病理学

病理学 · C/59

腎炎症候群(ネフリティック)

The nephritic syndrome

応用トピック
糸球体疾患急性・急速進行性・慢性糸球体腎炎血尿
疾患
ネフリティック症候群

🧠 全体像:は「炎症によるの傷害」が本質で、血尿・高血圧・軽度という三徴はすべてここから説明できる。GNとIgA腎症は、いずれも免疫複合体性のだが、感染からの潜伏期(咽頭炎後1〜2週・皮膚感染後2〜6週 vs 感染とほぼ同時の1〜2日)、補体(C3低下 vs 正常)、(上皮下 vs )が鑑別の手がかりになる。

定義

  • 糸球体の炎症による、急性発症の一連の臨床徴候・症状。

臨床像

  • を伴う血尿(±)
  • 高血圧()
  • 軽度+軽度浮腫(ネフローゼより軽い)
  • 一部で乏尿+

形態(概要)

  • 糸球体細胞の増殖(内皮+)。
  • → の傷害 → (血尿)→ 低下 → 乏尿、。
flowchart TD
    A["糸球体の炎症<br>(内皮・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mesangial cells'>メサンギウム細胞</span>増殖)"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leukocyte infiltration'>白血球浸潤</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='capillary wall'>毛細血管壁</span>の傷害"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erythrocyte extravasation'>赤血球漏出</span>→血尿"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glomerular filtration rate'>GFR</span>低下"]
    E --> F["乏尿・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Azotemia'>高窒素血症</span>"]

原因

  • 感染後GN — 代表:GN。
  • 一次性GN — 代表:IgA腎症(Berger病)。

急性感染後(溶連菌感染後)GN

病因

  • 古典的:(株)。
  • ほかに:肺炎球菌、ブドウ球菌、ウイルス(HBV、HCV)の抗原。

発生機序

  • 免疫複合体(+抗体)が糸球体に形成される。循環中で形成された複合体の沈着に加え、先に糸球体へ沈着した菌抗原に抗体が結合する「その場」形成も考えられている。
  • 古典的な部位:上皮下「(humps)」。
  • (主に。一部の患者ではも)→ C3が消費されて血清C3が低下1 → 炎症細胞動員 → 細胞傷害 → 増殖。
  • IF:IgG+C3の。
  • との鑑別:では扁桃炎 → 抗抗体が心臓抗原と()→ GNではない。

形態

  • 上皮下「」():。
  • 糸球体の:内皮+の増殖+好中球+単球浸潤。
  • IF:GBM・に沿ったIgG+C3。

臨床経過

  • や咽頭炎・として始まる。
  • 潜伏期を置いて(咽頭感染後は1〜2週、皮膚感染後は2〜6週とやや長い。臨床研究ではなくの合意に基づく値である2。後7〜10日・皮膚感染後2〜4週とする資料もある1):突然の腎疾患+、発熱、悪心、腎炎所見(乏尿、血尿、、軽度高血圧、軽度浮腫)。
  • 検査:C3低下(90%超の症例で、ASO上昇より早く見つかることが多い2)、ASO力価上昇、。
  • 予後:大多数が完全回復(特に小児、マクロファージによる除去で)。
    • 約2%がRPGNへ進行
    • 10〜50%が慢性GNへ(成人で多い)

IgA腎症(Berger病)

定義

  • 世界で最も多い一次性糸球体疾患3で、へのIgA沈着を特徴とする。有効な血清・尿が無く、診断は腎生検でしかつけられない4。
  • 典型的なの一つは、非特異的なの1〜2日以内に出る(感染と同時期に出る)。一方、尿検診の・軽度蛋白尿を契機に見つかる例もあり、系統的な尿検診が普及したアジア諸国で頻度が高く算出される一因になっている3。

発生機序

  • IgA産生+クリアランスの異常。
    • IgA = 主要な粘膜Ig、産生増加で血清値上昇。
    • IgA1の異常な → 性の高いIgA。
  • への高IgA沈着 → 補体のの活性化(C1q/C4なし)→ 糸球体傷害。

形態

  • の拡大+細胞増殖。
  • IF:のIgA+C3沈着。
  • にはOxford分類()——(M)・(E)・(S)・/(T)・(C)——が用いられる5。 2025も生検報告にを付けるよう求めている4。

臨床経過

  • 小児・若年成人を侵す。
  • 10〜15% → 。
  • 25〜50% → 慢性GNへの緩徐進行。
  • ⚠️ 蛋白尿が少なくても安心できない。英国の登録コホートでは、時間平均の蛋白尿が0.5〜1.0 g/日未満の患者の30%、0.5 g/日未満でも約20%が診断から10年以内に腎不全に至った4。
  • 関連疾患:IgA血管炎(旧称Henoch-Schönlein紫斑病)= IgA沈着を伴うで、皮膚(紫斑)・関節・腸管(腹痛)・腎を侵す。小児で最も多い血管炎で、16歳未満では自然軽快することが多いが、成人は重く再発しやすい。腎病変の組織像はIgA腎症と区別できない4。

溶連菌感染後とIgA — 簡易比較

特徴 GN IgA腎症
感染後の発症 咽頭炎後1〜2週・皮膚感染後2〜6週 1〜2日後(synpharyngitic)
年齢 小児 小児+若年成人
沈着 上皮下(IgG+C3) IgA+C3
補体 C3低下(主にの活性化) 正常C3(局所の)
血清学 ASO上昇、 特異的なものなし
予後 多くは回復 25〜50%が慢性GNへ進行

💡 ポイント: 腎炎性 = 血尿+高血圧+軽度+乏尿/。GN:咽頭炎の1〜2週後・の2〜6週後、上皮下、C3低下・ASO上昇、小児、通常自然軽快。IgA腎症:の1〜2日後、IgA沈着、、反復性血尿、25〜50%が慢性GNへ。IgA血管炎(旧称HSP)= 紫斑+関節炎+腹痛+腎炎(腎の組織像はIgA腎症と同じ)。

まとめ

  • は糸球体のにより、を伴う血尿、高血圧、軽度・浮腫を呈し、一部で乏尿・を伴う。
  • による傷害が(血尿)と低下(乏尿・)を同時に説明する。
  • GNは咽頭炎の1〜2週後・皮膚感染の2〜6週後に発症し、上皮下「」・C3低下・ASO上昇を特徴とし、多くは自然軽快する。
  • IgA腎症(Berger病)は世界で最も多い一次性糸球体疾患で、の1〜2日後(synpharyngitic)のや検診の尿異常で見つかり、診断には腎生検を要する。へのIgA沈着が特徴で、25〜50%が慢性GNへ進行し、蛋白尿が少なくても10年で腎不全に至る例がある。
  • IgA血管炎(旧称Henoch-Schönlein紫斑病)は・関節炎・腹痛・腎炎を来すで、小児で最も多い血管炎である。成人は重く再発しやすく、腎病変の組織像はIgA腎症と区別できない。

出典

  1. 1.Post-Streptococcus pyogenes Glomerulonephritis(Streptococcus pyogenes: Basic Biology to Clinical Manifestations, 2nd edition (University of Oklahoma Health Sciences Center)・2022)ライブページはreCAPTCHAで止まるため、Waybackの2026年3月18日保存版で全文を確認した。補体系の活性化は糸球体内の抗原抗体反応の結果で、急性溶連菌感染後糸球体腎炎では通常は第二経路が活性化されC3値が低下すること、一部の患者ではC1・C4の低下とメサンギウムのマンノース結合レクチン染色としてレクチン経路の活性化の証拠もあることを確認した。潜伏期は上気道感染後7〜10日、皮膚感染後2〜4週と書いている。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Acute poststreptococcal glomerulonephritis: the most common acute glomerulonephritis(Pediatrics in Review・2015)抄録で、溶連菌感染後糸球体腎炎の潜伏期は感染部位により異なり咽頭感染後は1〜2週、皮膚感染後は2〜6週とやや長いこと、C3低下は90%超の症例でみられ抗ストレプトリジンO抗体価の上昇より早期に検出されやすいこと、小児の予後は長期的にも概して良好であることを確認した。潜伏期の値は臨床研究ではなく主に専門家の合意に基づくと明記している(OpenAlexに残る本文の抜粋では皮膚感染後を「3〜6週」と書いており、抄録の「2〜6週」と割れている)閲覧 2026-08-27
  3. 3.Epidemiology of IgA Nephropathy: A Global Perspective(Seminars in Nephrology・2018)IgA腎症(Berger病)は世界で最も多い一次性糸球体疾患であるが地域差が大きく、系統的レビューでは日本で人口100万人あたり年間45例、フランスで31例と、尿検診が普及したアジア諸国で頻度が高く算出される傾向があることを確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.KDIGO 2025 Clinical Practice Guideline for the Management of Immunoglobulin A Nephropathy (IgAN) and Immunoglobulin A Vasculitis (IgAV)(KDIGO・2025)KDIGOの公開する全文PDF(Kidney International 2025;108(4S):S1–S71)で、IgA腎症を世界で最も多い一次性糸球体疾患のパターンとし、Practice Point 1.2.1が有効な血清・尿バイオマーカーが無いため腎生検でしか診断できないとし、改訂Oxford分類に従いMEST-Cスコアを付けるよう求めること、英国の登録コホートでは時間平均の蛋白尿が0.5〜1.0 g/日未満の患者の30%、0.5 g/日未満の患者の約20%が診断から10年以内に腎不全に至ったと述べることを確認した。IgA血管炎(旧称Henoch-Schönlein紫斑病)は皮膚・関節・腸管・腎の小血管を主に侵す血管炎で小児で最も多く、16歳未満では自然軽快が多い一方で成人は重く再発しやすく、腎病変の組織像はIgA腎症と区別できないと述べる。閲覧 2026-09-24
  5. 5.Oxford Classification of IgA nephropathy 2016: an update from the IgA Nephropathy Classification Working Group(Kidney International・2017)IgA腎症の腎生検病理をメサンギウム細胞増多(M)・管内細胞増多(E)・分節性硬化(S)・尿細管萎縮/間質線維化(T)の4項目で評価する2009年のOxford分類(MEST)に、2016年の改訂で半月体(C)の項目が追加されMEST-Cとなったこと、生検適格条件が糸球体8個以上であることを確認した閲覧 2026-08-27