組織学

組織学 · 10.1

消化腺:唾液腺

Digestive glands — Salivary glands

🧠 大唾液腺3対は「漿液性の割合の順位」で覚える——耳下腺()>(混合、漿液優勢)>(混合、粘液優勢)。 漿液性の割合が下がるほど分泌物は水っぽさを失いネバネバの粘液寄りになる、という一本の物差しで3腺を並べれば個別の暗記より速い。

大唾液腺3対の比較

唾液腺 腺房の性質 特徴
耳下腺 タンパク質分泌が主体、腺房が最も豊富にrERをもち好塩基性が強い(02-5-glands)
混合(漿液性優勢) 漿液性腺房が多く、腺房の一部にを伴う
混合(優勢) 腺房が主体、を伴う

⭐ 耳下腺=、=漿液優勢の混合、=粘液優勢の混合という順位は唾液腺の鑑別で最頻出——標本を見て「腺房がすべて(好塩基性)なら耳下腺」「淡染の腺房が多いなら」という判断ができる。

漿液半月

・のような混合腺では、標本作製の過程で腺房が変形し、その上にがに付着して見えるが観察される(02-5-glandsで扱った混合腺のがここで具体化される)。

⚠️ がであることは、固定法を変えた実験で直接示されている。 を急速凍結・凍結置換法で固定すると、終末部は複合分枝胞状腺で、漿液細胞は終末部全体に分布し、と並んで同一の共通腔を取り囲んでおり、半月構造はまったく存在しない。同じ組織を従来の浸漬固定で処理すると、水を含んで膨張したが漿液細胞を腺房のへ押しやり、そこで初めて半月が現れる1。130年以上にわたって実在の構造と信じられてきたものが固定による圧迫の産物だった、という点で「標本に見えているものが本当にそこにあったか」を問う代表例になっている。

💡 腺房との外側にはが張りついている。 はヒト・の唾液腺でと腺房の(と基底膜の間)に位置し、名のとおり上皮細胞との両方の特徴をもつ。自律神経の刺激で収縮し、その下の実質を圧迫・補強することで分泌を助ける。H&Eでは目立たず、α-・平滑筋・・カルポニン、14/5/17などの免疫染色で初めてはっきり見える2。分布には例外があり、耳下腺の腺房にはがなく、逆にヒトではに見られることもある2——「腺房とを必ず全周取り囲む」と断定しないこと。

導管系:唾液の組成を変える経路

唾液腺の導管は単なる通路ではなく、Na⁺・Cl⁻の再吸収とK⁺・HCO₃⁻の分泌により原唾液の組成を能動的に修飾する。

flowchart TD
  A["腺房:等張の原唾液を分泌"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intercalated duct'>介在部導管</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='simple cuboidal'>単層立方上皮</span>"]
  B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='striated duct'>線条部導管</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='simple columnar'>単層円柱上皮</span>、基底線条=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='basal infoldings'>基底陥入</span>が発達"]
  C --> D["小葉間(排泄)導管:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='simple columnar'>単層円柱上皮</span>"]
  D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='main duct'>主導管</span>:最終的に重層円柱→<span class='jp-term jp-term-diagram' title='stratified squamous epithelium'>重層扁平上皮</span>"]

💡 の細胞質基部に見える“線条”(striations)は、(01-1-plasma-membrane・02-3-cell-junctions)に並ぶとミトコンドリアの列——能動輸送が盛んな部位ほどこのような微細構造が発達するという原則がここでも成り立ち、が唾液の電解質組成を最終調整する主要な場であることを示している。

⚠️ ただし修飾は線条部の独占ではない。 マウス・・ヒトの大唾液腺を免疫染色すると、はだけでなく小葉内・を裏打ちする上皮細胞の基底外側膜にも豊富で、染色は常に基底外側面のみ(管腔面には出ない)である。のほぼ全区間が強く染まることから、原唾液の修飾は全体で行われていると考えられる3。同じ研究で、はどの腺でも陰性で、漿液細胞は染色強度に幅があった——「水っぽい低タンパクの分泌を出す細胞ほどこのポンプをもつ」という対応になっている。

まとめ

  • 大唾液腺は耳下腺()・(漿液優勢の混合)・(粘液優勢の混合)に分かれる。
  • 混合腺では標本作製時のとしてが観察される。急速凍結・凍結置換で固定すると半月は現れず、漿液細胞はと並んで共通腔を囲んでいる。
  • 腺房とのにはがあり、自律神経刺激で収縮して分泌を助ける。免疫染色(α-など)でなければ確認しにくい。
  • は→→→の順に構成され、が電解質組成の最終調整を担う(ただしは小葉内・の基底外側膜にも豊富で、修飾は全体で行われる)。

出典

  1. 1.The serous demilune of rat sublingual gland is an artificial structure produced by conventional fixation(Archives of Histology and Cytology・1999)ラット舌下腺を急速凍結・凍結置換法で固定すると、終末部は複合分枝管状胞状腺で、漿液細胞は終末部全体に分布し粘液細胞と並んで同一の共通腔を取り囲んでおり、半月構造は存在しない。同じ組織を従来の浸漬固定で処理すると、水和して膨張した粘液細胞が漿液細胞を腺房の基底側へ押しやって半月構造を作る。130年以上にわたり実在の組織構造と信じられてきた漿液半月は、浸漬固定中の圧迫によって生じるアーチファクトである閲覧 2026-08-24
  2. 2.Immunocytochemistry of myoepithelial cells in the salivary glands(Progress in Histochemistry and Cytochemistry・2003)筋上皮細胞はヒトとラットの唾液腺で介在部導管と腺房の基底側に分布する。ただしラット耳下腺の腺房には存在せず、ヒト唾液腺では線条部導管に見られることもある。上皮細胞と平滑筋細胞の両方の構造的特徴をもち、自律神経刺激で収縮して下層の実質を圧迫・補強することで分泌を助けると考えられる。免疫染色でしか十分に観察できず、マーカーはα-SMA・平滑筋ミオシン重鎖・h-カルデスモン・塩基性カルポニン、ケラチン14/5/17、ビメンチンなどである閲覧 2026-08-24
  3. 3.Immunohistochemical localization of Na+,K+-ATPase in rodent and human salivary and lacrimal glands(The Journal of Histochemistry and Cytochemistry・1988)マウス・ラット・ヒトの大唾液腺で、Na+,K+-ATPaseは線条部導管および小葉内・小葉間導管を裏打ちする全ての上皮細胞の基底外側膜に豊富に存在した。染色は常に基底外側面のみで、管腔面には認められなかった。粘液細胞はどの腺でも陰性で、漿液細胞は染色強度に幅があった。導管系のほぼ全ての区間が強く染まることは、原唾液の修飾が線条部だけでなく導管系全体で行われていることを示す閲覧 2026-08-24