組織学

組織学 · 10.3

消化腺:肝臓

Digestive glands — Liver

応用トピック
自己免疫性肝炎・原発性胆汁性胆管炎・原発性硬化性胆管炎小児の肝腫大・脾腫胆汁うっ滞・抱合型高ビリルビン血症

🧠 肝臓は「血液と胆汁が反対方向に流れる六角柱」と覚える。 の周縁()から中心()へ血液が流れ込むのに対し、肝細胞が作る胆汁は逆に中心から周縁へ向かって流れ出る——この“血液は求心性、胆汁は遠心性”という反対方向の2つの流れが、の構造を理解する軸になる。

肝小葉と門脈域

は肝細胞が板状に配列したからなり、中心のを軸とした六角柱状のを構成する。の角にはがあり、3つの管が並走する。

flowchart TD
  A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='portal triad/area'>門脈域</span>"]
  A --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='portal vein branch'>門脈枝</span>:腸管からの栄養血"]
  A --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic artery branch'>肝動脈枝</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='oxygenated blood'>酸素化血</span>"]
  A --> D["胆管:胆汁の出口"]
  B --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sinusoids'>類洞</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='portal triad/area'>門脈域</span>から<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central vein'>中心静脈</span>へ血液が流入"]
  C --> E
  E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central vein'>中心静脈</span>:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hepatic lobule'>肝小葉</span>の中心"]
構成要素 血流・胆汁の向き
・動脈血 (周縁)→→(中心):求心性
胆汁 肝細胞(中心寄りも含め全域)→→の胆管:遠心性

💡 肝の構造単位には「何を中心に置くか」で3つの捉え方があり、どれか1つが正しいのではなく問いに応じて使い分ける。 同じ組織を別の中心から区切り直しているだけなので、3つを競合する説と考えないこと。

単位 中心に置くもの 角にあたるもの 何を説明するのに使うか
古典的 (六角形の角) 血流の向きと組織像の基本。標本上で最初に見える区画
門脈小葉 3つの(三角形の角) 胆汁の流れ。としての肝臓を、分泌物が集まる先を中心に置いて捉える見方
隣り合うを結ぶ軸(終末・) 2つの(菱形の長軸の両端) 血液の酸素・栄養の勾配。ゾーン1〜3による代謝と病変分布の説明

💡 3つのうち病理で実際に働くのはのゾーン分けである。 軸に近いゾーン1は酸素・栄養に最も富み、に近いゾーン3が最も乏しい。ではRappaportのゾーン3にの拡張、から漏れた赤血球による肝細胞の置換、そして壊死・アポトーシスが起こり、急性の肝障害ではゾーン3の広範な壊死が主要な組織所見になる1。「=ゾーン3」という対応さえ押さえれば、古典的の用語と腺房の用語を自由に行き来できる。

⭐ 血液が周縁から中心へ、胆汁が中心(を含む全域)から周縁へという互いに逆方向の流れはの理解で最も重要な一点——このの構造により、酸素化された血液はに近づくにつれ徐々に消費され、肝細胞の代謝的な性質(ゾーン1〜3、 vs 解毒代謝の違い)に勾配が生じる。

類洞とクッパー細胞

の間を走るは(06-3-capillaries-sinusoids)の代表例で、内皮は不連続かつ、基底膜も不完全という高い透過性をもつ。内腔には——肝臓に定着したマクロファージ(03-1-cells)——が存在し、中の細菌・老廃赤血球を貪食する。

💡 の有窓はばらばらに開いているのではなく、「」という群れを作る。 分化したの表現型は「に並ぶ開いた有窓」と「基底膜を欠くこと」の2点で定義され、この2つが失われることをという2。毛細血管化はの発症に先立って起こり、逆に薬理学的にの分化を回復させると、活性化にしなくてもが静止化して線維化が退縮する3——「が普通の毛細血管に近づくことが線維化の引き金側にある」という向きで覚える。

⚠️ は「血中の単球が肝臓に住み着いたもの」ではない。 マウスの運命追跡実験により、成体の・・表皮の・の大半は、造血幹細胞とは別系統の卵黄嚢由来の赤芽球‐骨髄球系前駆細胞(EMP)に由来することが示された。EMPは胎生8.5日に卵黄嚢で生じ、胎生10.5日より前に胎児肝へ移住する。その後、赤血球・顆粒球・単球は造血幹細胞由来の細胞に置き換わっていくが、・・は1歳のマウスでもごくわずかしか置き換わらない4。つまりは骨髄から補充され続けるのではなく、その場で自己複製して維持される組織である。組織学で「〜由来」と書かれている箇所は、この型の改訂が入っていないか疑ってかかるとよい。

肝細胞との間にはという間隙があり、が自由に出入りして肝細胞とのの場となる。ここには()が存在し、正常時はを貯蔵するが、肝障害時には活性化してコラーゲンを産生しの主因となる。

⚠️ はGFAP・など神経系のマーカーを発現するため神経堤由来と説明されることがあったが、解析では中胚葉由来である。 肝発生では、MesP1を発現する中胚葉が肝の形成に先立って横中隔間葉を作り、そこから肝のと、や静脈周囲の血管周囲が生じる。胚性肝が成長するにつれ、と下細胞からなるが肝表面から内側へ移動し、に加えて門脈線維芽細胞・の・の線維芽細胞を生み出す5。(卵黄嚢由来)と(横中隔間葉=中胚葉由来)は起源がまったく別で、どちらも「でその場に定着した細胞」という共通点だけで括らないこと。

胆細管

隣接する肝細胞の細胞膜同士の間に形成される微細な管腔=を、肝細胞が産生した胆汁が流れる。はに沿ってから方向へ向かい、近くでを経てに接続する。

💡 には独自の壁構造(上皮)がなく、隣接する肝細胞の細胞膜自体がの壁を兼ねている——この点は毛細血管や導管が独立した内皮・上皮をもつのとは対照的で、肝細胞が「」と「導管の壁」の両方の役割を同時に担っている、という肝臓特有の構造。

まとめ

  • は(・・胆管)を角にもつ六角柱で、血液は周縁からへ、胆汁は中心から周縁の胆管へと反対方向に流れる。
  • 肝の構造単位には古典的(が中心、血流の説明)・門脈小葉(が中心、胆汁の流れの説明)・(間の軸が中心、ゾーン1〜3による代謝と病変分布の説明)の3つの捉え方があり、病理で実際に使われるのはのゾーン分けである。
  • は高透過性ので、有窓はを作り基底膜を欠く。その2点を失う毛細血管化はに先立って起こる。が貪食を担う。
  • は単球由来ではなく卵黄嚢由来のEMPに由来し、その場で自己複製して維持される。
  • のは正常時貯蔵、活性化するとの原因となる。起源はではなく横中隔間葉(中胚葉)である。
  • は独自の上皮をもたず、隣接する肝細胞の細胞膜が壁を兼ねる。

出典

  1. 1.How to interpret liver function tests in heart failure patients?(The Turkish Journal of Gastroenterology・2015)うっ血性肝障害の組織像は類洞の拡張、類洞から漏出した赤血球による肝細胞の置換、およびRappaport肝腺房のゾーン3の壊死・アポトーシスで特徴づけられ、進行例では肝硬変に至りうる。急性心原性肝障害ではゾーン3の広範な壊死が主要な組織所見である閲覧 2026-08-24
  2. 2.Rat liver sinusoidal endothelial cell phenotype is maintained by paracrine and autocrine regulation(American Journal of Physiology - Gastrointestinal and Liver Physiology・2004)類洞内皮細胞の表現型は、篩板(sieve plate)に並ぶ開いた有窓と基底膜を欠くことで定義され、この2つが毛細血管化(capillarization)で失われる。脱分化して有窓を失った類洞内皮細胞は細胞表面にCD31を発現し、これが脱分化のマーカーになる。肝細胞または肝星細胞との共培養はVEGFを介してこの脱分化を防ぎ、その作用には類洞内皮細胞自身による一酸化窒素の産生が必要である閲覧 2026-08-24
  3. 3.Role of differentiation of liver sinusoidal endothelial cells in progression and regression of hepatic fibrosis in rats(Gastroenterology・2012)類洞内皮細胞の脱分化を特徴とする毛細血管化は、肝線維化の発症に先立って起こる。チオアセトアミド肝硬変ラットで可溶性グアニル酸シクラーゼ活性化薬により類洞内皮細胞の分化を回復させると、活性化肝星細胞に直接作用しなくても毛細血管化が完全に可逆化し、続いて肝星細胞が静止化して線維化が退縮した閲覧 2026-08-24
  4. 4.Tissue-resident macrophages originate from yolk-sac-derived erythro-myeloid progenitors(Nature・2015)マウスの運命追跡により、肝のクッパー細胞・脳のミクログリア・表皮のランゲルハンス細胞・肺の肺胞マクロファージという成体の組織常在マクロファージの大半は、造血幹細胞とは別系統のTie2陽性経路から生じるCsf1r陽性の赤芽球‐骨髄球系前駆細胞(EMP)に由来する。EMPは胎生8.5日に卵黄嚢で発生し、胎生10.5日より前に胎児肝へ移住して少なくとも胎生16.5日まで胎児赤血球・マクロファージ・顆粒球・単球を生む。その後、赤血球・顆粒球・単球は造血幹細胞由来の細胞に置き換わるが、クッパー細胞・ミクログリア・ランゲルハンス細胞は1歳のマウスでもごくわずかしか置き換わらない(肺胞マクロファージは加齢にともない徐々に置き換わりうる)閲覧 2026-08-24
  5. 5.Hepatic stellate cell progenitor cells(Journal of Gastroenterology and Hepatology・2012)細胞系譜解析により、肝星細胞は肝発生の過程で中胚葉に由来することが示された。MesP1を発現する中胚葉が肝原基形成に先立って横中隔間葉を作り、そこから肝の中皮と、肝星細胞や静脈周囲の血管周囲間葉系細胞を含む間葉系細胞が生じる。胚性肝の成長にともない、中皮細胞と中皮下細胞からなる中皮が肝表面から内側へ移動し、肝星細胞と、門脈線維芽細胞・門脈周囲の平滑筋細胞・中心静脈周囲の線維芽細胞といった血管周囲間葉系細胞を生み出す閲覧 2026-08-24