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Disease Atlas · 免疫・膠原病 · 疾患

結節性多発動脈炎

Polyarteritis nodosa

別名
PAN
臓器系
免疫・膠原病
科目
PathologyInternal Medicine
トピック
病理学 A/40:シェーグレン症候群/強皮症(全身性硬化症)/結節性多発動脈炎内科学 R-09:結節性多発動脈炎内科学 S-47:血管炎
上位概念
血管炎
鑑別疾患
ANCA関連血管炎川崎病
続発疾患
高血圧症
治療薬
プレドニゾロンシクロホスファミドアザチオプリンメトトレキサートエンテカビルテノホビル
症状
圧痛下血関節痛筋痛倦怠感出血多発性単神経炎体重減少発熱腹痛乏尿皮膚結節
検査値
血清クレアチニン

🧠 全体像は、中〜小型のだけをに壊死させる血管炎で、「肺は侵さない、糸球体も侵さない」という二重の除外所見がANCA関連血管炎との最大の分かれ目になる。ANCAは通常陰性、約5〜10%はB型肝炎ウイルス(HBV)関連という感染症由来の側面も持ち、虚血パターン(・皮膚病変)から動脈瘤を疑い、か生検で確定して重症度・HBV関連性に応じて治療を選ぶ疾患である。

概要・病態

PAN(polyarteritis =多数の血管、nodosa =結節・)は、中〜小型の、特に分岐部を好んで侵すである。病変は血管壁全層にわたるを呈し、急性期のの混合から、慢性期の線維性壁肥厚まで、新旧の病変が同一血管内・血管間で混在するのが特徴である。

  • 多くは特発性だが、一部はB型肝炎ウイルス(HBV)に関連する(HBs抗原を含む免疫複合体が血管壁に沈着すると考えられている)。HBVワクチン普及と輸血用スクリーニングの導入以降、HBV関連PANの割合はワクチン普及前の約30%から現在は5〜10%程度まで低下している。
  • 血管壁のの形成と破裂・出血を招き、同時には下流臓器の梗塞・虚血を招く。この「動脈瘤+梗塞」の二面性が画像所見・臨床像の両方を規定する。
flowchart TD
    A["中小型<span class='jp-term jp-term-diagram' title='muscular artery'>筋性動脈</span>(特に分岐部)の壊死性炎症"] --> B["血管壁全層の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrinoid necrosis'>フィブリノイド壊死</span>"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='luminal narrowing'>内腔狭窄</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombus formation'>血栓形成</span>"]
    C --> D["腎・腸管・末梢神経・皮膚の虚血・梗塞"]
    B --> E["血管壁の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='detrusor weakness'>脆弱化</span>"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microaneurysm'>微小動脈瘤</span>の形成"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aneurysm rupture'>動脈瘤破裂</span>・出血"]
    H["特発性、または一部はHBV感染(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='immune complex deposition'>免疫複合体沈着</span>)"] --> A

💡 PANでは新旧の病変が混在するという所見自体が診断の手がかりになる。同じ生検・の中に、急性期のを伴う血管と、慢性期の線維性壁肥厚のみの血管が併存していれば、単発の感染性動脈炎などより血管炎らしいと判断できる。

⭐ PANの臓器を理解する鍵は「肺を侵さない・糸球体を侵さない」という2つの除外所見である。肺は系(体循環)が主体で肺胞毛細血管を直接侵さないため通常保たれ、腎病変も糸球体そのものではなく・弓状動脈レベルの虚血)であって糸球体腎炎ではない。ここが小型血管を侵すANCA関連血管炎(肺胞出血・を来す)との根本的な違いになる。

臨床像

全身症状(発熱、体重減少、感、筋痛・関節痛)を背景に、侵された臓器の虚血症状が多彩に出現する。

系統 主な所見
全身 発熱、体重減少、感、筋痛・関節痛
・弓状動脈レベルの虚血による、乏尿、腎機能低下(最多の死因);糸球体腎炎ではない
消化管 食後腹痛(様)、・梗塞、穿孔、
神経 (左右非対称の感覚・運動障害が複数の末梢神経領域にに出現)
皮膚 、皮下結節、潰瘍、虚血・壊疽
冠動脈病変による虚血
生殖器 精巣痛・圧痛
通常は保たれる;肺胞出血があれば他の血管炎(ANCA関連血管炎など)を疑う

⚠️ 肺胞出血や糸球体腎炎(血尿・・急速な腎機能低下)を認めた場合は、PANではなくANCA関連血管炎(特に)を強く疑い、ANCA(PR3/MPO)を確認する。

診断

臨床的に虚血パターン(、皮膚病変)を疑ったら、血液検査での原因検索と、画像・組織による確証を組み合わせる。

  • 血液検査:ANCAは通常陰性。HBs抗原・HBV DNAなど感染症のスクリーニングを行う(HBV関連例の同定はを左右する)。
  • (CT/MRまたは・腸間膜動脈などに多発性の、狭窄、途絶を認める。動脈瘤が破裂するとを来しうる。
  • 生検:皮膚・筋・末梢神経など症候性の組織で、を伴うを確認する。腎生検は動脈瘤による出血リスクがあるため、通常はや皮膚・神経生検を優先する。
  • 1990年のACR分類基準(体重減少、、精巣痛、筋痛、単上昇、腎機能異常、HBV感染、異常、生検所見の10項目中3項目以上)は研究用の歴史的な分類基準であり、日常臨床のとして使うものではない。PANには2022年ACR/EULARが公表したANCA関連血管炎(GPA・MPA・EGPA)のような更新版分類基準は策定されておらず、現在も虚血パターン+所見+生検所見を組み合わせた臨床診断が中心である。
flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renovascular hypertension'>腎血管性高血圧</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bowel ischemia'>腸管虚血</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mononeuritis multiplex'>多発性単神経炎</span>・皮膚病変などの虚血パターン"] --> B["ANCA、HBs抗原・HBV DNA、炎症反応を確認"]
    B --> C{"肺胞出血・糸球体腎炎を伴うか"}
    C -->|"はい"| D["ANCA関連血管炎を優先的に疑う"]
    C -->|"いいえ"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='angiography'>血管造影</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='microaneurysm'>微小動脈瘤</span>・狭窄・途絶を確認"]
    E --> F["確証が不十分なら症候性組織(皮膚・筋・末梢神経)を生検"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='medium and small arteries'>中小動脈</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibrinoid necrosis'>フィブリノイド壊死</span>性血管炎を確認"]
    G --> H["Five Factor Score(FFS)で重症度を評価"]
    H --> I["HBV関連性と重症度に応じた治療を選択"]

Five Factor Score(FFS、2011年改訂版)による重症度評価

PANやなどの全身性に用いる。以下4項目を各1点として合計し、治療強度の判断材料にする。

項目 内容
年齢 65歳超
心症状 心筋症・心不全などの心病変
消化管病変 腸管出血・穿孔・梗塞・膵炎
1.7 mg/dL(150 μmol/L)超

⭐ 2011年改訂版FFSは、1996年の初版にあった蛋白尿・中枢神経病変の項目をPAN/からは除外し、年齢・心症状・消化管病変・の4項目に整理した点が要点である(ではさらに病変の欠如が5項目目として加わる)。FFS 0点でも死亡例はあり万能ではないが、FFSが高いほど寛解導入の強度(併用の要否)を判断する材料になる。

治療

とHBV関連性の2軸でを決める。

病型
非HBV関連・非重症PAN(FFS 0) グルココルチコイド単独を基本とし、や長期毒性を考慮して・メトトレキサートなどの併用を検討する
非HBV関連・臓器/生命を脅かすPAN(FFS 1以上) で寛解導入する
の長期継続は避け、メトトレキサートなどへ切り替える
HBV関連PAN (症状コントロール目的の1〜2週間程度)を初期に用いた上で速やかに・中止し、などの抗ウイルス薬を中心に据える。重症例ではを併用することがある

⚠️ HBV関連PANでは、長期の強力な免疫抑制(の長期投与など)はHBVの増殖を助長し肝炎を悪化させうるため、非HBV関連PANと同じ強度の免疫抑制を漫然と続けない。抗ウイルス治療を軸に、免疫抑制はウイルス複製を抑えながら短期・限定的に行うのが原則である。

は全PAN患者への一律投与薬ではない。FFSによる重症度、HBV関連の有無、感染リスク、妊孕性、悪性を評価した上で適応を判断する。

PANとANCA関連血管炎の比較

項目 ANCA関連血管炎
主な血管径 中〜小型 細動脈・毛細血管・(小型血管)
ANCA 通常陰性 多くで陽性(
糸球体腎炎 起こさない(虚血によるが主体) 起こす(
肺病変 通常保たれる 起こしうる(肺胞出血、・空洞など)
病理 血管壁全層の、新旧病変の混在、 (±
感染関連 HBV関連が約5〜10% 感染関連は乏しく、薬剤性(など)ANCA陽性化との鑑別が問題になる
代表的治療 に応じたグルココルチコイド±、HBV関連は抗ウイルス薬中心 グルココルチコイド+リツキシマブまたはで導入、は個別化

💡 両者はかつて「PAN()」と「顕微鏡的多発動脈炎」として同じ疾患スペクトラムに含められていたが、2012年改訂Chapel Hill Consensus Conference(CHCC)分類で、ANCA陽性・小型血管優位・糸球体腎炎/肺を来す病型は「」として独立し、PANという病名は中型血管優位・ANCA陰性・糸球体腎炎と肺を来さない病型のみを指すよう再定義された。この経緯を知っておくと、古い教科書的記述で「PAN」がMPAを含む広い意味で使われている場合があることに注意できる。

まとめ

  • PANは中小型に侵すで、肺と糸球体を通常侵さない点がANCA関連血管炎との最大の鑑別点であり、ANCAは通常陰性である。
  • ・皮下結節などの虚血パターンで疑い、または症候性組織の生検で確定する。
  • 約5〜10%はHBV関連であり、原因検索としてHBs抗原・HBV DNAを確認する。
  • 2011年改訂版Five Factor Score(年齢・心症状・消化管病変・の4項目)で重症度を評価し、治療強度を決める。
  • 非HBV関連の重症例はで寛解導入し、・メトトレキサートへ移行する。HBV関連例はと抗ウイルス薬(±)を軸に、長期免疫抑制は避ける。