脳神経内科学

脳神経内科学 · G3-01

ウイルス感染による神経疾患

G3-01: Neurological disorders caused by viral infections

前提:病態
中枢神経系感染症(髄膜炎・脳炎)パピローマウイルスとポリオーマウイルス(BK・JC)ピコルナウイルス:ライノ・コクサッキー・エコー・エンテロウイルス
疾患
横断性脊髄炎急性散在性脳脊髄炎急性弛緩性脊髄炎急性脳症進行性多巣性白質脳症免疫再構築炎症症候群

🧠 全体像:ウイルスは神経組織への直接感染、潜伏再活性化、感染後免疫反応、免疫不全に伴う日和見感染を通じて、中枢神経・末梢神経・筋を障害する。急性脳炎では病原体確定を待たずを想定して静注アシクロビルを開始する。

病態の枠組み

flowchart TD
    A["ウイルス感染"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurotropism'>神経向性</span>ウイルスの直接侵入"]
    A --> C["潜伏後の再活性化"]
    A --> D["感染後の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune-mediated'>免疫介在性</span>障害"]
    A --> E["免疫不全での日和見感染"]
    B --> F["髄膜炎・脳炎・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='myelitis'>脊髄炎</span>"]
    C --> F
    D --> G["GBS・ADEM"]
    E --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='progressive multifocal leukoencephalopathy'>PML</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human immunodeficiency virus'>HIV</span>関連中枢神経疾患"]

ウイルス性脳炎

発熱、頭痛、意識・行動変化、痙攣、・麻痺などのを来す。は・辺縁系を侵しやすい。、、West Nileウイルス、ウイルス、、なども原因となる。

💡 (TBE)はヨーロッパ、特に中欧・東欧で流行する。 の高いオーストリアでは、ワクチン導入後40年間でのが導入前の約16%まで低下し、2000〜2011年だけで約4,000例が予防されたと推定される。ハイカーや屋外活動従事者にはワクチン接種が推奨される1。

⚠️ は発症後ほぼ確実に致死的である。 生存例のほとんどはワクチンによる曝露後予防を受けており、2004年に薬物誘発性昏睡を含む治療(いわゆるMilwaukeeプロトコル)で生存した1例が報告されたが、この転帰は治療自体よりも患者自身の免疫応答による可能性が高く、その後の多数例でこのプロトコルは死亡を防げず再現されなかった2。

評価 要点
より感度が高く、病変、視床・基底核、脳幹など分布が病因を示唆
髄液 細胞数・分画、蛋白、糖、培養、/ など
EEG の検出、脳機能障害の補助評価
病歴 免疫状態、旅行、蚊・動物曝露、発疹、ワクチン、薬剤

脳炎を疑えば静注アシクロビルを直ちに開始する。を除外できなければ抗菌薬も遅らせない。頭蓋内圧亢進やの所見がある場合のみ画像を先行し、のために治療を待たない。早期の は偽陰性となりうるため、疑いが強ければ治療を続けて再検する3。

💡 アシクロビル開始が2日遅れるだけで転帰が悪化する。 で脳炎と確定した成人93例のでは、6か月時点で35%が転帰不良(死亡15%・重度20%)となり、入院からアシクロビル開始までの遅れが2日を超えることがその独立した予測因子だった。早期投与の開始だけがな唯一の因子である4。

ウイルス性髄膜炎

発熱、頭痛、、悪心、を呈し、意識障害やが目立てば脳炎を考える。が多く、、、なども原因となる。

髄液は一般にリンパ球優位細胞増加、軽度蛋白上昇、正常糖を示すが、病初期には、や一部ウイルスでは低糖となりうる。多くは支持療法だが、・など病原体と重症度に応じて抗ウイルス薬を用いる。

Guillain–Barré症候群

Guillain–Barré症候群は感染後免疫反応による急性多発根で、進行性の左右対称性筋力低下と・消失を示す。Campylobacterが代表的だが、、、Zika、なども関連する。

  • で脱髄性または軸索性障害を評価する。
  • 髄液のは病初期にはみられないことがある。
  • 、嚥下・咳嗽、自律神経変動を反復評価する。
  • または進行例ではまたはを行う。両者の単純併用は行わず、ステロイド単独は有効でない。

急性散在性脳脊髄炎

は、多くが感染後に発症するので、小児に多い。脳症に多巣性神経症状を伴い、で広範な白質・深部灰白質病変を示す。高用量副腎皮質ステロイドを第一選択とし、重症・難治例では免疫グロブリンまたはを専門的に検討する。

💡 は同じ「感染後の遅発性神経障害」でも別の機序を起こす。 ADEMがの脱髄であるのに対し、(SSPE)は変異したのによる進行性脳炎である。カリフォルニアの症例集積では、麻疹罹患からSSPE発症までの潜伏期は中央値9.5年(2.5〜34年)で、17例中12例(71%)が生後15か月未満での麻疹罹患歴を持ち、乳児期の罹患がSSPEの高いリスクと関連していた5。

ポリオと急性弛緩性麻痺

は前角運動ニューロンを障害し、感覚を保った非対称性を来す。便・咽頭検体によるウイルス検査を行い、治療は呼吸管理とリハビリテーションを含む支持療法である。予防の中心はワクチンである。類似像では、GBS、を鑑別する。

💡 のは血清型ごとに進んでいる。 2型は1999年以降検出がなく2015年に、3型は2012年の症例を最後に2019年に認定された。2026年時点では1型のみアフガニスタン・パキスタンに常在流行する一方、循環型ワクチン由来(cVDPV)の流行は続いている6。

⚠️ (AFM)はD68と関連づけられている。 2014年以降の複数国での流行では、D68の流行時期とAFM症例増加が時間的・地理的に一致し、Bradford Hill基準による評価でもを支持する証拠とされるが、髄液・中枢神経組織からの直接分離という決定的証拠は依然として限られる7。

PMLとHIV関連神経疾患

()はJCウイルス再活性化による感染で、、、免疫抑制治療などを背景に亜急性の認知、視覚、運動、失調を来す。

💡 治療薬はリスクをJCウイルス抗体・投与期間・使用歴で層別化する。 投与を受けた患者99,571212人(1000人あたり2.1人)がを発症した調査では、抗JCウイルス抗体陰性なら発症率は1000人あたり0.09人以下にとどまる一方、抗体陽性・の使用歴あり・投与25〜48か月の3条件が重なると1000人あたり11.1人まで上昇した8。

は非対称性を示し、通常は造影・浮腫・が乏しいが、では出現しうる。髄液JCV が陰性でも疑いが強ければ再検やを検討する。特異的抗ウイルス薬は確立せず、回復が中心である。

では関連、末梢に加え、、、、、原発性中枢神経リンパ腫などを鑑別する。と病因別治療を行う。

まとめ

  • ウイルス神経障害は直接感染、再活性化、感染後免疫、日和見感染で整理する。
  • 脳炎疑いでは検査結果を待たず静注アシクロビルを開始する。
  • GBSは呼吸・自律神経を監視し、またはで治療する。
  • と関連では免疫状態と日和見感染を同時に評価する。

出典

  1. 1.Vaccination and tick-borne encephalitis, central Europe(Emerging Infectious Diseases(Heinz FX, et al.)・2013)接種率の高いオーストリアで40年間の罹病率を比較すると、ダニ媒介性脳炎の罹病率が接種前時代の約16%まで低下したこと、罹病率の低下が全年齢層でみられたこと、2000〜2011年のオーストリアで約4,000例のダニ媒介性脳炎が予防されたと推定されること。中欧の疾患であり、ワクチンが存在すること。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Current and future approaches to the therapy of human rabies(Antiviral Research・2013)発症した狂犬病は伝統的に一様に致死的とされ、生存例のほとんどはワクチンによる曝露後予防を受けていたこと。2004年のミルウォーキーの症例で薬物誘発性昏睡を含む治療(いわゆるMilwaukeeプロトコル)後に生存したが、この転帰はワクチン非接種でも入院時点で抗狂犬病ウイルス抗体が検出されていたことなど患者自身の免疫応答による可能性が高く、その後の多数の症例でMilwaukeeプロトコルは死亡を防げず再現されなかったため、この方法の使用は中止すべきであること。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Herpes Simplex Encephalitis(StatPearls・2024)HSV脳炎は画像・髄液所見・脳波所見から疑った時点で確定診断を待たず静注アシクロビルを開始すべきであり、発症3日以内に採取した髄液HSV PCRは陰性でも偽陰性がありうること。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Outcome of and prognostic factors for herpes simplex encephalitis in adult patients: results of a multicenter study(Clinical Infectious Diseases・2002)PCRでHSV脳炎と確定した成人93例の多施設後ろ向き研究で、6か月時点の転帰不良(死亡13例・重度後遺症17例)が85例中30例(35%)にみられ、多変量解析で入院からアシクロビル開始までの遅れが2日を超えることが転帰不良の独立した予測因子だった(もう一つはSAPS IIスコア27以上)こと。早期のアシクロビル投与開始のみが転帰を改善しうる唯一の修正可能な因子だったこと。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Subacute Sclerosing Panencephalitis: The Devastating Measles Complication That Might Be More Common Than Previously Estimated(Clinical Infectious Diseases・2017)カリフォルニア州1998〜2015年の亜急性硬化性全脳炎17例では、診断時年齢の中央値は12歳(3〜35歳)、麻疹罹患からの潜伏期は中央値9.5年(2.5〜34年)、12例(71%)は生後15か月未満での麻疹罹患歴があったこと。1988〜1991年に報告された麻疹症例あたりの発症率は5歳未満で1:1367、罹患時1歳未満では1:609であり、乳児期の罹患がSSPEの高いリスクと関連すること。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Statement of the Forty-fourth Meeting of the Polio IHR Emergency Committee(World Health Organization・2026)2026年時点で野生株ポリオウイルスは1型のみアフガニスタン・パキスタンに常在流行し、2型(1999年以降未検出、2015年根絶認定)・3型(2012年11月のナイジェリアの症例が最後、2019年根絶認定)は根絶済みである一方、循環型ワクチン由来ポリオウイルス(cVDPV)の流行が続いていること。閲覧 2026-08-27
  7. 7.Enterovirus D68 and acute flaccid myelitis—evaluating the evidence for causality(The Lancet Infectious Diseases・2018)2014年以降、米国その他複数国でエンテロウイルスD68(EV-D68)の流行時期と小児の急性弛緩性脊髄炎(AFM)症例増加が時間的・地理的に一致しており、Bradford Hill基準による評価でも因果関係を支持する証拠とされるが、髄液・中枢神経組織からの直接分離という決定的証拠は依然として限られること。閲覧 2026-08-27
  8. 8.Risk of natalizumab-associated progressive multifocal leukoencephalopathy(New England Journal of Medicine・2012)ナタリズマブ投与を受けた多発性硬化症患者99,571人中212人が進行性多巣性白質脳症を発症した(1000人あたり2.1人)。抗JCウイルス抗体陰性なら発症率は1000人あたり0.09人以下にとどまる一方、抗体陽性・免疫抑制薬の使用歴あり・投与25〜48か月の3条件が重なると1000人あたり11.1人(95%CI 8.3〜14.5)に達すること。閲覧 2026-08-27