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Disease Atlas · 神経 · 症候群

可逆性後頭葉白質脳症

Posterior reversible encephalopathy syndrome

別名
PRES可逆性後部白質脳症症候群
臓器系
神経
科目
Neurology
トピック
神経内科 G2-25:脳血管障害の分類神経内科 G3-14:脳症の分類神経内科 G2-27:若年成人の脳血管障害
合併症
虚血性脳卒中脳内出血
関連疾患
可逆性脳血管攣縮症候群
治療薬
ラベタロール
原因薬剤
タクロリムスシクロスポリンシスプラチンベバシズマブスニチニブ
症状
頭痛発作視力低下意識障害

🧠 全体像:PRESは、頭痛・発作意識障害という亜急性の脳症に、後頭・優位のを伴う臨床画像症候群である。核心は3つの落とし穴にある——①名前に反してに限局しない・脳幹・小脳にも及ぶ)、②可逆性は保証ではない(出血・梗塞を残し得る)、のしすぎがかえって害になるしているため、下げすぎれば虚血を起こす)。誘因はだけでなく、子癇・、自己免疫疾患と多彩である。とは病態のスペクトラムを共有する隣接疾患として役割を分ける。

病態:2つの仮説

flowchart TD
    A["誘因(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertensive emergency'>高血圧緊急症</span>・子癇・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='calcineurin inhibitor, CNI'>カルシニューリン阻害薬</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cytotoxic anticancer drug'>細胞傷害性抗癌薬</span>など)"] --> B{"2つの機序仮説"}
    B -->|"仮説①<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoregulatory capacity'>自動調節能</span>の破綻"| C["血圧が<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autoregulatory capacity'>自動調節能</span>の上限を超える"]
    C --> D["脳血管の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperperfusion'>過灌流</span>"]
    B -->|"仮説②<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial dysfunction'>内皮機能障害</span>"| E["循環毒素による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='endothelial injury'>内皮傷害</span>"]
    E --> D
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='increased vascular permeability'>血管透過性亢進</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Vasogenic Edema'>血管原性浮腫</span>"]
    F --> G["後頭・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='parietal lobe'>頭頂葉</span>優位の白質浮腫(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='frontal lobe'>前頭葉</span>・脳幹・小脳にも波及)"]
    G --> H["頭痛・発作・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='visual disturbance'>視覚障害</span>・意識障害"]

どちらの仮説も単独では全例を説明できない。 血圧がの上限を超えてを起こすという仮説が主流だが、PRES患者の約30%は血圧が正常〜軽度上昇にとどまる1。子癇・敗血症・化学療法関連のPRESは、循環内因性・外因性毒素によるという別の経路で説明されることが多い1

💡 後頭・優位になる理由は、の交感神経支配がより疎らなことにある。 は血管を収縮させて過剰なから血管を守る働きを持つため、支配密度が低いの血管はが乏しく、・浮腫が優先的に生じる1

誘因

分類 代表例
血圧関連 (発症時収縮期160〜190mmHgが典型)2
産科 子癇・
など(内皮を直接傷害する)
シスプラチン
自己免疫・
その他 腎疾患、敗血症、2

画像:「後頭葉」という名前に反して全脳に及びうる

古典像は左右対称の後頭・優位白質浮腫だが、分布はそこにとどまらない。 ・視床へ及ぶことはまれでなく、・小脳・脳幹にも波及しうる2。「に無いからPRESではない」という除外の仕方は誤りである。

⚠️ の解釈が予後を左右する。 典型的なで低〜等信号にとどまり、これが急性期と区別する手がかりになる。しかしPRESの一部ではを伴うが混在し、この所見は機能予後不良・不完全な可逆性と関連する2

血圧管理:下げすぎが害になる

⚠️ しているため、血圧を急激に下げるとが不足し虚血を招く。 収縮期160/拡張期110mmHgを超える場合にを行うが、目標は収縮期130〜150mmHg・拡張期80〜100mmHg程度にとどめ、最初の数時間で血圧の25%を超えて下げてはならない2。精密なを要する急性期には、など持続静注でできるを用いたICU管理が必要になることがある2。誘因薬剤()があれば中止・減量も並行する。

予後:可逆性は治療次第で完全ではない

早期に認識・治療されれば、症状は数日〜数か月で改善し予後は良好である2。しかし「可逆性」という名称を無条件の安心材料にしてはならない。

  • ⚠️ 全患者の約40%が痙攣重積・脳虚血・・頭蓋内圧亢進などの重篤な合併症でICU管理を要する1
  • は約17%に生じ、転帰不良と関連しやすい2。死亡例も報告されている——ある癌患者コホートでは死亡率19%が報告されたがPRESに直接起因する死亡は無かった一方、別の小児111例のレビューでは19例(17%)がPRES関連死であった。母集団が異なる別々の数値であり、両者を単純に一つの範囲として扱うべきではない1
  • 治療が遅れる、または脳浮腫が高度な例では、・出血という不可逆的を残しうる2。長期のてんかんなどが個々の症例で残存することもある1
  • 重症例では小脳の経孔ヘルニアという生命を脅かす合併症も報告されている2

可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)との役割分担

PRESとRCVSは、脳血管の調節障害というスペクトラムを共有する隣接疾患として位置づけられる。RCVSは「反復するの脳動脈攣縮」が主体で血管撮影所見(所見)が診断の軸になるのに対し、PRESは「亜急性の脳症と」が主体でMRIの浮腫パターンが診断の軸になる。両者は同一患者に併存することもあり、片方の診断がついても他方の可能性を消さない。

まとめ

  • PRESは・子癇・などを誘因とする、後頭・優位のを伴う亜である。
  • 病態はの破綻による説と説の2つが提唱され、の交感神経支配の疎らさが浮腫の分布を説明する。
  • 画像は「」という名前に反して・脳幹・小脳にも及びうる。での混在は予後不良のである。
  • 目標は収縮期130〜150mmHg程度にとどめ、血圧の25%を超えて急速に下げない。により下げすぎは虚血を招く。
  • 可逆性は治療次第で完全ではなく、約40%がICU管理を要し、約17%にを来す。出血・梗塞という不可逆的を残すこともある。
  • RCVSとはスペクトラムを共有する隣接疾患で、・血管撮影所見が軸のRCVSと、脳症・浮腫パターンが軸のPRESという役割分担で理解する。

出典

  1. 1.Posterior Reversible Encephalopathy Syndrome(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2026)PRESの主な誘因が高血圧緊急症(多くは収縮期160〜190mmHgで発症)、子癇・妊娠高血圧腎症、タクロリムス・シクロスポリンなどカルシニューリン阻害薬(内皮を直接傷害する)、シスプラチン・ゲムシタビンなど細胞傷害性抗癌薬、ベバシズマブ・スニチニブ・ソラフェニブ・パゾパニブなどの血管新生阻害薬、溶血性尿毒症症候群・血栓性血小板減少性紫斑病・全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、腎疾患・敗血症であること、画像は古典的に左右対称の後頭葉優位白質浮腫だが分水嶺領域・視床へ及び前頭葉・側頭葉・小脳・脳幹にも及びうること、拡散強調像は血管原性浮腫では低〜等信号だが一部で拡散制限(細胞傷害性浮腫)を伴い機能予後不良・不完全な可逆性と関連すること、降圧目標は血圧160/110mmHg超で収縮期130〜150mmHg・拡張期80〜100mmHgを目安としつつ最初の数時間で来院時血圧の25%を超えて下げるべきでないこと、精密な調整を要する急性期はニカルジピン・クレビジピン・ラベタロールなど滴定可能な静注降圧薬によるICU管理を要しうること、早期に認識・治療すれば数日〜数か月で症状が改善する良好な予後を辿るが遅延治療・高度な脳浮腫は不可逆的後遺症を残しうること、重症例では意識障害・脳虚血・約17%に頭蓋内出血を来しうること、小脳の経孔ヘルニアが重症例の生命を脅かす合併症となりうることを確認した閲覧 2026-08-12
  2. 2.Posterior reversible encephalopathy syndrome(Journal of Neurology(Fischer M, Schmutzhard E)・2017)PRESの病態に2つの仮説があること——①血圧が脳血流自動調節能の上限を超えて過灌流・血管漏出・血管原性浮腫を来すという仮説(ただし患者の約30%は血圧正常〜軽度上昇にとどまり普遍的説明にならない)、②循環内因性・外因性毒素による内皮機能障害が引き金になるという仮説(子癇・敗血症・化学療法関連PRESを説明する)——であること、後方循環は前方循環に比べ交感神経支配密度が低いため過剰な血管拡張・過灌流に抵抗できず後頭・頭頂葉優位の分布(約70%)になること、PRES全患者の約40%が痙攣重積・脳虚血・脳内出血・頭蓋内圧亢進などの重篤な合併症でICU管理を要すること、Singerらの癌患者コホートでは死亡率が19%と報告されたがPRESに直接起因する死亡は無かったこと、別の111例の小児血液疾患例のレビューでは19例(17%)がPRES関連死を遂げたこと(この2つは異なる集団の別々の数値である)、名称に反して長期のてんかんなど神経学的後遺症が症例により残存しうることを確認した閲覧 2026-08-12