病理学

病理学 · C/52

胆道系・胆嚢の炎症と腫瘍

Inflammations and tumors of the biliary system and gallbladder

応用トピック
急性肝不全患者の管理胆石症・胆嚢炎・胆管炎膵・胆道悪性腫瘍胆石症(症状・診断・治療・合併症)胆道腫瘍(胆管癌・胆嚢癌)胆石症の合併症と治療胆嚢・胆道の悪性疾患
薬剤
イボシデニブ
微生物
Clonorchis sinensis
疾患
肝吸虫症総胆管嚢腫胆石症胆道癌(胆管癌・胆嚢癌)胆嚢腺筋腫症
スコア
Charcot三徴

🧠 全体像:は結石による物理的閉塞が引き金となり、うっ滞した胆汁中のがという化学的刺激物に変わることで炎症が起こる。結石が炎症を「直接」起こすのではなく「閉塞と」を介して起こすという視点は、の理解にも共通する。

胆嚢炎(胆嚢の炎症)

A)急性結石性胆嚢炎

  • 結石を含む胆嚢の。
  • 胆石による・胆嚢頸部の閉塞が原因。

発生機序

  • 閉塞 → 胆汁うっ滞 → が胆汁を加水分解 → (粘膜に毒性)+プロスタグランジン → 化学的炎症。
flowchart TD
    A["胆石による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cystic duct'>胆嚢管</span>・胆嚢頸部の閉塞"] --> B["胆汁うっ滞"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phospholipase'>ホスホリパーゼ</span>が胆汁<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lecithin'>レシチン</span>を加水分解"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='lysolecithin (lysophosphatidylcholine)'>リゾレシチン</span>(粘膜毒性)+プロスタグランジン"]
    D --> E["化学的炎症"]

形態

  • 胆嚢の腫大、壁の肥厚。
  • (膿で満たされた内腔)、出血、線維素化膿性滲出物。

臨床

  • 強い右上腹部痛、発熱、悪心、。
  • ⭐ (東京ガイドライン2018):A 局所の炎症所見(、の腫瘤・疼痛・圧痛)+B 全身の炎症所見(発熱、上昇、上昇)で、さらに C 特徴的な画像所見がそろえば。重症度は臓器障害があればGrade III、白血球18,000/mm³超・の有痛性腫瘤・症状持続72時間超・著明な局所炎症(、、、、)のいずれかでGrade II、どちらでもなければGrade Iとする1。
  • → ()を示唆。

B)急性無石性胆嚢炎

  • 症例の約5〜10% — 結石なし。
  • 状況:敗血症、術後、重度外傷・熱傷、重症疾患。患者を対象とした研究では、手術に至った例の多くが複数臓器不全を合併しは約44%と予後不良であった2。

C)慢性胆嚢炎

  • 反復する急性発作に続くことがあるが、先行エピソードなしにに発症することも多い。
  • ほぼ常に胆石と関連するが、結石は直接の原因ではない — 胆汁のが炎症と結石の両方の素因。
  • 形態:、線維性の壁肥厚、の肥大・過形成。
  • 臨床:反復性の右上腹部痛、しばしば食後。

胆管炎

  • は胆管壁の炎症、ほぼ常に細菌性。
  • を閉塞するあらゆる病変が原因 — 特に(胆道系の結石)、ほかに腫瘍、、膵炎、狭窄。
  • :感染がへ上行。
  • 古典的:発熱+右上腹部痛+黄疸(悪寒も典型的)。
    • ⚠️ 三徴は特異度が非常に高いが感度が低い:従来の報告でも感度は50〜70%で、最近の多施設の症例集積では三徴による診断率は26.4%・21.2%にとどまった。黄疸も60〜70%にしかみられない。このため東京ガイドライン2018は三徴をとしては用いない3。三徴がそろわないことは胆管炎の否定にならない。
  • ⭐ (東京ガイドライン2018):A 全身の炎症(発熱・、炎症反応)の1項目+B 胆汁うっ滞(黄疸、肝機能検査異常)またはC 画像(、狭窄・結石・などを示す所見)の1項目で、A・B・Cから各1項目で。重症度は臓器障害があればGrade III、白血球異常・39℃以上・75歳以上・5 mg/dL以上・のうち2項目でGrade IIとする3。
  • 最重症型:化膿性胆管炎 — 膿が胆管を拡張 → のリスク。

胆嚢癌

  • は胆道系で最も多い悪性腫瘍。
  • 女性にやや多い、70歳代。
  • 危険因子:胆石(長期)、細菌・、(かつては高率とされたが、の少ない13研究124例に限ると合併率は約6%〈範囲0〜33%〉で、石灰化のない対照1%〈0〜4%〉に対するは8.0〈95%CI 1.0-63.0〉と、従来言われてきたほど高くない)4。
    • ⚠️ ただし原著は「リスクは想定より低い」で終わらず、併存症のない患者には予防的胆嚢摘出が妥当で、重い併存症のある患者では非方針を考慮するとしている。合併率が下方修正されたことを「手術しなくてよい」と読み替えない4。
  • 型:
    • 平坦、硬性、浸潤性 — 低分化
    • ポリープ状・隆起性 — 高分化
  • 通常診断時に転移(+隣接消化器)。一方で全胆嚢摘出標本の0.25〜0.89%には偶発的にが見つかり、粘膜にとどまる病変(T1a以下)では胆嚢摘出単独でも5年生存率が最大100%となるなど、発見時ので予後が大きく異なる5。
    • ⚠️ T1aは「粘膜にとどまる」病変であり、への浸潤はT1aではない。 が筋層に及ぶT1b以上では再切除が推奨される——議論が残るのは再切除の術式・範囲・時期であって、再切除を行うかどうかではない5。
  • 症状は、と区別不能(腹痛、黄疸、悪心・嘔吐)。

胆管癌

  • ・の胆管細胞から生じる、胆道分化を伴う腺癌。米国の全国データベース(2004〜2015年、27,120例)ではの罹患数が年平均4.16%ずつ増加しており近年増加傾向にある6。
  • = 肝門部(接合部)の。
  • 年齢60〜70歳。
  • 危険因子:PSC(重要な関連)、(Clonorchis sinensis)、慢性胆道感染、。
  • 分子標的:FGFR2融合を持つ既治療進行例では阻害薬ペミガチニブがしうる一方、他の異常群・異常なし群ではがない7。IDH1変異(の約13%)を持つ既治療例では選択的阻害薬イボシデニブがを有意に延長する8。
  • 共通の特徴:慢性胆汁うっ滞+炎症。
  • 進行するまで無症状 → しばしば → 予後不良。

💡 ポイント: = の結石 → の化学的傷害(結石性、90%)、無石性 = /敗血症。上行性胆管炎:(発熱+右上腹部痛+黄疸。特異的だが感度は低く、診断は東京ガイドラインのA+B+C)、化膿性 → 。:女性、70歳代、胆石、、診断時に転移。:PSC、、Klatskin = 肝門部、予後不良。

まとめ

  • は胆石による閉塞→胆汁うっ滞→による化学的傷害という機序で生じる。
  • (5〜10%)は敗血症・術後・重症疾患など重症患者に生じ、結石を伴わない。
  • はほぼ常に胆石を伴うが、結石自体が直接の原因ではなく胆汁のが炎症と結石形成の両方の素因となる。
  • は局所+全身の炎症所見で、画像所見を加えてする(東京ガイドライン2018)。
  • はなどによる閉塞で生じ、(発熱+右上腹部痛+黄疸)が古典的所見だが感度が低い(最近のでは三徴による診断率が2〜3割)ため、診断は全身の炎症+胆汁うっ滞+画像の組み合わせで行う。化膿性胆管炎はのリスクを伴う最重症型。
  • は胆道系最多の悪性腫瘍で、長期の胆石・が危険因子。診断時にはしばしば転移している。偶発的に見つかった場合、粘膜にとどまるT1a以下なら胆嚢摘出単独でも5年生存率は最大100%だが、筋層に及ぶT1b以上では再切除が推奨される(残る論点は術式・範囲・時期)。5
  • はPSCとの関連が重要で、肝門部のものをと呼び、いずれも無症状で進行し予後不良。

出典

  1. 1.Tokyo Guidelines 2018: diagnostic criteria and severity grading of acute cholecystitis(Tokyo Guidelines 2018・2018)誌上版全文(J Hepatobiliary Pancreat Sci 2018;25:41-54、Wayback保存の出版社HTML)で確認した。TG18/TG13診断基準(Table 1)はA 局所の炎症所見(Murphy徴候、右季肋部の腫瘤・疼痛・圧痛)、B 全身の炎症所見(発熱、CRP上昇、白血球数上昇)、C 急性胆嚢炎に特徴的な画像所見から成り、Aの1項目+Bの1項目で疑診、さらにCを満たせば確診で、急性肝炎・他の急性腹症・慢性胆嚢炎を除外する。重症度(Table 7)はGrade III(循環・神経・呼吸・腎・肝・血液のいずれか1つの臓器障害)、Grade II(白血球18,000/mm³超、右季肋部の有痛性腫瘤触知、症状持続72時間超、壊疽性胆嚢炎・胆嚢周囲膿瘍・肝膿瘍・胆汁性腹膜炎・気腫性胆嚢炎などの著明な局所炎症のいずれか1つ)、Grade I(いずれにも該当しないもの)。TG13の基準と重症度分類を変更なしに採用した。閲覧 2026-09-24
  2. 2.Acute acalculous cholecystitis in critically ill patients(Acta Anaesthesiologica Scandinavica・2004)フィンランドの混合ICU患者3,984例のうち39例(1%)がICU滞在中に手術で確認された急性無石性胆嚢炎を発症し、胆嚢摘出時点で64%が3臓器以上の不全を合併し、院内死亡率は44%であったこと、非生存例は生存例よりSOFAスコアが有意に高かった(12.9対9.5)ことを確認した。閲覧 2026-08-27
  3. 3.Tokyo Guidelines 2018: diagnostic criteria and severity grading of acute cholangitis (with videos)(Journal of Hepato-Biliary-Pancreatic Sciences(日本肝胆膵外科学会)・2018)誌上版全文(Amsterdam UMCリポジトリのVersion of record PDF)で確認した。Q1はCharcot三徴について特異度は非常に高いが感度が低く急性胆管炎の診断基準としては適用できないとし(Level D)、三徴の感度は従来の報告で50〜70%とされてきたが、最近の多施設症例集積での三徴による診断率は26.4%と21.2%とさらに低く、黄疸は患者の60〜70%にしかみられないと述べる。TG18/TG13診断基準(Table 2)はA 全身の炎症(発熱・悪寒戦慄、炎症反応の検査所見)、B 胆汁うっ滞(黄疸、肝機能検査異常)、C 画像(胆管拡張、狭窄・結石・ステントなど成因を示す所見)から成り、Aの1項目+BまたはCの1項目で疑診、A・B・Cから各1項目で確診とする。重症度(Table 4)はGrade III(循環・神経・呼吸・腎・肝・血液のいずれか1つ以上の臓器障害)、Grade II(白血球12,000/mm³超または4,000/mm³未満、39℃以上、75歳以上、総ビリルビン5 mg/dL以上、低アルブミン血症の5項目中2項目)、Grade I(いずれにも該当しないもの)。閲覧 2026-09-24
  4. 4.Porcelain gallbladder: a benign process or concern for malignancy?(Journal of Gastrointestinal Surgery・2013)磁器様胆嚢(胆嚢壁石灰化)に関する系統的レビュー(111論文・340例)で、全体では胆嚢癌合併率21%だったが、選択バイアスの少ない13研究124例に限ると合併率は6%(範囲0〜33%)にとどまり、石灰化のない対照群の1%(範囲0〜4%、相対危険度8.0、95%CI 1.0-63.0)と比べてリスクは有意ではあるものの、従来言われてきたほど高くないことを確認した。あわせて結論部が、より良いリスク層別化が無く合併率も比較的低いことから、他に問題のない患者には予防的胆嚢摘出が妥当である一方、重い併存症のある患者では非手術的方針を考慮すべきだと述べていることを確認した(PubMedの抄録で照合)。閲覧 2026-08-27
  5. 5.Systematic review of management of incidental gallbladder cancer after cholecystectomy(The British Journal of Surgery・2019)系統的レビューの抄録をPubMedで取得して確認した。全胆嚢摘出標本の0.25〜0.89%に偶発胆嚢癌を認め、約半数がpT2、約3分の1がpT1であった。逐語は "Patients with cancers confined to the mucosa (T1a or less) had 5-year survival rates of up to 100 per cent after cholecystectomy alone." であり、最大100%の5年生存率が当てはまるのは粘膜にとどまる病変(T1a以下)であって粘膜下層浸潤例ではない。続く逐語は "For cancers invading the muscle layer of the gallbladder wall (T1b or above), reresection is recommended. The type, extent and timing of reresection remain controversial." で、筋層に浸潤するT1b以上では再切除が推奨され、議論が残るのは再切除の術式・範囲・時期である。閲覧 2026-08-27
  6. 7.Pemigatinib for previously treated, locally advanced or metastatic cholangiocarcinoma: a multicentre, open-label, phase 2 study(The Lancet Oncology・2020)既治療の進行胆管癌を対象とした第2相FIGHT-202試験で、FGFR1〜3阻害薬ペミガチニブはFGFR2融合・再構成をもつコホートでのみ奏効が得られ、他のFGF/FGFR異常群・異常なし群では奏効がなかったことを確認した。閲覧 2026-08-27
  7. 8.Ivosidenib in IDH1-mutant, chemotherapy-refractory cholangiocarcinoma (ClarIDHy): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 study(The Lancet Oncology・2020)IDH1変異は肝内胆管癌の約13%にみられる。既治療のIDH1変異胆管癌185例を対象とした第3相ClarIDHy試験で、IDH1変異選択的阻害薬イボシデニブはプラセボに比べ無増悪生存期間中央値を有意に改善した(2.7か月対1.4か月、ハザード比0.37、95%CI 0.25-0.54)ことを確認した。閲覧 2026-08-27