機能に触れておらず、MMAの解釈は検査施設のに委ねている。

自己免疫性胃炎の評価

によるB12が疑われる場合は、を調べる。陰性でも否定できず、、、胃内視鏡などを状況に応じて追加する。「」はに伴うB12欠乏を指す歴史的名称である。2

放射性B12を用いるは歴史的検査であり、現在の日常診療では用いない。

治療

ビタミンB12欠乏

⚠️ は「経口か筋注か」ではなく、原因ごとに決まる。 以下は英国(NG239)の推奨である2。

原因 推奨される補充
(疑いを含む)、、の完全切除 筋注B12を生涯継続する
それ以外の(セリアック病、、部分的な切除、一部のなど) 補充を行い、経口より筋注を考慮する。に経口を用いるなら1 mg/日以上
薬剤性(など)、娯楽目的の使用 臨床判断と本人の希望で筋注・経口のいずれか。原因薬の見直し・の中止をあわせて行う
食事性 を考慮する。急速に悪化してに大きく影響しうる神経・血液の病態(失調・貧血など)がある場合や、に懸念がある場合は筋注を考慮する
原因不明(検査でが疑われない) 補充を行い、筋注より経口を考慮して初回再診で反応をみる
  • ⭐ 「なら経口は効かない」ではない点に注意する。上表の2行目(セリアック病・・部分的な切除・一部の)でNG239が筋注を勧める理由は、経口の何割が吸収されるかを見積もりにくく、注射のほうが必要量を確実に入れられるという委員会の経験と、6か月以上使う場合のであって、経口が無効だと示されたからではない。委員会は「この集団での経口使用のエビデンスが無く、無効を示すものも無い」として経口を排除していない。ただし経口を用いるなら、経口と筋注を比べた試験が使った量に合わせて1 mg/日以上とする2。
  • 経口と筋注を比べた系統的レビューでは、3件のRCT(153例、治療・追跡3〜4か月)のうち経口1000 µg/日を用いた2試験で血清B12値に臨床的に意味のある差はなかったが、エビデンスの質は低く、症状・徴候を比べた試験は無い4。
  • 神経症状が疑われる場合は、検査結果を待たずに補充を始める2。
  • 治療開始後は、Hb、神経症状、カリウムをに応じて追跡する。

葉酸欠乏

原因を治療し、葉酸を補充する。葉酸単独投与はB12欠乏の貧血を改善しながら神経障害を進行させる可能性があるため、B12欠乏を除外または同時に治療する。

妊娠を計画する人は、原則として妊娠前から妊娠12週まで葉酸400 µg/日を摂取する。児の既往など高リスクでは、医療者の管理下で5 mg/日を用いる。英国(NG247)が高用量の対象とするのは、既往妊娠のほか、本人・パートナー・家族歴の、1型・2型糖尿病、鎌状赤血球症・、葉酸の吸収や代謝に影響する薬剤(・治療薬)の使用で、 25 kg/m2以上であることやの高リスクであること自体は高用量の理由にならないと明記されている。5

⚠️ この5 mg/日は英国の数字で、国際的に統一されていない。 米国の勧告は4 mg/日で、対象は児・胎児の妊娠既往がある女性に限られ(バルプロ酸内服中の女性などは明示的に対象外)、期間は受胎の少なくとも4週間前から妊娠の最初の3か月までである。で量を合わせると・Dが有害量に達するため、葉酸単剤での管理下に用いる。6

治療反応と注意点

補充後は数日でが増え、数週でHbが改善する。反応が乏しければ、診断、服薬、鉄欠乏の併存、持続出血、骨髄疾患を再評価する。重度の血小板減少や溶血所見があるはに似ることがあるが、塗抹、、B12、臨床像を統合する。

まとめ

  • はとに分ける。
  • とは合成障害を示唆する。
  • B12欠乏は貧血や上昇を伴わず神経症状で発症することがある。
  • 英国(NG239)は総B12 180 ng/L(133 pmol/L)未満を欠乏確定、180〜350 ng/Lをとし(施設間差が大きければ施設の閾値)、で症状があればMMAを追加する。MMAは腎機能低下でも上がるので、単独の高値で欠乏と決めない。
  • 葉酸を単独で開始する前にB12欠乏を評価する。補充経路は原因別で、・・完全切除では生涯の筋注、それ以外のでも経口より筋注を考慮する。

出典

  1. 1.Evaluation of Macrocytic Anemias(2015)成人の大球性貧血をMCV 100 fL以上とし、末梢血塗抹、追加検査、臨床情報を組み合わせて巨赤芽球性と非巨赤芽球性を鑑別する枠組みを確認した。閲覧 2026-08-13
  2. 2.Vitamin B12 deficiency in over 16s: diagnosis and management(National Institute for Health and Care Excellence (NICE)・2024)NG239(2024年3月6日公開)の推奨本文と根拠の節を取得して確認した。閾値はB12欠乏にゴールドスタンダードの検査が無くエビデンスも無いなかで委員会が経験と専門性に基づいて定めたもので、偽陽性を増やしうると委員会自身が認めている。血清MMAと血漿ホモシステインには一般に受け入れられた基準範囲が無いため検査施設の基準範囲で判定する。自己免疫性胃炎以外の吸収障害で経口より筋注を考慮する理由は、経口の吸収量を見積もりにくく注射のほうが必要量を確実に入れられるという委員会の経験と、6か月以上使う場合の費用対効果であり、委員会はこの集団での経口使用のエビデンスが無く無効を示すものも無いとして経口を排除していない。表1は総B12が180 ng/L(133 pmol/L)未満または活性B12が25 pmol/L未満を欠乏確定、180〜350 ng/L(133〜258 pmol/L)または25〜70 pmol/Lを判定保留(欠乏の可能性あり)、350 ng/L(258 pmol/L)超または70 pmol/L超を欠乏の可能性が低いとし、総B12の検証済み閾値に施設間で大きな差があるときは検査施設の閾値を使う(1.3.9)。MMAは検査施設の基準範囲で判定する(1.3.10)。判定保留で症状・徴候があればMMAの追加を考慮し(1.3.12)、判定保留でも急速に悪化しうる神経・血液の病態・不可逆的原因・関連手術の既往・妊娠授乳のいずれかがあればMMAの結果を待たずに補充を始める(1.3.14)。巨赤芽球性貧血と神経症状(とくに亜急性連合性脊髄変性症関連)が疑われる人では検査結果を待たずに補充する(1.3.6)。抗内因子抗体陰性でも自己免疫性胃炎を否定せず抗胃壁細胞抗体・ガストリン・CobaSorb試験・胃体部生検を伴う胃内視鏡を追加候補とする(1.4.3、1.4.5)。補充経路は原因別で、自己免疫性胃炎(疑いを含む)・胃全摘・終末回腸完全切除は生涯の筋注(1.5.3)、それ以外の吸収障害は補充を行い経口より筋注を考慮(1.5.4)、吸収障害への経口は1 mg/日以上(1.5.5)、薬剤性と亜酸化窒素は臨床判断と本人の希望で筋注・経口のいずれか(1.5.6、1.5.8)、食事性は経口を考慮し急速に悪化しうる病態や服薬継続の懸念があれば筋注を考慮(1.5.14、1.5.16)、原因不明で吸収障害が疑われなければ筋注より経口を考慮する(1.5.17)。推奨・根拠・文脈・研究推奨の4章のいずれにも kidney・renal・eGFR・creatinine は0件で、腎機能への言及は無い閲覧 2026-09-17
  3. 3.Diagnostic Performances of Urinary Methylmalonic Acid/Creatinine Ratio in Vitamin B12 Deficiency(Journal of Clinical Medicine(Supakul S, et al.)・2020)全文で確認した。対象は内科病棟の入院患者のうち血漿B12が201〜350 ng/Lの127例(判定保留域にあたる集団)で、血漿MMAと血漿ホモシステインはeGFRに依存し(それぞれp=0.004、p=0.02)、尿中MMA/クレアチニン比はeGFRに依存しなかった(p=0.34)こと、この上昇がeGFR 100 mL/min/1.73 m2未満という早期の腎機能低下からみられ同集団の50.4%(64/127)がこれに該当したこと、血漿MMAのカットオフとして0.35 µmol/Lを用いていることを確認した閲覧 2026-09-17
  4. 4.Oral vitamin B12 versus intramuscular vitamin B12 for vitamin B12 deficiency(Cochrane Database of Systematic Reviews・2018)構造化抄録で確認した。3件のRCT(153例、治療・追跡3〜4か月)を対象とし、経口1000 µg/日を用いた2試験では筋注と血清B12値に臨床的に意味のある差が無かった(低い質のエビデンス)。著者は低い質のエビデンスとして血清B12の正常化で経口と筋注が同程度の効果を示し、経口のほうが費用が低いと結論した。有害事象を報告した2試験のエビデンスは非常に質が低く、臨床症状・徴候やQOLを報告した試験は無かった。閲覧 2026-09-17
  5. 5.Maternal and child nutrition: nutrition and weight management in pregnancy, and nutrition in children up to 5 years(National Institute for Health and Care Excellence (NICE)・2025)NG247の勧告本文で確認した。1.1.4が妊娠しうる人・妊娠を計画している人・妊娠12週までの人へ葉酸400 µg/日を勧め、1.1.5が高用量(5 mg/日)の対象として、本人またはパートナーに神経管閉鎖不全などの先天奇形がある場合や家族歴がある場合、既往妊娠が神経管閉鎖不全などの先天奇形に罹患していた場合、1型・2型糖尿病、鎌状赤血球症やサラセミアなど葉酸補充を要する血液疾患、葉酸の吸収や代謝に影響する薬剤(抗てんかん薬・HIV治療薬を例示)の使用を挙げること。1.1.6はBMI 25 kg/m2以上でも1.1.5の因子が無ければ400 µgを超える必要はないとし、1.1.7は妊娠高血圧腎症の高リスクにも同じことを述べること閲覧 2026-09-08
  6. 6.Effectiveness in Disease and Injury Prevention: Use of Folic Acid for Prevention of Spina Bifida and Other Neural Tube Defects -- 1983-1991(MMWR (Centers for Disease Control and Prevention)・1991)CDCのMMWR本文で確認した。神経管閉鎖不全児または胎児の妊娠既往がある女性へ葉酸4 mg/日を、妊娠を計画した時点で医師に相談したうえで開始し、受胎の少なくとも4週間前から妊娠の最初の3か月まで続けるよう勧告すること、4 mgは医師の管理下でのみ用い、ビタミンA・Dの有害量を同時に摂ることを避けるため葉酸単剤で摂ること、勧告の対象は既往のある女性に限られ、既往のない女性・その血縁者・本人が二分脊椎である女性・バルプロ酸を内服している女性は対象外と明記していること閲覧 2026-09-08