外科学

外科学 · B/15

急性膵炎の外科的側面(症状・診断・治療)

Surgical aspects of acute pancreatitis (symptoms, diagnosis, treatment)

前提:病態
膵炎
前提:正常
膵臓の外分泌とその調節
疾患
腹部コンパートメント症候群膵仮性嚢胞

ポッドキャスト

🧠 は「が膵臓自身と全身を消化してしまう病気」。 診断は「2 out of 3」(症状・血液検査・画像のうち2つ)でよい。感染性壊死でも即時ドレナージが延期ドレナージに勝るという証拠は無く、全身状態が許せばを待って介入の必要性そのものを見極める。とは違い、急性期の介入は「待てるなら待つ」がキーワード。1

1. 病因

  • : 、慢性アルコール摂取、乳頭部閉塞、膵管内の結石・濃縮物
  • : アルコール、薬剤、外傷、虚血、ウイルス
  • : 代謝性障害(実験モデルで示されたもの)、アルコール、

2. 病態機序

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='duct obstruction'>膵管閉塞</span><br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cholelithiasis'>胆石症</span>・乳頭部閉塞・慢性アルコール<br>・膵管内の結石/濃縮物)"] --> A1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interstitial edema'>間質浮腫</span>→血流障害→虚血"]
  B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acinar cell injury'>腺房細胞傷害</span><br>(アルコール・薬剤・外傷・虚血・ウイルス)"] --> B1["細胞内<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proenzyme'>プロ酵素</span>・リソソーム酵素の放出"]
  C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='Defective intracellular transport'>細胞内輸送障害</span><br>(代謝性障害・アルコール・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='duct obstruction'>膵管閉塞</span>)"] --> C1["リソソーム区画への酵素誤送達→細胞内活性化"]
  A1 --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acinar cell injury'>腺房細胞傷害</span>"]
  B1 --> D
  C1 --> D
  D --> E["活性化した<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancreatic enzyme'>膵酵素</span>"]
  E --> F["間質性炎症・浮腫"]
  E --> F2["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='proteolysis'>蛋白分解</span><br>(プロテアーゼ)"]
  E --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fat necrosis'>脂肪壊死</span><br>(リパーゼ・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='phospholipase'>ホスホリパーゼ</span>)"]
  E --> H["出血<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='elastase'>エラスターゼ</span>)"]
  F --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acute pancreatitis'>急性膵炎</span>"]
  F2 --> I
  G --> I
  H --> I

💡 活性化した酵素が作る病変は4つ——間質性炎症・浮腫、、、出血である。間質性炎症・浮腫とは別々の病変で、プロテアーゼが担うのは後者である。この4つがどの割合で起こるかが、浮腫性膵炎との分かれ目になる。

3. 重症化の連鎖

重症度に応じて以下が連鎖的に起こる:

  • : 放出+による血管傷害 → 血管拡張・ → 血管内から間質への→ 低血圧・頻脈 →
  • : 低血圧が是正されないと低下 → (特に腎)+
  • : リパーゼが脂肪を分解 → がCa²⁺と結合 →

💡 の機序は「」——がカルシウムを“石鹸”として消費してしまうため血中Ca²⁺が下がる。重症度の指標としても使われる。

4. 重症度分類

重症度・合併症・予後を評価する分類法は複数存在する(Atlanta、Glasgow、Ransonなど)。

Revised Atlanta分類:

重症度 定義
Mild(軽症) 臓器不全なし、局所合併症も全身合併症もなし
Moderate(中等症) 48時間以内に改善する一過性の臓器不全、または局所・全身合併症(全身合併症=膵炎によるの増悪)
Severe(重症) 48時間を超えて(単臓器でも多臓器でもよい)

臓器不全の判定にはを用い、・腎(血清クレアチニン)・循環()の3系統をそれぞれ0〜4点で評価して、いずれか1系統でも2点以上なら臓器不全ありとする(配点はを参照)。

⚠️ 軽症と中等症を分けるのは臓器不全の有無だけではない——臓器不全が無くても局所・全身合併症があれば中等症になる。逆に中等症と重症を分ける唯一の基準は臓器不全が48時間を超えて持続するかどうかで、これは入院時点では確定できない。

重症度定義の基盤はであり、Ranson、、APACHE IIなどは入院時点の早期予測を担う補助的なである。2

5. 臨床像

  • 持続する高度の:
    • 典型的には背部に放散
    • 食後・仰臥位で増悪
    • 位で軽減
    • 腹部圧痛、腹部膨満、
    • イレウス(音減弱、で)
  • 悪心・嘔吐、発熱、胸痛、呼吸困難、ショック徴候、皮膚変化(稀)

6. 診断

は「背部に放散する上腹部痛という典型的な臨床像」+「の著明な上昇、または画像上の」で診断する。

“2 out of 3” 基準(以下3項目のうち2項目を満たせば診断):

血液検査:

  • (、リパーゼ)↑
  • 、、ヘモグロビン、白血球、Ca²⁺

画像検査:

  • US: 胆道系の評価、胆石やの検出
  • 胆石性を疑う場合はまずUSで評価し、原因不明例や微小結石が疑われる場合は±を追加する
  • CT: 診断に迷う場合、またはや局所合併症(・・・)を疑う場合

7. 治療

  • 輸液療法: 早期にで開始する。ただし「多いほどよい」ではない——WATERFALL試験(249例)は積極輸液(20 mL/kg後3 mL/kg/時)と適度な輸液(例のみ10 mL/kg、以後1.5 mL/kg/時)を比べ、中等症以上への進展に差が無い一方(22.1%対17.3%、調整1.30、95%CI 0.78〜2.18)、が20.5%対6.3%と積極輸液群で多かったためで中止された4
    • ()2024年ガイドラインは、この結果を受けて「中等度に積極的な(moderately aggressive)を行い、の所見があれば追加を入れる」と「をより優先する」を提案している。⚠️ どちらも「条件付き推奨・エビデンスの質は低い」であって強い推奨ではない
    • 具体的な速度として、の所見が無ければ 1.5 mL/kg/時を超えない速度で始め、があれば 10 mL/kg のを先行させる。⚠️ 重症化してから、あるいは発症24時間を過ぎてからの積極輸液は、むしろ有害になりうる——輸液が最も効くのは発症24時間以内である5
    • 心血管・腎の併存症がある患者では特に慎重にし、来院後6時間以内と以後24〜48時間にわたって輸液量を頻回に再評価する5。 2019 も「が有害であることが知られているため、輸液投与は血行動態の頻回な再評価に導かれるべきである。が推奨される」を grade 1B として掲げる3
  • 感染予防: 抗菌薬の予防投与は感染が疑われる場合のみ(ルーチンでは行わない)
  • 栄養管理:
    • 軽症では経口摂取をに応じて早期に開始・再開する
    • ⚠️ 「腹痛が引くまで絶食」は旧い教え方である。 かつては経口摂取を止めて腹痛が軽減してから再開するとされたが、現在はできる範囲で早期に食べさせるほうがよいとされる。旧い覚え方のほうが有名なので、意識して上書きする
    • : 栄養サポートが必要な重症における第一選択 → 経鼻空腸または経鼻胃ルート。はとを防ぐためにを推奨し、・経空腸のどちらでも安全に投与できるとする。は避けるが、経腸だけで必要熱量・蛋白量に届かない場合は部分的なの併用を考慮してよい(1A)3

⚠️ 抗菌薬の予防投与を「壊死があるから」という理由だけでルーチンに行うのは誤り——感染が疑われる/証明された場合に限る。軽症では再発予防のため同一入院中にを行い(1A)、胆管炎または持続性胆道閉塞を伴う場合に早期を行う。⚠️ 同一入院中にと乳頭切開を行っても、胆嚢摘出は省略しない——膵炎の再発リスクは下がるが、他の胆道合併症のリスクが残るため同一入院中の胆嚢摘出が依然として勧められる(1B)。ただし膵周囲液体貯留を伴う場合は、貯留が消退または安定しが鎮まるまで胆嚢摘出を延期する(2C)。63

手術:

経皮的・内視鏡的ドレナージの適応を、 2019 は発症からの時期で3段に分けて掲げている(いずれも grade 1C)3。

時期 適応
時期を問わない 感染性の徴候または強い疑いを伴う臨床的な増悪。ただし抗菌薬のみで軽快する患者が一定数いる
発症4週以降 ① 感染性壊死の徴候が無いまま
② 大きなによる路・胆道・腸管の閉塞の持続
③ の(壊死でが途中で切れ、遠位に残った生存膵から膵液が漏れ続ける状態)
④ 症状のある、または増大する
発症8週以降 持続する疼痛・不快感

⚠️ 「感染したら介入、それ以外は4週待つ」と2分して覚えない。4週の段(4項目)と8週の段(疼痛)は別であり、閉塞・膵管・増大するは、臓器不全が無くても4週以降の適応になる。逆に疼痛だけを理由に介入するのは8週以降である。

  • 壊死への介入は原則としてされてから(通常は発症4週以降)行う。 はこれを独立した推奨項目として「外科的介入を発症から4週を超えて遅らせると死亡率が低下する」と掲げる(grade 2B)3

⭐ POINTER試験(感染性104例)は、後24時間以内の即時ドレナージと、の段階まで待つ延期ドレナージを比較した試験である。結果は即時ドレナージのを示さなかった(Comprehensive Complication Index 57対58、-1、95%CI -12〜10、P=0.90。死亡13%対10%)。一方で介入回数は延期群のほうが少なく(平均2.6回対4.4回)、延期群49例のうち19例(39%)はドレナージを要さず抗菌薬のみで治療され、うち17例が生存した。「延期のほうが成績が良い」ではなく「急いでも得は無く、待てば介入せずに済む患者がいる」と読む。1

手術手技:

  • 第一段階として経皮的または内視鏡的ドレナージを行う
  • 改善しなければ内視鏡的・後腹膜的・外科的壊死組織除去へ進むstep-up approachを用いる6
  • はこの先行を感染性の第一選択とし(1A)、その理由として「をより良い時期へ遅らせ、あるいは25〜60%では感染が完全に消退する」ことを挙げる3

外科的介入の適応( 2019。いずれも grade 1C):

やが症状やを起こし、炎症が鎮まっても消退しない場合も step-up approach の適応となる。なおやのために早期の緊急手術を要した場合、その機会にドレナージや壊死組織除去をルーチンにすることは推奨されない。3

8. 合併症

全身性の合併症:

局所合併症:

壊死組織の細菌性のほか、貯留は膵炎の型(性か壊死性か)と発症からの期間(4週未満か以降か)で4型に分ける。2

4週未満 4週以降(壁でされたもの)
(液体のみ)
(壊死組織を含む)

⚠️ 「」はでは使わない用語である。旧Atlanta分類はこの語を「壊死組織をほとんど含まない、限局した膿の貯留」と定義していたが、そのような所見は極めてまれで、語が紛らわしく広く受け入れられなかったため、2012年の改訂ではこの語を採らなかった。感染したをこの語で呼ぶと、単純な液体貯留の感染と区別がつかなくなり、ドレナージだけで済むのか壊死組織除去が要るのかの判断がぶれる。

⚠️ 同じ理由で、液体の中に固形の壊死物質が見えるものに「」の語を使わない。は「はでは極めてまれで、におけるという語は使われなくなっていくかもしれない」とまで述べている——上の表で4型を覚えるときも、実地で多いのは・・のほうである。2

まとめ

  • の3大機序は・・で、いずれも最終的に「の細胞内活性化 → 」という一本の経路へ収束する。
  • 診断は「2 out of 3」(臨床・血液検査・画像)で十分——全例に全ての検査は不要。
  • 重症度はで判定する。軽症は臓器不全も局所・全身合併症も無いもの、中等症は48時間以内に改善する臓器不全または局所・全身合併症、重症は48時間を超えてである。
  • 治療の柱は早期輸液・・感染時のみの抗菌薬であり、ルーチンの予防的抗菌薬投与は不要。輸液は「早く」始めるが「多く」入れるのではない——が無ければ 1.5 mL/kg/時以下で始め、あれば 10 mL/kg のを足すというのが現行の目安で、積極輸液はを増やすだけで転帰を改善しなかった。
  • ドレナージの適応は時期で3段に分かれる。感染を疑う増悪はいつでも、4週以降は・閉塞・の・症状のある/増大する、8週以降は持続する疼痛(いずれも1C)。壊死部への介入は可能なら(通常は発症4週以降)まで遅らせ(2B)、ドレナージから始めるstep-up approachを用いる——外科的介入は・で止まらない出血・や急性壊死性胆嚢炎・膵周囲貯留へ及ぶなど限られた状況のみ(いずれも1C)。
  • はに伴う「」による重症度マーカーとして重要。
  • 続く病態は や 膵腫瘍 と合わせて理解すると膵疾患全体の外科像がつながる。

出典

  1. 1.Immediate versus Postponed Intervention for Infected Necrotizing Pancreatitis(The New England Journal of Medicine・2021)抄録を閲覧。感染性壊死性膵炎104例で、無作為化後24時間以内の即時ドレナージと被包化壊死の段階まで待つ延期ドレナージを比較した優越性試験。Comprehensive Complication Index は57対58(平均差マイナス1、95%CI マイナス12〜10、P=0.90)、死亡は13%対10%(相対リスク1.25、95%CI 0.42〜3.68)で、即時ドレナージの優越性は示されなかった。介入回数の平均は4.4回対2.6回(平均差1.8、95%CI 0.6〜3.0)と延期群で少なく、延期群49例のうち19例(39%)はドレナージを要さず抗菌薬のみで保存的に治療され、うち17例が生存した閲覧 2026-08-09
  2. 2.Classification of acute pancreatitis--2012: revision of the Atlanta classification and definitions by international consensus(Gut・2013)Revised Atlanta分類による急性膵炎の重症度定義閲覧 2026-08-09
  3. 3.2019 WSES guidelines for the management of severe acute pancreatitis(World Society of Emergency Surgery・2019)全文を閲覧。診断は「腹痛・血清アミラーゼ/リパーゼが基準値上限の3倍超・特徴的画像所見」の3つのうち2つ以上で成立すること、予防的抗菌薬は死亡・合併症を有意に減らさずルーチン投与はもはや推奨されないこと、経腸栄養を推奨し経胃・経空腸のいずれも安全に投与できること(1A)、壊死への介入は原則として被包化されてから(通常は発症4週以降)行い、臓器障害が4週を超えて持続する場合に介入を考慮すること、感染性膵壊死では経皮ドレナージを第一選択とするstep-up approachが25〜60%で感染を完全に消失させること(1A)、外科的介入の適応が「step-up approachの続きとして同じ適応で行う場合・腹部コンパートメント症候群・血管内治療が奏効しない持続する急性出血・急性膵炎の経過中の腸管虚血または急性壊死性胆嚢炎・膵周囲貯留へ及ぶ腸瘻」であること(1C)、軽症胆石性膵炎では同一入院中の腹腔鏡下胆嚢摘出術を推奨すること(1A)、膵周囲液体貯留を伴う胆石性膵炎では貯留が消退または安定し急性炎症が鎮まるまで胆嚢摘出を延期すること(2C)を確認した閲覧 2026-09-05
  4. 4.Aggressive or Moderate Fluid Resuscitation in Acute Pancreatitis(New England Journal of Medicine・2022)抄録を閲覧。急性膵炎249例を乳酸リンゲル液の積極輸液(20 mL/kgボーラス後3 mL/kg/時)と適度な輸液(循環血液量減少例のみ10 mL/kgボーラス、以後1.5 mL/kg/時)に割り付けたWATERFALL試験は、中等症以上への進展に差がなく(22.1%対17.3%、調整相対リスク1.30、95%CI 0.78〜2.18、P=0.32)、体液過剰が20.5%対6.3%(調整相対リスク2.85、95%CI 1.36〜5.94、P=0.004)と積極輸液群で多かったため中間解析で中止された閲覧 2026-09-05
  5. 5.American College of Gastroenterology Guidelines: Management of Acute Pancreatitis(The American Journal of Gastroenterology・2024)出版社サイトが403のため Wayback の id_ 付きURL(2025-01-13保存分)で誌上版の全文HTMLを取得して確認した。初期管理の推奨3は逐語で "We suggest moderately aggressive fluid resuscitation for patients with AP. Additional boluses will be needed if there is evidence of hypovolemia (conditional recommendation, low quality of evidence)"、推奨4は "We suggest using lactated Ringer solution over normal saline for intravenous resuscitation in AP (conditional recommendation, low quality of evidence)" で、どちらも条件付き推奨・エビデンスの質は低いである。Key concept 10 は等張晶質液による中等度に積極的な輸液を全例に提案しつつ心血管・腎併存症があれば慎重にし体液過剰を監視するよう求め、Key concept 11 は輸液が最も重要なのは発症24時間以内であるとし、Key concept 12 は来院後6時間以内および以後24〜48時間にわたり頻回に輸液量を再評価するよう求める。エビデンスの要約は "in patients with no evidence of hypovolemia, an initial resuscitation rate of no more than 1.5 mL/kg of body weight per hour should be administered. However, in patients with hypovolemia, clinicians should administer a bolus of 10 mL/kg" と述べ、さらに "When severe disease develops and/or after 24 hours, aggressive hydration may actually be harmful" とする閲覧 2026-09-21
  6. 6.Acute Pancreatitis: A Review(JAMA・2021)急性膵炎の診断、早期輸液・栄養、胆石性膵炎の介入、壊死へのstep-up approach閲覧 2026-08-09