外科学

外科学 · B/16

慢性膵炎の外科的側面(症状・診断・治療)

Surgical aspects of chronic pancreatitis (symptoms, diagnosis, treatment)

前提:病態
膵炎
前提:正常
消化腺:膵臓
疾患
慢性膵炎
検査値
便中エラスターゼ-1

ポッドキャスト

🧠 は「膵実質がに置き換わっていく不可逆の病気」 — が急性のなら、はその繰り返しが最終的に外分泌・内分泌不全(・糖尿病)に行き着く終着駅。手術は、疑い、胆道・などの局所合併症で検討する。は重度の内分泌・外分泌機能障害を来すため、通常の標準術式ではない。1

1. 定義と病因

病因:

  • 慢性アルコール摂取
  • 喫煙
  • 特発性膵炎
  • 遺伝性膵炎
  • (結石や腫瘍)

2. 病態機序

flowchart TD
  T1["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='acinar cell injury'>腺房細胞傷害</span>(アルコールなど)<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancreatic enzyme'>膵酵素</span>の流出障害<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='trypsinogen'>トリプシノーゲン</span>の早期活性化"] --> T2["膵内での<span class='jp-term jp-term-diagram' title='trypsin'>トリプシン</span>活性化"]
  T2 --> T3["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='digestive enzyme'>消化酵素</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amylase'>アミラーゼ</span>・リパーゼ等)の膵内活性化"]
  T3 --> T4["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='autodigestion'>自己消化</span>"]
  T4 --> T5["炎症反応"]
  T6["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='toxic substance'>毒性物質</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inflammatory mediator'>炎症性メディエーター</span>への曝露<br>(アルコール、サイトカイン)"] --> T7["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pancreatic stellate cell'>膵星細胞</span>の活性化"]
  T5 --> T8["線維化"]
  T7 --> T8
  T8 --> T9["膵実質の線維性置換 → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic pancreatitis, CP'>慢性膵炎</span>"]

💡 と同じ「」の機序が繰り返されることで、修復過程としてが活性化し、最終的に膵臓がに置き換わっていく——これが急性と慢性をつなぐ一本の線。

3. 形態学的分類

はおよび/USの所見から膵管・形態異常を段階化する古典的分類である。現在の形態評価は造影CTを基本とし、や診断が不明確な場合は/やを追加する。2

分類 所見 /US所見
Normal(正常) 異常なし 腺の大きさ・形状正常、実質均一
(疑い) MPD正常+異常SBDが3本未満 以下のいずれか1つ: SBD異常、MPD 2–4mm、正常の2倍までの腺腫大、実質不均一
Mild(軽度) MPD正常+異常SBDが3本以上 以下のいずれか2つ以上: SBD異常、MPD 2–4mm、軽度腺腫大、実質不均一
Moderate(中等度) 異常SBDに加えMPDの異常を伴う 小嚢胞<10mm、MPD壁エコー増強、腺輪郭不整
Severe(重度) 上記中等度の所見に加え、以下のいずれか: 嚢胞≥10mm、著明な腺腫大(正常の2倍超)、、結石、MPD閉塞/狭窄、著明なMPD不整、隣接 —

(MPD=、SBD=)

💡 列は異常なの本数で段階を分け、/US列は該当する所見の個数で段階を分ける。と軽度を分けるのは「側枝3本未満か3本以上か()」「所見1つか2つ以上か(/US)」であって、所見の種類ではない。

⚠️ 腺の腫大は「2倍」を境に段階が変わる。 1984年の準を転記した総説によれば、腫大が正常の2倍までなら〜中等度の所見の1つに数えるだけだが、正常の2倍を超える著明な腫大は重度の所見として扱われる。同じ「腺腫大」という語でも、程度で置かれる段が違う3。⚠️ この閾値の向きは教科書の転載表どうしで割れている(の腫大を「正常の2倍を超える」と逆向きに書く表もある)ので、段階の境目を覚えるときは準を転記した側を採る。

4. 臨床像

  • 上腹部()痛:
    • 背部に放散、で軽減、食後に増悪
    • 初期は間欠的だが、進行するにつれ持続性になる
    • しばしば悪心・嘔吐を伴う
  • の徴候(実質が破壊された結果):

⭐ の腹痛パターン(・で軽減・食後増悪)はの痛みと基本的に同じ性質——違いは「間欠性→持続性へ進行する」点。

5. 診断

・形態学的評価・機能評価を組み合わせて診断する。

  • 血液検査: ビリルビン(胆道閉塞)、(内分泌不全)、カルシウム、肝機能検査、を見る。⚠️ は「上がっているか」ではなく「上がらないこと」に注意する——進行したでは血清・リパーゼはしばしば正常〜低値で、正常値をもってを除外できない(の「基準値上限の3倍超」というはには使えない)
  • 画像検査: 造影CTを第一選択とし、やで明確でない場合は/やを追加する
  • 検査(重症度評価): -1活性などでの程度を評価する。ただし-1は軽度〜中等度の外分泌不全に対する感度が54〜75%にとどまるため、正常でも除外はできず、症状が出現・悪化したときに再検する4

6. 治療

一般的治療

  • ・禁煙(禁煙はの出現リスクを下げ、は進行を遅らせ疼痛制御を改善しうる)
  • に対する: 主食事ごとにリパーゼ40,000〜50,000単位以上、間食にはその半量を、食事と一緒に分けて内服する(いずれもGRADE 1A)。効果が不十分なら用量を2〜3倍に増やすかを追加する(GRADE 2B)4。この用量は2025年の欧州ガイドラインでも維持されており、間食の半量は20,000〜25,000単位と明示されている。40,000単位を下回る用量には根拠が乏しい5
  • 食事: 例には少量頻回の(GRADE 2C)。脂肪制限と極端なは避ける(GRADE 1C)——脂肪制限は酵素の増量との追加でもが制御できないときの最後の手段であり、外分泌不全の患者でもの30〜33%を脂肪から摂ることは通常できる4
  • (A・D・E・K)・・・の欠乏をスクリーニングし、欠乏があれば補充する(GRADE 2A)4
  • (MCT)製剤はルーチンには推奨されない(GRADE 2C)——への依存が少ないという理屈はあるが、と併用したとき長鎖トリグリセリドに勝る明確な利益は示されていない4。2025年の欧州ガイドラインもMCTを挙げるのはの文脈だけで、「標準的なポリマーにがない患者では、ペプチドまたはMCTを基剤とする栄養剤を考慮してよい」とするにとどまる(合意率91.6%だがエビデンスの水準は最も低い区分)。経口での補充は推奨していない5
  • 内分泌機能不全があればインスリン投与。は重度で遷延する低血糖のリスクがあり、併存する肝疾患のため禁忌となることも多いので処方しない4

鎮痛はのラダーに従う(GRADE 1B)。4

  • 第1段階: 。副作用が少なく第1選択。は消化管毒性のため避ける(消化性潰瘍のリスクが高い患者にはを併用する)
  • 第2段階: 。ではモルヒネと同等の鎮痛が得られ、の副作用が少なかった
  • 第3段階: (モルヒネなど)。依存と副作用のリスクが高く、増量するとかえって腹痛が増す narcotic bowel syndrome がオピオイド使用者の最大5%に生じうる(治療は減量のみ)
  • 補助: 抗うつ薬・などのうち、無作為化試験で検証されているのはのみで、中等度のが得られた

⚠️ ブロックを「の鎮痛の柱」と考えない。 下ブロックは選択例で有効なことがある(GRADE 1C)が、が得られるのは約半数にとどまり、24週を超えてが続くのは10%未満である。ルーチンの治療としては推奨されない。アルコールやによる神経破壊法は重度の症候群のリスクから禁忌である。4

手術(膵癌が疑われる場合、または難治性疼痛の場合)

術式 特徴
膵頭部優位病変や小膵管病変、腫瘤形成例で行う切除術
() 体部から尾側を切除する。「」は同じ術式の別名であって別の手術ではない
十二指腸温存膵頭切除術(Beger手術など)・Frey手術 膵頭部主体病変に対する、それぞれ異なる組織温存術式

⚠️ は通常の標準術式ではない — 重度の外分泌・内分泌機能不全をきたすうえ、それだけの代償を払っても疼痛が十分に取れるとは限らないため、適応を慎重に選ぶ。1

⭐ 手術を「がしない場合の最後の手段」とだけ位置づけず、も最初から選択肢に入れる。ESCAPE試験は「が拡張し、を2か月以内・を6か月以内に開始したばかりの疼痛性」88例を(後6週以内の膵ドレナージ手術)と内視鏡先行に割り付け、18か月で積算したIzbickiが37対49(群間差-12点、95%信頼区間 -22〜-2、P=0.02)とで低かった6。平均98か月の長期追跡でも33対51、完全45%対20%、「とても満足」71%対33%、18か月以降の再介入26%対44%と差が保たれ、内視鏡から手術へ移行した群(内視鏡先行群の51%)は群より成績が悪かった(52対33、完全12%対55%)。内視鏡で膵管の閉塞が解除された患者でも、解除されなかった残りの患者とは変わらなかった(49対53)。7

⚠️ このを全体に広げない。ESCAPEが組み入れたのはが拡張し、かつオピオイドを使い始めて間もない患者であり、が拡張していない例や長年オピオイドを使ってきた例は含まれていない。6

拡張した膵管に対するドレナージ手術:

  • 残存膵組織を最大限温存し、外分泌・内分泌不全の発症を遅らせる
  • : 拡張を伴う症例に対し、空腸ループへを行う。典型的な適応は、狭窄と拡張がに並んでに見える(いわゆる「鎖状の湖」)であり、狭窄部を1か所ずつ広げるのではなく膵管を長軸方向に開いて空腸と吻合する
  • 膵管結石の除去
  • として、膵管狭窄や結石に対する・・結石除去を行う
  • のドレナージ。普遍的に認められている適応は、症状、合併症(感染・出血・破裂)、周囲臓器の(胃・十二指腸・胆道の閉塞)である。加えて同ガイドラインは、無症状でも径5cmを超え3〜6か月で消退しないものは治療すべき(GRADE 2C)としている。つまり5cm超は「それだけで直ちに適応」ではないが、遷延すればそれ自体が適応になる4

7. 合併症

  • (吸収不良、、糖尿病)
  • 胆道/ → 手術適応
  • → 症状・合併症・があればの適応
  • (膵管破綻による)
  • の感染(旧い資料はこれを「」と呼ぶ。がこの語を使わない理由は を参照)
  • 膵管狭窄・()
  • (詳細は 膵腫瘍 を参照)

まとめ

  • は→線維化により膵実質が不可逆的に置換される疾患で、最大の原因はアルコールと喫煙。
  • 腹痛は・で軽減・食後増悪というパターンで、進行すると間欠性から持続性に変わる。
  • 形態評価は造影CTを基本とし、必要に応じて/やを追加する。機能評価は-1などで行う。
  • 内科的治療の柱は・禁煙、(主食事でリパーゼ40,000〜50,000単位以上、間食は半量)、ラダーに沿った鎮痛(第1選択は。は避ける)である。脂肪の一律制限は行わず、制限するとしても他の手段が尽きたときの最後の手段にとどめる。MCT製剤も経口での補充は推奨されず、2025年の欧州ガイドラインが挙げるのはとしての場面だけである。
  • 手術適応はの疑い、、胆道・などの局所合併症で、は通常の標準術式ではない。
  • 拡張膵管にはなどのドレナージ術式が有効で、組織温存と機能不全の先送りに寄与する。拡張があってオピオイド使用歴の短い例では、内視鏡先行よりのほうが長期の疼痛転帰が良い。
  • 自体がのリスク因子であることを忘れない。

出典

  1. 1.Surgical Approaches to Chronic Pancreatitis: Indications and Techniques(Digestive Diseases and Sciences・2017)慢性膵炎の局所合併症を含む手術適応と術式選択閲覧 2026-08-09
  2. 2.Management of chronic pancreatitis(BMJ・2024)慢性膵炎の画像・機能評価と内視鏡・外科治療の位置づけ閲覧 2026-08-09
  3. 3.Chronic pancreatitis: Pain and computed tomography/magnetic resonance imaging findings(World Journal of Radiology・2024)全文を閲覧。Table 2 が1984年のCambridge分類のCT・超音波の判定基準を転記しており、判定保留(Equivocal)は徴候が1つのみ、軽度(Mild changes)は2つ以上と定め、徴候として主膵管拡張4mm未満、正常の2倍までの腺腫大(原文 Gland enlarged up to 2 times normal)、10mm未満の嚢胞、膵管不整、限局性の急性膵炎、実質の不均一、膵管壁エコーの増強、頭部・体部の輪郭不整を挙げる。著明変化(Marked changes)は上記に加えて10mmを超える大きな嚢胞、正常の2倍を超える著明な腺腫大(原文 gross gland enlargement greater than 2 times normal)、管内充盈欠損または結石、膵管の閉塞・狭窄・高度不整、隣接臓器浸潤のいずれかを伴うものとする。原基準そのものではなく総説による転記である点に注意閲覧 2026-09-21
  4. 4.United European Gastroenterology evidence-based guidelines for the diagnosis and therapy of chronic pancreatitis (HaPanEU)(United European Gastroenterology Journal・2017)全文を閲覧。膵酵素補充療法は主食事でリパーゼ40,000〜50,000単位以上・間食ではその半量(GRADE 1A)、酵素は食事および間食とともに分けて内服する(GRADE 1A)、効果不十分なら増量(2〜3倍)またはプロトンポンプ阻害薬の追加(GRADE 2B)、脂肪制限と極端な高繊維食は避ける(GRADE 1C)、低栄養例には少量頻回の高エネルギー食(GRADE 2C)、中鎖脂肪酸トリグリセリド製剤は推奨しない(GRADE 2C)、鎮痛はWHOの除痛ラダーに従う(GRADE 1B)ことを確認した。本文の記載として、第1段階の鎮痛薬はパラセタモールが望ましくNSAIDsは消化管毒性のため避けること、第2段階はトラマドールが望ましく慢性膵炎ではモルヒネより消化器系の副作用が少なく同等の鎮痛が得られること、補助鎮痛薬でプラセボ対照無作為化試験があるのはプレガバリンのみであること、超音波内視鏡下腹腔神経叢ブロックは除痛が得られるのが約半数で24週を超える除痛は10%未満のためルーチンには推奨できないこと(選択例で有効なことがあるのは GRADE 1C)、膵仮性嚢胞の治療適応として普遍的に認められているのは症状・合併症(感染・出血・破裂)・周囲臓器の圧排(胃・十二指腸・胆道の閉塞)であり5cmを超える増大は合併症発生と関連すること、脂溶性ビタミン(A・D・E・K)・亜鉛・マグネシウム・HbA1cの欠乏スクリーニングを考慮すること(GRADE 2A)、スルホニル尿素薬は重度で遷延する低血糖のリスクがあり併存する肝疾患のため禁忌となることも多く処方すべきでないこと、便中エラスターゼ-1は軽度〜中等度の膵外分泌機能不全に対する感度が54〜75%にとどまること、膵仮性嚢胞の普遍的に認められた治療適応が症状・合併症(感染・出血・破裂)・周囲臓器の圧排である一方、無症状でも径5cmを超え3〜6か月で消退しないものは治療すべきとされること(GRADE 2C)も確認した閲覧 2026-09-05
  5. 5.European guidelines for the diagnosis and treatment of pancreatic exocrine insufficiency: UEG, EPC, EDS, ESPEN, ESPGHAN, ESDO, and ESPCG evidence-based recommendations(United European Gastroenterology Journal・2025)全文を閲覧。膵外分泌機能不全に対する膵酵素補充療法の開始量について、Statement 3.4 は年齢・重症度・食事の脂肪量で変わるとしたうえで、解説で「主食事にリパーゼ40,000〜50,000単位以上、間食にはその半量(20,000〜25,000単位)を投与することが成人で有効と示されている」と述べ、40,000単位未満の用量については根拠が乏しいとする(Level of evidence 3、合意率94.0%)。2017年のHaPanEUガイドラインと同じ数値が維持されている。中鎖脂肪酸トリグリセリドについては Statement 3.10.4 が「経腸栄養を受けている患者で標準的なポリマー経腸栄養剤に忍容性がない場合に、ペプチドまたは中鎖脂肪酸トリグリセリドを基剤とする栄養剤を考慮してよい」とするにとどまり(Level of evidence 5、合意率91.6%)、経口摂取での補充は推奨していない。脂肪については解説で「適切な膵酵素補充療法を受けている患者は通常は脂肪制限を要さない」「低栄養例では過度に制限した食事はかえって逆効果になりうる」と述べる。オンライン公開は2024年12月5日、誌上版はUnited European Gastroenterology Journal 13巻1号125〜172頁(2025年)閲覧 2026-09-21
  6. 6.Effect of Early Surgery vs Endoscopy-First Approach on Pain in Patients With Chronic Pancreatitis: The ESCAPE Randomized Clinical Trial(JAMA・2020)抄録を閲覧。組入れ基準は「慢性膵炎・主膵管拡張があり、強オピオイドを2か月以内または弱オピオイドを6か月以内に開始したばかりの疼痛例」88例で、オランダ30施設で早期手術(無作為化後6週以内の膵ドレナージ手術)44例と内視鏡先行44例に割り付けた。18か月間で積算したIzbicki疼痛スコアは37対49、群間差マイナス12点(95%信頼区間マイナス22〜マイナス2、P=0.02)。介入回数の中央値は1回対3回、治療合併症27%対25%、死亡は両群0%であった閲覧 2026-09-05
  7. 7.Long-Term Outcomes of Early Surgery vs Endoscopy First in Chronic Pancreatitis: Follow-Up Analysis of the ESCAPE Randomized Clinical Trial(JAMA Surgery・2025)拡張主膵管を伴う疼痛性慢性膵炎で早期手術が内視鏡先行より長期疼痛転帰に優れること閲覧 2026-08-09