微生物学

微生物学 · 3/18

パピローマウイルスとポリオーマウイルス(BK・JC)

Papilloma and Polyomaviruses (BK, JC)

応用トピック
ヒトパピローマウイルス関連疾患と治療性器疣贅(尖圭コンジローマ)皮膚有棘細胞癌皮膚上皮内悪性腫瘍ウイルス感染による神経疾患子宮頸癌の病因と前癌病変頭頸部癌の疫学・病因・組織・病期・症状・診断子宮頸癌の疫学・病因・組織・病期・症状・診断外陰・腟・卵巣腫瘍の疫学・病因・組織・病期・症状・診断陰茎・精巣・腎腫瘍の疫学・病因・組織・病期・症状・診断喉頭の変性疾患・良性腫瘍、喉頭浮腫、遺伝性血管性浮腫中咽頭悪性腫瘍におけるヒトパピローマウイルスの役割
微生物
Beta human papillomavirusBK polyomavirusHPV 1, 2, 3, 4HPV 16, 18, 31, 33, 58HPV 6, 11JC polyomavirusMerkel cell polyomavirus
疾患
メルケル細胞癌進行性多巣性白質脳症反復性呼吸器乳頭腫症

🧠 とBK/JCは、同じ「・裸・」という最小構成を持ちながら(かつて同じPapovaviridae科にまとめられていた縁戚関係)、感染後の“物語”は正反対に分岐する。 は表皮の基底層に居座り、E6/E7という2つのウイルス性発がんタンパクでp53とRbという細胞周期の2大ブレーキを同時に外し、疣贅から発がんへ向かう「上皮に住み着く物語」。一方BK/JCは腎臓・中枢神経に潜伏し、免疫が健常な間は完全に沈黙し、免疫が落ちた瞬間だけ牙を剥く「潜伏・再活性化の物語」——同じ設計図でも「常に居座って形質転換を狙うか」「免疫不全の隙だけを突くか」で運命が分かれる。

HPV:構造・分類

項目 内容
genome (circular dsDNA)
capsid naked(エンベロープなし)、()
血清型 75種類以上。うち6血清型(6・11・16・18・31・33)が代表的な臨床像に関連する(現在はL1遺伝子配列で定義される「」として200型以上が登録されており、講義で言う「血清型」は実際には遺伝子型を指す)
リザーバー ヒトの皮膚・性器

HPV:伝播・病原機序

  • 直接接触、性的接触——分娩時に産道を介して児に感染することもある

  • 皮膚・粘膜のに感染し、細胞が表層へ成熟するのに伴ってウイルスも成熟する

  • ウイルスは基底層に持続的に潜伏し、免疫系から隠れ続ける

💡 基底層に隠れることが、慢性・再発性の病変の理由になる。 は分化の終わった表層細胞ではなく、を持つ基底層の細胞に感染して居座るため、免疫が病変を完全に排除しにくく、疣贅の再発やが起こりやすい。

HPV:低リスク群パピローマウイルス

血清型 疾患 特徴
1〜4 (hyperkeratosis:基底層・の増殖)により疣贅を形成。(common warts、血清型2・4)は手指に好発。(plantar warts、血清型1)は足底に好発し、より深く疼痛を伴う
6・11 (肛門) 性活動のある成人にみられる。肛門の90%以上がこの2血清型による
6・11 () 乳児に発症(分娩時のによる)

低リスク群の代表血清型はHPV 1〜4、 6・11を参照。

HPV:高リスク群パピローマウイルス

  • 血清型16・18・31・33(高リスク群)は、子宮頸部(=, cervical intraepithelial neoplasia)・・腟・陰茎・肛門・口腔・咽頭にを形成する

  • いずれもを伴い、癌へ進展しうる

  • 免疫抑制状態では関連癌のリスクが上昇し、指標疾患の一つに数えられる

💡 関連癌の重心は子宮頸部からへも広がっている。 米国SEERの271例では、陽性率が1984〜1989年の16.3%から2000〜2004年の71.7%へ上昇し、陽性の人口レベルは1988〜2004年に225%増加(10万人あたり0.8→2.6)した一方、陰性例は50%減少した1。陽性は生存期間中央値131か月と陰性例の20か月より予後が良い——「=」だけで理解を止めない。

高リスク群の代表血清型は 16・18・31・33を参照。

⭐ 発がん機序:E6とE7という2つのウイルスタンパク。 はE6・E7というタンパクを産生し、これが発がんリスクを高める。

  • E6:腫瘍p53を阻害する(からS期への移行を止める働きを妨げる)
  • E7:腫瘍Rb(, Retinoblastoma protein)を阻害する

ウイルス発がんのは3/5を参照。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human papillomavirus'>HPV</span>感染<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal cell layer'>基底細胞層</span>)"] --> B["基底層に<span class='jp-term jp-term-diagram' title='persistent infection'>持続感染</span><br>免疫から隠れる"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='low-risk HPV'>低リスク型</span><br>(1-4, 6, 11)"]
  B --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='high-risk HPV'>高リスク型</span><br>(16, 18, 31, 33)"]
  C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperkeratosis'>過角化</span>→疣贅・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='condyloma acuminatum'>尖圭コンジローマ</span>"]
  D --> F["E6がp53を阻害<br>E7がRbを阻害"]
  F --> G["細胞周期の制御喪失"]
  G --> H["異形成→癌化"]

HPV:診断

検査 所見
臨床診断 など
Pap smear(スクリーニング) ——核が腫大しした細胞
診断確定と血清型の同定

HPV:治療・予防

  • 疣贅:、、化学的手段()

  • :——を誘導する

  • :——

  • アシクロビルを含む同系統薬——ポリメラーゼを阻害する

  • ——に対する選択肢として試験段階

  • 予防: からなる不活化サブユニットの組換えワクチン。血清型6・11・16・18に対する“”、9血清型(31・33を含む)に対する“9(Gardasil 9)”がある——義務・としての位置づけは3/9・3/10を参照

⭐ ワクチンは「が減る」段階を越えて「浸潤そのものが減る」ことが実証された。 スウェーデンの10〜30歳女性1,672,983人を追跡した全国で、4価ワクチン接種群の浸潤は10万人あたり47例、未接種群は94例、全共変量調整後の比は17歳未満で接種した女性で0.12(95%CI 0.00-0.34)、17〜30歳で接種した女性で0.47だった2——接種年齢が早いほど効果が大きいことが数字で出ている。

💡 接種回数は3回→2回→1回と減ってきている。 ケニアの15〜20歳女性2,275人の無作為化試験(KEN SHE)で、単回接種の9価・2価ワクチンのHPV16/18に対する有効率はいずれも97.5%(95%CI 81.7-99.7)、9価の7つの型に対しては88.9%だった3。この種の証拠をもとには2022年12月の見解表明で9〜20歳への1回接種スケジュールを容認した(各国のが実際に何回かは国ごとに違うので、どの国のスケジュールの話かを確認する)。

BK・JCポリオーマウイルス:構造・分類

項目 内容
genome (circular dsDNA)
capsid naked、
性質 潜伏感染を確立する
リザーバー ヒト呼吸器(ほぼ全人類に普遍的)

BK・JC:伝播・病原機序

  • 飛沫感染(唾液を介し、水を汚染することもある)

  • 扁桃・リンパ球に感染 → ウイルス血症により腎臓へ拡散 → を経て、免疫が健常なら潜伏、免疫不全なら再活性化する

    • JCウイルス:腎臓・B細胞・単球に潜伏感染を確立——JC virus
    • :腎臓のみに潜伏感染を確立——BK virus
flowchart TD
  A["BK/JCウイルス吸入<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='respiratory droplets'>飛沫</span>・唾液)"] --> B["扁桃・リンパ球に感染"]
  B --> C["ウイルス血症→腎臓へ拡散"]
  C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='secondary viremia'>二次ウイルス血症</span>"]
  D --> E{"宿主の免疫状態"}
  E -->|"免疫健常"| F["潜伏感染のまま静止<br>(腎臓、JCはB細胞・単球にも)"]
  E -->|"免疫不全"| G["再活性化"]
  G --> H["JC:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oligodendrocyte'>乏突起膠細胞</span>感染→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='progressive multifocal leukoencephalopathy'>PML</span>"]
  G --> I["BK:腎症・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hemorrhagic cystitis'>出血性膀胱炎</span>"]

臨床像

項目 JCウイルス
潜伏部位 腎臓・B細胞・単球 腎臓
主な疾患 () 腎症、

進行性多巣性白質脳症——JCウイルス

  • に感染し、中枢神経系全体に脱髄を起こす

  • 主に免疫不全患者に発症する

⚠️ 現代のはよりも「薬」で起こることが増えている。 (α4-integrin阻害)・リツキシマブなどのによる医原性の免疫不全が主要な背景になった。では抗JCV抗体の陰陽だけでなくでリスクを層別化する——患者71例と非の抗体陽性患者2,522例の比較で、の使用歴がない患者ではindex分布が群で有意に高く(p<0.0001)、ベースラインで抗体陰性だった患者の97%は18か月にわたり陰性またはindex 1.5未満にとどまった4。

⚠️ 「造影されない」と断定しない。 関連では、が出た時点の初回で41%(7/17例)にが認められた。病変は3 cm超・皮質下優位で、T2/高信号・・高信号を示し、灰白質側の境界が明瞭で白質側が不明瞭という特徴を持つ。の有無はむしろの手がかりとして使われている5。

  • 神経症状:・・が出現し、その後に進行、最終的に死亡しうる

BKウイルスによる腎症

  • 腎臓の潜伏感染の再活性化による

  • 特に腎移植・多臓器移植患者、免疫不全患者に発症する

  • ・間質性腎炎を伴う

⭐ は「発症してから治す」のではなく「血中量で先回りする」病気。 米国移植学会()のガイドラインは、腎移植全例に移植後9か月まで毎月、その後2年まで3か月ごとの血漿量スクリーニングを求め、血漿1000コピー/mL超が3週間持続または10,000コピー/mL超へ上昇した時点で免疫抑制の段階的減量を推奨する6。生検で確定したでも第一の介入は同じく免疫抑制の減量で、・・・への切り替えを一般に推奨できる無作為化試験は無く、フルオロキノロンは予防・治療のいずれにも推奨されない。

出血性膀胱炎——BKウイルス

  • 特に患者に発症する

  • 血尿を呈する

  • による(血清型11・21、5〜15歳の男児に好発)とは対象患者層が異なる点で鑑別する

💡 にはもう一つ、「潜伏・再活性化」ではなく「発がん」の物語を持つ仲間がいる。 は健常皮膚にありふれただが、まれにウイルスゲノムが宿主染色体へモノクローナルに組み込まれる——2008年にから同定されたときも、腫瘍の8割でウイルスが検出され、しかも組み込みが腫瘍の拡大より前に起きていた(クローナルな組み込み)ことが示された7。は高齢者の位に好発するで、症例の約8割がこのウイルス陽性型である。

診断

  • 血清学: ELISA

  • (=脳脊髄液, cerebrospinal fluid): ウイルスの増幅検出(の診断に用いる)

  • (, magnetic resonance imaging)/(コンピュータ断層撮影, computed tomography): の描出

治療

  • 支持療法のみ——有効な特異的抗ウイルス薬はない

💡 免疫不全が背景にある病態(・)では、可能な限り免疫抑制の軽減が治療の中心となる——特異的な抗ウイルス薬が存在しないため、根本原因である免疫状態の是正が最も現実的な介入になる。

まとめ

  • とBK/JCはいずれも環状dsDNA・裸・という共通構造を持つが、は上皮基底層へのと発がん、BK/JCは腎臓・中枢神経への潜伏と免疫不全時の再活性化という対照的な病態を示す。

  • は低リスク群(1〜4:、6・11:・)と高リスク群(16・18・31・33:→癌)に分かれ、高リスク群はE6(p53阻害)・E7(Rb阻害)により発がんする。

  • の診断はPap smearのと、予防は/9(ワクチン)。

  • JCウイルスは腎臓・B細胞・単球に潜伏し、免疫不全時にを破壊してを起こす——脱髄と、に乏しいが特徴である。ただし関連では初回の約4割にがみられるため「造影されない」と断定しない5。

  • は腎臓のみに潜伏し、移植患者で腎症(・間質性腎炎)や(患者)を起こす——性とは対象患者層で鑑別する。

  • BK/JC感染の治療は支持療法のみで、免疫抑制の軽減が現実的な介入の中心となる。

出典

  1. 1.Human papillomavirus and rising oropharyngeal cancer incidence in the United States(Journal of Clinical Oncology(Chaturvedi AK, et al.)・2011)米国SEER登録の中咽頭癌271例で、HPV陽性率が1984-1989年の16.3%から2000-2004年の71.7%へ上昇したこと、HPV陽性中咽頭癌の人口レベル罹患率が1988-2004年に225%増加(10万人あたり0.8→2.6)した一方でHPV陰性例は50%減少したこと、HPV陽性例の生存期間中央値が131か月とHPV陰性例の20か月より有意に長かったこと閲覧 2026-08-26
  2. 2.HPV Vaccination and the Risk of Invasive Cervical Cancer(New England Journal of Medicine(Lei J, et al.)・2020)スウェーデンの10〜30歳女性1,672,983人を2006〜2017年に追跡した全国登録研究で、4価HPVワクチン接種群の浸潤子宮頸癌の累積罹患率は10万人あたり47例、未接種群は94例であり、全共変量調整後の罹患率比は17歳未満で接種した女性で0.12(95%CI 0.00-0.34)、17〜30歳で接種した女性で0.47(95%CI 0.27-0.75)だったこと——前癌病変の代替指標ではなく浸潤癌そのものの減少を人口レベルで示したこと閲覧 2026-08-26
  3. 3.Efficacy of single-dose HPV vaccination among young African women(NEJM Evidence(Barnabas RV, et al.)・2022)ケニアの15〜20歳女性2,275人を対象とした無作為化二重盲検試験(KEN SHE)で、単回接種の9価・2価HPVワクチンのHPV16/18持続感染に対する有効率がいずれも97.5%(95%CI 81.7-99.7/81.6-99.7)、9価の7つの発癌性型(16/18/31/33/45/52/58)に対する有効率が88.9%(95%CI 68.5-96.1)だったこと——18か月時点で複数回接種と同等の防御を示し、WHOが2022年12月に9〜20歳への1回接種スケジュールを容認する根拠の一つとなったこと閲覧 2026-08-26
  4. 4.Anti-JC virus antibody levels in serum or plasma further define risk of natalizumab-associated progressive multifocal leukoencephalopathy(Annals of Neurology(Plavina T, et al.)・2014)ナタリズマブ関連PML患者71例と非PMLの抗JCV抗体陽性患者2,522例の比較で、免疫抑制薬の使用歴がない患者では抗JCV抗体index分布がPML群で有意に高かったこと(p<0.0001)、AFFIRM/STRATIFY-1で抗体陰性だった患者の97%が18か月にわたり陰性またはindex 1.5未満にとどまったこと——抗体の陰陽だけでなくindexによるPMLリスク層別化の根拠になったこと閲覧 2026-08-26
  5. 5.Magnetic resonance imaging pattern in natalizumab-associated progressive multifocal leukoencephalopathy(Annals of Neurology(Yousry TA, et al.)・2012)Consensus の全文抜粋で抄録を確認した。市販後にPMLと診断されたナタリズマブ投与中の多発性硬化症患者のうち登録基準を満たした22例(10例は免疫再構築炎症症候群を臨床的に併発)のMRIを5人の読影者が判定したもの。早期の画像で最も多い所見は3 cm超(15/18)・皮質下(18/18)・T2またはFLAIR高信号(18/18)・T1低信号(17/18)・拡散強調像で高信号(15/15)の病変で、T2強調像で灰白質側の境界は明瞭・白質側の境界は不明瞭であった(18/18)。⚠️ **臨床症状が出た時点の初回撮像で41%(7/17)に造影効果を検出**しており、著者らは造影効果の存在と皮質下優位の分布がスクリーニングと早期診断に有用としている——ナタリズマブ関連PMLでは「造影されない」と決めつけられない。閲覧 2026-09-27
  6. 6.BK polyomavirus in solid organ transplantation-Guidelines from the American Society of Transplantation Infectious Diseases Community of Practice(Clinical Transplantation(American Society of Transplantation Infectious Diseases Community of Practice)・2019)腎移植レシピエント全例に移植後9か月まで毎月、その後2年まで3か月ごとの血漿BKウイルスDNA量スクリーニングを推奨すること、血漿1000コピー/mL超が3週間持続、または10,000コピー/mL超へ上昇した場合に免疫抑制の段階的減量を推奨すること、生検で確定したBK腎症でも第一の介入は免疫抑制の減量であること、シドフォビル・レフルノミド・IVIG・mTOR阻害薬への切り替えを一般的に推奨できる無作為化試験は存在しないこと、フルオロキノロンは予防・治療のいずれにも推奨されないこと閲覧 2026-08-26
  7. 7.Clonal integration of a polyomavirus in human Merkel cell carcinoma(Science(Feng H, Shuda M, Chang Y, Moore PS)・2008)メルケル細胞癌からメルケル細胞ポリオーマウイルスが同定され、腫瘍組織の8割でウイルスDNAが検出されたこと、腫瘍内でウイルスゲノムが宿主染色体へモノクローナルに組み込まれていた(=腫瘍が拡大する前に組み込みが起きた)ことを示した原著閲覧 2026-08-26