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Disease Atlas · 消化器 · 疾患

熱帯性スプルー

Tropical sprue

臓器系
消化器血液
科目
PathologyInternal Medicine
トピック
病理学 C/2:造血低下による貧血(低形成性貧血など)病理学 C/37:吸収不良症候群内科学 G-02:小腸疾患・吸収不良・消化不良
鑑別疾患
セリアック病
続発疾患
巨赤芽球性貧血
治療薬
テトラサイクリン葉酸ビタミンB12
症状
下痢体重減少腹部膨満

🧠 全体像は、熱帯地域(カリブ海・南アジア・東南アジアなど)への滞在後に発症する原因不明のである。の変化が発症に関与すると考えられているが、単一の原因菌は同定されておらず、あくまで推定病因にとどまる。セリアック病との鑑別が臨床上の核心で、に依存しない点に加え、セリアック病が十二指腸〜優位に障害するのに対し、は空腸から回腸まで小腸全体を侵すという分布の違いが、そのまま欠乏する栄養素の違いに直結する——回腸はビタミンB12の吸収部位であるため、回腸まで障害されるではビタミンB12と葉酸の両方が欠乏するのに対し、セリアック病は近位優位ゆえ鉄・葉酸の欠乏が主体になる。治療はテトラサイクリンと葉酸を数か月間投与するという特異な方法で、これに反応すること自体が診断的意味を持つ。

病態

flowchart TD
    A["熱帯・亜熱帯地域への長期滞在・居住"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gut microbiota'>腸内細菌叢</span>の変化(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='small intestinal bacterial overgrowth (SIBO)'>小腸内細菌異常増殖</span>)"]
    B --> C["空腸〜回腸にわたる<br>びまん性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='villous atrophy'>絨毛萎縮</span>・炎症"]
    C --> D["近位小腸(空腸)の障害"]
    C --> E["遠位小腸(回腸)の障害"]
    D --> F["鉄・葉酸・糖質・脂肪の吸収不良"]
    E --> G["ビタミンB12・胆汁酸の吸収不良"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Megaloblastic anemia'>巨赤芽球性貧血</span>(葉酸+B12の複合欠乏)"]
    G --> H

の病因は確定していないが、の異常増殖(AlcaligenesEnterobacter aerogenesHafnia属などが報告されている)が関与するという説が最も支持されている1。💡 経験的な治療(テトラサイクリン)がするという事実自体が、感染・細菌叢関連の病因を支持する状況証拠になっている——原因菌そのものは特定されていないが、「抗菌薬が効く」という治療反応そのものが病態の手がかりを与えている。

⭐ 発生地域はきわめて選択的で、北緯・南緯30度の間の熱帯・亜熱帯地域のうち、南アジア(インド・パキスタン)、東南アジア、カリブ海諸国(プエルトリコ、ハイチ、キューバなど)に集中する一方、同じ緯度帯でも発生しない地域があり、地理的分布は単純な気候要因だけでは説明できない1

セリアック病との鑑別

分布の違いが臨床像の違いを生む、という構造を押さえるのが最重要点である。

項目 セリアック病
誘因 熱帯地域への渡航・居住歴(必須の手がかり 摂取(HLA-DQ2/DQ8を背景とした自己免疫)
への依存 非依存除去食に反応しない1 除去食が唯一の治療
侵される範囲 小腸全体(空腸〜回腸):の75%、回腸生検のほぼ全例でを認める1 近位小腸優位(十二指腸〜が主座)
主な欠乏 ビタミンB12+葉酸の複合欠乏(回腸障害を反映) 鉄・葉酸が主体(B12欠乏は目立ちにくい)
血清抗体 抗トランス抗体・陰性 いずれも陽性
病理 増加はセリアック病と類似するが、パターンがより軽度・不均一 増加が典型的で、近位ほど高度
治療 テトラサイクリン+葉酸を数か月 生涯の除去食

⚠️ 渡航・居住歴をしなければ、自体ができない。 血清学が陰性で除去食に反応しないをみたら、まず熱帯・亜熱帯地域への渡航歴を確認する。逆にこのを省くと、原因不明の吸収不良として診断がつかないまま経過してしまう。

病理

小腸生検では絨毛の萎縮を認めるが、セリアック病に比べて萎縮の程度は軽度で、部位ごとのが大きい浸潤やリンパ形質細胞性炎症もみられるが、そのパターンや密度はセリアック病とは異なる1。これらの所見だけで確定診断はできず、渡航歴・血清学陰性・除去食へのというと合わせて総合的に判断する

診断

であり、他の吸収不良の原因(セリアック病、など)を除外したうえで確定する2

治療

テトラサイクリン+葉酸の数か月投与が特異的治療であり、この組み合わせへの反応が診断を裏づける根拠にもなる2

  1. テトラサイクリン:250 mgを1日4回。通常は3〜6か月間投与し、流行地在住例やを繰り返す症例では最長1年まで延長することがある2
  2. 葉酸:5 mg/日をする。葉酸単独でも症状・血液所見の改善が得られることがあるが、抗菌薬併用が標準である。
  3. ビタミンB12:欠乏を認める例では筋注で補充し、神経症状の進行を防ぐ。

⚠️ 短期の抗菌薬投与で症状が改善しても中断せず、数か月の投与期間を守らないとしやすい。特に流行地に住み続ける患者では治療期間を延長する。

まとめ

  • は熱帯・亜熱帯地域への滞在後に起こる原因不明ので、の変化が関与すると考えられるが原因菌は未確定である。
  • セリアック病と異なりに依存せず、空腸から回腸まで小腸全体を侵すため、近位優位のセリアック病とは対照的にビタミンB12と葉酸の両方が欠乏する。
  • 診断はで、熱帯地域への渡航・居住歴(最低1か月)がの前提になる。
  • 治療はテトラサイクリン+葉酸を数か月間投与するという特異的な方法で、これへの反応が診断的意味も持つ。

出典

  1. 1.Tropical sprue: a narrative review of a neglected malabsorption syndrome(Gut Pathogens・2026)熱帯性スプルーは北緯・南緯30度の間の熱帯・亜熱帯地域(南アジア・東南アジア、カリブ海諸国など)に限局して発生し流行地は地域内でも選択的であること、原因菌は同定されていないが1960〜80年代の研究で小腸内細菌異常増殖(Alcaligenes・Enterobacter aerogenes・Hafnia属など)が示され感染性病因が支持されていること、空腸・回腸粘膜の絨毛萎縮を来し十二指腸生検の75%・回腸生検の全例で絨毛短縮がみられるなど小腸全体が侵されること、ビタミンB12・胆汁酸・乳糖・キシロース・グルコース・葉酸・カルシウム・マグネシウムなど広範な吸収不良を来すこと、抗トランスグルタミナーゼ抗体・抗エンドミシウム抗体が陰性でグルテン除去食に反応しない点でセリアック病と鑑別できること、テトラサイクリンと葉酸による治療反応(経験的広域抗菌薬療法が奏効すること自体)が微生物学的病因を支持する所見であること、流行地在住者・渡航者いずれにおいても吸収不良症候群の鑑別として熱帯性スプルーを常に念頭に置く必要があること閲覧 2026-08-11
  2. 2.Tropical Sprue(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2025)診断は他疾患を除外して初めて確定する除外診断であること、流行地に少なくとも1か月以上滞在・居住した患者で脂肪便+D-キシロース吸収不良+脂肪吸収不良+特徴的な生検所見があれば診断確定に十分であること、治療はテトラサイクリン250mgを1日4回+葉酸5mg/日を通常3〜6か月間、流行地在住例や再燃例では最長1年まで延長することがあること閲覧 2026-08-11