小児科学

小児科学 · 3-50

上気道感染症とインフルエンザ

Upper respiratory tract infections and influenza

前提:病態
化膿レンサ球菌(A群)オルソミクソウイルス(インフルエンザ)空気感染性の上気道感染を起こす細菌(一覧)

🧠 全体像:小児の鼻炎、、炎、扁桃咽頭炎、、croupの大半はウイルス性である。抗菌薬が必要なのは、臨床基準を満たす細菌性、検査で確認したA群溶血性streptococcus(GAS)咽頭炎などに限る。呼吸窮迫、、嗄声を伴わない高熱、眼窩症状、意識障害は通常の感冒ではなく緊急疾患を示唆する。1

疾患の見分け方

疾患 典型像 診断の鍵 治療の柱
ウイルス性鼻炎・感冒 、鼻閉、咳、、軽い発熱 臨床診断 、鼻吸引、水分、
細菌性 10日超持続、改善後悪化、または高熱+ 3つの臨床パターン アモキシシリン系を中心に適応判断
GAS咽頭炎 急な・発熱、圧痛性前頸部リンパ節、咳なし RADT//培養 ペニシリンまたはアモキシシリン
感冒後の咳、時に/喘鳴 肺炎・百日咳を除外 支持療法、原則抗菌薬なし
croup 、嗄声、 臨床診断と重症度 、必要時吸入アドレナリン
インフルエンザ 急な発熱、悪寒、筋痛、頭痛、咳 流行状況+必要時 高リスク/重症では早期抗ウイルス薬

鼻炎・鼻副鼻腔炎

小児は年に複数回のウイルス性を起こす。透明が膿性に変わるだけでは細菌感染を意味せず、通常は7〜10日で改善する。乳幼児では点鼻と鼻吸引が有用で、の鎮咳・感冒薬やは年齢制限と有害事象に注意する2。

は次のいずれかで疑う。

  1. 持続型:または日中の咳が10日を超えて改善しない。
  2. 悪化型:いったん改善した・咳・発熱が再び悪化する。
  3. 重症型:39℃以上の発熱とが3日以上続く。3

💡 持続型は経過観察も選択肢になる。 の指針は、悪化型・重症型には抗菌薬治療を推奨する一方、持続型の小児には抗菌薬治療の開始に代えて3日間の追加経過観察を提示してもよいとしている3。

通常は画像不要で、単純X線はウイルス性と細菌性を区別できない。眼瞼腫脹、・制限、、、激しい頭痛、神経症状があれば眼窩・を疑い、造影CT/と緊急専門診療を行う。

咽頭扁桃炎・肥大

の感染・肥大では鼻閉、口呼吸、いびき、閉、を生じ、中耳炎やを合併する。診断は症状と内視鏡を組み合わせる。ウイルス性なら支持療法、細菌感染が明確なら抗菌薬、持続するやではで切除を検討する。

扁桃咽頭炎

ウイルス性では咳、、嗄声、結膜炎、が細菌性より目立つ。GAS咽頭炎は5〜15歳に多く、典型的ウイルス症状がなければ咽頭で検査する。3歳以上で(RADT)が陰性なら培養で確認する。GASをペニシリン/アモキシシリンで治療すると、感染性、化膿性合併症、のリスクを減らせる。

片側の強い、、、はを示唆し、気道評価、排膿、抗菌薬、補液・鎮痛を行う。ではアンピシリン/アモキシシリンで高率に発疹を生じるため投与しない。

急性気管支炎

90%以上がウイルス性で、咳は2〜3週続くことがある。頻呼吸、低酸素、局在性、高熱遷延なら肺炎を、発作性咳嗽・・嘔吐なら百日咳を考える。ルーチンの胸部X線・血液検査・抗菌薬は不要で1、喘鳴に対するは喘息などがある場合に限る。

急性喉頭気管炎

などによるで、夜間に、嗄声、を生じる。刺激や泣くことで悪化するため、患児を落ち着かせ、不要な咽頭診察を避ける。

重症度 所見 治療
軽症 安静時なし、なし/軽度 単回、支持療法4
中等症 安静時、あり +吸入アドレナリン5、効果消失後まで観察
重症/ 強い、、意識変容、チアノーゼ、換気音低下 アドレナリン、酸素、気道確保準備、
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='seal-like barking cough'>犬吠様咳嗽</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inspiratory stridor'>吸気性喘鳴</span>"] --> B{"安静時<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inspiratory stridor'>吸気性喘鳴</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chest wall retraction (subcostal/intercostal retractions)'>陥没呼吸</span>"}
    B -->|"なし"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone'>デキサメタゾン</span>単回"]
    B -->|"あり"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dexamethasone'>デキサメタゾン</span>+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nebulizer'>ネブライザー</span>吸入アドレナリン"]
    D --> E{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exhaustion'>疲弊</span>・意識変容・チアノーゼ"}
    E -->|"なし"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='relapse'>再燃</span>を観察"]
    E -->|"あり"| G["酸素・気道確保・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intensive care unit'>ICU</span>"]

・加湿気は効果が一定せず、ルーチンのX線やは不要である。、、嗄声を伴わない高熱では、と高熱では、急な発症では異物を考える。

インフルエンザ

突然の発熱、悪寒、頭痛、筋痛、倦怠感、乾性咳を呈し、乳幼児では、嘔吐、下痢、もみられる。肺炎、脳症、筋炎、心筋炎、細菌性に注意する。

💡 の効果は症状短縮が中心で、入院・合併症の抑制効果は確立していない。 未公開の報告書を含めて解析したでは、は健常な小児の症状消失までの時間を平均29時間短縮した一方、小児における入院や重篤な合併症の有意な減少は示されず、中耳炎・副鼻腔炎のリスクも有意には減らさず、嘔吐のリスクを増加させた6。は、耐性に関連するPA蛋白の変異(I38T・I38M)が日本人小児で23.4%に出現し成人・青年(9.7%)より高頻度で、変異出現例では・症状消失が遅延する7。

  • アスピリンはのリスクから避ける。
  • 生後6か月以上では毎年の接種が基本予防である。生後6か月〜7歳では弱毒生の統合有効性が83%と報告されたが8、米国では2013〜2016年シーズンのデータでA/H1N1pdm09に対する有効性がより有意に低いことが示され、2016年に米国が使用を推奨しない期間が生じた9。

まとめ

  • で、だけを根拠に抗菌薬を使わない。
  • 細菌性は「10日超持続・改善後悪化・高熱+」の3 パターンで診断する。
  • GAS咽頭炎は検査で確認し、が疑わしいときはアンピシリン/アモキシシリンを避ける。
  • croupは全重症度で、中等症以上では吸入アドレナリンを用いる。
  • 重症・高リスクインフルエンザでは検査を待たず抗ウイルス薬を開始する。

出典

  1. 1.Principles of judicious antibiotic prescribing for upper respiratory tract infections in pediatrics(2013)小児の多くの急性呼吸器感染症はウイルス性で、抗菌薬は細菌感染が確認または強く疑われる場合に限定すべきという原則を確認した。単純な急性気管支炎は通常抗菌薬の適応にならないことも確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.PRAC recommends restrictions on the use of codeine for cough and cold in children(European Medicines Agency(PRAC)・2015)EUでは2015年のPRAC審査により、コデインを含む鎮咳薬は12歳未満の小児で禁忌、12〜18歳では呼吸器に問題がある場合は推奨されないとされたことを確認した。コデインからモルヒネへの変換が速い「超高速代謝者」は年齢を問わず使用不可であること。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Clinical practice guideline for the diagnosis and management of acute bacterial sinusitis in children aged 1 to 18 years(2013)米国小児科学会の指針は、小児急性細菌性副鼻腔炎を持続型(10日超の鼻汁または日中の咳が改善なく持続)・悪化型(いったん改善後の再増悪)・重症型(39度以上の発熱と膿性鼻汁が3日以上)の3パターンで臨床診断し、悪化型・重症型には抗菌薬治療を推奨する一方、持続型には抗菌薬治療の開始と3日間の追加経過観察のどちらを選んでもよいとしたこと、合併症のない例で画像検査をウイルス性との鑑別目的にルーチン使用しないことを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.Glucocorticoids for croup in children(Cochrane Database of Systematic Reviews・2023)18歳以下のクループ小児を対象とした45件の無作為化比較試験(5,888例)を統合したコクランレビューで、糖質コルチコイド投与が軽症を含む全重症度でクループのスコア・再受診・再入院を改善することを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Nebulized epinephrine for croup in children(Cochrane Database of Systematic Reviews・2013)中等症から重症のクループにおいて、ネブライザーによるアドレナリン(エピネフリン)投与が短期的な臨床スコアの改善をもたらすことを確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in adults and children(Cochrane Database of Systematic Reviews・2014)製造販売元から入手した未公開の臨床試験報告書107件を含めて解析したコクランレビュー(オセルタミビル20試験9,623例・ザナミビル26試験14,628例)で、オセルタミビルは健常な小児の治療試験で症状消失までの時間を平均29時間短縮した(P=0.001)一方、喘息のある小児では有意差がなかったこと、小児における入院や重篤な合併症の有意な減少は示されなかったこと、小児でも中耳炎・副鼻腔炎のリスクを有意には減らさなかったこと、小児の治療でオセルタミビルは嘔吐のリスクを増加させた(リスク差5.34%)ことを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.Baloxavir Marboxil in Japanese Pediatric Patients With Influenza: Safety and Clinical and Virologic Outcomes(Clinical Infectious Diseases・2020)日本人小児77例を対象にした単回投与試験で、バロキサビル耐性に関連するPA蛋白I38T・I38M変異が23.4%(18例)に出現し成人・青年対象の第3相試験(9.7%)より高頻度だったこと、変異出現例では感染性ウイルスの検出遷延(消失までの時間中央値180.0時間対24.0時間)と症状消失の遅延(79.6時間対42.8時間)がみられたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  8. 8.Efficacy and effectiveness of influenza vaccines: a systematic review and meta-analysis(The Lancet Infectious Diseases・2012)有効性(efficacy)を無作為化比較試験、実地有効性(effectiveness)を観察研究から別々に評価した系統的レビュー・メタ解析で、生後6か月〜7歳の小児における弱毒生インフルエンザワクチンの統合有効性は83%(95%CI 69-91)であった一方、実地有効性は季節ごとに大きく変動し、有意な防御を示した解析は一部にとどまったことを確認した。対象は生後6か月〜7歳の小児のワクチン有効性データを含む。閲覧 2026-08-27
  9. 9.Live Attenuated and Inactivated Influenza Vaccine Effectiveness(Pediatrics・2019)米国の5研究を統合した2〜17歳17,173例の個人患者データ解析で、2013-14〜2015-16シーズンの4価弱毒生インフルエンザワクチン(LAIV4)はA/H1N1pdm09に対する有効性が20%(95%CI -6〜39%)と不活化ワクチンの67%(95%CI 62〜72%)より有意に低かった(A/H3N2・B型に対する有効性はLAIV4とIIVで同程度)ことを確認した。この低有効性が2016年に米国ACIPがLAIVの使用を推奨しなくなった根拠となった。閲覧 2026-08-27