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Disease Atlas · 消化器 · 疾患

D-乳酸アシドーシス

D-lactic acidosis

別名
D乳酸アシドーシス
臓器系
消化器神経内分泌・代謝
科目
Internal MedicineAnesthesiology
トピック
内科学 G-02:小腸疾患・吸収不良・消化不良麻酔科学 A-02:酸塩基平衡とその異常
治療薬
クリンダマイシンバンコマイシンネオマイシンカナマイシン
症状
構音障害小脳性運動失調意識変容
検査値
アニオンギャップ乳酸

🧠 全体像の核心はただ一つ——ヒトはL-乳酸しか代謝できないという酵素の欠落である。通常の乳酸測定はL-乳酸だけを測るため、などで結腸に届いた未消化炭水化物が腸内細菌に発酵されてが作られても、血液検査上の「乳酸」は正常のままだけが進む。この「開大しているのに乳酸が正常」という食い違いに気づけるかどうかが診断のすべてで、気づけなければ発作性の脳症状(・失調・意識変容)を原因不明のし続けることになる。

病態:なぜ「乳酸」が正常に出るのか

乳酸にはL体とD体の2つのがあるが、ヒトの代謝系はL-を中心に組み立てられており、を分解する酵素をほとんど持たない12。健常なや通常の食事でははほとんど産生されないため、この代謝経路の欠落は普段は問題にならない。

ところがなど小腸の吸収面積が不足する病態では、未消化のまま結腸へ届いた炭水化物を、そこに定着した細菌叢が発酵させてを大量に産生する。このが全身に吸収されても、臨床検査室で通常測定される「乳酸」はL-乳酸だけを検出する酵素法であるため、は測定にひっかからずすり抜ける1

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='short bowel syndrome, SBS'>短腸症候群</span>などで小腸の吸収面積が不足"] --> B["未消化炭水化物が結腸へ大量に到達"]
    B --> C["腸内細菌がこれを発酵し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D-lactate'>D-乳酸</span>を産生"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D-lactate'>D-乳酸</span>が全身に吸収される"]
    D --> E["ヒトは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D-lactate'>D-乳酸</span>脱水素酵素をほとんど持たない"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D-lactate'>D-乳酸</span>が血中に蓄積:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anion gap'>アニオンギャップ</span>開大"]
    D --> G["通常のL-乳酸測定は<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D-lactate'>D-乳酸</span>を検出しない"]
    G --> H["血液検査上の『乳酸』は正常値のまま"]
    F --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anion gap'>アニオンギャップ</span>開大なのに乳酸正常という食い違い"]
    D --> J["中枢神経系への移行"]
    J --> K["発作性の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dysarthria'>構音障害</span>・失調・意識変容"]

⚠️ なのに(L-)乳酸値が正常という組み合わせを見たら、を積極的に疑う。 この食い違いこそが診断の入口であり、通常のワークアップ(乳酸・ケトン体・腎機能)をひととおり正常と確認しただけで原因不明としてしまうと見逃す1

臨床像

神経症状が発作性に出現する点が特徴的である。 、歩行の不安定さ)、意識変容、精神症状、重症例では昏睡まで至りうる12。症状は炭水化物を多く摂取した後や、腸管の細菌叢が乱れた時期(抗菌薬治療後など)に出現しやすく、いったん誘因が去れば軽快することが多い。この発作性・反復性の経過が、原発性のとの重要な鑑別点になる。

診断

  • 通常の血液ガス・生化学: が開大し、代謝性アシドーシスの所見を示す一方、通常の乳酸測定(L-乳酸を検出)は正常値にとどまる1
  • の特異的測定: 診断確定には、L-乳酸とは別にを選択的に測定する専用のアッセイが必要である。血中濃度が3 mmol/L超であることが診断の目安として用いられる12
  • 背景疾患の確認: など結腸が温存された腸管切除後の病歴、炭水化物摂取との時間的関連、発作性の神経症状という3点が揃えば診断的価値が高い。

💡 では結腸を温存すること自体が水・エネルギーの再吸収という利益をもたらす一方、未吸収炭水化物の細菌発酵という同じ機序がの土台にもなる——結腸温存は諸刃の剣であることを踏まえて経過を追う。

治療

まとめ

  • の核心は、ヒトがL-乳酸しか代謝できず脱水素酵素をほとんど持たないため、通常の乳酸測定では検出されないことにある。
  • などで結腸に届いた未消化炭水化物を腸内細菌が発酵させを産生し、全身へ吸収される。
  • なのに(L-)乳酸値が正常という食い違いが診断の手がかりで、確定にはの特異的測定(目安3 mmol/L超)を要する。
  • 臨床像は発作性の・失調・意識変容などの神経症状で、是正のための抗菌薬が治療の柱になる。

出典

  1. 1.D-Lactic Acidosis: An Underrecognized Complication of Short Bowel Syndrome(Gastroenterology Research and Practice・2015)短腸症候群で結腸に到達した未消化炭水化物を腸内細菌が発酵させD-乳酸を産生すること(Pathophysiology of D-Lactic Acidosis節)、ヒトはD-乳酸脱水素酵素を欠くためD-乳酸を代謝しにくいこと(同節)、臨床像として構音障害・失調・意識変容・精神症状・昏睡があり意識変容はほぼ全例にみられること(Review of Clinical Features節・Table 2)、血中D-乳酸濃度3 mmol/L超で診断されること、アニオンギャップ開大かつL-乳酸正常という所見を伴うこと(Diagnosis of D-Lactic Acidosis節)、治療は単純糖質制限とクリンダマイシン・バンコマイシン・ネオマイシン・カナマイシンなどの抗菌薬であること(Treatment節)を確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Metabolic acidosis due to d-lactate in a patient with intestinal resection: Diagnostic challenges and nutritional strategies(International Journal of Surgery Case Reports・2025)ヒトはD-乳酸脱水素酵素を欠くためD-乳酸を代謝できず通常のL-乳酸測定では検出されないこと、腸管切除後の腸内細菌叢の不均衡により未吸収炭水化物の発酵が亢進しD-乳酸が産生されること(Introduction節)、神経症状として錯乱・言語障害・失調・易刺激性を伴うこと(Introduction節)、診断はアニオンギャップ開大かつL-乳酸正常に加えD-乳酸3 mmol/L以上で確定すること、治療は炭水化物制限と重炭酸塩によるアシドーシス是正であること(Discussion節)を確認した閲覧 2026-08-11