皮膚科学

皮膚科学 · 2-11

細菌性腟症

Bacterial Vaginosis

前提:病態
ラクトバチルス属など常在菌叢嫌気性グラム陰性桿菌
微生物
Fannyhessea vaginaeGardnerella vaginalisMobiluncus
疾患
細菌性腟症
検査値
アミン試験クルー細胞腟グラム染色
スコア
Amsel基準

🧠 全体像:は、乳酸産生性が減少し、嫌気性菌主体の多菌種へ置換されるである1。強い炎症より、均一な分泌物とが前景に立つ。

病態とリスク

Gardnerella vaginalis、Prevotella、Mobiluncus、Fannyhessea vaginae(旧Atopobium vaginae)などが増加し、が上昇する。新規パートナー・複数の男性パートナー・女性パートナー、、不使用、抗体陽性と関連するが、単一の性感染症病原体の獲得によって起こるのかは分かっていない2。世界の女性の4人に1人が罹患する1。

💡 無症候例のほうが多い。 米国の全国代表サンプルでは、BVをもつ女性の大半が無症候だった2——だから「菌がいるか」ではなく「症状があるか」で治療を決める。

flowchart TD
  A["乳酸産生Lactobacillus優位"] --> B["腟内pHを酸性に維持"]
  C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='douching'>腟洗浄</span>・性的要因など"] --> D["Lactobacillus減少"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='polymicrobial anaerobes'>嫌気性多菌種</span><span class='jp-term jp-term-diagram' title='biofilm'>バイオフィルム</span>増加"]
  E --> F["pH上昇・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='volatile amine'>揮発性アミン</span>産生"]
  F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='grayish-white discharge'>灰白色分泌物</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fishy odor'>魚臭</span>"]

診断

の4項目中3項目以上で臨床診断する。2

  1. 腟壁を滑らかに覆う均一で薄い(乳状の)分泌物
  2. 鏡検でclue cell(細菌が密に付着した)を認める
  3. が4.5超
  4. 10% 添加の前後いずれかでの(=)

⚠️ 「clue cellが全上皮細胞の20%以上」という閾値は、 2021の基準の文言には含まれていない(全文検索で該当箇所は無い)2。検査室・教科書ではこの閾値が広く用いられており(→)、閾値そのものが誤りだという意味ではないが、の4項目として引くときに足さない。

⭐ はと比べて感度37〜70%・特異度94〜99%である2。💡 特異度が高く感度が低いので、陽性なら診断してよいが、陰性でも症状が続くなら別の検査へ進む。

によるが検査室の基準法で、0〜3が優位、4〜6が、7〜10がである。BV用のも利用できるが、⚠️ 無症候の女性での精度が十分に定義されていないため、症候性の女性に限って用いる。培養は G. vaginalis が特異的でないため診断法として推奨されない。2

💡 鏡検は鑑別も兼ねる。 標本では運動する原虫(→)、10% 標本(→標本)では菌糸・(→カンジダ症)を見る2。

治療

症状のある患者を治療する。2

推奨レジメン 用法
メトロニダゾール内服 500 mgを1日2回、7日間
メトロニダゾール0.75%腟ゲル 1(5 g)を腟内へ1日1回、5日間
クリンダマイシン2%腟 1(5 g)を就寝時に腟内へ、7日間

代替レジメンは、クリンダマイシン内服300 mgを1日2回7日間、クリンダマイシン100 mgを就寝時に3日間、2 gの単回投与、2 gを1日1回2日間、1 gを1日1回5日間の5つである2。⚠️ は「単回で済む第一選択」ではなく代替である——は高価であることと長期転帰のデータが乏しいことを理由に挙げている。と外用薬の有効性を直接比較したデータは無い。2

⭐ メトロニダゾール内服中にアルコールを控える必要はない。 2021は、を裏づける説得力のある証拠は無く(メトロニダゾールはを阻害しない)、メトロニダゾールまたはの服用中に飲酒を控えることは不要である、と明記している2。

⚠️ クリンダマイシンは油性基剤で、使用後5日間製・を弱めうる(クリンダマイシンも油性基剤で、治療後72時間以内は・ゴム製品を使わないことが推奨される)。治療中は性交を控えるか、を正しく継続して使う。はのリスクを上げうるうえ、治療や症状緩和の裏づけとなるデータも無い。2

妊娠中:症候性の妊婦は全員治療する(症候性BVは・早産・羊膜内感染・と関連する)。非妊婦の推奨レジメンに加え、代替のクリンダマイシン内服・も使える。⚠️ は妊娠中を避ける(動物データで中等度のリスク)。・単回投与の腟内製剤・750 mgはデータが不十分なため避ける。⚠️ 無症候の妊婦への一律スクリーニングは、早産リスクが高い群でも低い群でも推奨されない。2

BVと診断した女性は、を含む他の性感染症の検査を行う2。

再発とパートナー

再発は多く、推奨される治療を行っても3〜6か月で50%を超える1。症状が再発したら再評価し、同じ推奨レジメンの再投与でも、別の推奨レジメンへの変更でもよい。複数回再発する例では、0.75%メトロニダゾールゲルまたは750 mgメトロニダゾールを週2回、3か月超投与するで再発が減ると報告されている。⚠️ ただしこの効果はをやめると持続しない。2

2021年の指針は、女性の治療反応や・再発は男性パートナーの治療に影響されないとして、のルーチン治療を推奨していない2。

2025年のStepUp試験(オーストラリア、)がここを動かした。女性への標準治療に加えて男性パートナーに経口メトロニダゾール400 mg錠と2%クリンダマイシンの陰茎皮膚塗布を、いずれも1日2回7日間行うと、12週以内の再発が35%(69例中24例)対63%(68例中43例)( 1人年あたり-2.6回、95%信頼区間 -4.0〜-1.2、P<0.001)となり、女性のみの治療が劣るとして試験は早期中止された3。⚠️ この試験の組入れは「再発性BV」ではない——対象はをもつ女性と一夫一婦関係にある男性パートナーの組であり、再発例に限った試験として引かない3。

2025年10月のACOG Clinical Practice Update(2020年のPractice Bulletin No. 215の限定的な更新)は、パートナー治療を2通りに書き分けた4。

対象 ACOGの位置づけ
再発性・症候性BVをもつ成人患者の男性パートナー と外用薬を併用した同時パートナー治療を検討する
再発性・症候性で同性パートナーをもつ患者/初回発症の症候性患者 (一律に勧めてはいない)

⚠️ 「初発でも男性パートナーを治療する」とまとめない。 併用治療の検討が置かれているのは再発性・症候性例の男性パートナーだけである4。

ただし、6試験953組を統合したでは男性パートナー治療全体の再発抑制は有意でなく(0.97、95%信頼区間 0.76〜1.22、I²=59.9%)、経口+外用を用いた唯一の試験であるStepUpを除くとが消えて効果は中立になった(1.08)5。⭐ 効いたのは「男性を治療したこと」ではなく「経口+外用という形で治療したこと」だった可能性がある——著者らも単剤治療は再発を減らしそうにないとし、併用療法の有効性を評価する質の高い研究が必要だとしている5。適応は最新の地域指針と専門医判断に従う。

⚠️ BVは感染や他の性感染症の獲得リスク上昇、妊娠合併症と関連する1。の検査を行い、を避ける2。

まとめ

  • BVはから優位へのであり、治療の対象は症状のある患者である。
  • (均一な分泌物・ 4.5超・clue cell・前後の)の4項目中3項目以上で臨床診断し、が検査室の基準法である。
  • メトロニダゾール内服7日間・0.75%腟ゲル5日間・クリンダマイシン2%腟7日間が推奨レジメンで、内服中のは不要である。
  • 症候性の妊婦は全員治療するが、無症候の妊婦への一律スクリーニングは早産リスクによらず推奨されない。
  • 再発は多い。複数回再発例にはを、再発性・症候性例では2025年のACOG更新に基づき男性パートナーへの経口+外用の同時治療を検討する(初回発症例と同性パートナーは)。

出典

  1. 1.Bacterial vaginosis(Nature Reviews Disease Primers・2025)BVが腟内細菌叢の異常であり、早産・自然流産・HIVおよび他の性感染症のリスク上昇と関連すること、世界の女性の4人に1人が罹患すること、推奨される治療でも3〜6か月の再発が50%を超えること、男性パートナーの治療が治癒を改善するという新しい知見が病因の理解を進めたことを抄録で確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得(PMCに収載が無い)閲覧 2026-09-17
  2. 2.Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021(Centers for Disease Control and Prevention(MMWR Recommendations and Reports)・2021)Amsel基準の4項目(腟壁を滑らかに覆う均一で薄い乳状の分泌物・鏡検でのclue cell・腟pHが4.5超・10% KOH添加の前後での魚臭)と3項目以上での臨床診断、Amsel基準の感度37〜70%・特異度94〜99%(Nugentスコアとの比較)、Nugentスコアの0〜3・4〜6・7〜10の区分、BV用核酸増幅検査を症候性の女性に限って用いること、G. vaginalisの培養が特異的でないため推奨されないこと、推奨レジメン3つと代替レジメン5つ、メトロニダゾール(またはチニダゾール)服用中の禁酒が不要であること、クリンダマイシンクリームが使用後5日間・腟坐剤が72時間ラテックス製品を弱めうること、複数回再発例への0.75%メトロニダゾールゲルまたは750 mg腟坐剤の週2回3か月超(中止すると効果は持続しない)、症候性の妊婦全員の治療と無症候妊婦への一律スクリーニングが早産リスクの高低によらず推奨されないこと、男性パートナーのルーチン治療を推奨しないことを本文(Europe PMCのPMC8344968全文)で確認した。clue cellの「20%以上」という閾値は本ガイドラインの全文に無い(20%の出現箇所を全件確認して0件)閲覧 2026-09-17
  3. 3.Male-Partner Treatment to Prevent Recurrence of Bacterial Vaginosis(New England Journal of Medicine・2025)非盲検無作為化比較試験(StepUp)の組入れが「細菌性腟症をもつ女性と、その女性が一夫一婦関係にある男性パートナー」の組であって再発例に限っていないこと、男性が経口メトロニダゾール400 mg錠と2%クリンダマイシンクリームの陰茎皮膚塗布をいずれも1日2回7日間受けたこと、主要評価項目が12週以内の再発であったこと、81組と83組が割り付けられ150組が12週の追跡を終えた時点で女性のみの治療が劣るとしてデータ安全性監視委員会が中止したこと、修正intention-to-treat集団の再発が69例中24例(35%)対68例中43例(63%)で絶対リスク差が1人年あたり-2.6回(95%信頼区間 -4.0〜-1.2、P<0.001)であったことを抄録で確認した。全文は未取得閲覧 2026-09-17
  4. 4.ACOG Clinical Practice Update: Concurrent Sexual Partner Therapy to Prevent Bacterial Vaginosis Recurrence(American College of Obstetricians and Gynecologists(Obstetrics & Gynecology 146巻6号 e111-e114)・2025)本文書がACOGのClinical Practice Updateであり、2020年のPractice Bulletin No. 215(Vaginitis in Nonpregnant Patients)の該当部分に対する限定的な更新であることをEurope PMCの抄録で確認し、書誌(146巻6号 e111-e114、2025年10月16日オンライン公開)をCrossrefで照合した。推奨の書き分け(①再発性・症候性の細菌性腟症をもつ成人患者の男性パートナーには経口薬と外用薬を併用した同時パートナー治療の検討、②同性パートナーをもつ再発性・症候性の患者と初回発症の症候性患者については共有意思決定)は、ACOG自身のニュースリリース(2025年10月)の逐語で確認した。⚠️ Clinical Practice Update本体の全文は今回も未取得(journals.lww.comは403、DOIの解決先であるOvidは書誌のみ、Internet Archiveは本実行中は停止していた)閲覧 2026-09-17
  5. 5.The efficacy of male partner treatment to prevent recurrence of bacterial Vaginosis: A systematic review with Meta-Analysis of randomized controlled trials(European Journal of Obstetrics & Gynecology and Reproductive Biology・2026)953組を含む6件の無作為化比較試験を統合した解析で男性パートナー治療による再発抑制が有意でなかったこと(リスク比0.97、95%信頼区間 0.76〜1.22、P=0.78、I²=59.9%)、経口と外用を併用した唯一の試験であるVodstrcil 2025を除く感度解析で異質性が消失し(I²=0%)効果が中立(リスク比1.08)になったこと、著者らの結論が「男性パートナーへの単剤治療は再発を減らしそうにないが、経口と外用の併用は女性の治癒率を改善しうるため質の高い研究が必要である」であることを抄録で確認した。全文は未取得閲覧 2026-09-17