小児科学

小児科学 · 3-42

吸収不良:セリアック病・乳糖不耐・果糖吸収不良

Malabsorption: celiac disease, lactose and fructose intolerance

前提:病態
吸収不良症候群
前提:正常
栄養素の分解と吸収
疾患
セリアック病乳糖不耐症

🧠 全体像:吸収不良は、腔内での消化、腸粘膜からの吸収、糖質の分解・輸送のどこが障害されても生じる。、腹部膨満、、貧血、からを捉える。セリアック病では、を摂取している間に総IgA+IgAを測ることが診断の入口である。

吸収不良の分類

障害段階 主な原因
腔内消化障害 嚢胞性線維症、Shwachman-Diamond症候群、欠損、、胆道閉鎖、
腸粘膜 セリアック病、、Giardia、免疫不全、Crohn病、、、
糖質分解・輸送障害 欠損、(sucrase-isomaltase deficiency)、(glucose-galactose malabsorption)、

原発性酵素・輸送体異常では小腸構造が保たれることが多い。感染後やセリアック病などによる二次性乳糖不耐では、絨毛障害のためが低下する。

所見 示唆する病態
悪臭の強い大量、浮く便 、胆汁酸不足、障害
水様・酸性便、・、絶食で軽快 糖質による・発酵
浮腫 、
蒼白・倦怠感 鉄、葉酸、B12欠乏
・骨折、出血 Ca・ビタミンD、

セリアック病

-DQ2/DQ8を背景に、由来への免疫反応が炎症を起こすである。組織像は、、増加で、正常の高い絨毛と浅い陰窩が平坦化する。

臨床像とリスク群

  • 腹部膨満、慢性腹痛、下痢または便秘、悪心・嘔吐。
  • 体重増加不良、、倦怠感、、無月経。
  • 、、骨量低下、反復、。
  • 1型糖尿病、Down・Turner・、、、第1度近親者は高リスク。

診断

flowchart TD
    A["症状または高リスク<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='gluten'>グルテン</span>摂取中"] --> B["総IgA+tTG-IgA"]
    B --> C["IgA欠損"]
    C --> D["IgG系検査+小児消化器へ"]
    B --> E["tTG-IgA <10×<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper limit of normal'>ULN</span>陽性"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='duodenal bulb'>十二指腸球部</span>1以上+遠位4以上を生検"]
    B --> G["tTG-IgA ≥10×ULN"]
    G --> H["別検体EMA-IgA陽性"]
    H --> I["専門医・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shared decision-making'>共同意思決定</span>で<br>無生検診断が可能"]

-DQ2/DQ8陰性なら可能性は極めて低いが、陽性だけでは診断できない。検査前に除去を始めると抗体・組織が陰性化しうる1。

💡 無生検診断は条件を満たした一部の小児に限られる。 tTG-IgAがの10倍以上で家族の同意があり、別検体のEMA-IgAも陽性という条件を満たさない小児、および成人を含む一般診療では、内視鏡下のによる確定診断が引き続き基本である2。旧来の「症状があれば全例で生検」という原則そのものが撤回されたわけではなく、生検省略は限られた条件下の追加選択肢である。

治療は生涯の厳格な(gluten-free diet)である。小麦、大麦、ライ麦と、それらを含むブルグル(bulgur)、クスクス、麦芽に注意し、交差汚染を防ぐ。成長、症状、tTG抗体、鉄・葉酸・B12・Ca・ビタミンDなどを追跡する。

乳糖不耐

不足により乳糖が吸収されず、大腸でと発酵を起こす。乳製品摂取後の腹痛、膨満、、が典型である。

型 特徴
極めてまれな。出生直後から乳糖で重症下痢・脱水3
原発性成人型低症 後〜年長で遺伝的に活性低下。頻度は民族差が大きい
二次性 胃腸炎、セリアック病、などのに続発

💡 乳糖不耐の頻度は民族で大きく異なる。 東アジア系(中国系・日本系)集団では後3〜4年で活性の80〜90%が失われ非持続が多数派になるのに対し、北欧系白人集団では非持続は2〜15%にとどまる4。

病歴と乳糖制限・再負荷、必要時に(ベースラインから20ppm超の上昇で陽性)で評価する4。症状に合わせ乳糖量を調整し、・を利用する。乳製品を一律完全除去してCa・ビタミンD不足を起こさない。二次性は感染症などによる障害を背景とし、とくに乳児の胃腸炎後は一過性で、粘膜回復とともに性が戻ることが多い5。

果糖吸収不良

吸収能を超えるや摂取で腹痛、膨満、、を来す。幼児の過剰な果汁摂取に伴う幼児下痢症(toddler’s diarrhea)では成長が保たれることが多い。食事記録と適度な果汁・高食品制限を行い、過度な長期制限を避ける。糖質の中でもは(発酵性・・とポリオール)の一種としての対象になる。

⚠️ のは陽性でも臨床的意味が乏しいことがある。 機能性の小児323例(2〜18歳)のでは35.3%が呼気試験陽性だったが、陽性は年齢が若いことと関連するのみで腹痛・下痢などの症状とは相関しなかった6。の小児・思春期103例のでも、呼気試験の陽性・陰性は制限食への反応を予測しなかった7。診断は呼気試験の結果よりも症状と食事の対応関係を重視すべきとされる。

乳児期早期からで嘔吐、低血糖、肝障害を起こすは別疾患で、単なるとしてを行わない。

まとめ

  • 吸収不良を腔内消化、、糖質分解・輸送の3段階で整理する。
  • セリアック病は摂取中のtTG-IgA+総IgAから評価し、条件を満たす小児のみ無生検診断を選べる。
  • 乳糖・制限は症状を生じる量に合わせ、栄養不足を起こす一律除去を避ける。

出典

  1. 1.European Society Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition Guidelines for Diagnosing Coeliac Disease 2020(European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition / Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition・2020)小児セリアック病の診断は総IgA+tTG-IgAから始め、症状・HLA検査は必須条件ではないこと、IgA欠損例のみIgG系検査を用いること、tTG-IgAが基準上限の10倍以上かつ家族の同意があり別検体のEMA-IgAが陽性であれば小児消化器専門医の管理下で無生検診断を選べること、10倍未満なら十二指腸球部1個以上+遠位4個以上の生検を要することを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.American College of Gastroenterology Guidelines Update: Diagnosis and Management of Celiac Disease(The American Journal of Gastroenterology・2023)血清抗体は初期スクリーニングに有用だが確定診断には大半の患者で小腸生検を要し、生検省略は「選ばれた小児」に限って提案されると位置づけたことを確認した(無生検診断は小児の一部に限られ、成人を含む一般診療での生検確定診断という旧来の原則は維持されている)。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Congenital Lactase Deficiency: Mutations, Functional and Biochemical Implications, and Future Perspectives(Nutrients・2019)先天性ラクターゼ欠損症(CLD)はラクターゼ・フロリジン加水分解酵素(LPH)遺伝子の機能喪失型変異による常染色体劣性の疾患で、新生児期のごく初期から乳糖を消化できず重度の浸透圧性水様下痢を来す、一般の乳糖不耐(原発性成人型・二次性)とは別に扱うべき稀な単一遺伝子疾患であることを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Lactose Intolerance(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)乳糖不耐の頻度は民族で大きく異なり、中国系・日本系集団では離乳後3〜4年でラクターゼ活性の80〜90%が失われる一方、北欧系白人集団では2〜15%にとどまること、水素呼気試験はベースラインから20ppm超の上昇を吸収不良の判定基準とすることを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Update on lactose malabsorption and intolerance: pathogenesis, diagnosis and clinical management(Gut・2019)乳糖吸収不良(lactose malabsorption)には原発性の遺伝的ラクターゼ非持続に加え、感染症など小腸粘膜の完全性を損なう病態による二次性ラクターゼ欠損が含まれ、二次性は原因となった粘膜障害の回復とともに耐容性が戻りうることを確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 6.No Correlation between Positive Fructose Hydrogen Breath Test and Clinical Symptoms in Children with Functional Gastrointestinal Disorders: A Retrospective Single-Centre Study(Nutrients・2021)機能性消化管障害の小児323例(2〜18歳)の後方視的研究で、果糖水素呼気試験は35.3%が陽性だったが、陽性は年齢が若いことと関連するのみで、腹痛・下痢・悪心などいずれの症状とも相関しなかったことを確認した。呼気試験陽性が臨床的な果糖吸収不良を意味するとは限らないことを示す。閲覧 2026-08-27
  7. 7.Positive or negative fructose breath test results do not predict response to fructose restricted diet in children with recurrent abdominal pain: results from a prospective randomized trial(Klinische Pädiatrie・2014)反復性腹痛の小児・思春期103例を対象とした前向き無作為化比較試験で、果糖制限食群は非制限群より疼痛スコアが有意に改善したが、水素呼気試験の陽性・陰性は制限食への反応を予測しなかったことを確認した(対象年齢は反復性腹痛を3か月以上有する小児・思春期)。呼気試験は果糖制限食の反応を予測する手段としては妥当でないと結論している。閲覧 2026-08-27