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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

機能性流涙

Functional epiphora

別名
機能性流涙症機能性鼻涙管閉塞機能性鼻涙管通過遅延FNLDO
臓器系
眼科
科目
Macroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)Neurology
トピック
解剖学 7.4:頭部:眼窩と眼神経内科 G1-02:顔面神経障害の症候
鑑別疾患
鼻涙管閉塞
治療薬
ボツリヌス毒素
症状
流涙
画像所見
色素消失試験涙管通水試験涙道造影涙道シンチグラフィ涙道内視鏡

🧠 全体像:は「は通っているのに涙があふれる」という、除外の先にある診断である1。通水試験で通り、でも狭窄が無いのに、生理的な条件で追うと涙が流れていない——⭐ 「押せば通る」ことと「自然に流れる」ことが別物だという一点が、この診断のすべてを支えている。 ⚠️ まれな例外ではない。 とを全例に行った外来の連続576患眼では、が26%(148/576)を占め、な閉塞の26%(150/576)と同数だった2。文献上の頻度が約1〜7%と低く報告されてきたのは、多くの研究がこれをの排出障害へまとめてしまうためである2。

定義

とは、が開通しているにもかかわらずが続く状態で、やのような明らかな原因は除外されている1。⚠️ 「原因が分からない」の別名ではない。 検査で積極的に定義される診断であり、その定義にはでの遅延の証明が入る。

段階的アルゴリズムは次の4段である2。

  1. 診察で他の原因(による、、、異常、)を除外する
  2. で開通を確認する(この研究では逆流20%未満を開通とした)
  3. でを除外する(管腔径0.4 mm未満を狭窄とした)
  4. で遅延とその部位を確認する

⭐ 3つの検査は入れ替えがきかない。 通水・造影・がそれぞれ別の質問に答えており、次の表の3行を区別するために全部が要る2。

通水試験
閉塞 閉塞 遅延
開通 狭窄 遅延
開通 正常 遅延

⚠️ 臨床診察だけで狭窄と機能性の通過遅延を確実に区別することはできないと原著者は明言している2。通水試験を単独の判定基準にすると、この2行が同じ箱に落ちる。

病態:なぜ「通るのに流れない」のか

は→→→→へ流れる(解剖学 7.4)。この流れを駆動しているのはではなく、のたびにがを・弛緩させて生じる陰圧()である。

💡 から押し込む圧は、このポンプとまったく別の力である。 通水も造影も外から加圧するので、ポンプが止まっていても「通る」と出る。逆に言えば、⭐ 加圧試験が答えられるのは解剖学的なだけで、の有無は原理的に評価できない3。この差を埋めるのが、を制限せずに生理的条件のまま追えるである。

遅延の部位で2型に分ける2。

型 遅延の部位 頻度(148眼中)
より下流() 132眼(89%)
より上流(・・ポンプ機構) 16眼(11%)

⭐ 圧倒的多数はである。 「機能性=」と短絡すると、実際に多いレベルの通過遅延を見落とす。💡 流出抵抗の50%超はが占めており、(抵抗は半径の4乗に反比例する)から、をわずかに拡げるだけで抵抗が大きく下がる——これがの作用機序として説明されている1。

流涙の原因の中での位置づけ

同じ外来の576患眼の内訳である2。

原因 割合
の(76例+74例) 26%(150/576)
26%(148/576)
原因不明 16%(96/576)
11%(65/576)
7%(39/576)
6%(33/576)
性 5%(28/576)
眼瞼性(位置異常・弛緩・麻痺による) 3%(17/576)

⚠️ この内訳をそのまま一般外来へ持ち込まない。 外来の受診者で、平均年齢66.2±15.5歳・63.4%が女性という選択された集団である2。一般の外来ではによるが最多になる。⭐ 「どこで診ているか」で原因分布が変わる。

診断の流れ

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimation'>流涙</span>が続く"] --> B{"診察で他の原因があるか<br>眼表面・眼瞼・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal punctum'>涙点</span>・鼻腔"}
    B -->|"あり"| C["その原因を治療する"]
    B -->|"なし"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimal irrigation test'>涙管通水試験</span>"}
    D -->|"逆流・抵抗あり"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='canalicular obstruction'>涙小管閉塞</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasolacrimal duct obstruction'>鼻涙管閉塞</span>として<br>部位診断へ"]
    D -->|"開通"| F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dacryocystography'>涙道造影</span>"}
    F -->|"狭窄あり"| G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nasolacrimal duct stenosis'>鼻涙管狭窄</span>"]
    F -->|"正常"| H{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dacryoscintigraphy'>涙道シンチグラフィ</span>"}
    H -->|"遅延なし"| I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional epiphora'>機能性流涙</span>は否定的<br>原因不明として再評価する"]
    H -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postsaccal'>後涙嚢性</span>の遅延"| J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional epiphora'>機能性流涙</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postsaccal'>後涙嚢性</span>)"]
    H -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presaccal'>前涙嚢性</span>の遅延"| K["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional epiphora'>機能性流涙</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presaccal'>前涙嚢性</span>)"]

治療

手術の選択は「どちらの検査が異常か」で決まる。 (28編・1706眼)の提案するアルゴリズムは次のとおりである1。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='functional epiphora'>機能性流涙</span>を疑う"] --> B{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dacryocystography'>涙道造影</span>"}
    B -->|"異常"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dacryocystorhinostomy, DCR'>涙嚢鼻腔吻合術</span>"]
    B -->|"正常"| D{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dacryoscintigraphy'>涙道シンチグラフィ</span>"}
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='postsaccal'>後涙嚢性</span>の遅延"| C
    D -->|"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presaccal'>前涙嚢性</span>の遅延"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lateral tarsal strip procedure'>外側瞼板ストリップ法</span>"]
    D -->|"正常"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='botulinum toxin'>ボツリヌス毒素</span>A<br>(適応外・短期の選択肢)"]
介入 報告された成功率
73.9〜100%(最大例は42/50=84%。100%の2研究はn=25・n=13と小規模)
65.7〜100%
65〜91.2%
(単独) おおむね70%(個別研究では50〜94.4%)
A 66.7〜72.7%
おおむね60〜70%
単独 10.3〜40%(併用で71.1%)
ステロイド点眼 46.3%
  • ⭐ が最も成功率が高く、平均追跡期間も最も長い1。「が詰まっていないのにをつなぎ直す」という一見の矛盾は、が89%を占めるという事実と、抵抗そのものを迂回するという機序で理解する。
  • ⚠️ 単独は成功率が低い(10.3〜40%)。併用で71.1%まで上がるが、との毒性という代償を伴う1。
  • ⚠️ Aはで、効果は時間限定である。 反復注射を要し、に・が生じうる1。⭐ まで正常だった例に対する最後の選択肢であって、の第一選択ではない。
  • 合併症は軽微・一過性で、その多くは関連(脱落・逸脱・・)である1。

⚠️ この成功率をそのまま比較しない。 採用28編のうちは3編のみで、質評価は強2編・中6編・弱16編、介入全体の成功率の幅は10.3〜100%に及ぶ。のためは行われていない1。

まとめ

  • は「が開通しているのにが続く」状態で、①診察での除外②通水での開通確認③での狭窄除外④での遅延確認、という4段の除外の先に置かれる診断である。
  • ⭐ 通水試験とは加圧試験で、が働いた自然な流れを評価できない。 生理的条件で追えるが定義に組み込まれているのはこのためである。
  • ・・の3者は、通水・造影・の組み合わせでしか分けられない。⚠️ 臨床診察だけでは狭窄と機能性を区別できない。
  • ⚠️ まれではない。全例に画像検査を行った576患眼で26%を占め、な閉塞と同数だった。文献上1〜7%と低く出るのはの排出障害へまとめられているため。
  • 遅延部位はが89%、が11%。「機能性=」と短絡しない。
  • 治療はが異常なら、正常ならの結果で分岐し、は、は、も正常ならA(適応外・短期)。
  • ⭐ が最も成功率が高い。 ⚠️ 単独は10.3〜40%と低い。⚠️ 採用研究の多くが質の低いで、成功率の直接比較には耐えない。

出典

  1. 1.Interventions in functional epiphora-a systematic review(International Journal of Ophthalmology・2025)発行元(ijo.cn)の全文PDFを取得して確認した。成人の機能性流涙に対する介入の成功率と合併症を扱った系統的総説で、762編から28編・計1706眼を採用したこと、機能性鼻涙管閉塞を涙道が開通しているのに流涙する状態と定義し涙点狭窄・眼瞼位置異常といった明らかな原因を除外していること、介入別の成功率が外部涙嚢鼻腔吻合術73.9〜84%、内視鏡的涙嚢鼻腔吻合術65.7〜100%、シリコンチューブ挿入単独でおおむね70%(個別研究は50〜94.4%)、バルーン涙道形成術がおおむね60〜70%、外側瞼板ストリップ法65〜91.2%、ボツリヌス毒素A 66.7〜72.7%、涙道プロービング単独が10.3〜40%でマイトマイシンC併用時に71.1%、ステロイド点眼が46.3%であったこと、介入全体の成功率の幅が10.3〜100%であったこと、涙嚢鼻腔吻合術の成功率が最も高く平均追跡期間も最も長かったこと、合併症は軽微・一過性でその多くがステント関連であったこと、採用28編の質評価が強2編・中6編・弱16編でランダム化比較試験は3編のみであったこと、涙道流出抵抗の50%超を涙小管が占めるという報告を引きPoiseuilleの法則からシリコンチューブ挿入の作用機序を説明していること、提案する治療アルゴリズムが「全例に涙道造影→異常なら涙嚢鼻腔吻合術/正常なら涙道シンチグラフィ→後涙嚢性遅延なら涙嚢鼻腔吻合術・前涙嚢性遅延なら外側瞼板ストリップ法・シンチグラフィも正常ならボツリヌス毒素Aを適応外・短期の選択肢として用いる」であることを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Functional epiphora: an under-reported entity(International Ophthalmology・2023)Europe PMC経由でPMC10371897の全文XMLを自分で取得して確認した(既存 id の再利用だが原文を再取得し、url も既存ノートと同一の形にそろえた)。オーストラリアの三次涙道外来(Royal Adelaide Hospital、2011年1月〜2021年2月)を受診した成人372例576患眼の後方視的検討であること、平均年齢66.2±15.5歳(18〜96歳)で63.4%が女性であったこと、機能性流涙をChanらの段階的アルゴリズム(①診察で他の原因を除外②涙管通水で開通を確認③涙道造影で鼻涙管狭窄を除外④涙道シンチグラフィで遅延とその部位を確認)で定義したこと、通水での開通を逆流20%未満と定義し、涙道造影では管腔径0.4 mm未満を狭窄、造影剤が通過しないものを閉塞としたこと、涙道シンチグラフィはテクネチウム99mパーテクネテート10 µLを点眼し45分間1分ごとに撮像して5分を正常・前涙嚢性遅延・後涙嚢性遅延の判別の時点としたこと、後涙嚢性の器質的閉塞(狭窄+完全閉塞)が26%(150/576)で最多、機能性流涙が26%(148/576)でこれに並んだこと、器質的後涙嚢性150例の内訳が鼻涙管閉塞76例(51%)・鼻涙管狭窄74例(49%)であったこと、機能性流涙148眼のうち後涙嚢性遅延が132眼(89%)・前涙嚢性遅延が16眼(11%)であったこと、原因不明が16%(96/576)、多因子性が11%(65/576)、反射性流涙が7%(39/576)、涙小管閉塞が6%(33/576)、涙点性が5%(28/576)、眼瞼性(位置異常・弛緩・麻痺によるポンプ不全)が3%(17/576)であったこと、文献上の機能性流涙の頻度が約1〜7%と報告されるのは多くが後涙嚢性の排出障害へまとめられているためだと著者らが論じていること、臨床診察だけでは狭窄と機能性の通過遅延を確実には区別できないと著者らが述べていること、著者らが引用するWormaldらの報告では内視鏡的涙嚢鼻腔吻合術を受けた患者の約29%が術前評価で機能性鼻涙管通過遅延と診断されていたことを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Epiphora Clinical Testing(StatPearls Publishing (NCBI Bookshelf)・2023)既存 id を再利用したが原文を自分で取得して確認した。Jones I試験(結膜円蓋にフルオレセインを点眼し下鼻道での色素を綿棒・鼻をかむ・味覚のいずれかで確認する)が陽性なら涙道開通、陰性なら閉塞を疑うが偽陰性率が22%あり臨床ではほとんど用いられないこと、Jones II試験で液が自由に流れても涙嚢内の涙石や生理的な鼻涙管の通過障害が存在しうること、涙管通水は非生理的な検査であり加える力の程度によって紛らわしい結果になりうること、色素消失試験は5分後の残留量を0〜4で評価し残留は涙液流出の遅延を示すこと、涙液メニスカスは上下眼瞼縁で約1 mmであること、涙のポンプ機構は眼瞼の動きに依存し、その低下は閉塞ではなく排出障害として流涙を来すことを確認した。2023年7月25日最終更新。閲覧 2026-09-03