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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

急性出血性結膜炎

Acute hemorrhagic conjunctivitis

別名
AHCアポロ病
臓器系
眼科感染症
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 3-30:ピコルナウイルス(ライノ・コクサッキー・エコー・エンテロウイルス)微生物学 5/3:眼感染を起こす細菌とウイルス(一覧)とその診断
上位概念
結膜炎
鑑別疾患
流行性角結膜炎
原因微生物
エンテロウイルス
症状
結膜下出血結膜充血眼痛流涙眼瞼浮腫点状表層角膜症弛緩性麻痺

🧠 全体像:は、名前も上の扱いもと並ぶが、中身は別物である。起因ウイルスの中心は(と)で、⚠️ との対比は学習上の軸であって排他的ではない(熱帯・亜熱帯では両者による流行がともに起きる)。潜伏期はおよそ1日と極端に短く、名前の由来であるが最も特徴的な所見になる。眼所見そのものはより軽いが、⚠️ はポリオ様のを起こしうるという、眼科疾患らしからぬ顔をもつ。

流行性角結膜炎との対比

項目
起因ウイルス ・ (8・19・37型など)
最も特徴的な所見 (に多い) ・
眼所見の重さ より軽い ——
まれな全身合併症 ポリオ様の() ——
第三種 第三種

起因ウイルス・所見・重さの対比は総説の記載による1。上の種別は施行規則第十八条第一項第三号が両者を並記している2。

⚠️ 潜伏期がおよそ1日と極端に短いことは、臨床上そのまま意味をもつ。 集団の中で発症が一気に立ち上がるため、1人目が出た翌日には次が出る。⭐ が陰性ののを見たら本症を考える1。

起因ウイルスと流行

  • とが二大起因ウイルスで、いずれもに分類される1。
  • 1969年6〜10月のガーナの流行が最初の大流行で、アポロ11号の月着陸と時期が重なったことから現地で「」と呼ばれた1。
  • 1971年の日本・シンガポール・モロッコの流行では、患者のからが分離された1。
  • 主に手から眼、眼から手への接触で伝播する1。
  • 2022年以降アジアで流行が続き、2024年にはインド洋のマヨット・マダガスカルでによる流行が起きた3。
  • 罹患は男性が女性の約1.5倍。中国の報告では8〜10月に季節性のピークがあり、発症年齢の中央値は24歳であった。洪水の後に流行が起こりやすい1。

💡 潜伏期が1日でも、流行のは即日ではない。 数例の孤発例や罹患した旅行者から始まった発生が流行へ拡大するまでには数週間を要しうる1。⭐ 「1人目が出た翌日に次が出る」のは個人の伝播、「流行になるまで数週間」は集団の話で、別々の時間尺度である——この数週間が対策を打てる猶予にあたる。

⚠️ 「の病気」と覚えるのは対比としては正しいが、排他的ではない。 熱帯・亜熱帯地域では、によるものとによるものの双方の流行が定期的に起きていると報告されている3。

💡 「エンテロ(腸)」の名から消化器の病気を連想しがちだが、本症で問われるのは手から眼への接触という経路である1。が対策の中心になるのはこのためである。

臨床像

  • 感染源との接触後まもなく、両眼が同時に、または短い間隔で相次いで発症する1。
  • 、、眼瞼の点状浮腫、、、1。
  • は点状のこともあれば全体に及ぶこともあり、が最も多い部位である1。
  • によるはまれである1。

⚠️ 黄色調のを見て細菌性と決めつけない。 2024年のマヨットの初発集団では、両眼性の疼痛と・黄色調の分泌物から細菌性が疑われ、全例が抗菌薬を投与されたうえで後にと判明している3。

まれだが重い合併症——ポリオ様の弛緩性麻痺

は、結膜炎の流行に続いてポリオ様のを起こしうる。

1971年と1981年の大流行で診療された90例の報告では、次のような像だった4。

  • 主に成人男性が四肢および/または脳神経の「ポリオ様」麻痺に罹患した。
  • 病初期にの訴えが多かった。
  • 血清、そしてより意味のあることに髄液で、に対する有意なが示された。

⚠️ 著者らは、出血性結膜炎とポリオ様のとの組み合わせを起こすのはだけであるとして、これを「病」と呼ぶことを提唱した。ゆえに、結膜炎の流行のごく初期に本ウイルスを同定して上の対策で拡大を抑えることが重要だと述べている4。

💡 同じのポリオと像が重なるのはではない。のの一つの現れ方であり、(EV-D68)と並べて理解できる。

学校保健安全法上の扱い

第十八条第一項第三号は、とを第三種の感染症に掲げている2。

種別 の期間の基準
第三種 病状により学校医その他のにおいて感染のおそれがないと認めるまで

⭐ 第三種には日数の定めが無い。(第二種、主要症状が消退した後二日を経過するまで)のような固定の日数ではなく、の判断で決まる2。

治療と感染対策

⭐ ・・のいずれにも、承認された抗ウイルス薬は無い。 対症療法が主体である1。多くは1〜2週間で軽快する。

⚠️ 「に念のため抗菌点眼」を反射的にしない。 外用抗菌薬は細菌のの治療・予防に用いられてきたが、続発する細菌感染はきわめてまれであり、耐性の問題から予防的な投与は必要でないかもしれないと総説は述べている1。

⭐ 有効な治療法が無いからこそ、実務上の中心は感染対策になる1。伝播経路が手から眼、眼から手への接触であることが、対策の形をそのまま決める。

対象 具体策
手 流水下で洗い、エタノールで消毒する。反復するとより効果的。乾燥には使い捨ての紙タオルを使う
医療器具 ⚠️ チップ・倒像鏡のレンズ・が感染を広げうる。 水洗後に80%エタノールへ10分以上浸漬する。も有用。耐熱器具は10秒のが最良
点眼瓶 ⚠️ 両眼性の患者では左右で点眼瓶を分ける。 の患者が用いた多回使用点眼瓶は、最長9週間にわたり伝播の媒介となりうると報告されている
環境 診察室をで清拭する。広い診察室には紫外線照射が優れる

⚠️ 感染を広げる主体として最初に挙げられているのは「医療従事者の手と医療器具」である1。眼科外来そのものが流行の増幅装置になりうる、という視点が要る。

まとめ

  • 起因ウイルスの中心はとで、との対比の軸になる(⚠️ ただしによるの流行も起きるので排他的ではない)。
  • 潜伏期はおよそ1日と極端に短く、集団内で一気に立ち上がる。多くは1〜2週間で軽快する。
  • 名前の由来であるが最も特徴的な所見で、に多い。
  • 眼所見そのものはより軽く、によるはまれである。
  • が陰性ののでは本症を考える。
  • はまれにポリオ様のを起こす。結膜炎だからと神経症状を見落とさない。
  • 承認された抗ウイルス薬は無く対症療法が主体。⚠️ 続発する細菌感染はきわめてまれなので、予防的な抗菌点眼は必ずしも要らない。
  • 感染対策の要はと器具の消毒(80%エタノール10分以上/10秒の)で、両眼性の患者では点眼瓶を左右で分ける。
  • ではと並んで第三種で、は日数ではなくが感染のおそれが無いと認めるまでである。

出典

  1. 1.Viral Conjunctivitis(Viruses・2023)Europe PMC(PMC10057170)で全文を確認した。総説の第4節で、急性出血性結膜炎の二大起因ウイルスがコクサッキーウイルスA24変異型とエンテロウイルス70型でありいずれもエンテロウイルスに分類されること、1969年6〜10月のガーナの流行が現地でアポロ11号の月着陸と時期が重なったため「アポロ11号病」と呼ばれたこと、1971年の日本・シンガポール・モロッコの流行で患者結膜からエンテロウイルス70型が分離されたこと、本症がきわめて伝染性が強く潜伏期がおよそ1日であること、主に手から眼、眼から手への接触で伝播すること、感染源との接触後まもなく両眼が同時にまたは短い間隔で相次いで発症しうること、臨床所見として結膜下出血・点状表層角膜症・眼瞼の点状浮腫・結膜充血・濾胞形成・漿液性眼脂がみられること、上皮下浸潤による視力低下はまれであること、症状は流行性角結膜炎より軽いこと、最も特徴的な所見が病名の由来である結膜下出血で耳側上方に最も多くみられること、アデノウイルス迅速検査が陰性の突発性の濾胞性結膜炎では本症を考えるべきことを確認した。同節はさらに、罹患が男性に女性の約1.5倍多いこと、洪水の後に流行が起こりやすいこと、Zhangの報告では8月から10月にかけて明瞭な季節性のピークがあり発症年齢の中央値が24歳であること、数例の孤発例から流行へ拡大するまでに数週間を要しうることを述べている。第9.1節は、アデノウイルス・コクサッキーウイルスA24変異型・エンテロウイルス70型のいずれにも現時点で承認された抗ウイルス薬が無く対症療法が主体であること、外用抗菌薬は細菌の重複感染の治療・予防に用いられるが続発する細菌感染はきわめてまれであり耐性の問題から予防的投与は必要でないかもしれないこと、有効な治療法が無いゆえに流行性角結膜炎・咽頭結膜熱・急性出血性結膜炎の流行を防ぐ衛生管理がきわめて重要であること、医療従事者の手と医療器具(眼圧測定用の眼圧計チップ・倒像鏡のレンズ・細隙灯)が感染を広げうること、流行性角結膜炎患者が用いた多回使用点眼瓶が最長9週間にわたり伝播の媒介となりうるため両眼性の患者では左右で点眼瓶を分けるべきこと、手洗いは流水下で行いエタノールで消毒し反復するとより効果的であること、手を拭くには使い捨ての紙タオルを用いること、医療器具は水洗後に80%エタノールへ10分以上浸漬すべきでポビドンヨードも有用な消毒薬であること、耐熱器具は10秒の煮沸が最良の滅菌法であること、診察室は消毒薬で清拭し広い診察室には紫外線照射が優れることを述べている。閲覧 2026-09-03
  2. 2.学校保健安全法施行規則(昭和三十三年文部省令第十八号)(デジタル庁 e-Gov法令検索(令和五年五月八日施行の現行版)・2023)第十八条第一項第三号が流行性角結膜炎および急性出血性結膜炎を第三種の感染症に掲げること、同項第二号が咽頭結膜熱を第二種の感染症に掲げること、第十九条第三号が結核・髄膜炎菌性髄膜炎および第三種の感染症について出席停止の期間の基準を「病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで」と定めること、第十九条第二号トが咽頭結膜熱について「主要症状が消退した後二日を経過するまで」と定め、同号本文のただし書きが病状により学校医その他の医師が感染のおそれがないと認めたときはこの限りでないとすることを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.2024 re-emergence of coxsackievirus A24 variant causing an outbreak of acute hemorrhagic conjunctivitis in the South West Indian Ocean(Emerging Microbes & Infections・2025)2024年初頭にマヨットとマダガスカルで急性出血性結膜炎の流行が起き、2022年以降アジアで流行が続いている状況下での再興であったこと、マヨットの19検体のうち18検体でVP1部分配列がコクサッキーウイルスA24変異型と同定されたこと、初発集団の全例が両眼性の疼痛を伴う結膜炎と流涙・黄色調の分泌物を呈したため当初は細菌性が疑われ全例が抗菌薬治療を受けたことを確認した。導入部では、本症が突然発症する眼痛・腫脹・異物感・眼脂・結膜下出血を特徴とするきわめて伝染性の強い流行性ウイルス疾患であること、熱帯・亜熱帯地域ではエンテロウイルスとアデノウイルスによる大規模流行が定期的に起きていることも述べられている。閲覧 2026-09-03
  4. 4.A study of the neurological disorder associated with acute haemorrhagic conjunctivitis due to enterovirus 70(Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry・1983)1971年と1981年の大流行で診療したエンテロウイルス70型による急性出血性結膜炎に伴う神経症状90例の報告で、成人男性が主に四肢および/または脳神経の「ポリオ様」麻痺に罹患したこと、病初期に神経根痛の訴えが多かったこと、血清および髄液でエンテロウイルス70型に対する有意な抗体価が示されたこと、他のウイルスも散発性・流行性の結膜炎と類似の麻痺をそれぞれ独立に起こしうるものの出血性結膜炎とポリオ様の神経疾患との組み合わせはエンテロウイルス70型のみが起こすと論じ、この組み合わせを「エンテロウイルス70型病」と呼ぶことを提唱したこと、その神経病原性ゆえに結膜炎の流行のごく初期に本ウイルスを同定して公衆衛生上の対策で拡大を抑えることが重要だと述べたことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-03