疾患ノート一覧へ

Disease Atlas · 皮膚 · 疾患

Eczema coxsackium

Eczema coxsackium

別名
eczema coxsackiumエクゼマ・コクサッキウム
臓器系
皮膚感染症小児
科目
DermatologyMedical Microbiology
トピック
皮膚科 1-06:アトピー性皮膚炎微生物学 3/30:ピコルナウイルス:ライノ・コクサッキー・エコー・エンテロウイルス微生物学 5/25:発疹(皮疹)を特徴とする小児感染症
鑑別疾患
カポジ水痘様発疹症ジアノッティ・クロスティ症候群細菌性皮膚感染症(伝染性膿痂疹・毛包炎・せつ・よう)水痘・帯状疱疹
原因微生物
Enterovirus A, B, C, D
症状
小水疱水疱びらん・潰瘍発熱落屑爪甲脱落症
元疾患
アトピー性皮膚炎

🧠 全体像:は、で壊れた皮膚に(主にA6)が播種する、の非典型型である。「湿疹の場所にウイルスが乗る」という成り立ちはとそっくりで、実際に取り違えられる。⚠️ しかしは正反対である——は全身性抗ウイルス薬を待たずに始める救急、は支持療法だけで自然軽快する。「どちらか分からないうちはとして動く」という非対称な安全側の判断が、この2疾患を並べて学ぶ理由である。爪の脱落や手掌・足底のが数週遅れて出るのも特徴で、皮疹が治ったあとに保護者が驚いて再受診することがある。

位置づけ

の原因はA16やが古典的だが、2011〜2012年の北米での流行ではが、より広範囲で重い皮疹を起こす型として認識された1。はその皮疹型の一つで、皮疹がの現病変または既往病変の部位に集中するものを指す1。

💡 「湿疹の地図に沿ってウイルスが広がる」という一点で理解する。 が壊れた場所はウイルスにとって侵入・増殖しやすく、でが起こしていることを、が起こしているだけである。だから分布は同じで、原因ウイルスとだけが違う。

なお本症には和名が定着していない。

疫学

7施設で診療された小児80例(うち17例はをで確認)のでは、年齢中央値1.5歳(4か月〜16歳)、79例中49例(62%)に既存の皮膚疾患があり、そのうち40例(82%)がの既往を持っていた1。は5歳以下に多いが成人も感染し、19〜47歳の集団発生も報告されている2。

病態

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='atopic dermatitis, AD'>アトピー性皮膚炎</span>による<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='stratum corneum barrier'>角層バリア</span>の破綻"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='coxsackievirus A6'>コクサッキーウイルスA6</span>が<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='fecal-oral'>糞口</span>・接触経路で感染"]
    B --> C["ウイルス血症を経て皮膚へ到達"]
    C --> D["バリアの壊れた湿疹部位で<br>優先的に増殖する"]
    D --> E["水疱・びらんが<br>湿疹の分布に一致して出現"]
    C --> F["古典的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hand, foot, and mouth disease'>手足口病</span>の分布<br>(手掌・足底・口腔)"]
    C --> G["口囲・四肢・体幹・臀部への<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='non-conventional'>非典型的</span>な広がり"]
    E --> H["1〜3週後:手掌・足底の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='desquamation'>落屑</span>"]
    E --> I["4〜6週後:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nail plate'>爪甲</span>の脱落"]

臨床像

皮疹の型 頻度 特徴
水疱・びらん性 80例中79例(99%) ほぼ全例に共通する基本形1
湿疹部位への集中(本症の定義) 80例中44例(55%) 現在または過去のの部位にびらん・水疱が集中する1
様 76例中28例(37%) ・の丘疹性皮疹1
紫斑・点状出血性 78例中13例(17%) 血管炎と紛らわしい1

分布は古典的なの領域(手掌・足底・口腔)に加えて、口囲・四肢・体幹・臀部・へ広がる2。

遅発性の所見

⭐ 皮疹が治ったあとに出る所見こそが、後から診断を裏づける。

💡 爪の脱落は「新しい病気」ではない。 感染時にウイルスがの増殖を一時的に止めた痕が、爪の伸長に従って数週遅れて現れる。予後は良好で自然に生え替わるため、この時期の再受診では説明だけで足りる。

⚠️ カポジ水痘様発疹症との鑑別

⚠️ この2疾患の見分けは、とが正反対であるがゆえに最重要である。

項目
原因 (主にA6) (主に)
分布 湿疹部位に集中するが、手掌・足底・口腔・口囲・臀部にも及ぶ12 既存の湿疹の範囲に一致して急速に拡大する
皮疹 水疱・びらんに加え、丘疹性・など多彩1 の小水疱と
全身合併症 80例中0例。重篤な全身合併症を来さなかった1 敗血症・・臓器播種。アシクロビル導入前の致死率は10〜50%と報告された3
治療 支持療法のみで自然軽快する 全身性アシクロビルまたはを直ちに開始する3
外来で経過観察できる 救急。検査結果を待たずに治療を開始する

⚠️ 判断に迷う段階では、として動く。 見落としたときの損害が非対称だからである——抗ウイルス薬を要らない患者に投与しても大きな害はないが、要る患者で開始が遅れれば失明・敗血症・まれに死亡につながる3。はこの鑑別に「もう一つの答え」を加えるものであって、抗ウイルス薬の開始を遅らせる理由にはしない。

その他の鑑別

疾患 見分けの手がかり
蜜色の痂皮が主体。培養でブドウ球菌・レンサ球菌が検出される1
水痘 丘疹・水疱・痂皮が同時に混在する。湿疹部位への集中はない。発端例が当初水痘と疑われた報告がある2
血管炎・ 紫斑型・水疱型の皮疹が紛らわしい。経過が自然軽快するかどうかで分かれる1

診断

  • 臨床診断が基本である。流行状況・年齢・湿疹の分布・手掌足底や口腔の病変を合わせて判断する。
  • ⚠️ 感染を除外することが検査の主目的になる。 なからのでを検索し、陰性であればの可能性が高まる。結果を待つ間に抗ウイルス薬を開始することを妨げない。
  • の確定にはとを要するが2、を変えないため日常診療で必須ではない。
  • 続発する細菌感染を疑えば細菌培養を追加する。

治療・経過

⚠️ 抗ウイルス薬は不要である。 治療は支持療法(・保湿とスキンケア・脱水の予防・の監視)に尽きる2。

(初発症状から皮疹と全症状の消退まで)は、経過を追えた39例で3〜35日(平均12.2日)であった。80例に重篤な全身合併症は生じなかった1。との脱落は数週遅れて現れるが、いずれも自然に回復する。基礎にあるの治療は、急性期を過ぎてから通常どおり再開する。

まとめ

  • は、の湿疹部位に(主にA6)が播種するの非典型型で、2011〜2012年の北米流行を機に認識された。
  • 小児80例の検討では99%が水疱・びらん性皮疹を呈し、55%で皮疹が湿疹部位に集中した。既存の皮膚疾患を持つ患者の82%はであった。
  • 手掌・足底の(1〜3週後、52%)との脱落(4〜6週後、24%)が遅れて現れるが、いずれも自然に回復する。
  • ⚠️ 最重要はとの鑑別である。は全身性抗ウイルス薬を要する救急、本症は支持療法で自然軽快する——迷う段階ではとして動く。
  • 診断はが中心で、検査の主目的はの除外である。抗ウイルス薬は不要で、は経過を追えた39例で平均12日、重篤な全身合併症は報告されていない。

出典

  1. 1."Eczema Coxsackium" and Unusual Cutaneous Findings in an Enterovirus Outbreak(Pediatrics(Mathes EF, Oza V, Frieden IJ, et al.)・2013)2011年7月から2012年6月に7施設で診療した小児80例(うち17例はコクサッキーウイルスA6を塩基配列決定で確認)の後方視的症例集積で、方法の節で対象が0〜18歳であること、結果の節で年齢中央値が1.5歳(4か月〜16歳)であること、79例中49例(62%)に既存の皮膚疾患があり、そのうち40例(82%)がアトピー性皮膚炎の既往を持つこと、80例中79例(99%)が水疱・びらん性の皮疹を呈し、80例中44例(55%)で皮疹がアトピー性皮膚炎の現病変または既往病変の部位に集中する「eczema coxsackium」の分布を取ったこと、76例中28例(37%)がジアノッティ・クロスティ症候群様、78例中13例(17%)が紫斑・点状出血性の皮疹を呈したこと、追跡できた38例中9例(24%)に初診から4〜6週後の爪の変化がみられ、27例中14例(52%)に1〜3週後の手掌・足底の落屑がみられたこと、罹病期間(初発症状から皮疹と全症状の消退まで)が、経過を追えた39例で3〜35日(平均12.2日、標準偏差7.1)であったこと、重篤な全身合併症を来した患者がいなかったこと、考察の節でこの皮疹が伝染性膿痂疹・カポジ水痘様発疹症・血管炎・自己免疫性水疱症と混同されうることを確認した。閲覧 2026-08-20
  2. 2.Atypical Presentations of Hand, Foot, and Mouth Disease Caused by Coxsackievirus A6 — Minnesota, 2014(Morbidity and Mortality Weekly Report(Buttery VW, Kenyon C, Grunewald S, Oberste MS, Nix WA)・2015)本文の節で発端例が当初水痘を疑われたこと、確定診断がRT-PCRと部分塩基配列決定によりコクサッキーウイルスA6として得られたこと、罹患者が19〜47歳の大学関連集団であり手足口病が5歳以下に多いものの成人も感染しうること、皮疹が上肢・下肢・体幹・口囲・臀部・外陰部に及んだこと、1例で発症約1か月後に母指の爪が脱落したこと、合併症がなく全例が回復したこと、手足口病の大半が軽症で治療は支持療法であることを確認した。閲覧 2026-08-20
  3. 3.Eczema Herpeticum(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2024)治療の節でカポジ水痘様発疹症には全身性アシクロビルまたはバラシクロビルを速やかに開始すること、軽症では経口アシクロビル(成人400 mgを1日3回)またはバラシクロビル(成人500 mgを1日3回)を全病変が痂皮化するまで7〜21日投与し、重症・免疫不全例では静注アシクロビル5〜10 mg/kgを8時間ごとに投与すること、予後の節でアシクロビル導入前の致死率が10〜50%と報告され導入後に大きく低下したこと、鑑別診断の節にエクゼマ・コクサッキウムと手足口病が挙げられていることを確認した。閲覧 2026-08-20