組織学 · 10.2
消化腺:膵臓
Digestive glands — Pancreas
🧠 膵臓は「外分泌の海に内分泌の島が浮かぶ」臓器、と覚える。 実質のほとんど(約99%)は消化酵素 digestive enzyme 消化酵素(digestive enzyme) digestive enzyme(消化酵素) を作る漿液性の外分泌腺 exocrine glands 外分泌腺(exocrine glands) exocrine glands(外分泌腺) 房で占められ、その中にホルモンを分泌するランゲルハンス島islet of Langerhansランゲルハンス島(islet of Langerhans)islet of Langerhans(ランゲルハンス島)という淡染の細胞集団がまばらに散在する——「海(外分泌)」と「島(内分泌)」という比喩がそのまま組織像に対応する。
外分泌部:漿液性の腺房と導管系
膵臓の外分泌部は純漿液性purely serous 純漿液性(purely serous)purely serous(純漿液性) の腺房からなり、消化酵素digestive enzyme 消化酵素(digestive enzyme)digestive enzyme(消化酵素) (トリプシノーゲンtrypsinogenトリプシノーゲン(trypsinogen)trypsinogen(トリプシノーゲン)、アミラーゼamylaseアミラーゼ(amylase)amylase(アミラーゼ)、リパーゼなど)を分泌する。
flowchart TD
A["腺房:漿液性腺細胞+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='centroacinar cells'>腺房中心細胞</span>"]
A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intercalated duct'>介在部導管</span>"]
B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intralobular duct'>小葉内導管</span>"]
C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='interlobular duct'>小葉間導管</span>"]
D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='main pancreatic duct'>主膵管</span>"]
⭐ 唾液腺(10-1-salivary-glands)の導管系 duct system 導管系(duct system) duct system(導管系) と異なり、膵臓の介在部導管 intercalated duct 介在部導管(intercalated duct) intercalated duct(介在部導管) は腺房の内部にまで入り込み、腺房中心細胞centroacinar cells腺房中心細胞(centroacinar cells)centroacinar cells(腺房中心細胞)として腺房腔の中心に達する——これは膵臓の外分泌部に特有の構造で、他の漿液性腺と鑑別する際の決め手になる。腺房中心細胞centroacinar cells腺房中心細胞(centroacinar cells)centroacinar cells(腺房中心細胞)・導管上皮はHCO₃⁻に富むアルカリ性の液を分泌し、十二指腸に達する酸性の胃内容物を中和する。
内分泌部:ランゲルハンス島
外分泌腺exocrine glands 外分泌腺(exocrine glands)exocrine glands(外分泌腺) 房の間に散在するランゲルハンス島islet of Langerhansランゲルハンス島(islet of Langerhans)islet of Langerhans(ランゲルハンス島)は、毛細血管網capillary network 毛細血管網(capillary network)capillary network(毛細血管網) に富む淡染の細胞集団で、複数のホルモン産生細胞からなる。
💡 「実質の約99%が外分泌」は概数で、実測には1〜4%程度の幅がある。 ヒト膵1例を全域で形態計測 morphometry 形態計測(morphometry) morphometry(形態計測) した3次元再構成では、島が膵の体積に占める割合は区分ごとの平均で1.12±0.3%、全膵から積算した推定では4.49%(総島体積2 cm³/膵体積45 cm³)、島の総数は約320万個だった1。全膵を対象にした別の形態計測 morphometry 形態計測(morphometry) morphometry(形態計測) では、内分泌組織の総量は非糖尿病者で平均1,395 mg、1型糖尿病では413 mgまで減っていた2。⚠️ 島は頭部から尾部へ列状に分布して均一ではないので、1枚の切片から「何%」を出すと部位でぶれる。「99%」は下限側の見積もりを丸めた言い方で、96〜99%の幅で理解しておくのが実測に近い。
| 細胞 | 分泌するホルモン | 齧歯類rodent 齧歯類(rodent)rodent(齧歯類) の島での分布 | ヒトの島での分布 |
|---|---|---|---|
| α細胞alpha cellα細胞(alpha cell)alpha cell(α細胞) | グルカゴン | 島の辺縁部(外套)に多い | 島全体に散在。齧歯類rodent 齧歯類(rodent)rodent(齧歯類) より割合が高い |
| β細胞 | インスリン | 最多、島の中心部(コア)に集まる | 島全体に散在。最多だが齧歯類 rodent 齧歯類(rodent) rodent(齧歯類) より割合は低い |
| δ細胞 | ソマトスタチン | 辺縁部(マウスではβ細胞コアの周囲) | 島全体に散在 |
| PP細胞 | 膵ポリペプチド | 散在 | 散在 |
⚠️ 「α細胞alpha cell α細胞(alpha cell)alpha cell(α細胞) は辺縁、β細胞は中心」という同心円モデルは齧歯類 rodent 齧歯類(rodent) rodent(齧歯類) の島の話で、ヒトの島はそうなっていない。 共焦点顕微鏡confocal microscopy 共焦点顕微鏡(confocal microscopy)confocal microscopy(共焦点顕微鏡) と多重免疫蛍光 immunofluorescence, IF 免疫蛍光(immunofluorescence, IF) immunofluorescence, IF(免疫蛍光) でヒトの島を調べると、教科書や文献にある典型的な島の記載とは異なり、ヒトの島には解剖学的な区画分けがなく、β細胞・α細胞alpha cellα細胞(alpha cell)alpha cell(α細胞)・δ細胞が島全体に散らばっている。ヒトのβ細胞は塊を作らず、71%が他の内分泌細胞 enteroendocrine cells 内分泌細胞(enteroendocrine cells) enteroendocrine cells(内分泌細胞) と接していた。またヒトの島はマウスの島よりβ細胞の割合が低くα細胞 alpha cell α細胞(alpha cell) alpha cell(α細胞) の割合が高い3。この像は単離した島でも膵の組織切片 tissue section 組織切片(tissue section) tissue section(組織切片) でも同じで、非ヒト霊長類の島もヒトに酷似している。細胞種の比率はヒトでは個体間のばらつきが大きく、マウスのように一定していない4。
💡 とはいえ「ヒトの島は完全に無秩序」でもない。 ヒトでも径40〜60 µmの小さな島ではβ細胞が中心、α細胞alpha cell α細胞(alpha cell)alpha cell(α細胞) が外套の位置を占め、血管はその外側を走る。大きな島ではα細胞 alpha cell α細胞(alpha cell) alpha cell(α細胞) が外套に加えて島内に入り込む血管に沿って並ぶため、β細胞/α細胞alpha cell α細胞(alpha cell)alpha cell(α細胞) 比は常に島の中心側で高く、島が大きくなるほど比が下がる。3次元で見ると、島の細胞は血管に両側を挟まれた3層の上皮板が折りたたまれた構造をとっていた5。「同心円モデルは成り立たないが勾配はある」という位置づけで覚える。なお、この中心‐外套の分離は培養した単離島では失われる5——単離島の画像だけを見て構築を語らないこと。
💡 この違いは機能にも効く。 ヒトの島ではβ細胞のCa²⁺振動が島全体で同期せず、グルコースを1 mMまで下げると島の細胞内Ca²⁺がむしろ上昇する——α細胞 alpha cell α細胞(alpha cell) alpha cell(α細胞) の寄与が大きい構成から説明できる3。齧歯類rodent 齧歯類(rodent)rodent(齧歯類) の島で得られた分泌動態をそのままヒトに当てはめない、という警告 warnings 警告(warnings) warnings(警告) としても押さえておく。
💡 「なぜランゲルハンス島 islet of Langerhans ランゲルハンス島(islet of Langerhans) islet of Langerhans(ランゲルハンス島) は淡く染まるのか」という疑問には、周囲の外分泌腺 exocrine glands 外分泌腺(exocrine glands) exocrine glands(外分泌腺) 房が消化酵素 digestive enzyme 消化酵素(digestive enzyme) digestive enzyme(消化酵素) 合成のためrERに富み強い好塩基性を示すのに対し、島の内分泌細胞 enteroendocrine cells 内分泌細胞(enteroendocrine cells) enteroendocrine cells(内分泌細胞) はホルモンをペプチドとして少量ずつ産生・貯蔵するため細胞質のrER密度が相対的に低く、コントラストcontrast コントラスト(contrast)contrast(コントラスト) として淡く見える、と説明できる(00-2-stainingの原則の応用)。
まとめ
- 膵臓の大部分は漿液性の外分泌腺 exocrine glands 外分泌腺(exocrine glands) exocrine glands(外分泌腺) 房で占められ、消化酵素digestive enzyme 消化酵素(digestive enzyme)digestive enzyme(消化酵素) を分泌する。
- 腺房中心細胞centroacinar cells 腺房中心細胞(centroacinar cells)centroacinar cells(腺房中心細胞) は膵臓の導管系 duct system 導管系(duct system) duct system(導管系) に特有で、腺房腔中心にまで入り込みアルカリ性の液を分泌する。
- ランゲルハンス島islet of Langerhans ランゲルハンス島(islet of Langerhans)islet of Langerhans(ランゲルハンス島) は外分泌組織の中に散在する内分泌細胞 enteroendocrine cells 内分泌細胞(enteroendocrine cells) enteroendocrine cells(内分泌細胞) 集団で、α・β・δ・PP細胞がそれぞれ異なるホルモンを分泌する。
- 「β細胞が中心、α細胞alpha cell α細胞(alpha cell)alpha cell(α細胞) が辺縁」という同心円配置は齧歯類 rodent 齧歯類(rodent) rodent(齧歯類) の島の特徴で、ヒトの島では3種の細胞が島全体に散在し、β細胞の割合は齧歯類 rodent 齧歯類(rodent) rodent(齧歯類) より低くα細胞 alpha cell α細胞(alpha cell) alpha cell(α細胞) の割合は高い(ただし小さな島には中心‐外套の勾配が残る)。
- 島が淡染に見えるのは外分泌腺 exocrine glands 外分泌腺(exocrine glands) exocrine glands(外分泌腺) 房ほどrERが密でないことによる。
出典
- 1.A 3D map of the islet routes throughout the healthy human pancreas(Scientific Reports・2015)健常ドナー1例のヒト膵を頭部・頸部・体部・尾部の4区分64枚の切片(島5,423個)で形態計測し3次元再構成した。膵内の島の総数は約320万個、総島体積は2 cm³で、島が膵の全体積(45 cm³)に占める割合は区分ごとの平均で1.12±0.3%、全膵から積算した推定では4.49%だった。島は頭部から尾部へ向かって列(islet route)状に分布し均一ではない閲覧 2026-08-24
- 2.Cellular composition of the human diabetic pancreas(Diabetologia・1983)細胞型の不均一な分布を考慮して全膵を対象に免疫ペルオキシダーゼ染色と形態計測を行い、各細胞型の体積密度と各葉の重量から内分泌組織の総量を算出した。対照8例で平均1,395 mg、1型糖尿病4例で413 mg、2型糖尿病8例で1,449 mgだった閲覧 2026-08-24
- 3.The unique cytoarchitecture of human pancreatic islets has implications for islet cell function(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America・2006)共焦点顕微鏡と多重免疫蛍光でヒト膵島を調べると、教科書や文献にある典型的な膵島の記載とは異なり、ヒトの膵島には解剖学的な区画分けがなく、インスリン陽性β細胞・グルカゴン陽性α細胞・ソマトスタチン含有δ細胞が膵島全体に散らばっていた。ヒトのβ細胞は塊を作らず、71%が他の内分泌細胞と接していた。ヒトの膵島はマウスの膵島よりβ細胞の割合が低くα細胞の割合が高い。ヒトの膵島ではβ細胞のCa2+振動が膵島全体で同期せず、グルコースを1 mMまで下げると細胞内Ca2+が上昇する(α細胞の寄与が大きい構成から説明できる)閲覧 2026-08-24
- 4.Assessment of human pancreatic islet architecture and composition by laser scanning confocal microscopy(The Journal of Histochemistry and Cytochemistry・2005)3施設由来の6回の単離ヒト膵島をマウス・非ヒト霊長類の膵島と比較したところ、マウス膵島ではα細胞とδ細胞がβ細胞のコアの周辺に位置したのに対し、ヒト膵島ではα・β・δ細胞が膵島全体に分散していた。この分布は全ての標本・あらゆる大きさの膵島で、また膵の組織切片でも同様に見られた。非ヒト霊長類の膵島の構築はヒトに酷似していた。画像解析による細胞種の体積比はヒト膵島では個体間のばらつきが大きく、マウス膵島とは対照的であった閲覧 2026-08-24
- 5.Unique arrangement of alpha- and beta-cells in human islets of Langerhans(Diabetes・2010)ヒト膵島のうち径40〜60 µmの小さな膵島ではβ細胞が中心、α細胞が外套の位置を占め、血管はその外側を走る。大きな膵島でもα細胞は外套に加え膵島内に侵入する血管に沿って並ぶため、β細胞/α細胞比は常に膵島の中心側で高く、膵島の径が大きくなるほど低下する。この中心‐外套の分離は2型糖尿病ドナーでも見られたが、培養した単離膵島では失われた。3次元解析では膵島の細胞は血管に両側を挟まれた3層の上皮板が折りたたまれた構造をとっていた閲覧 2026-08-24