病理学

病理学 · C/63

腎血管疾患

Vascular diseases of the kidney

応用トピック
腎疾患の鑑別診断
疾患
高血圧性腎硬化症

🧠 全体像:は「良性 vs 」と「」の2軸で整理する。は緩徐なによる、はが悪循環的に血圧を押し上げる急性像であり、は(・腎優位・小児)と(ADAMTS-13活性の重度低下・中枢神経優位)を臨床像で見分けるが、両者の徴候は大きく重なる。

概要

ほぼすべての腎疾患は二次的に腎血管を巻き込む。

良性腎硬化症

定義

  • 良性高血圧でみられる腎変化。
  • を特徴的に伴う(授業資料は「常に」と書く)。
  • 加齢、高血圧、糖尿病とともに頻度・重症度が増す。健康な生体腎ドナー1203例の移植時生検では、腎硬化(・・動脈硬化のうち2つ以上)のは18〜29歳の2.7%から70〜77歳の73%まで年齢とともに上昇し、腎機能や危険因子で補正してもこの関連は説明されなかった1。⚠️ ただしこの研究の「動脈硬化」はの狭窄の程度で採点されており、そのものは評価していない。示されたのは腎硬化という組織パターンが加齢とともに増えることである。2型糖尿病29例のでは、が高い群だけでが有意に低下した2。

形態

  • 非対称に萎縮した腎、びまん性で細かいの表面。
  • 組織像:
    • 小動脈+細動脈壁の硝子肥厚。
    • を犠牲にした均質なピンクの硝子肥厚。
    • 下層の細胞詳細の消失。
  • 病態生理:壁の肥厚 → 内腔径の減少 → 血流低下 → 。
  • :。

悪性腎硬化症(悪性高血圧)

定義

  • 良性よりはるかに稀。
  • 既存の高血圧なしに、または軽度高血圧の突然の増悪として生じうる。

発生機序(悪循環)

  1. 長期の高血圧 → 細動脈壁傷害 → 透過性亢進 → フィブリノゲン+漏出 → +血小板沈着 → 。
  2. 血小板由来の → 内膜平滑筋の過形成 → → さらなる内腔狭小化。
  3. の傷害 → 活性化 → → さらなる虚血(サイクルの反復)。
flowchart TD
    A["長期の高血圧"] --> B["細動脈壁の透過性亢進"]
    B --> C["フィブリノゲン・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='plasma protein'>血漿タンパク</span>漏出<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Fibrinoid necrosis'>線維素様壊死</span>"]
    C --> D["内膜平滑筋の過形成<br>(玉ねぎの皮状)"]
    D --> E["内腔狭小化"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='afferent arteriole'>輸入細動脈</span>の傷害<br>→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='renin-angiotensin-aldosterone system'>RAAS</span>活性化"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elevated blood pressure'>血圧上昇</span><br>→サイクルの反復(悪循環)"]

形態

  • 正常またはわずかに萎縮した腎。
  • 破裂した細動脈・による皮質表面の点状出血(「」)。
  • 組織像:
    • 細動脈の。
    • — 内膜細胞の「玉ねぎの皮」配列 → 内腔狭小化。
    • 生検所見は()と重なることが多く、の活性化が病変の重症度・と相関する3。

臨床経過

  • > 120 mmHg、脳症、心異常、腎不全——ただし急性期の血圧値、とくにの絶対値そのものは予後を規定しないため確定的なとすべきではないという指摘がある4。
  • による早期症状:頭痛、悪心、嘔吐、視力障害(、)。
  • に伴い → 初期には大きな腎機能変化を伴わない著明な+血尿。
  • 死因(未治療の場合):90%が、10%が・心不全。

血栓性微小血管症

定義

  • (TMA)=広範な微小循環血栓症++血小板減少+腎不全。
  • 疾患:
    • 小児(関連の典型)
    • 成人亜型 — によらない(主にの制御異常)は、小児のの5〜10%にとどまるが、成人ではの大半を占める5
    • TTP

HUSの発生機序

  • +活性化 → 血管内血栓症。
  • 75%がに続発、産生大腸菌(O157:H7)または__。
  • は好中球が運搬、細胞が受容体()を発現 → 細胞傷害。
  • 内皮への影響:
    • 白血球接着の増加
    • 産生の増加
    • 内皮NOの低下
    • 直接の・細胞死
  • 結果:血栓症+血管収縮 → 。

TTPの発生機序

  • を切断するプロテアーゼADAMTS-13の活性が重度に低下する。
  • 原因は2つある:ADAMTS-13を阻害する自己抗体による後天性のと、ADAMTS-13遺伝子変異による。全の95%超が免疫性で先天性は5%未満だが、幼い小児や妊婦では先天性がの25〜50%を占めうる6。授業資料の「後天的欠陥」は多数派であるの説明である。
  • 結果:マルチマー → → 。

HUSとTTP — 臨床像の比較

特徴 (小児) TTP
引き金 (大腸菌O157:H7) ADAMTS-13活性の重度低下(多くは自己抗体、まれに先天性)
主に侵す臓器 腎 脳(中枢神経)
溶血性貧血 + +
血小板減少 + +
顕著 頻度は低い
神経症状 軽度 顕著(性)
発熱 様々 +

⚠️ 表はの「五徴」(溶血性貧血・血小板減少・腎障害・神経症状・発熱)として古典的に教えられてきた枠組みである。ISTHの診断ガイドラインはの臨床像を「血小板減少・と、程度のさまざまな臓器障害」と書き、その徴候がと大きく重なるとしている6。五徴がそろうのを待たずにを疑う。

臨床経過

  • 小児:突然発症 → 出血(、)、重度乏尿、血尿、MAHA、変化。
  • HUSは小児のの主要原因。
  • (非典型)では、終末補体が12歳以上の37例を対象とした2つの第2相試験(比較ではない)でを増やし、推算を時間とともに改善させた7。

💡 ポイント: = 良性高血圧 → +腎+。 = 拡張期>120、+「玉ねぎの皮」、、の悪循環。TMA:MAHA+血小板減少+腎不全。HUS = (大腸菌O157:H7)、腎優位、小児。TTP = ADAMTS-13活性の重度低下(大半は自己抗体、まれに先天性)→ マルチマー、中枢神経優位。古典的な五徴がそろわないことも多い。

まとめ

  • は良性高血圧に伴うで、内腔狭小化によるが進行し、非対称に萎縮したの腎となる。
  • はと(「玉ねぎの皮」)による悪循環で急速に進行し、>120 mmHgと「」を特徴とする。
  • ()は・・血小板減少・腎不全からなる病態群で、とが代表である。
  • は(O157:H7)によるが機序で、腎障害が顕著な小児疾患である。
  • はADAMTS-13活性の重度低下による切断障害で超大型マルチマーが蓄積し、が顕著になりやすい。大半は自己抗体によるで成人に多いが、もあり、幼い小児や妊婦ではその割合が高い。

出典

  1. 1.The association between age and nephrosclerosis on renal biopsy among healthy adults(Annals of Internal Medicine・2010)全文(PMC2864956、著者最終稿)で、健康な生体腎ドナー1203例の移植時腎生検において、腎硬化(全節性糸球体硬化・尿細管萎縮・間質線維化・動脈硬化のうち2つ以上)の有病率が18〜29歳の2.7%から70〜77歳の73%まで年齢とともに上昇し、腎機能や慢性腎臓病の危険因子で補正してもこの年齢との関連は説明されなかったことを確認した。この研究の動脈硬化は最も強く侵された血管の内腔狭窄の程度で採点されており、硝子細動脈硬化(hyalin)という語は全文に現れない閲覧 2026-08-27
  2. 2.Arteriolar Hyalinosis Predicts Increase in Albuminuria and GFR Decline in Normo- and Microalbuminuric Japanese Patients With Type 2 Diabetes(Diabetes Care・2017)正常〜微量アルブミン尿の2型糖尿病29例を平均8.0年追跡した腎生検研究で、細動脈硝子化指数(IAH)は追跡時の尿中アルブミン排泄量と正、糸球体濾過量と負に相関した。IAH 2.0以上の群だけで糸球体濾過量が有意に低下し、2.0未満では有意な変化がなかった。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Association between thrombotic microangiopathy and activated alternative complement pathway in malignant nephrosclerosis(Nephrology Dialysis Transplantation・2020)悪性腎硬化症は重症高血圧を背景とする腎微小血管症であり、生検50例の組織学的・超微形態学的所見は非典型溶血性尿毒症症候群と同一だった。補体第二経路の活性化が病変の活動性・重症度・腎予後と相関し、20例中8例にMCP・CFB・CFH・CFHR5の変異が同定された。閲覧 2026-08-27
  4. 4.From malignant hypertension to hypertension-MOD: a modern definition for an old but still dangerous emergency(Journal of Human Hypertension・2016)悪性高血圧の従来の診断は著明な血圧上昇にKeith-Wagener III度またはIV度の高血圧性網膜症を伴うことに基づいており、急性期の血圧値、とくに拡張期血圧の値そのものは予後を規定しないため確定的な診断基準とすべきではないこと、網膜症を欠く高血圧緊急症は急性の血圧上昇に少なくとも3つの異なる標的臓器の障害を伴うこと(hypertension-MOD)で捉える提案があることを確認した。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Atypical hemolytic uremic syndrome(Orphanet Journal of Rare Diseases・2011)抄録で、非典型HUS(志賀毒素によらないHUSで、主に補体第二経路の制御異常による一次性疾患を指す)は小児のHUSの5〜10%にとどまる一方、成人ではHUSの大半を占めることを確認した閲覧 2026-08-27
  6. 6.ISTH guidelines for the diagnosis of thrombotic thrombocytopenic purpura(International Society on Thrombosis and Haemostasis・2020)PMCの著者最終稿の全文で、TTPにはADAMTS13遺伝子変異による先天性TTPと、ADAMTS13活性を阻害する自己抗体による後天性の免疫性TTPがあり、全TTPの95%超が免疫性・5%未満が先天性だが、幼い小児や妊婦では先天性がTTPの25〜50%を占めうること、TTP患者は血小板減少・微小血管症性溶血性貧血と程度のさまざまな臓器障害を呈し、その徴候がHUSと大きく重なることを確認した閲覧 2026-09-24
  7. 7.Terminal complement inhibitor eculizumab in atypical hemolytic-uremic syndrome(New England Journal of Medicine・2013)抄録で、12歳以上の非典型HUS患者37例を対象とした2つの前向き第2相試験(試験1は血小板減少と腎障害を伴う17例、試験2は血漿交換・血漿輸注中の20例)で、エクリズマブが血小板数を増やし(試験1で26週までに平均73×10⁹/L増加)、試験2では80%が血栓性微小血管症イベントなしの状態を保ち、推算GFRが時間とともに改善したことを確認した。無作為化比較試験ではない閲覧 2026-08-27