疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 消化器 · 疾患

好中球減少性腸炎

Neutropenic enterocolitis

別名
チフリチスTyphlitisNeutropenic colitis
臓器系
消化器血液腫瘍
科目
Internal MedicinePediatrics
トピック
内科学 L-64:血液・腫瘍救急小児科 2-02:小児腫瘍救急
鑑別疾患
クロストリディオイデス・ディフィシル感染症移植片対宿主病
続発疾患
菌血症
治療薬
ピペラシリンタゾバクタムセフェピムメトロニダゾールフィルグラスチム
原因薬剤
シタラビンエトポシドパクリタキセルドセタキセル
症状
発熱腹痛下痢血便

🧠 全体像:(チフリチス)は、「好中球減少・化学療法による・という3つの要因が同時にそろったときに、盲腸を中心に腸管が壊死性の炎症を起こす」病態である。健常者の腸管ではと好中球が細菌の侵入を防いでいるが、化学療法後にこの両方が同時に破綻すると、腸管内の細菌がへ侵入して壊死・出血・穿孔に至りうる。⭐ の患者が腹痛・下痢を訴えたら、まず本症を疑う——診断の遅れは菌血症・穿孔という致死的な合併症に直結する。

病態

化学療法(特に・などのを起こしやすい薬剤や)による腸粘膜傷害、好中球減少による免疫抑制、腸管内細菌叢による侵襲という3つの因子が相互作用して発症する1。(盲腸を中心とする領域)は、リンパ組織が豊富での停滞が起こりやすく、相対的に血流に乏しいため最も侵されやすいと考えられており、この部位への偏りから「チフリチス(ギリシャ語のtyphlon=盲腸に由来)」という別名がある1。

⚠️ ・好中球減少・細菌侵入がそろわなければ成立しない。 好中球減少があっても腸粘膜が健全であれば、あるいはによる侵襲がなければ、通常は発症しない。

flowchart TD
    A["化学療法(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytarabine'>シタラビン</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='etoposide'>エトポシド</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='taxanes'>タキサン系</span>など)"] --> B["腸粘膜傷害(特に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ileocecal region'>回盲部</span>)"]
    A --> C["骨髄抑制による好中球減少"]
    B --> D["腸管内細菌叢の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='submucosal'>粘膜下</span>侵襲"]
    C --> D
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='ileocecal region'>回盲部</span>中心の壊死性炎症=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neutropenic enterocolitis'>好中球減少性腸炎</span>"]
    E --> F["菌血症・出血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intestinal perforation'>腸穿孔</span>"]

危険因子

⭐ アグレッシブな化学療法の普及そのものが発症頻度を押し上げている。 薬剤など強い消化管を来す薬剤の広範な使用により、は増加傾向にある疾患と位置づけられている2。

臨床像

主症状は発熱・腹痛(多くは優位だがびまん性のこともある)・腹部膨満(66%)・下痢で、血便を伴うこともある1。⚠️ の患者が腹部症状(痙攣・疼痛・腹部膨満・下痢・消化管出血)を呈した場合は、本症を積極的に評価する2。

画像所見

では肥厚・腸間膜脂肪織の影・腸管拡張・を認める。として肥厚4 mm以上かつ長さ30 mm以上が用いられ、超音波で壁厚が10 mmを超える場合は予後不良を示唆する所見とされる1。

治療

⭐ によるが治療の柱である。 /、薬、またはを持つなどの単剤に、嫌気性菌カバーとしてメトロニダゾールまたはバンコマイシンを併用する。好中球数の回復を促す目的で()の使用も検討される1。

支持療法として腸管安静と凝固異常の補正を行う2。

⚠️ 外科的介入の適応は限定的である。 手術は・・持続する消化管出血など特定の合併症に限られ、⭐ 可能な限り好中球数が回復するまで手術を遅らせることが推奨される——好中球減少下の開腹手術は・のリスクが高いためである2。

多くはによる菌血症、出血、を合併しうる、実質的な・死亡率を伴う生命的な疾患である2。

鑑別

まとめ

  • (チフリチス)は、化学療法による腸粘膜傷害・好中球減少・の3因子が重なってを中心に生じる壊死性の腸炎である。
  • 危険因子は・などを来す、薬剤、放射線療法、白血病の腸管浸潤。発熱・腹痛・腹部膨満・下痢・血便が主症状。
  • 診断は肥厚4 mm以上・長さ30 mm以上の所見を目安とする。
  • 治療は+嫌気性菌カバーが柱で、⚠️ 外科的介入は穿孔・出血など特定の合併症に限り、可能な限り好中球数の回復まで遅らせる。
  • 鑑別は、の腸管病変、など。による菌血症を合併しうる致死的疾患である。

出典

  1. 1.Neutropenic Enterocolitis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)好中球減少性腸炎が好中球減少患者に生じる生命脅威的な腸炎で盲腸(cecum)が最も高頻度に侵されるためチフリチスとも呼ばれること、好中球減少・腸粘膜損傷・免疫抑制の3因子が相互作用し細菌の粘膜下侵襲に至ること、危険因子が化学療法(特にシタラビン・エトポシドなど粘膜炎を起こしやすい薬剤)・放射線療法・白血病浸潤であること、臨床像が発熱・腹痛・腹部膨満(66%)・下痢・血便であること、画像診断基準が腸管壁肥厚4 mm以上かつ長さ30 mm以上であり超音波で壁厚10 mmを超えると予後不良を示唆すること、治療が広域抗菌薬(ピペラシリン/タゾバクタム、カルバペネム、抗緑膿菌活性を持つセフェピムなど)に加え嫌気性菌カバーとしてメトロニダゾールまたはバンコマイシンを併用しG-CSFを検討すること、鑑別診断がクロストリディオイデス・ディフィシル大腸炎・移植片対宿主病・サイトメガロウイルス腸炎・ノロウイルス感染・虚血性大腸炎・虫垂炎であることを確認した。閲覧 2026-09-06
  2. 2.Neutropenic enterocolitis, a growing concern in the era of widespread use of aggressive chemotherapy(Clinical Infectious Diseases・2013)Europe PMC経由で抄録を取得して確認した。好中球減少性腸炎が実質的な罹病率・死亡率を伴う生命脅威的疾患であり主に血液悪性腫瘍患者にみられること、タキサン系薬剤など重度の消化管粘膜炎を来す化学療法薬の広範な使用により発症頻度が増加していること、発熱性好中球減少患者が腹部痙攣・疼痛・腹部膨満・下痢・消化管出血を呈した場合に評価すべきこと、多くは多剤耐性菌による菌血症・出血・腸穿孔を合併しうること、治療が腸管安静・凝固異常の補正・広域抗菌薬および抗真菌薬投与であり外科的介入は出血・穿孔などの合併症に限り可能な限り好中球数の回復まで遅らせることが推奨されることを確認した。閲覧 2026-09-06