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Disease Atlas · 腎・泌尿器 · 疾患

膜性腎症

Membranous nephropathy

別名
MN膜性糸球体腎炎
臓器系
腎・泌尿器
科目
PathologyInternal MedicinePediatrics
トピック
病理学 C/60:ネフローゼ症候群内科学 N-01:糸球体疾患内科学 N-03:腎疾患の鑑別診断内科学 S-20:ネフローゼ症候群と蛋白尿性疾患病理学 C/56:末期腎・腎不全小児科 45:小児糸球体疾患
上位概念
ネフローゼ症候群
鑑別疾患
アミロイドーシス全身性エリテマトーデス巣状分節性糸球体硬化症糖尿病糖尿病性腎症膜性増殖性糸球体腎炎
続発疾患
深部静脈血栓症肺血栓塞栓症慢性腎臓病
治療薬
リツキシマブシクロホスファミドプレドニゾロンメチルプレドニゾロンタクロリムス
原因薬剤
ペニシラミン
原因微生物
HBV
症状
浮腫
検査値
アルブミンクレアチニン抗体価補体C1q腎生検

🧠 全体像は「の間、上皮下への」という単一の場所的特徴を持つ疾患で、でのIgG沈着とでの「」形成はこの一点から演繹できる。2009年のの同定以降、本症は「原因不明の免疫複合体性腎炎」から「標的抗原ごとに層別化される自己免疫疾患」へと組み替えられた。臨床の核心は、①によって生検なしに診断できる場合があること、②標的抗原の同定自体が二次性原因(悪性腫瘍=THSD7A・NELL-1、ループス=EXT1/EXT2・NCAM1、小児=)を絞り込む手がかりになること、③自然寛解が起こり得る疾患であるため「一律に様子を見る」旧来のアプローチから、KDIGO 2021のに基づくへ移ったことである。

標的抗原による分類(一次性)

一次性は単一疾患ではなく、標的とされる抗原によって複数の血清学的に分かれる。

標的抗原 一次性MNに占める割合の目安 臨床的含意
PLA2R(M型受容体) 約70〜80% 最多。が診断・活動性・治療反応の指標になる
THSD7A(トロンボスポンジン1型ドメイン含有7A) 5%未満 PLA2R陰性例の一部。悪性腫瘍関連例で比較的多い
NELL-1(neural EGF-like 1) PLA2R陰性例の一部 悪性腫瘍関連で最も高頻度に検出される抗原
(SEMA3B) 非ループス小児の一部 乳幼児期(しばしば2歳未満)発症の小児例で報告される
(PCDH7)など データ蓄積中 近年報告された新規抗原で、臨床的意義は未確立

⭐ PLA2R抗体陽性という所見だけで「特発性(一次性)」と決めつけてはならない。PLA2R抗体はまれに悪性腫瘍関連例でも検出されるため、抗体陽性であっても年齢相応の悪性腫瘍スクリーニングは省略しない。

一次性・二次性の鑑別と二次性スクリーニング

二次性では、クラスV(膜性型)で検出されるEXT1/EXT2(純粋なループスのおよそ3割)・NCAM1(数%程度)という標的抗原が近年同定され、二次性の機序にも標的抗原の枠組みが広がっている。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='nephrotic syndrome'>ネフローゼ症候群</span>+膜性パターンの腎生検所見"] --> B["血清<span class='jp-term jp-term-diagram' title='anti-PLA2R antibody'>抗PLA2R抗体</span>・抗THSD7A抗体を測定"]
    B --> C{"抗体陽性かつ非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='typical finding'>典型所見</span>なし"}
    C -->|"はい"| D["一次性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='membranous nephropathy'>膜性腎症</span>として管理"]
    C -->|"いいえ・非<span class='jp-term jp-term-diagram' title='typical finding'>典型所見</span>あり"| E["二次性スクリーニングを追加"]
    E --> F["HBV・HCV・梅毒などの感染症血清学"]
    E --> G["ANA・抗dsDNA抗体・補体(ループスV型)"]
    E --> H["年齢相応の悪性腫瘍スクリーニング"]
    E --> I["薬剤歴の確認(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='D-penicillamine'>ペニシラミン</span>・NSAIDs・金製剤など)"]
    F --> J["原因が同定されれば原疾患を治療"]
    G --> J
    H --> J
    I --> J
    D --> K["KDIGO<span class='jp-term jp-term-diagram' title='risk stratification'>リスク層別化</span>に基づく治療へ"]

💡 二次性を疑う非とは、IF/EMでのの混在、C1q陽性、IgG1・IgG3優位(一次性はIgG4優位)、若年発症、補体低下などである。これらがそろえば、が陰性でなくても二次性検索を進める。

⚠️ 悪性腫瘍随伴性は、高齢発症・喫煙歴・THSD7AまたはNELL-1陽性例、あるいはPLA2R陰性例で特に疑う。の治療がすると腎症も寛解し得るため、悪性腫瘍の検索は免疫抑制の開始前に済ませておく。

病理

Ehrenreich–Churg病期

(メセナミン銀)でGBMの)を確認し、でのGBM肥厚パターンをI〜IV期に分ける。

病期 所見
I期 上皮下にまばらな小さい沈着
II期 沈着物を挟む状のGBM突出(
III期 沈着物がGBM内に取り込まれ膜内に埋没
IV期 沈着物が吸収され、GBMに孔・不整な肥厚と硬化を残す
  • :GBMに沿うIgG+C3。
  • IgGサブクラス:一次性はIgG4優位C1qは通常陰性。二次性(ループスなど)はIgG1・IgG3優位でC1q陽性となりやすく、サブクラス分析が一次性・二次性の鑑別材料になる。

💡 IgG4はC1qを結合・活性化できないサブクラスであるため、一次性ではが中心となり、の指標であるC1qは陰性にとどまる。C1q陽性は二次性を強く示唆する所見として使える。

診断:抗PLA2R抗体による非生検診断

  • 典型的な+高値の血清があり、前述の非がなければ、腎生検を省略して診断できる
  • はELISAやで定量し、治療開始後3か月の時点で再評価するのがKDIGO 2021の基本方針である。
  • による活動性モニタリング:の陰性化・低下)は(蛋白尿の改善)に数か月先行する。が治療後も高値・上昇のまま推移する場合は、追加治療(同一薬剤の追加投与や併用)を検討する根拠になる。
  • 腎機能低下が急速、非がある、抗体陰性などの場合は腎生検で確定診断とする。

⭐ 「の低下・陰性化がまず起こり、蛋白尿の改善はそれに遅れて追いつく」という時間差を理解していないと、抗体は下がっているのに蛋白尿がまだ残っている段階で治療を「無効」と誤判定し、不要な薬剤変更をしてしまう。

KDIGO 2021のリスク層別化と治療

KDIGOは一次性を、蛋白尿・eGFRの推移・価から低リスク//高リスク/に層別化して決める方式へ切り替えた。

リスク 目安となる所見 治療の方向
低リスク 正常に近いeGFR、軽度〜中等度の蛋白尿、が低値・陰性 など支持療法のみで経過観察。自然寛解率が高い
が持続、eGFRは正常〜軽度低下、は中等度 支持療法を継続しつつ経過観察し、進行があれば免疫抑制を追加
高リスク が持続、eGFRが低下傾向、が高値 リツキシマブ、のいずれかを開始
eGFRが急速に低下 より強力な免疫抑制(+ステロイドなど)を早期から優先

⚠️ の単独投与は、腎機能正常かつまでの患者に限られる適応であり、高リスク・の単独治療として用いてはならない。

自然経過:「3分の1則」の現在

古典的な「3分の1則」(自然寛解1/3、蛋白尿持続のまま1/3、進行しへ1/3)は今も大枠の目安として引用されるが、に基づく現代の管理下では一様ではない

  • 低リスク群では支持療法のみで自然寛解率がおよそ7割程度まで高まりへの進行はごくわずかにとどまる。
  • 群は寛解率自体は3割程度にとどまり、倍化やへの進行ができない割合で起こる。

💡 この差は、古典的な「3分の1則」がもともと未治療・無選別のコホートの平均像であり、実際にはリスクの低い患者と高い患者を一緒くたにした数字だったことを意味する。KDIGO 2021が固定期間の「様子見」からへ舵を切ったのは、治療前にこのを見分けるためである。

血栓症リスク

は、同程度の蛋白尿・を伴う他のの病型と比べてものリスクが最も高い病型である。一般的な・抗凝固の考え方はを参照。

まとめ

  • はGBM上皮下へのによる疾患で、一次性が約75〜80%を占め、そのうち約70〜80%が陽性である。
  • THSD7A・NELL-1は悪性腫瘍関連例、は乳幼児期の小児例、EXT1/EXT2・NCAM1はループスで検出される標的抗原であり、抗原の同定自体が二次性検索の手がかりになる。
  • 病理はEhrenreich–Churg病期(I〜IV期)で評価し、IgGサブクラス(一次性はIgG4優位・C1q陰性)が一次性・二次性の鑑別に役立つ。
  • 典型的な+高値があれば生検なしに診断できる場合があり、は治療反応・寛解のモニタリングに用いる(に先行する)。
  • KDIGO 2021は低〜の層別化に基づき、リツキシマブ、modified +ステロイド)、を選択する。
  • 「3分の1則」は現代の管理下では一様でなく、低リスク群は自然寛解率が高い一方、以上では進行リスクができない。
  • のリスクはの病型の中で最も高い。