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Microbe Atlas · 細菌

Clostridioides difficile

分類
G+ 桿菌・芽胞形成 / Gram+ rods (spore)Clostridioides
性状
Gram陽性 (G+)桿菌 Bacilli
科目
Medical Microbiology
トピック
2/27: Clostridium botulinum and C. difficile
自然耐性薬
ゲンタマイシンアミカシントブラマイシン
原因となる疾患
クロストリディオイデス・ディフィシル感染症中毒性巨大結腸症
作用する薬剤
イソプロピルアルコールエタノールバンコマイシンフィダキソマイシンベズロトクスマブメトロニダゾールリファキシミン

🧠 全体像:C. difficileは同じでも破傷風菌・とは全く別の話として読む。毒素で神経を狙うのではなくA毒素・B毒素でを直接破壊する菌であり、しかも自然環境由来の外傷菌というより抗菌薬による破壊の産物として発症する点が対照的である。「正常フローラの防波堤が崩れたときだけ牙を剥く」という一点にすべての臨床像が集約される。起こす病気はである。

微生物学的な特徴

で、分類上は現在に再分類されているが、臨床では従来通り「C. difficile」と呼ばれることが多い。他のクロストリジウム属と同様にのだが、芽胞が非常に抵抗性が強く環境中で長期間生存しにも強い点が際立つ。嫌気性菌であるため、アミノグリコシド系には通常耐性を示す1。

⚠️ 芽胞はアルコールに非常に強い抵抗性を示す。 アルコール手指消毒では芽胞の除去効果が乏しく、患者に接触した後は石鹸と流水による手洗いのほうが効果的である2——これが院内感染対策上の最の一つである。

無症候性の定着は年齢と環境で大きく違う。2

対象 定着率
新生児〜乳児 20%程度〜高いもので90%
2〜3歳 1〜3%まで低下
医療機関の受診歴がない成人 2%未満〜15%
入院中の患者 約30%まで
長期介護施設の入所者 約50%まで

💡 乳児は定着率が高いのにほとんど発症しない。トキシンAが結合するの受容体が十分に発現していないためと考えられているが、十分には解明されていない2。

病原性の仕組み

発症には抗菌薬によるの破壊が前提条件になる。通常は正常フローラに競合排除されているが、抗菌薬投与により拮抗する常在菌が一掃されると異常増殖するリスクが高まる。

毒素

毒素 機序 効果
A毒素(古典的には) 細胞内でとして働き、Rhoタンパク質を不活化する 細胞骨格が保てず上皮細胞が傷害され、が緩む。古典的には下痢を誘導する作用が強調された
B毒素(古典的には) A毒素と同じくRhoタンパク質を不活化する 強い細胞傷害性。A毒素陰性・B毒素陽性の株でも発症し、で病原性を示すにはB毒素が必須
アクチンをADPする 細胞骨格を不安定にし、生じた膜突起が菌の付着を助ける。一部の強毒株(リボタイプ027など)が産生する

A毒素とB毒素はが約半分共通し、同じ仕組み(Rhoタンパク質の不活化)で上皮を壊す。発症に関わるのはA・B両方を産生する株とB毒素だけを産生する株で、両方を欠く株は症状を起こさない2。

flowchart TD
    A["抗菌薬投与により<span class='jp-term jp-term-diagram' title='normal intestinal flora (normal gut microbiota)'>正常腸内フローラ</span>が一掃"] --> B["C. difficile が異常増殖"]
    B --> C["A毒素・B毒素が上皮細胞に取り込まれる"]
    C --> D["Rhoタンパク質が不活化され<br>細胞骨格が崩れる"]
    D --> E["上皮細胞の傷害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tight junction'>密着結合</span>の破綻"]
    E --> F["炎症・体液分泌<br>水様性下痢"]
    E --> G["壊死物と滲出物が粘膜を覆う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudomembrane formation'>偽膜形成</span>"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudomembranous colitis'>偽膜性大腸炎</span>"]
    G --> H

💡 A毒素とB毒素の分担は、昔の説明ほどはっきりしていない。 古典的には「A=下痢、B=細胞傷害」と分けて教えられたが、両者は同じ酵素活性を持ち、病態形成への関わり方の違いにはが出ていない。臨床的に確かなのは、B毒素だけでも病気を起こせるという点である2。

感染経路と疫学

  • 院内感染としての下痢症——医療従事者の手指を介して伝播し、アルコール手指消毒だけに頼ると芽胞が残る
  • 芽胞は患者間で容易に伝播し、環境表面(ベッド柵、便器など)にも長期間残存する
  • 芽胞が残存するため再発しやすい。の(MODIFY I・II)のプラセボ群では再発率が28%・26%で、その7割が4週以内に再発していた2
  • リスク因子:使用歴(特にクリンダマイシン、、系)、高齢、入院・長期療養施設入所、使用

起こす疾患

病型 特徴
乳児では毒素受容体の発現が乏しいと考えられている。成人では既存の抗体による防御も関わる
軽症〜中等症の下痢 水様性下痢、腹部けいれん
の。発熱、、腹痛を伴う
劇症型(イレウス・・ショック) 生命を脅かす重症型。下痢を欠くことがある。外科的介入()を要することがある

診断

  • 検査に出す便:日本のガイドラインは Bristol Stool Scale 5以上の便を提出するとし、2歳未満は保菌率が高いため、他の原因が除外されていない限り検査を勧めない2
  • 迅速検査:糞便中の毒素(菌体そのものではない)と、菌が持つ酵素抗原をなどで同時に調べる。は毒素遺伝子の保有を検出するが、毒素を実際に産生しているか、保菌か感染かは区別できないため、段階を踏んだアルゴリズムで判定する
  • 日本のガイドラインのフローチャート2:
flowchart TD
    A["下痢便(Bristol Stool Scale 5以上)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutamate dehydrogenase'>GDH</span>抗原と毒素を同時に検査"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutamate dehydrogenase'>GDH</span>陽性・毒素陽性"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutamate dehydrogenase'>GDH</span>陽性・毒素陰性"]
    B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glutamate dehydrogenase'>GDH</span>陰性・毒素陰性"]
    C --> F["感染と判断"]
    D --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nucleic acid amplification test'>NAAT</span>を追加"]
    G --> H["陽性:感染または保菌<br>臨床的に評価"]
    G --> I["陰性:感染は否定的"]
    E --> I
  • 培養:培地(C. difficile)。コロニーは扁平・・灰色で「小屋様」のを呈する
  • ⚠️ 無症状の人は検査しない。 保菌率が高いため、下痢などのを伴わない検査は偽陽性による誤治療につながる

治療と予防

  • 原因抗菌薬の中止——治療の第一歩は誘因となった抗菌薬(特にクリンダマイシンなど)の中止であり、これ自体は治療薬ではない
  • ⚠️ 初発治療の第一選択は国によって違う。
場面 欧州( 2021) 日本(日本化学療法学会・日本感染症学会 2022)
初発 をより優先(条件付き推奨)。バンコマイシンは許容できる代替3 が望ましく、かバンコマイシンが使えるならメトロニダゾールは推奨しない4 非重症はメトロニダゾール500 mg 1日3回10日間が第一選択(強い推奨)。使えない場合や妊婦・はバンコマイシン、再発リスクがあれば。重症はバンコマイシン125 mg 1日4回または(再発リスクがあれば)2
再発 (標準または延長パルス法)を優先。初回再発ではバンコマイシンの・パルス法も代替3 初回再発はが望ましく、2回目以降は抗菌薬にかを加える4 またはバンコマイシン(弱い推奨)。再発を繰り返すならバンコマイシンのパルス・療法2
  • 💡 日本がメトロニダゾールを残しているのは、非重症例ではバンコマイシンとに有意差がなく、が安く、バンコマイシンの使用量が増えるとが増えうると判断したためである。一方、重症例ではバンコマイシンのが有意に高く、メトロニダゾールは高用量・長期投与で副作用が出やすいので、非重症の初発例に限っている2。米国・欧州では第一選択から外れているので、どの国の指針に従うかを明示して読む。
  • 劇症型(ショック・低血圧・・):日本のガイドラインはバンコマイシン500 mg 1日4回を経口・または注腸で投与し、メトロニダゾールの併用を考慮するとする(弱い推奨)2
  • 再発抑制:米国/は過去6か月以内に再発した患者に、抗菌薬治療へのとして(B毒素に対するモノクローナル抗体。それ自体は治療薬ではない)を提案する。⚠️ の既往がある患者では、利益が危険を上回る場合に限って使う3。⚠️ 日本では(ジーンプ)は販売中止となり、2024年4月以降は保険請求できない5——米国・欧州の指針にある選択肢が、日本の実臨床では使えない
  • 予防:(アルコール手指消毒だけでは芽胞を除去しにくく、石鹸と流水のほうが効果的)、患者の・個室隔離、環境表面の芽胞に有効な(など)による清拭

まとめ

  • C. difficileはので、芽胞がアルコールに非常に強い抵抗性を示す——石鹸と流水による手洗いが感染対策の要。
  • 発症には抗菌薬によるの破壊が前提条件——破傷風菌・のような外傷・食餌性の毒素産生菌とは成立機序が対照的。
  • A毒素とB毒素はどちらもRhoタンパク質を不活化して上皮を壊す。B毒素だけでも発症しうる。
  • 無症候性の定着は乳児で高く、成人でも医療環境で高くなる。診断は症状のある人の下痢便だけを、・毒素とを組み合わせた段階的な検査で判定する。
  • 治療の第一歩は誘因抗菌薬の中止。初発の第一選択は国で違い、米国・欧州は(代替は)、日本は非重症の初発にメトロニダゾールを残す。多回再発ではやの併用が海外の指針に挙がるが、は日本では販売中止となっている。

出典

  1. 1.Expected Resistant Phenotypes, Version 1.2(European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing (EUCAST)・2023)PDF(v1.2、2023年1月)を取得し、Table 5(嫌気性菌)の表題が「Anaerobes are usually resistant to aztreonam, aminoglycosides, polymyxin B/colistin and nalidixic acid.」と述べていることを確認した。同表の種別の行は Clostridium ramosum・C. innocuum のバンコマイシン耐性だけで、C. difficile の個別の行は無い。EUCAST の Expected Phenotypes ページが2026年9月時点でも v1.2(2023年1月)を掲げていることを確認した。閲覧 2026-09-27
  2. 2.Clostridioides difficile感染症診療ガイドライン2022(日本化学療法学会・日本感染症学会(感染症学雑誌 97巻 Supplement 01、2023年1月24日)・2023)日本感染症学会サイトの全文PDF(guideline_cdi_230125.pdf)で確認した。S11「C. difficile 病原因子」が、トキシンA・Bはいずれもグルコシルトランスフェラーゼ活性を持ちRhoタンパク質をグルコシル化して不活化し、細胞骨格が保てず細胞傷害と密着結合の脆弱化を起こすこと、古典的にAはエンテロトキシン・Bはサイトトキシンと呼ばれたこと、発症に関わるのはA+B+とA-B+の株で、動物モデルで病原性を示すにはトキシンBが必須であること、バイナリートキシンはアクチンをADPリボシル化して細胞骨格を不安定にし、生じた微小管の膜突起が菌の接着に有利に働くことを述べる。S22「定着」が、新生児から乳児の無症候性定着率は20%程度から高いもので90%、2〜3歳までに1〜3%、医療機関の受診歴がない成人で2%未満〜15%、入院環境で約30%まで・長期介護施設で約50%までとし、乳児でCDIがほとんどみられない理由をトキシンAの受容体が十分に発現していないためと考えられているが十分に解明されていないとする。S24は2歳未満の検査を原則推奨せず、Bristol Stool Scale 5以上の便を提出するとする。S3の検査フローチャートは、GDHとトキシンの同時検査で両方陽性ならCDI、GDH陽性・トキシン陰性ならNAATを行い、NAAT陽性でもCDIまたは保菌がありうるので臨床評価するとする。S34はMODIFY I・IIのプラセボ群の再発率を28%・26%とし、7割の症例が4週以内に再発していたとする。S50の表1は、非重症の初発にメトロニダゾール500 mg 1日3回10日間(強い推奨・A、使えない場合や妊婦・授乳婦はバンコマイシン125 mg 1日4回)、再発リスクがある場合などにフィダキソマイシン200 mg 1日2回10日間(強い推奨・A)、重症にバンコマイシン125 mg 1日4回10日間または再発リスクがあればフィダキソマイシン(強い推奨・A)、ショック・低血圧・中毒性巨大結腸症・麻痺性イレウスにバンコマイシン500 mg 1日4回の経口・経鼻胃管または注腸とメトロニダゾール点滴静注の併用考慮(弱い推奨・C)、再発にフィダキソマイシンまたはバンコマイシン(弱い推奨・B)、再発が何度も続く場合にバンコマイシンのパルス・漸減療法を考慮(弱い推奨・C)とし、同ページの本文は2018年のメタ解析で非重症群の治療成功率に有意差がなく重症群ではバンコマイシンが有意に高かったこと、メトロニダゾールの利点に薬価の安さを挙げ、バンコマイシン使用量の増加はVREを増やす可能性があること、メトロニダゾールは高用量・長期投与で副作用が出やすいため非重症の初発例に限って推奨したことを述べる。フローチャートは重症例でバンコマイシンまたはフィダキソマイシンを第一選択とする。S57は芽胞がアルコールに非常に強い抵抗性を示し、石鹸と流水による手指衛生のほうが効果的だが、アルコール手指消毒の増加がCDIの増加に結びつかなかったとの報告もあると述べる。閲覧 2026-09-27
  3. 3.Clinical Practice Guideline by the Infectious Diseases Society of America (IDSA) and Society for Healthcare Epidemiology of America (SHEA): 2021 Focused Update Guidelines on Management of Clostridioides difficile Infection in Adults(Clinical Infectious Diseases(IDSA / SHEA)・2021)発行元(IDSA)の推奨ページ(2021年6月14日公開、状態表示 Current)で、初発に「we suggest using fidaxomicin rather than a standard course of vancomycin (conditional recommendation, moderate certainty of evidence)」とし、バンコマイシンは許容できる代替であること、再発に「we suggest fidaxomicin (standard or extended-pulsed regimen) rather than a standard course of vancomycin (conditional recommendation, low certainty evidence)」とし、初回再発ではバンコマイシンの漸減・パルス法や標準投与も許容できる代替であること、過去6か月以内に再発した患者に標準抗菌薬治療への上乗せとしてベズロトクスマブを提案すること(条件付き推奨・非常に低い確実性)、うっ血性心不全の既往がある患者では利益が危険を上回る場合に限るとする米国FDAの警告を引いていることを確認した。抄録はフィダキソマイシンとベズロトクスマブに絞った部分改訂であることを述べる。閲覧 2026-09-27
  4. 4.European Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases: 2021 update on the treatment guidance document for Clostridioides difficile infection in adults(Clinical Microbiology and Infection(ESCMID Study Group on Clostridioides difficile)・2021)抄録の Recommendations で、前版からの主な変更として、フィダキソマイシンかバンコマイシンが使えるならメトロニダゾールはもはやCDI治療に推奨されないこと、フィダキソマイシンが利用可能で実施できるなら初発と初回再発に望ましい薬であること、2回目以降の再発には標準抗菌薬に加えて糞便移植かベズロトクスマブが望ましいこと、治療方針を重症度より再発リスクで決める方針に重心を移したことを確認した(抄録の範囲のみ)。閲覧 2026-09-27
  5. 5.「ジーンプラバ®点滴静注 625mg」 販売中止に関するお知らせ(MSD株式会社(医療関係者向けのお知らせ)・2023)2023年5月付の医療関係者向けのお知らせ(元のURLは2026年9月時点で404のため、ウェブアーカイブの保存版PDFで本文を取得)で、ジーンプラバ点滴静注625mgを世界的な需要減少による供給体制の再編により販売中止とし、販売中止時期(予定)を2023年12月末、経過措置期間(予定)を2024年3月31日までとし、2024年4月1日以降は保険請求できないと記していることを確認した閲覧 2026-09-27