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Disease Atlas · 眼科 · 疾患

流行性角結膜炎

Epidemic keratoconjunctivitis

別名
EKCはやり目
臓器系
眼科感染症
科目
Medical Microbiology
トピック
微生物学 3/11:アデノウイルス微生物学 5/3:眼感染を起こす細菌とウイルス(一覧)とその診断
上位概念
結膜炎
鑑別疾患
咽頭結膜熱急性出血性結膜炎
原因微生物
ヒトアデノウイルス
症状
結膜充血流涙羞明眼痛眼瞼浮腫霧視視力低下点状表層角膜症リンパ節腫脹

🧠 全体像:は、のうち角膜まで侵す最重症型である。急性期の激しい充血・は2週間ほどで引くのに、そのあとから角膜にが湧いてきてが数か月続く——「治ったころに視力が落ちる」という時間差が本症の本質で、との最大の違いでもある。もう一つの核は伝播力で、眼科外来の検査器具・点眼瓶・手指を介した院内感染源になるため、診断がついた時点で治療より先に感染対策が動く。結膜炎一般の枠組みは結膜炎、ウイルス学はに譲り、ここでは血清型・角膜病変・感染対策だけを追う。

咽頭結膜熱との分かれ目

同じでも、ウイルスの種がどの組織に着地したかで病像が分かれる。この対比を先に置くと、以下の記述はすべてその系にぶら下がる。

項目
主な型 種Dの8・37・64型(⚠️ 64型は旧19a型で、古典的に挙げられる19型と同じウイルスである)に、の進歩で同定された53・54・56型が加わる1(古典的な記載は8・19・37型2) 3・4・7型2(種B・E)
全身症状 乏しい。眼に限局する 発熱・咽頭炎を伴う
角膜 を残す(本症の定義的所見) 通常は角膜を侵さない
好発年齢 成人を含む全年齢 小児が中心
典型的な流行の場 眼科外来・病棟・施設(器具と手指を介する) プール・学校・家庭
上の扱い 第三種3 第二種3

⭐ 「眼だけか、熱と喉が付くか」で振り分け、「角膜が濁るか」で確認する。 型を調べなくてもこの2問でほぼ分かれる。

経過:急性期と、そのあとに来る角膜病変

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='contact transmission'>接触感染</span><br>(手指・検査器具・点眼瓶・タオル)"] --> B["片眼から発症<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctival injection (hyperemia)'>結膜充血</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lacrimation'>流涙</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='eyelid edema (periorbital edema)'>眼瞼浮腫</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='foreign body sensation'>異物感</span>"]
    B --> C["数日で対側眼へ<br>(先発眼より軽いことが多い)"]
    B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='preauricular lymph node'>耳前リンパ節</span>の<br>圧痛を伴う腫脹"]
    B --> E["重症例では<span class='jp-term jp-term-diagram' title='conjunctiva'>結膜</span>に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pseudomembrane'>偽膜</span>が張る"]
    C --> F["急性期は10〜14日で軽快<br>この間は強い伝染性が続く"]
    F --> G["発症10〜14日ごろから<br>角膜に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='subepithelial infiltrate'>上皮下浸潤</span>が出現"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blurry vision'>霧視</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='photophobia'>羞明</span>が数か月<br>症例により数年遷延"]

💡 急性期の重さと、後から出る角膜病変の重さは別物。 患者が「もう治った」と感じたころにが始まるため、初診時にこの時間差をあらかじめ説明しておくと、再診の遅れと不要な不安を減らせる。

角膜病変:上皮下浸潤

とでのウイルス増殖がを作り、続いてが生じる2。に見える多発性ので、発症から10〜14日ごろに現れ、急性感染が消退したあとも数か月、症例によっては数年残存する1。

⭐ はウイルスそのものの破壊ではなく、宿主の免疫反応である。 ウイルスに感染したの線維芽細胞がを産生し、そこへリンパ球・単球およびマクロファージが集まってを作る1。抗ウイルス薬ではなくの対象になるのはこのためで、角膜炎一般の「病原体を叩く」発想をそのまま持ち込むとを誤る。

眼科外来が感染源になる

本症が結膜炎のなかで特別扱いされる最大の理由は、医療機関そのものが流行の起点になることにある。は大半の症例で10〜14日間強い伝染性を持ち2、はエンベロープを持たないため乾燥・アルコールに比較的強く環境中で長く生き残る(の項)。

  • のプローブ・の・診察台・ドアノブがになる
  • 多用途の点眼瓶を複数患者に使い回さない
  • はだけに頼らず、石鹸と流水による洗浄を基本に置く
  • 発症者は待合を分ける・診察を最後に回すなど、動線ごと分離する

診断

  • 臨床診断が基本。片眼発症→対側眼へ、、圧痛を伴うという組み合わせが揃えば十分に疑える
  • ()が外来で使える。陽性なら確定に近いが、陰性でも否定できない
  • は検出感度に優れ、集団発生の型別に用いる
  • でとの有無を確認する。があればを防ぐため除去を検討する

⚠️ があるからといって「重症の結膜炎」で片づけない。 前部ぶどう膜炎・・の除外は結膜炎の項の枠組みどおりに行う。本症で視力が下がるのは通常、がにかかったときである。

治療

に承認された抗ウイルス薬は存在しない1。したがって治療は対症療法と、に対するの2本立てになる。

場面 対応
急性期 ・などの対症療法と対策。は無効
を避けるため除去する
による 局所ステロイド。0.5%などが用いられる1
ステロイドを続けにくい例 点眼(1%・2%、0.09%製剤の使用例がある)21

⚠️ 局所ステロイドを急性期に安易に使わない。 ステロイドは症状を和らげる一方でウイルスの排出期間を延長させるため、によるまたは高度のがある例に限って用いる2。排出が延びれば、その分だけ患者が周囲へうつす期間も延びる。

⚠️ ステロイドを止めると浸潤がすることがある。 減量は緩徐に行い、漫然と続けないためにとを定期的に確認する。

学校・職場での取り扱い

日本ではが扱いを定めている。本症は第三種の感染症に掲げられ、の期間の基準は「病状により学校医その他のにおいて感染のおそれがないと認めるまで」である3。

⭐ 日数で決まる(第二種、主要症状が消退した後2日)と違い、本症はの判断で決まる3。「何日休めばよいか」を数字で答えられない疾患であることを、説明の最初に置いておく。

まとめ

  • は種D(8・37・64型=旧19a、および53・54・56型。古典的な記載は8・19・37型)による最重症型ので、角膜を侵す点がとの決定的な違いである。
  • 急性期は片眼発症→対側眼、、圧痛を伴うで、重症例ではが張る。
  • 発症10〜14日ごろからが出現し、が数か月から数年遷延する。実体は宿主の免疫反応であり、の対象になる。
  • 承認された抗ウイルス薬は無い。急性期は対症療法、には局所ステロイドや点眼を用いる。
  • 局所ステロイドは期間を延ばすため、適応を絞る。
  • 大半の症例で10〜14日間強い伝染性が続き、器具・点眼瓶・手指を介して眼科外来が流行の起点になる。と器具消毒が治療と同格の対策になる。
  • では第三種の感染症で、は「感染のおそれがないとが認めるまで」と、日数ではなく判断で決まる。

出典

  1. 1.Nummular Keratitis Following Epidemic Keratoconjunctivitis: A Guide to Managing Subepithelial Infiltrates(Cureus・2026)貨幣状の上皮下浸潤が症状発現から10〜14日で出現すること、初期の上皮性角膜炎は数日で消退するがその後により深い病変へ進む患者があること、浸潤は急性感染が消退したあとも数か月、症例によっては数年にわたり残存しうること、起因型としてヒトアデノウイルス種Dの8・37・53・54・64型が挙げられていること、浸潤の本体はウイルス感染により活性化した線維芽細胞が産生するインターロイキン8などの炎症性メディエーターに反応して集簇するリンパ球・単球およびマクロファージであること、治療としてロテプレドノール0.5%などの局所ステロイドと0.09%シクロスポリン点眼が用いられたこと、アデノウイルス角結膜炎に承認された抗ウイルス薬が存在しないことを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.Viral Conjunctivitis(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)流行性角結膜炎がアデノウイルスによる眼感染のうち最も重症の病型であり古典的に血清型8・19・37と関連づけられること、角膜上皮と前部実質でのウイルス増殖が点状表層角膜症と上皮下浸潤をもたらし視覚症状の原因になること、ウイルス性結膜炎の大半が10〜14日間強い伝染性を持つこと、局所ステロイドは症状の改善を助ける一方でウイルス排出期間を延長させうるため上皮下浸潤による視力低下または高度の結膜充血がある例に限って用いること、乳児のアデノウイルス結膜炎への2.5%ポビドンヨード単回投与が重篤な有害事象なく症状の重症度と回復までの期間を減らしたこと、1%および2%シクロスポリンA点眼が上皮下浸潤による視覚症状に有効と示されていること、咽頭結膜熱が小児においてヒトアデノウイルス3・4・7型により発熱・咽頭炎・耳前リンパ節腫脹を伴う急性濾胞性結膜炎として生じることを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.学校保健安全法施行規則(昭和三十三年文部省令第十八号)(デジタル庁 e-Gov法令検索(令和五年五月八日施行の現行版)・2023)第十八条第一項第三号が流行性角結膜炎および急性出血性結膜炎を第三種の感染症に掲げること、同項第二号が咽頭結膜熱を第二種の感染症に掲げること、第十九条第三号が結核・髄膜炎菌性髄膜炎および第三種の感染症について出席停止の期間の基準を「病状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで」と定めること、第十九条第二号トが咽頭結膜熱について「主要症状が消退した後二日を経過するまで」と定め、同号本文のただし書きが病状により学校医その他の医師が感染のおそれがないと認めたときはこの限りでないとすることを確認した。閲覧 2026-09-03