組織病理学

組織病理学 · H1-072

大腸腺腫性ポリープ(HE染色)

Polypus adenomatous coli (HE)

描出疾患
大腸癌
疾患
大腸腺腫

🧠 全体像:は、異形成を示す腺上皮が増殖するポリープである。APC機能喪失によるWNT・経路活性化は代表的な初期変化だが、単発の腺腫と生殖細胞系列APCによるを区別する。

APCと腺腫形成

flowchart TD
    A["正常APC複合体"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta-catenin'>βカテニン</span>を分解"]
    B --> C["WNT<span class='jp-term jp-term-diagram' title='target gene'>標的遺伝子</span>を抑制"]
    D["APC機能喪失"] --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta-catenin'>βカテニン</span>が核内へ蓄積"]
    E --> F["増殖関連遺伝子が持続発現"]
    F --> G["異形成腺管が増殖"]
    G --> H["大腸腺腫"]
    H --> I["追加遺伝子異常"]
    I --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='invasive adenocarcinoma'>浸潤性腺癌</span>へ進展しうる"]

標本の読み方

所見 読み方
正常 規則的な陰窩、、表層への成熟を保つ
正常・腺腫境界 規則的粘膜から密な異形成腺管へ切り替わる
腺 核の腫大・・偽重層化、極性の乱れ、
構造 円形・の異形成腺管が主体
間質・茎 病変ではと血管を含む茎を形成する
炎症細胞 表面損傷などに伴い間質へ浸潤しうる
腺腫内病変と浸潤を分ける重要な境界

腺腫の分類と癌化リスク

項目 低い側 高い側
大きさ 小型 大型
構築 成分が多い
異形成
数 単発 多発

💡 実務上の分かれ目は「」という括りにある。 径10 mm以上、、または組織型のいずれかを満たすものをと呼ぶ。を受けた15,935人を中央値12.9年追跡した解析では、大腸癌は1万人年あたり群20.0、非群9.1、腺腫なし群7.5で、群は腺腫なし群の2.7倍(95%信頼区間1.9〜3.7)だった。一方、非群と腺腫なし群には有意差がなかった(1.2)1。

⚠️ 絨毛成分との判定は、病理医の間で一致しにくい。 1 cm未満の大腸腺腫107例を5人の消化管病理専門医が独立に判定した研究では、絨毛成分・・のいずれについても観察者間一致度が低く、合意基準を作ったうえでの再判定でも改善しなかった2。小型病変では、この区別だけに寄りかかった判断をしない。

腺腫内に強い異型や複雑な腺管があっても、病変が粘膜内に限局すれば浸潤性大腸癌とはしない。腫瘍がを越えてへ浸潤した時点で、リンパ節転移能をもつ浸潤癌として扱う。

孤発性腺腫と家族性大腸腺腫症

項目 腺腫
APC異常 腫瘍細胞に生じる体細胞変化が多い 生殖細胞系列APC
病変数 単発または少数が多い 典型例では数百から数千
出現時期 主に成人 多くは10代から腺腫が出現
大腸癌リスク 個々の腺腫所見による 未介入ならほぼ不可避
平均的な癌診断年齢 一般集団の大腸癌年齢に近い 未治療の典型例では約39歳(総説では平均35〜40歳)3

⚠️ は「出生時から多数のポリープがあり、15歳頃に必ず癌化する」病態ではない。腺腫は多くの場合10代から出現し、未治療では成人期に大腸癌がほぼ不可避となる。総説では大腸癌の平均診断年齢は35〜40歳とされ、は・ともに10〜12歳から始めることが勧められている。腺腫が100個未満にとどまるattenuated FAPという表現型もあり、多発腺腫はMYH遺伝子の変異(MAP)でも生じる3。

を越えた腺癌の組織像は H1-073:大腸腺癌 で確認する。

まとめ

  • 大腸腺腫は異形成腺上皮からなるポリープである。
  • APC機能喪失は蓄積を介して細胞増殖を促進する。
  • 大型、成分、、多発は癌化リスクを高める。
  • と単発腺腫を混同しない。
  • を越えた浸潤が、浸潤性大腸癌の重要な境界である。

出典

  1. 1.Association of Colonoscopy Adenoma Findings With Long-term Colorectal Cancer Incidence(JAMA・2018)PLCO試験で大腸内視鏡を受けた15,935人を中央値12.9年追跡した解析。進行腺腫(径10 mm以上、高異型度異形成、または管状絨毛状・絨毛状組織型のいずれか)は18.1%、非進行腺腫は31.8%、腺腫なしは50.1%。大腸癌発生率は1万人年あたりそれぞれ20.0・9.1・7.5で、進行腺腫は腺腫なしに比べ率比2.7(95%CI 1.9〜3.7)、大腸癌死の率比2.6。非進行腺腫は腺腫なしと有意差がなかった(率比1.2、95%CI 0.8〜1.7)閲覧 2026-08-24
  2. 2.Reproducibility of the villous component and high-grade dysplasia in colorectal adenomas <1 cm: implications for endoscopic surveillance(The American Journal of Surgical Pathology・2013)1 cm未満の大腸腺腫107例を5人の消化管病理専門医が独立に判定したところ、絨毛成分・高異型度異形成・進行腺腫のいずれについても観察者間一致度が低く、合意基準を作成したうえでの再判定でもκ値は改善しなかった。この区別に臨床判断を委ねることの妥当性が問われる閲覧 2026-08-24
  3. 3.Familial adenomatous polyposis(The American Journal of Gastroenterology・2006)家族性大腸腺腫症は5q21のAPC遺伝子の生殖細胞系列変異による常染色体顕性の大腸癌症候群で、数百個の腺腫性大腸ポリープを特徴とし、平均35〜40歳でほぼ不可避的に大腸癌へ進行する。発端者と血縁者の内視鏡サーベイランスは10〜12歳から始めることが推奨される。腺腫が100個未満にとどまる表現型は attenuated FAP と呼ばれ、多発腺腫はMYH遺伝子の常染色体潜性変異(MAP)でも生じる閲覧 2026-08-24