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Drug Atlas · C17 Antibiotics / 抗菌薬 · 必修

バシトラシン

bacitracin

分類
Antibiotics / 抗菌薬
科目
Pharmacology
トピック
C17: Glycopeptides. Lipopeptides. Bacitracin. Mupirocin
標的微生物
Staphylococcus aureusStreptococcus pyogenes / GAS
原因となる疾患
接触皮膚炎

🧠 全体像Bacillus subtilis由来の抗菌薬で、グリコペプチドや他の局所用薬とは違う一点を狙う——を膜の内側から外側へ運ぶ「運び役」のそのものを止める。この機序は魅力的だが全身投与では重篤な腎毒性・アナフィラキシーを起こすため、米国では2020年にFDAが注射用の販売中止を要請し実質的に市場から姿を消した1——現在は外用(一部は眼科用)に限定されている。もう一つの顔として、の代表的原因アレルゲンであり、2003年にAmerican Contact Dermatitis Societyの「Allergen of the Year」に選ばれている2。「きれいな創には念のため塗る」という発想も、白色ワセリンと比べて感染予防上のがない一方でのリスクだけが増すというRCTの知見から見直されつつある3

機序

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bacitracin'>バシトラシン</span>がbactoprenol<br>(undecaprenyl pyrophosphate)に結合"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dephosphorylation'>脱リン酸化</span>を阻害"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lipid carrier'>脂質担体</span>がundecaprenyl phosphateへ<br>再生されず枯渇"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell wall precursor'>細胞壁前駆体</span>(ペプチドグリカン単位)を<br>膜の内側から外側へ運ぶ担体が不足"]
    D --> E["ペプチドグリカン合成が<br>膜の外側で進まない"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cell wall synthesis'>細胞壁合成</span>停止(Gram陽性菌に対し<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bactericidal'>殺菌的</span>)"]

はbactoprenol(undecaprenyl pyrophosphate)のを阻害し、(ペプチドグリカン単位)を細胞膜の内側から外側へ運ぶ担体のリサイクルを止める。そのものを直接狙うβラクタム系・とは異なり、前駆体の“運搬経路”を断つという間接的な戦略でを止める。

💡 なぜ外用に限定されるのか:全身投与すると腎尿細管に強い毒性を示しを起こしうるほか、アナフィラキシーのリスクもある。実際、注射用の唯一のであった乳児の黄色ブドウ球菌性肺炎・に対しても、より安全な代替薬が存在することから、FDAは2020年1月に製造販売元へ市場からの自主的な撤退を要請した1。この経緯もあり、現在は皮膚・粘膜表面の外用(一部眼科用)に用途が限られる。

💡 耐性の背景:細菌側は、を細胞外へ排出するABC輸送体(BcrABなど)の獲得や、標的となるの産生を増やすことで感受性を下げる。ヒトには同じ・輸送経路がなく、標的自体が細菌に特有である点は他の細胞壁阻害薬と共通する。

適応

領域 使いどころ
皮膚 などの表在性創部の予防への外用が中心。海外ではと同様にの創傷用外用薬として使われ、Bとの配合外用薬(いわゆる「トリプル抗菌薬」)の一角を占めることも多い
眼科 として表在性の眼感染に用いられる製剤もある。FDAが2020年に注射剤の販売中止を要請した際も、外用・眼科用の製剤はこの対象外とされた1

⚠️ 清潔な創にルーチンで塗る根拠は乏しい。 922例1249創を対象としたでは、白色ワセリンとで感染率・治癒経過に有意差はなく(2.0% vs 0.9%、P=.37)、むしろ群でのみが発生した(0例 vs 4例、0.9%)3。清潔な小外傷であれば白色ワセリンで代用できるという立場が広がっている。

用法・用量

外用のみ。創部・皮膚病変に1日1〜3回塗布する。実際の使用法は製剤・適応で変わるため、施設のプロトコル・添付文書で確認する。

禁忌・注意

  • 全身(特に筋注・静注)投与は行わない。 米国では2020年にFDAが注射用の販売中止を要請しており、腎毒性・アナフィラキシー・反復筋注の負担がその理由に挙げられている1
  • ⚠️ の代表的原因アレルゲン。 2003年にAmerican Contact Dermatitis Societyの「Allergen of the Year」に選ばれるほど頻度が高く、アレルゲンの一つに数えられる2。広範囲・長期の連用、皮膚バリアが破綻した創への使用は特にリスクを高める
  • ⚠️ まれにアナフィラキシーを起こす。皮膚バリアが破綻した創に用いると全身に吸収されうるため、既往があれば再使用を避ける
  • に感作された患者では、配合外用薬での同時曝露により交差してを起こすことがある

副作用

頻度 内容
高頻度 局所刺激感
注意 (代表的原因アレルゲン)
重篤・まれ アナフィラキシー。(注射剤では)腎毒性——現在は外用限定により回避

まとめ

  • Bacillus subtilis由来。bactoprenol()のを阻害し、前駆体の運搬を止めてを阻害する。
  • PBPや前駆体そのものを直接狙う他の細胞壁阻害薬とは異なる「運搬経路」を狙う独自機序。耐性は輸送体による排出や標的産生の増加で生じる。
  • 全身毒性(腎毒性・アナフィラキシー)が強く、米国では2020年に注射剤が市場から撤退した1——外用(一部眼科用)に限定される。と並ぶC17の局所用トリオの一角。
  • 表在性グラム陽性菌(黄色ブドウ球菌)の皮膚感染予防・治療に外用で用いる。
  • の代表的原因アレルゲン(2003年ACDS Allergen of the Year)。清潔な創へのルーチン使用は白色ワセリンと比べ感染予防上の利点がなく、アレルギーリスクだけがされるというRCTの知見がある3

出典

  1. 1.Bacitracin(StatPearls Publishing(NCBI Bookshelf, National Library of Medicine)・2024)機序、2003年American Contact Dermatitis Society「Allergen of the Year」選出とパッチテスト上位アレルゲンとしての位置づけ、2020年FDA注射剤販売中止の経緯を確認閲覧 2026-08-03
  2. 2.Infection and Allergy Incidence in Ambulatory Surgery Patients Using White Petrolatum vs Bacitracin Ointment: A Randomized Controlled Trial(JAMA(Smack DP, Harrington AC, Dunn Cほか、1996年)・1996)922例1249創のRCTで、白色ワセリンとバシトラシン軟膏の感染率・治癒経過に有意差なし(2.0% vs 0.9%、P=.37)。接触皮膚炎はワセリン群0例に対しバシトラシン群4例(0.9%)で発生閲覧 2026-08-03
  3. 3.FDA Calls for Bacitracin Products to be Removed From the Market(Regulatory Affairs Professionals Society(FDAの2020年1月31日付通知を報道)・2020)FDAが2020年1月31日、注射用バシトラシンの自主的な販売中止を要請。理由は腎毒性・アナフィラキシー・反復筋注の負担。外用・眼科用製剤は対象外閲覧 2026-08-03