小児科学

小児科学 · 3-49

HIV感染症と結核

HIV and tuberculosis

前提:病態
レトロウイルスとエイズヒト結核の起因菌、らい菌
疾患
結核
症状
喀痰

🧠 全体像:小児の感染症(human immunodeficiency virus infection)はが重要で、診断には年齢に応じたウイルス学的検査、治療には全例でのを用いる。結核は成人と異なりで、病変や播種性病変が目立つ。いずれも「免疫反応が弱く検査陰性でも否定できない」点が診断の落とし穴である。

HIV感染症

はCD4陽性T細胞に結合し、逆転写酵素でをへ変換、で宿主へ組み込み、複製後に出芽する。持続的なとによりCD4陽性T細胞が減少し、日和見感染や悪性腫瘍のリスクが高まる。

感染経路と臨床経過

  • 小児では妊娠中・分娩時・授乳中の母子感染が中心で、輸血・注射器共有・性的接触でも感染する。
  • 急性感染では発熱、発疹、、筋痛、下痢、全身性リンパ節腫脹など単核球症様症候群を呈しうる。
  • その後は無症候期を経て、持続性リンパ節腫脹、、、反復する細菌感染、口腔カンジダ症などが現れる。
  • 高度免疫不全ではPneumocystis肺炎、結核、重症細菌・真菌感染、悪性腫瘍など指標疾患を来す。

診断・治療

項目 小児での要点
曝露の確認 妊婦の検査、母体ウイルス量・ART歴、分娩・授乳歴を確認する
18か月未満 母体IgG抗体が残るため、核酸検査(NAT/)などのウイルス学的検査を時期を変えて行う1
18か月以降 抗原抗体検査を基本とし、陽性結果をで確定する2
病期評価 量、CD4数・割合、、併存感染、成長・発達を評価する
治療 年齢・体重・耐性・相互作用に応じたARTを、感染が確定したすべての小児でCD4値を待たず開始する13

💡 開始基準はCD4値を待たない方針に変わった。 かつてはCD4数・CD4%が一定の閾値を下回ってから治療を開始する運用だったが、南アフリカのCHER試験で、CD4パーセンテージ25%以上の生後6〜12週の感染乳児をCD4低下や臨床基準を待って開始する群(125例)と直ちに開始する群(252例)にたところ、追跡中央値40週で死亡は群20例(16%)、早期群10例(4%)となり、早期ART開始が乳児を76%減少させたことが確認され、現在はCD4値・年齢を問わずできるだけ早くを開始する方針へ転換した3。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='human immunodeficiency virus'>HIV</span>曝露児"] --> B["年齢に適したウイルス学的検査を反復"]
    B --> C{"感染確認"}
    C -->|"なし"| D["曝露後予防と予定検査を<span class='jp-term jp-term-diagram' title='completion (of a treatment course)'>完遂</span>"]
    C -->|"あり"| E["ARTを速やかに開始"]
    E --> F["ウイルス量・CD4・成長・毒性を追跡"]
    F --> G["日和見感染の予防・診断・治療"]

予防では妊娠前からの母体ART、ウイルス量抑制、分娩様式の選択(分娩時の 量が1000コピー/mL以上または不明なら妊娠38週での、1000コピー/mL未満でART内服中なら経腟分娩でよい)、出生児への、地域の安全な栄養指針に沿った授乳相談を組み合わせ、これらを徹底すれば無治療で20〜25%とされる母子感染率を1〜2%未満まで下げられる4。生ワクチン接種は一律禁止ではない。MMRや接種は年齢とCD4数・割合を満たす免疫学的適格児に実施できる一方、重度免疫抑制では禁忌で、MMRV混合ワクチン接種は感染児に用いない。

小児結核

群は感染者の咳などから生じる空気中ので伝播する。小児は成人より原発性結核、・病変、、へ進展しやすく、乳幼児と感染児は特に高リスクである。

感染と発病

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Mycobacterium tuberculosis'>結核菌</span>を吸入"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='alveolar macrophages'>肺胞マクロファージ</span>内で増殖"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='primary tumor'>原発巣</span>+所属リンパ節病変"]
    C --> D{"免疫で抑え込めるか"}
    D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='TB infection'>結核感染</span><br>将来再活性化しうる"]
    D -->|"いいえ"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='active tuberculosis'>活動性結核</span>"]
    F --> G["肺病変・リンパ節病変"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='miliary tuberculosis'>粟粒結核</span>・髄膜炎など播種"]

症状と診断

長引く咳、発熱、、体重増加不良、倦怠感、接触歴を手掛かりにする。小児肺結核はで喀痰を出せないことが多く、成人に典型的な空洞影がなくても除外できない。

評価 意義と限界
調査 感染性結核患者との同居・濃厚接触は最重要情報
TST/ への免疫反応を示すが、感染と活動性疾患を区別できず、陰性でも除外できない
胸部X線 、、浸潤影、などを評価する
微生物検査 、、、便などから、塗抹、培養・を行う
播種評価 乳幼児や神経症状では、腹部画像などを追加する

結核が疑われる小児でも塗抹顕微鏡ではなく、Xpertなどの()推奨(mWRD)を初期検査として用いる5。培養を基準とした小児でのXpert MTB/RIF感度は喀痰で64.6%、・便・などの代替検体で45.7〜73.0%と検体により幅があり、髄液を用いた検出の感度は54.0%にとどまるため、Xpert陰性のみで治療を差し控えるべきではない6。

治療と予防

薬剤感受性、病型、重症度、併存、性を確認し、・部門と治療する。標準的な薬剤感受性肺結核では(H)、rifampicin(R)、(Z)、(E)による導入後にH/Rを継続する。非重症の一部小児では4か月レジメンが選択できるが、髄膜炎・やでは期間と薬剤が異なる——ウガンダ・ザンビア・南アフリカ・インドの多施設SHINE試験(非重症・塗抹陰性の小児結核1204例、年齢中央値3.5歳・範囲2か月〜15歳、11%が感染児)では、4か月治療群と6か月治療群の72週時点の不良転帰(・追跡不能・死亡の複合)がともに3%であり、4か月への短縮がであることが確認された7。使用時は栄養不良、、乳児などでを併用する。

  • 肝障害:H、R、Z。症状と肝機能を監視する。
  • :E。年齢に応じ視力・を評価する。
  • 末梢神経障害:H。高リスクではで予防する。
  • では活動性疾患を除外後、接触状況と地域指針に応じを行う。
  • は重症小児結核を減らすが感染を完全には防がず、では禁忌である——のメタ回帰分析では、未感染を厳密に確認した小児での効果は肺結核に対しレイト比0.26にとどまる一方、・に対しては0.08(乳児では0.10)と、肺結核より・髄膜炎への防御効果の方がはるかに大きいことが示されている8。

まとめ

  • 曝露乳児は抗体だけでなくウイルス学的検査で診断し、感染確定後は全例でARTを開始する。
  • 感染児の生ワクチン接種は一律禁止ではなく、免疫状態ごとに適否を判断する。
  • 小児結核はで、TST/・塗抹陰性でも接触歴、画像、・培養を統合して判断する。
  • 結核治療は薬剤感受性と病型に合わせたと、確実な服薬支援が不可欠である。

出典

  1. 1.Neonatal HIV(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2022)18か月未満の児は母体由来のHIV抗体が残存するため抗原抗体検査で診断できず、HIV RNA・DNA核酸増幅検査などのウイルス学的検査で確定する必要があること(出生時陽性率は30〜50%、生後4〜6か月までにほぼ100%検出)、曝露リスクのある新生児は出生後6時間以内に予防的抗レトロウイルス薬を開始すること、米国の小児HIV治療パネルは確定診断がついた小児では年齢・CD4数にかかわらず全例で抗レトロウイルス療法を開始するよう強く推奨していることを確認した。閲覧 2026-08-27
  2. 2.Performance of a fourth-generation HIV screening assay and an alternative HIV diagnostic testing algorithm(AIDS・2013)18か月以降の小児で用いる第4世代抗原抗体検査からHIV-1/2抗体分別検査、必要時NATへ進む診断アルゴリズムが、旧来の第3世代検査とウェスタンブロットの組み合わせより早期感染の検出に優れることを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Early antiretroviral therapy and mortality among HIV-infected infants(The New England Journal of Medicine・2008)南アフリカのCHER試験で、生後6〜12週かつCD4パーセンテージ25%以上のHIV感染乳児を、CD4低下や臨床基準を満たしてから治療を開始する群(125例)と直ちに抗レトロウイルス療法を開始する群(252例)に無作為割付けたところ、追跡中央値40週で死亡は待機群20例(16%)、早期群10例(4%)であり(死亡のハザード比0.24、95%信頼区間0.11〜0.51)、早期治療開始が乳児早期死亡率を76%、疾患進行を75%減少させたことを確認した。閲覧 2026-08-27
  4. 4.HIV in Pregnancy(StatPearls (NCBI Bookshelf)・2023)母子感染予防は診断確定後の速やかな母体抗レトロウイルス療法開始、分娩時のHIV RNA量が1000コピー/mL以上または不明な場合は妊娠38週での予定帝王切開を行い1000コピー/mL未満でART内服中なら経腟分娩でよいとする分娩様式の選択、新生児への予防的抗レトロウイルス薬投与を組み合わせることで、無治療なら20〜25%とされる母子感染率を米国では1〜2%未満まで低下させられること、母乳を介した感染はART抑制下でも起こりうるため高所得国では母乳栄養を避けることが推奨されることを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.WHO consolidated guidelines on tuberculosis. Module 3: diagnosis(World Health Organization・2025)結核が疑われる者(小児を含む)への初期診断検査としてXpertなどのWHO推奨迅速分子検査(mWRD)を用いることを推奨し、塗抹顕微鏡検査を初期検査の位置に置かないことを確認した。閲覧 2026-08-27
  6. 6.Xpert MTB/RIF and Xpert MTB/RIF Ultra assays for active tuberculosis and rifampicin resistance in children(Cochrane Database of Systematic Reviews・2020)小児を対象とした系統的レビュー(肺結核の検出に299データセット・68544例が集められた)で、培養を基準としたXpert MTB/RIFの喀痰でのプール感度は64.6%(95%信頼区間55.3〜72.9%、23研究493例の統合値)・特異度は99.0%(23研究6119例の統合値)であり、鼻咽頭吸引・胃液吸引・便といった代替検体ではプール感度45.7〜73.0%・特異度98.1〜99.6%の範囲だった(どの検体が最も高いかは抄録に記載がない)。髄液を用いた結核性髄膜炎検出の感度は54.0%(6研究28例、確実性は非常に低い)にとどまり、Xpert陰性のみで結核性髄膜炎の治療を差し控えるべきではないことを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 7.Shorter Treatment for Nonsevere Tuberculosis in African and Indian Children(The New England Journal of Medicine・2022)ウガンダ・ザンビア・南アフリカ・インドの多施設SHINE試験(非重症・塗抹陰性の小児結核1204例、年齢中央値3.5歳・範囲2か月〜15歳、11%がHIV感染児、14%が細菌学的確定例)で、4か月治療群と6か月治療群の72週時点の不良転帰(治療失敗・追跡不能・死亡の複合)はそれぞれ16例(3%)・18例(3%)であり、4か月への治療期間短縮が6か月に対し非劣性であることを確認した。閲覧 2026-08-27
  8. 8.Protection by BCG vaccine against tuberculosis: a systematic review of randomized controlled trials(Clinical Infectious Diseases・2014)BCGランダム化比較試験のメタ回帰分析(肺結核18試験・粟粒/髄膜結核6試験)で、結核菌未感染であることを厳密なツベルクリン検査で確認した小児における肺結核への効果はレイト比0.26(95%信頼区間0.18〜0.37)、乳児では0.41(0.29〜0.58)にとどまったのに対し、粟粒/髄膜結核への効果は乳児でレイト比0.10(0.01〜0.77)、厳密にツベルクリン検査された小児で0.08(0.03〜0.25)と、肺結核より粟粒結核・結核性髄膜炎に対する防御の方がはるかに強いことを確認した。閲覧 2026-08-27