組織病理学

組織病理学 · H1-073

大腸腺癌(HE染色)

Adenocarcinoma coli (HE) – COLON

描出疾患
大腸癌

🧠 全体像:は、異型腺管を形成するである。を越える浸潤、腫瘍腺管内の壊死物質、粘液、を読み、腫瘍実質と反応性間質を区別する。

腺腫から腺癌への進展

flowchart TD
    A["正常大腸上皮"] --> B["APC・WNT経路の異常"]
    B --> C["腺腫"]
    C --> D["追加の増殖・生存経路異常"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-grade'>高異型度</span>病変"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Muscularis mucosae'>粘膜筋板</span>を越えて浸潤"]
    F --> G["大腸腺癌"]
    G --> H["筋層・周囲脂肪へ進展"]

標本の読み方

所見 病理学的意味
不規則な腺管 腺上皮分化を示す腫瘍実質
核の偽重層化・極性異常 腫瘍細胞の異型と成熟障害
内壊死物質 壊死細胞と好中球を含む「汚い壊死」を示唆する
粘液貯留 腫瘍腺管内または間質内にみられる
に対する線維芽細胞・の反応
炎症細胞 腫瘍周囲または壊死部に散在する
脂肪組織内の腫瘍腺管 腸壁外の結腸周囲組織への浸潤を示唆する
正常大腸上皮 正常・腫瘍境界と分化の比較対象になる

高分化腺癌では腺管形成がよく保たれ、核が比較的そろってへ並ぶことがある。それでも不規則な浸潤、、壊死などがあれば良性腺管ではない。

腫瘍実質と間質

構成 内容 観察点
悪性腺上皮細胞と、それが作る腺管 核異型、腺管構築、壊死、粘液、浸潤
線維芽細胞、、血管、炎症細胞 、血管・リンパ管、免疫反応
正常間質 正常粘膜・腸壁を支える結合組織 腫瘍反応性間質との境界

💡 大きな好酸性領域を腫瘍そのものと即断しない。腫瘍実質は腺管を作る細胞成分であり、淡紅色のが多い部分はである。

浸潤深度とT分類

区分
粘膜内にとどまり、を越えてへ達しない
T1 へ浸潤する
T2 へ浸潤する
T3 を越えて結腸周囲組織へ浸潤する
T4a 表面を破って達する
T4b 隣接臓器・構造へする、または癒着する

脂肪組織への浸潤が明瞭でも、その脂肪が腸か結腸周囲かを確認してを判断する。を越えた結腸周囲脂肪への浸潤ならT3に相当するが、最終病期にはリンパ節と遠隔転移の評価も必要である。

T4をT4a・T4bに細分するのは/第8版(2017年発行、2018年施行。大腸では2026年時点でもこれが現行版)以前からの扱いで、SEER・NCDBの集団データでをそろえてもT4a()のほうがT4b(隣接・癒着)より予後がよいことが根拠になっている1。

💡 を「」と読み替えない。 大腸のは内にとどまる病変を指し、にはリンパ管がほとんど無いためリンパ節転移リスクは0〜2%と小さく、完全な内視鏡切除で治療が完結する2。消化器腫瘍分類第5版(2019)は臨床的な曖昧さを理由に「carcinoma in situ()」という語を強く非推奨とし、に含めた3。「」という診断名もの同義語として使う限り議論があり、への明瞭な浸潤性増殖という厳密な基準を満たす真のは検診集団での推定0.01%と稀である4。

分化と退形成

は腺管形成の割合を中心に評価する。高分化領域と、腺管形成を失ってが目立つ(anaplasia)領域が同一腫瘍内に併存することがあるため、一部の整った腺管だけで腫瘍全体を判断しない。

まとめ

  • 不規則な腫瘍腺管、内壊死、粘液、を組み合わせて読む。
  • 腫瘍実質は悪性腺上皮、間質は線維・血管・炎症細胞からなるである。
  • を越える浸潤が、粘膜内病変と浸潤性大腸癌を分ける。
  • 結腸周囲脂肪への浸潤はT3を示唆するが、正確な病期には全標本とリンパ節・遠隔転移評価が必要である。

出典

  1. 1.Revised TN categorization for colon cancer based on national survival outcomes data(Journal of Clinical Oncology・2009)SEER 109,953例とNCDB 134,206例の解析で、T4を臓側腹膜穿破(T4a)と隣接臓器浸潤・癒着(T4b)に分けるとN因子をそろえてもT4aのほうがT4bより予後良好で、T・N因子の交互作用が生存に影響する閲覧 2026-08-24
  2. 2.Clinical management of patients with colorectal intramucosal carcinoma compared to high-grade dysplasia and T1 colorectal cancer(Gastrointestinal Endoscopy・2025)大腸粘膜内癌のリンパ節転移リスクは0〜2%と小さく、完全内視鏡切除が根治治療とみなされ追加外科切除は原則不要閲覧 2026-08-24
  3. 3.The 2019 WHO classification of tumours of the digestive system(Histopathology・2020)WHO消化器腫瘍分類第5版(2019)は前駆病変の異形成をlow-grade/high-gradeの2段階で評価する方式を全部位の標準とし、臨床的な曖昧さを理由に「carcinoma in situ(上皮内癌)」という用語の使用を強く非推奨としてhigh-grade dysplasiaに含めた閲覧 2026-08-24
  4. 4.Is it time to acknowledge intramucosal colorectal carcinoma?(Histopathology・2025)大腸の「粘膜内癌」という用語は高異型度異形成の同義語として使われる限り議論がある。粘膜固有層への明瞭な浸潤性増殖という厳密な基準を満たす真の粘膜内癌は検診集団での推定発生率0.01%と稀で、リンパ節転移リスクは低く予後良好閲覧 2026-08-24