病理学

病理学 · C/58

糸球体疾患の発症機序

Pathogenesis of glomerular diseases

応用トピック
糸球体疾患腎疾患の鑑別診断ネフローゼ症候群と蛋白尿性疾患血尿の鑑別診断小児糸球体疾患小児糸球体疾患
疾患
巣状分節性糸球体硬化症
検査値
腎生検

🧠 全体像:糸球体疾患は「臨床像」「組織像」「免疫機序」という3つの独立したレンズで記述する。同じ疾患でも臨床的にはネフローゼ、組織学的には膜性、免疫学的には抗原に対するその場免疫複合体性、というように3層が同時に成り立つ点を押さえると、各分類の使い分けに迷わない。

分類の3つのアプローチ

糸球体疾患の分類は専門分野で異なる:

  1. 臨床的 — 臨床医が見るもの(検査、症状)
  2. 組織学的 — 病理医が見るもの
  3. 免疫学的 — 免疫機序

臨床的分類

A)急性腎炎症候群

  • 血尿(肉眼的なことも顕微鏡的なこともある。・は糸球体由来を示す)
  • 軽度
  • 軽度高血圧
  • 一部で乏尿・

B)急速進行性糸球体腎炎

  • 数日〜数週での急速な腎機能喪失。
  • 未治療 → ・死。
  • 症状:乏尿・、血尿、。
  • の形態 — 重度の毛細血管傷害 → フィブリンの漏出 → Bowman嚢の増殖 → 。

C)ネフローゼ症候群

  • +が必須の2項目。閾値は文書で書き方が違い、日本の成人の臨床的定義は尿蛋白3.5 g/日以上・3.0 g/dL以下1、 2021は3.5 g/日超・30 g/L(3.0 g/dL)未満である2(詳細は)。
  • (の低下)。どちらの文書でも浮腫と脂質異常は重要だが必須ではない。
  • (代償性の肝合成)→ ()。

D)無症候性血尿・タンパク尿

  • 症状なし、軽度の尿異常のみ。

E)慢性糸球体腎炎

  • 、遷延する。

組織学的分類

A)糸球体の細胞増多

  • 以下の細胞増殖:
    • 毛細血管内皮細胞
    • 上皮細胞(壁側・臓側)
  • :好中球、単球、リンパ球。

B)GBM(糸球体基底膜)肥厚

  • 線状(抗GBM)またはびまん性(免疫複合体)の肥厚。
  • 上皮下またはの。

C)硝子化・硬化

  • 毛細血管が組織に置換 → 硬化。
  • の(硝子)。
  • 末期疾患の特徴。

分布の記述子:

用語 意味
一部の糸球体のみが侵される
びまん性 すべての糸球体が侵される
糸球体の一部のみ
糸球体全体

免疫学的分類

抗体介在性傷害の3機序:

  1. 循環抗原-抗体免疫複合体の沈着(III型過敏)
  2. そのでの抗体反応(固定された内在抗原または植え込み抗原に対する)
  3. 糸球体細胞成分に対する抗体

A)循環免疫複合体GN(III型過敏)

  • 抗原は糸球体由来でない:
    • 内因性:例、SLE(抗)
    • 外因性:細菌、ウイルス、寄生虫
  • 複合体が循環中で形成 → 糸球体に沈着 → 補体+白血球の活性化 → 傷害。
  • :、上皮下、。
  • 蛍光抗体(IF):。
  • 複合体は白血球・で分解・貪食されうる。

B)その場免疫複合体GN

GN

植え込まれた非糸球体抗原に対する抗体

  • 抗原が糸球体に沈着し、循環抗体と反応。
  • 内因性:DNA、IgA。
  • 外因性:、凝集タンパク、薬物。
  • IF:主に、線状のことも。

Heymann腎炎(膜性GNの実験モデル)

  • をの抽出物で免疫する()か、その抽出物に対してウサギで作った抗体をへ投与する()と膜性GNが起こる。標的のはにものにも発現しているため、抗体が表面の抗原にその場で結合してをつくる。
  • ヒトのでも同じ「抗原に対するその場免疫複合体」の構図が当てはまるが、抗原はではない。主要抗原として同定されたのはに発現するM型受容体(PLA2R)で、特発性37例中26例(70%)の血清がこれを認識した4。
  • IF:。

C)糸球体細胞に対する抗体

  • 内皮・・上皮細胞の抗原に抗体が直接結合して傷害する機序(主に実験モデルで示されてきた)。
  • 講義では関連血管炎をこの枠で扱うが、⚠️ ()の標的は名前のとおり好中球の細胞質抗原(MPO・PR3)で、糸球体細胞そのものではない。に活性化された好中球がを傷害するため、ではが乏しい(少数免疫型)。少数免疫型のは、大半の例で循環が見つかる病とよく対応する3。関連糸球体腎炎の組織像は、国際腎病理ワーキンググループにより・型・混合型・の4カテゴリーに分類されている5。

D)抗体以外の機序

  • の制御異常:免疫グロブリンの沈着が乏しくC3が優位に沈着する(。のMPGNの項)。
  • 傷害:やでは、免疫複合体ではなくの傷害が起点になる。

クイックリファレンス — IFパターン

💡 ポイント: 糸球体疾患 → 5つの臨床像(腎炎性、RPGN、ネフローゼ、無症候性、慢性)。病理学的特徴 = 、GBM肥厚、硬化、/びまん性+/で記述。3つの免疫機序:(IF、III型)、その場(線状IF = 抗GBM → Goodpasture、 = Heymann/膜性)、血管炎(沈着が乏しい少数免疫型。の標的は好中球抗原)。

まとめ

  • 糸球体疾患は臨床的(・・・/・慢性GN)、組織学的(・GBM肥厚・硬化)、免疫学的(・その場免疫複合体・糸球体細胞への抗体)の3つの独立した軸で分類する。
  • 分布は/びまん性(侵される糸球体の割合)と/(1つの糸球体内での範囲)で記述する。
  • 蛍光抗体パターンは機序を反映する:線状IgG=()、=免疫複合体、沈着が乏しい=関連血管炎(の標的は好中球のMPO・PR3で、糸球体細胞ではない)。
  • Heymann腎炎は膜性GNの実験モデルで、の抗原への抗体がその場で免疫複合体をつくる。ヒトの主要抗原は別分子のPLA2Rである。
  • の必須項目はとで、閾値の書き方は日本の基準(3.5 g/日以上・3.0 g/dL以下)と 2021(3.5 g/日超・3.0 g/dL未満)で異なる。

出典

  1. 1.Evidence-Based Clinical Practice Guidelines for Nephrotic Syndrome 2014(日本腎臓学会(Japanese Society of Nephrology)・2014)学会が公開している英語版PDFのTable 1(成人ネフローゼ症候群の臨床的定義)で、尿蛋白3.5 g/日以上の持続(随時尿で3.5 g/gCr以上に相当)と血清アルブミン3.0 g/dL以下の低アルブミン血症が診断に不可欠の前提条件、浮腫は必須ではないが重要な所見、脂質異常(高LDLコレステロール血症)は必須ではない、卵円形脂肪体は診断の助けになる、とされていることを確認した。同じ文書の序論の散文は「>3.5 g/day」「<3.0 g/dL」と書いており、表と不等号が割れている。閲覧 2026-09-24
  2. 2.KDIGO 2021 Clinical Practice Guideline for the Management of Glomerular Diseases(KDIGO・2021)KDIGOの公開する全文PDF(Kidney International 2021;100(4S):S1–S276)で、第6章がネフローゼ症候群を「蛋白尿3.5 g/日超に低アルブミン血症(30 g/L未満)を伴うもの。脂質異常と浮腫はしばしば伴うが必須ではない」と定義していることを確認した。閲覧 2026-09-24
  3. 3.Crescentic Glomerulonephritis: an update on Pauci-immune and Anti-GBM diseases(Advances in Anatomic Pathology・2012)半月体形成性糸球体腎炎の鑑別カテゴリーは少数免疫型・抗GBM腎炎・免疫複合体型の3つで、光学顕微鏡の半月体所見自体ではなく腎生検の蛍光抗体法と電子顕微鏡で区別されること、沈着に乏しい少数免疫型GNは大半の患者で病原性の循環ANCAが同定されANCA病とよく対応すること、抗GBM腎炎はIV型コラーゲンα3鎖のGBMエピトープに対する抗体により生じ蛍光抗体法でGBMに沿った線状IgG沈着を示すことを抄録で確認した閲覧 2026-08-27
  4. 4.M-Type Phospholipase A2 Receptor as Target Antigen in Idiopathic Membranous Nephropathy(New England Journal of Medicine・2009)抄録で、特発性膜性腎症患者37例中26例(70%)の血清が正常ヒト糸球体抽出液中の185-kD糖タンパク質を特異的に認識し、質量分析でM型ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)と同定されたこと、二次性膜性腎症の血清では認識されなかったこと、PLA2Rは正常ヒト糸球体のポドサイトに発現し免疫沈着物でIgG4と共局在すること、結論としてPLA2Rを本症の主要抗原としていることを確認した。背景では標的抗原が不明なことが血清診断を阻んでいたと述べる。ラットHeymann腎炎の抗原メガリンとの比較は抄録に無い(全文はこの実行では取得できなかった)。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Histopathologic classification of ANCA-associated glomerulonephritis(Journal of the American Society of Nephrology・2010)国際腎病理ワーキンググループがANCA関連糸球体腎炎の組織分類としてfocal・crescentic・mixed・scleroticの4カテゴリーを提唱したこと、この病理は免疫複合体沈着に乏しい(蛍光抗体法で無沈着に近い)ことを特徴とすることを確認した閲覧 2026-08-27