病理学

病理学 · C/60

ネフローゼ症候群

The nephrotic syndrome

応用トピック
糸球体疾患ネフローゼ症候群と蛋白尿性疾患
薬剤
ペニシラミンヘロイン
疾患
C1q腎症Frasier症候群ネフローゼ症候群巣状分節性糸球体硬化症微小変化型ネフローゼ症候群膜性腎症膜性増殖性糸球体腎炎

🧠 全体像:の5つの特徴(・・浮腫・・)はすべて「の透過性亢進」という単一の起点から演繹できる。ただし診断に必須なのはとの2つである。原因疾患の鑑別は、単独の傷害(・FSGS)か(膜性・MPGN)かという軸で整理すると、・IF所見が自然につながる。

定義

  • 透過性の亢進による一連の臨床徴候。
  • 小児:通常は一次性の腎病変。
  • 成人:しばしば全身性疾患の腎病変。

特徴的所見(必須の2項目と随伴する3所見)

⚠️ 閾値の書き方は文書で違う。日本の成人の臨床的定義(日本腎臓学会)は「以上・以下」1、 2021は「超・未満」で書く2。

項目 日本の成人の臨床的定義 2021 診断上の位置づけ
3.5 g/日以上の持続(で3.5 g/gCr以上) 3.5 g/日超 必須
3.0 g/dL以下 30 g/L(3.0 g/dL)未満 必須
重要な所見 しばしば伴う 必須ではない
・ 脂質異常(高コレステロール血症) しばしば伴う 必須ではない
(、下で「」) 診断の助けになる — 必須ではない

小児では閾値そのものが別に定められているので、成人の数値を当てはめない(詳細は)。

事象の連鎖

  • の乱れ → 透過性亢進 → 。
  • 重度のタンパク喪失 → → → 浮腫。
  • 体液漏出 → → アルドステロン増加+低下 → 塩・水の貯留 → (悪循環)。
  • → 代償性の肝リポタンパク合成増加 → +。
  • また:低下、IgG低下 → +感染リスク。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular capillary'>糸球体毛細血管</span>壁の透過性亢進"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='massive (nephrotic-range) proteinuria'>大量タンパク尿</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypoalbuminemia'>低アルブミン血症</span>"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='decreased oncotic pressure'>膠質浸透圧低下</span>→浮腫"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma volume depletion'>血漿量減少</span>"]
    E --> F["アルドステロン増加+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular filtration rate'>GFR</span>低下"]
    F --> G["塩・水の貯留<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='generalized edema'>全身浮腫</span>(悪循環)"]
    C --> H["肝リポタンパク合成増加<br>(代償)"]
    H --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Hyperlipidemia'>高脂血症</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Lipiduria'>脂肪尿</span>"]

微小変化型ネフローゼ(リポイドネフローゼ)

要点

形態

  • 光顕で正常(またはがわずかに目立つ程度)。IFは陰性か、弱いC3・IgMのみ2。
  • :のびまん性消失+剥離。

発生機序

  • しばしば呼吸器感染・に続発。
  • のサイトカインがを傷害 → 剥離+の喪失 → 。

臨床経過

  • 高度に選択的な — 主にアルブミン(IgGなどのはほとんど漏れない)。
  • 90%がに反応(講義の値。とくに小児で反応がよい)。成人でも 2021は初期治療に高用量経口グルココルチコイドを推奨する(1C)2。
  • 約5%が25年以内にへ進行。

巣状分節性糸球体硬化症

定義

状況

  • 一次性(特発性)
  • 他のGNに続発
  • 遺伝性・先天性の欠陥(例:ネフリン、変異)
  • 腎症、乱用
  • (肥満、逆流、量の減少)
  • APOL1リスクバリアント:アフリカ系アメリカ人でリスクアレルを2つ持つと、FSGSのが17倍、関連腎症のが29倍になる。APOL1関連FSGSは発症が早く、への進行も速い3
  • 2021は、成人のFSGSを一次性・遺伝性・二次性・原因不明に分けて扱う。原因不明と二次性には免疫抑制を用いない2

微小変化型との鑑別

  • FSGSでは血尿+高血圧の頻度が高い。
  • FSGSでは非選択的。
  • ステロイド反応はより劣る。

発生機序

  • 初発事象:傷害 → 透過性亢進 → 漏出 → 硝子沈着 → 硬化。

形態

  • +の分布。
  • 罹患糸球体:の増加、の消失、。
  • 後期:びまん性硬化++。
  • :の消失・剥離。
  • IF:()にIgM+C3。

臨床経過

  • 血尿+高血圧。
  • 10年以内に50%がへ(講義の値)。
  • ステロイド反応はより劣る。ただし 2021は一次性FSGSにも高用量経口グルココルチコイドを第一選択の免疫抑制療法として推奨し(1D)、一次性FSGSの成人の多くは免疫抑制に反応するとしている。一方、遺伝性FSGSはグルココルチコイド抵抗性が一貫した所見である2。

膜性腎症(膜性GN)

定義

  • 免疫複合体のによるGBMのびまん性肥厚。
  • 、30〜50歳に最多。
  • 成人(非糖尿病)の一次性の主要な原因。白人成人では最多とされるが、人種・地域で頻度は異なる(アフリカ系ではFSGSが多い)。
  • 実験モデル = Heymann腎炎(の抗原への抗体による上皮下免疫複合体形成モデル。ヒトの主要抗原として同定されたのは別分子のPLA2R——「抗原へのその場免疫複合体」という機序は共通するが、抗原そのものは同一ではない)。
  • 疾患としての全体像(別の分類、二次性スクリーニング、 2021のと治療)はを参照。
  • は診断の位置づけを変えた — 2021は、でが陽性ならの確定診断に腎生検を要しないとする。ただし・抗THSD7A抗体の有無にかかわらず、悪性腫瘍・感染・薬剤・自己免疫などの関連疾患の評価は行う2。根拠の一つになったでは、二次性の原因の精査が陰性で腎機能が保たれた抗体陽性例に対し、腎生検はを変える情報をほとんど加えなかった(著者は前向き研究での検証が必要とも述べる)4。

原因

  • 一次性(特発性)が多数を占める(教科書的には約75%)。一次性の約70〜80%が陽性とされ、最初の報告では特発性37例中26例(70%)の血清がPLA2Rを認識し、二次性では認識しなかった5。PLA2R以外の抗原(THSD7Aなど)に対する抗体も知られている2。
  • 二次性:

発生機序

  • 慢性免疫複合体腎炎。
  • → 補体 → MAC(C5b-9) → ・の活性化 → プロテアーゼ・酸化物質 → の透過性亢進。

形態 — GBM肥厚の段階

  1. :上皮下が状のGBM突出に挟まれる。
  2. 取り込まれた沈着:が新しい基底膜を敷く → 免疫複合体が取り込まれる。
  3. 溶解した沈着:マクロファージが免疫複合体を除去 → 孔のある厚いGBM、硬化+。
  • IF:GBMに沿ったIgG+C3。

臨床経過

  • 非選択的 → ネフローゼ。
  • 10〜30%が、40%が2〜20年で慢性GNへ(講義の値)。
  • ステロイド単独ではのような反応を期待できない。 2021は、蛋白尿3.5 g/日未満・30 g/L超(BCP法または)・ 60超の例には免疫抑制療法を要しないとし、進行リスク因子を1つ以上持つ例にはリツキシマブ、+隔月グルココルチコイド(6か月)、またはを基盤とする治療(6か月以上)を推奨する(1B)2。

膜性増殖性GN(MPGN)

定義

  • GBMの分裂+の介入による・「」外観を伴うGBM肥厚。
  • +内皮の増殖+を伴うの糸球体。

I型MPGN

  • のの高い沈着。
  • による → 。
  • 原因:HBV、HCV、SLE、他の、。

II型MPGN(高密度沈着病)

  • GBMのがに → 「」。
  • 発生機序:(自己抗体、しばしばIgG)がを安定化 → 持続的な代替 → 血清C3低下。
  • IF:顕著なC3沈着(Igはわずか)。

臨床経過

  • 50%がで発症。
  • 40%が慢性GN・へ進行。
  • 30%が様々な程度の腎不全。
  • 全体として予後不良。

⚠️ 現行の分類との対応:所見によるI/II/III型という区分は形態学的な記述として今も教育上有用だが、現行のは所見に基づく機序別(免疫複合体性MPGN vs 補体性)を優先する。旧来の「II型(高密度沈着病)」は2013年以降、代替補体経路の異常によるの一病型であるとして再分類されており、にはIF・EMパターンが異なるもう一方の病型C3腎炎も含まれる。診断・治療方針はパターンよりも、免疫複合体性か補体制御異常かの機序で決める。

簡易比較 — ネフローゼの原因

疾患 ・形態 IF ステロイド
小児2〜6歳 のみ 陰性 非常に良好
FSGS 、、肥満、アフリカ系成人(APOL1) IgM+C3(硝子) より劣る(遺伝性は抵抗性)
膜性 成人、、SLE、悪性腫瘍 上皮下 IgG+C3 単独では不良(リツキシマブなどを用いる)
MPGN I型 HBV、HCV、SLE 、 IgG+C3 様々
MPGN II型 小児・若年 の高密度沈着 C3のみ() 不良

💡 ポイント: ネフローゼ = (約3.5 g/日)+(約3.0 g/dL)が必須、浮腫・・を伴うことが多い、+・感染リスク。 = 小児、、、ステロイド反応性。FSGS = //APOL1、の、ステロイド反応はより劣る(遺伝性は抵抗性)。膜性 = 成人、、抗PLA2R(または/SLE/悪性腫瘍/)。MPGN I型 = /、、。MPGN II型 = 、膜内高密度沈着。

まとめ

  • はとを必須とし(日本の成人:3.5 g/日以上・3.0 g/dL以下、 2021:3.5 g/日超・3.0 g/dL未満)、・・を伴うことが多い。起点は透過性亢進である。
  • は浮腫(からの悪循環)と代償性の・の両方を引き起こす。
  • ・IgGの喪失によりと感染リスクが高まる。
  • は小児に多く、でのみを認め、ステロイドに高反応性である。
  • FSGSは非選択的・血尿・高血圧を伴い、ステロイド反応はより劣り(遺伝性は抵抗性)、10年以内に50%がへ進行する(講義の値)。
  • は成人の一次性の主要な原因で、一次性が多数を占め、一次性の約70〜80%が陽性とされる(で抗体陽性なら確定に生検を要しない)。GBMの「」形成が特徴である。
  • MPGNはGBMの「」を特徴とし、I型は、II型(高密度沈着病)はによる持続的なが機序である。

出典

  1. 1.Evidence-Based Clinical Practice Guidelines for Nephrotic Syndrome 2014(日本腎臓学会(Japanese Society of Nephrology)・2014)学会が公開している英語版PDFのTable 1(成人ネフローゼ症候群の臨床的定義)で、尿蛋白3.5 g/日以上の持続(随時尿で3.5 g/gCr以上に相当)と血清アルブミン3.0 g/dL以下の低アルブミン血症が診断に不可欠の前提条件、浮腫は必須ではないが重要な所見、脂質異常(高LDLコレステロール血症)は必須ではない、卵円形脂肪体は診断の助けになる、とされていることを確認した。同じ文書の序論の散文は「>3.5 g/day」「<3.0 g/dL」と書いており、表と不等号が割れている。閲覧 2026-09-24
  2. 2.KDIGO 2021 Clinical Practice Guideline for the Management of Glomerular Diseases(KDIGO・2021)KDIGOの公開する全文PDF(Kidney International 2021;100(4S):S1–S276)で次を確認した。第6章はネフローゼ症候群を蛋白尿3.5 g/日超+低アルブミン血症(30 g/L未満)とし、脂質異常と浮腫はしばしば伴うが必須ではないとする。膜性腎症では、Practice Point 3.1.1がネフローゼ症候群で抗PLA2R抗体陽性なら確定診断に腎生検を要しないとし、3.1.2が抗PLA2R抗体・抗THSD7A抗体の有無にかかわらず関連疾患を評価するとし、3.3.2が蛋白尿3.5 g/日未満・血清アルブミン30 g/L超(BCP法または免疫測定法による)・eGFR 60超では免疫抑制療法を要しないとし、Recommendation 3.3.1が進行リスク因子を1つ以上持つ例にリツキシマブ、シクロホスファミド+隔月グルココルチコイド6か月、またはCNIを基盤とする治療6か月以上を推奨する(1B)。成人の微小変化型では5.1.1が腎生検でのみ診断できるとし、本文が光顕で糸球体病変が無いかメサンギウムがわずかに目立つ程度、蛍光抗体法で陰性か弱いC3・IgM染色、電顕で広範な足突起消失と高電子密度沈着物の欠如を特徴として挙げ、5.3.1が初期治療に高用量経口グルココルチコイドを推奨する(1C)。成人の巣状分節性糸球体硬化症では、6.2.2.1が一次性FSGSの第一選択の免疫抑制療法として高用量経口グルココルチコイドを推奨し(1D)、本文は一次性FSGSの成人の多くが免疫抑制に反応する一方、遺伝性FSGSではグルココルチコイド抵抗性が一貫した所見であると述べ、6.2.1.1は原因不明のFSGS(FSGS-UC)と二次性FSGSに免疫抑制を用いないとする。閲覧 2026-09-24
  3. 3.APOL1 Genetic Variants in Focal Segmental Glomerulosclerosis and HIV-Associated Nephropathy(Journal of the American Society of Nephrology・2011)アフリカ系アメリカ人271例・ヨーロッパ系アメリカ人168例・対照939例の解析で、APOL1リスクバリアントを2つ持つ場合の巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)のオッズ比は17倍(95%CI 11〜26)、HIV関連腎症(HIVAN)のオッズ比は29倍(95%CI 13〜68)であったこと、リスクアレルを2つ持つ人のFSGS生涯発症リスクは推定4%、未治療HIV感染者のHIVAN発症リスクは50%であることを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.Noninvasive diagnosis of primary membranous nephropathy using phospholipase A2 receptor antibodies(Kidney International・2019)抄録で、Mayo Clinicで抗PLA2R抗体を測定した838例の後ろ向き解析で陽性143例のうち腎生検132例の主診断はすべて膜性腎症であり、二次性の原因の精査が陰性でeGFR 60超の60例では、腎生検が治療方針を変える情報をほとんど加えなかった(糖尿病性腎症の合併1例、FSGS病変の合併1例)ことを確認した。結論は、腎機能が保たれ二次性の原因の証拠が無い例では抗PLA2R抗体陽性がPLA2R関連膜性腎症の組織診断を強く予測するとしつつ、非侵襲的診断として使えるかは前向き研究での検証が必要としている。閲覧 2026-08-27
  5. 5.M-Type Phospholipase A2 Receptor as Target Antigen in Idiopathic Membranous Nephropathy(New England Journal of Medicine・2009)特発性膜性腎症患者37例中26例(70%)の血清が正常ヒト糸球体抽出液中の185-kDタンパク質を特異的に認識し、質量分析でM型ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)と同定されたこと、抗PLA2R自己抗体は主にIgG4サブクラスで糸球体の免疫沈着物と共局在すること、二次性膜性腎症の血清では検出されなかったことを確認した閲覧 2026-08-27