微生物学

微生物学 · 5/4

空気感染性の上気道感染を起こす細菌(一覧)とその診断

Bacteria causing air-borne upper respiratory tract infections (list) and their diagnostics

応用トピック
上気道感染症とインフルエンザ
微生物
Corynebacterium diphtheriaeHaemophilus influenzaeMoraxella catarrhalis

🧠 は、まず「大半はウイルス性」という前提を置いたうえで、細菌性を示唆する所見(・・特定の解剖学的部位)を見つけたときだけ細菌を疑うという順序で読む。 上気道(鼻腔・・咽頭・喉頭・気管)の中でも、感染部位ごとに主要な細菌がほぼ決まっている——扁桃はレンサ球菌、副鼻腔・中耳は肺炎球菌群、喉頭はと b型という具合である。この解剖学的な部位対応を軸に覚えると、の選択(β-ラクタム±阻害薬、マクロライド)にも直結する。

上気道の範囲

鼻腔・・咽頭・喉頭・気管を含む。

部位別の細菌性上気道感染

部位 起因菌
扁桃炎 Streptococcus pyogenes、Staphylococcus aureus
副鼻腔炎・中耳炎 Streptococcus pneumoniae、Streptococcus pyogenes、Moraxella catarrhalis、Haemophilus influenzae、Staphylococcus aureus
Corynebacterium diphtheriae、Haemophilus influenzae b型、各種ウイルス

💡 扁桃炎でのA群の診断・治療方針は国によって運用が異なる。 米国のはCentor・McIsaacスコアで(RADT)の対象を絞り込み、陽性ならで治療することを条件付きで推奨する1。一方、英国はCentorスコアに加えFeverPAINスコアも併用し、低スコアでは抗菌薬を処方せず中間スコアでは症状増悪時のみ内服するを基本方針としており、抗菌薬を直ちに使わない選択肢を制度化している点が異なる——ただしいずれのスコアも診断精度自体は高くない2。

⚠️ ()を軽視しない。 小児の b型によるは急速に気道閉塞へ進行しうる気道緊急症であり、の主な標的でもある。ただし導入後の欧州では侵襲性感染の主因はb型から非(NTHi)へ置き換わっており、NTHiに対するワクチンは存在しない3。による喉頭病変はと気道閉塞をきたしうる点でも要注意——2022年以降、バルカン半島ルートを経由した移民を中心に欧州でジフテリアの輸入例が増加しており、ワクチン普及国でも「過去の病気」という前提は成り立たない4。

診断・治療

項目 内容
診断 通常はに基づく。必要であれば検体または穿刺による検体採取、鏡検・培養を行う
治療 通常は。β-ラクタム系(例:アモキシシリン+)またはマクロライド系を用いる

上気道感染の大半はウイルス性

、コロナウイルス、、、、RSウイルス、など。

💡 「ほぼウイルス性」という前提が抗菌薬の使いすぎを防ぐ。 の大多数はウイルス性で自然軽快するため、・・高熱の持続など細菌感染を積極的に示唆する所見がない限り、抗菌薬投与はされにくい。

まとめ

  • 上気道は鼻腔・・咽頭・喉頭・気管からなり、感染の大半はウイルス性である。
  • 細菌性は部位で主要菌が異なる:扁桃炎=S. pyogenes/S. aureus、副鼻腔炎・中耳炎=S. pneumoniae/S. pyogenes/M. catarrhalis/H. influenzae/S. aureus、=C. diphtheriae/H. influenzae b型。
  • (H. influenzae b型)は気道閉塞のリスクがある緊急症、ジフテリアはに注意する。
  • 診断は基本的にのみで行い、必要時のみ検体・の鏡検・培養を追加する。
  • 治療は経験的にβ-ラクタム(アモキシシリン+)またはマクロライドを用いる。

出典

  1. 1.2025 Clinical Practice Guideline Update by the Infectious Diseases Society of America on Group A Streptococcal Pharyngitis: Risk Assessment Using Clinical Scoring Systems in Children and Adults(Infectious Diseases Society of America・2026)咽頭痛患者にCentor・McIsaacなどの臨床スコアを用いてGAS検査対象を絞ることを条件付きで初めて推奨したこと、3歳未満は非典型的な臨床像のため対象外としたことを確認した。閲覧 2026-08-26
  2. 2.Diagnostic accuracy of Fever-PAIN and Centor criteria for bacterial throat infection in adults with sore throat: a secondary analysis of a randomised controlled trial(BJGP Open・2021)英国NICEの咽頭痛ガイドラインはCentorスコアとFeverPAINスコアの両方を用いて抗菌薬処方方針(処方なし・遅延処方・即時処方の3段階)を決めることを推奨しており、Centorスコア3点以上・FeverPAINスコア4点以上を即時抗菌薬が考慮される高確率群の閾値としている。ただし著者らの二次解析では両スコアの診断精度はROC曲線下面積0.62(Centor)・0.59(FeverPAIN)と不良だった。閲覧 2026-08-26
  3. 3.Molecular epidemiology and antibiotic resistance profiles of invasive Haemophilus influenzae from Norway 2017-2021(Frontiers in Microbiology・2022)Hib(b型莢膜)ワクチンを1990年代に小児定期接種へ組み込んだ国で侵襲性インフルエンザ菌感染が減少し、現在のヨーロッパでは無莢膜型(NTHi)と非b型が侵襲性感染の主因であること、これらの株に対するワクチンは存在しないことを確認した。閲覧 2026-08-26
  4. 4.Outbreak of imported diphtheria with Corynebacterium diphtheriae among migrants arriving in Germany, 2022(Eurosurveillance・2022)2022年7月末以降、ドイツに到着した移民の間で毒素産生Corynebacterium diphtheriaeによる輸入ジフテリア症例が顕著に増加し、9月30日までに検査確定44例(全員男性、主にシリア・アフガニスタン出身)が報告された。系統解析と渡航経路情報から、大半(19例)がバルカン半島ルートで感染したと推定された。閲覧 2026-08-26