内科学

内科学 · S-35

慢性膵炎

Chronic Pancreatitis

前提:病態
膵炎
前提:正常
膵臓の外分泌とその調節
疾患
慢性膵炎膵外分泌不全

🧠 全体像:は、反復・持続する膵障害により線維化と不可逆的な形態・機能障害を来す線維炎症性症候群である。疼痛、、を並行評価し、原因除去、栄養・酵素補充、内視鏡/を段階的に組み合わせる。

原因

TIGAR-Oとして毒性・代謝性(alcohol、喫煙、高Ca血症、高triglyceride血症)、特発性、遺伝的(PRSS1、SPINK1、CFTR、CTRCなど)、自己免疫性、反復性/重症、閉塞性に整理する1。アルコールだけを原因と決めつけず、若年・家族性・原因不明例では遺伝評価を考慮する。

💡 TIGAR-Oは2019年に第2版へ改訂され、「原因を1つ選ぶ分類」ではなくなった。 初版は2001年で、第2版では短縮形と詳細形が用意された。が重要で、個々の患者で複数の因子が組み合わさって進行に寄与することを前提とした階層的チェックリストであり、経過とともに記録・追跡してを助けるとして作られている1。「壊死が線維化を招く」という単線の説明から、・環境因子・が重なる多因子モデルへ移ったと捉える。欧州の管理指針は12領域101項目のHaPanEUガイドライン(2017年)にまとまっており、70%が強い推奨、98%が強い合意を得ている2。

臨床像と診断

上腹部から背部へ放散する反復/持続痛、体重減少、、糖尿病を呈する。進行例では・リパーゼが正常でも除外できない。

flowchart TD
    A["反復膵炎/典型痛+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='malnutrition'>栄養障害</span>"] --> B["造影CTまたは<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance cholangiopancreatography'>MRCP</span>"]
    B --> C{"石灰化・管変化・萎縮"}
    C -->|"明確"| D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic pancreatitis, CP'>慢性膵炎</span>+原因・合併症評価"]
    C -->|"不明だが疑い高い"| E["EUSまたはsecretin-MRCP"]
    D --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fecal elastase'>便エラスターゼ</span>、栄養、<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycated haemoglobin A1c'>HbA1c</span>、骨量"]
    E --> F

は石灰化、/は管・実質を評価する。EUSは断層画像検査後も不明な場合に用いる。は診断目的の第一選択でなく、結石/膵管狭窄治療に用いる。は固形で評価する。は半固形または固形便で測る必要があり、100 μg/g未満ならの良い根拠、100〜200 μg/gはである。中でも測定できる3。

💡 画像のは、のからEUSのRosemont基準へ移った。 Rosemont基準(2009年)は32名の医の合意で作られ、大項目は「を伴う斑と結石」「の小葉構造」の2つ、小項目は嚢胞、3.5 mm以上の膵管拡張、膵管辺縁不整、1 mm以上の分枝拡張、膵管壁、、を伴わない斑、性の小葉構造である。は時代遅れで意義を失いつつあるという認識が策定の背景にあった4。ただしは今も画像所見の記述と過去の文献の読解に使われるので、両方を知っておく。

⚠️ Rosemont基準にしても、EUSののばらつきは大きくは減らなかった。 14名の専門医が50本の動画を両方式でした多施設比較で、観察者間一致はRosemontでκ=0.65、標準スコア(9項目)でκ=0.54と、差は有意ではなかった(p=0.12)5。EUS所見だけでを確定させず、臨床像・他の画像・と併せる。

治療

生活・栄養・機能補充

  • アルコールと喫煙を中止し、が少量頻回の十分なエネルギー・蛋白を確保する。極端なは栄養不良を悪化させる。
  • には食事中のPERTを行い、、体重、で調整する。PERTは消化改善薬であり、疼痛のみを目的としたルーチン投与の効果は確立しない。
  • PERTの用量は1食あたりリパーゼ40,000〜50,000単位で開始し、間食ではその半量とする。 食事「中」に飲むのであって食後ではない。効果不十分なら開始量の2〜3倍まで増やしてから他の手を考える36。

⚠️ PERTで最も多い誤りは過少投与である。 257文献の系統的レビューは、投与量の勧告が疾患ごとにも同一疾患内でも大きくばらついており、多くの患者が過少投与のまま放置されていること、そしてガイドラインの数値は上限ではなく開始量として書かれていることを指摘している6。また、を試しに出して効いたかどうかでを診断するのは信頼できず、・・EUSでもそのものは判定できない3。

  • 3c型糖尿病はに加えグルカゴン反応も低下し、低血糖リスクが高い。栄養と血糖を一体管理する。
  • Ca、Mg、、骨密度を定期評価する。骨密度検査は基準時に行い、1〜2年ごとに繰り返す3。

疼痛・管閉塞

非オピオイド鎮痛、などを選択的に用い、依存リスクを評価する。結石/狭窄を伴う疼痛では/ESWLまたは手術を検討する。適切な手術候補の長期疼痛制御は、反復より術/切除術が優れる場合が多く、のほうが有利とされる7。は症状、感染、出血、閉塞がある場合にドレナージする。

合併症

胆管・、splenic vein thrombosis、、リスク増加を認識する。ただし、すべてのsporadicにスクリーニングが確立しているわけではなく、遺伝性高リスク群を専門programで監視する。

💡 の「相対危険は大きいが絶対危険は小さい」。 6か国の2015例を平均7.4年追跡したでは、26.3(95%CI 19.9〜34.2)と一般人口の20倍以上だった。しかしで見ると、膵炎診断から10年で1.8%(95%CI 1.0〜2.6%)、20年で4.0%(95%CI 2.0〜5.9%)にとどまる8。この絶対危険の小ささが、全例スクリーニングが確立しない理由である。

まとめ

  • /を第一選択とし、不明例にEUS/secretin-、は主にで用いる。
  • アルコール・喫煙中止、十分な栄養、PERT、3c型糖尿病管理を行う。
  • 痛みを伴う閉塞性では、長期成績からを早期に比較検討する。

出典

  1. 1.Pancreatitis: TIGAR-O Version 2 Risk/Etiology Checklist With Topic Reviews, Updates, and Use Primers(Clinical and Translational Gastroenterology・2019)TIGAR-Oは、反復性急性膵炎・慢性膵炎および重複する膵疾患の主要な危険因子と成因を、Toxic-metabolic(毒性・代謝性)、Idiopathic(特発性)、Genetic(遺伝性)、Autoimmune(自己免疫性)、Recurrent and severe acute pancreatitis(反復性・重症急性膵炎)、Obstructive(閉塞性)の6群に並べた分類体系である。2001年の初版以降の知見を受けて2019年に第2版へ改訂され、短縮形と詳細形が用意された。単一の病因を選ぶ分類ではなく、個々の患者で複数の因子が組み合わさって進行に寄与しうることを前提に、階層的なチェックリストとして記録・追跡し治療選択を助ける道具として設計されている閲覧 2026-08-25
  2. 2.United European Gastroenterology evidence-based guidelines for the diagnosis and therapy of chronic pancreatitis (HaPanEU)(United European Gastroenterology Journal・2017)12の多職種レビューグループが101の臨床設問を系統的レビューで検討し、GRADE法で格付けしたうえでオンラインDelphi法と総会投票で合意した欧州のガイドライン。101の勧告は病因、画像による診断、膵外分泌不全の診断、外科治療、内科治療、内視鏡治療、仮性嚢胞、疼痛、栄養と低栄養、糖尿病、自然経過と生活の質の12領域にわたる。101件中70件(70%)が「強い推奨」に格付けされ、99件(98%)が「強い合意」を得た閲覧 2026-08-25
  3. 3.AGA Clinical Practice Update on the Epidemiology, Evaluation, and Management of Exocrine Pancreatic Insufficiency: Expert Review(Gastroenterology(American Gastroenterological Association)・2023)便エラスターゼ検査が最初に行うべき検査で、半固形または固形便で行う必要がある。便エラスターゼ100 μg/g未満は膵外分泌不全の良い根拠となり、100〜200 μg/gは判定不能である。便エラスターゼは膵酵素補充療法中でも測定できる。膵酵素は食事中に内服し、成人では1食あたり少なくとも40,000 USP単位のリパーゼ、間食ではその半量で開始し、食事量と脂肪含有量に応じて増減する。膵酵素の試験投与に対する反応で膵外分泌不全を診断するのは信頼できない。断層画像(CT・MRI・超音波内視鏡)では膵外分泌不全そのものは判定できない。脂溶性ビタミンの補充と測定を定期的に行い、食事は低〜中等度脂肪で少量頻回とし、極端な低脂肪食は避ける。骨密度検査を基準時に行い1〜2年ごとに繰り返す閲覧 2026-08-25
  4. 4.EUS-based criteria for the diagnosis of chronic pancreatitis: the Rosemont classification(Gastrointestinal Endoscopy・2009)国際的に認められた32名の超音波内視鏡医による合意研究で、慢性膵炎の超音波内視鏡所見の用語・順位・大項目/小項目の別を無記名投票で定めた(合意は3分の2超の一致)。大項目は(1)音響陰影を伴う高エコー斑と主膵管結石、(2)蜂巣状の小葉構造。小項目は嚢胞、3.5 mm以上の膵管拡張、膵管辺縁不整、1 mm以上の分枝拡張、高エコー膵管壁、索状高エコー、音響陰影を伴わない高エコー斑、非連続性の小葉構造。従来のCambridge分類など既存の基準は時代遅れで意義を失いつつあるとの認識が策定の背景にある閲覧 2026-08-25
  5. 5.Multicenter comparison of the interobserver agreement of standard EUS scoring and Rosemont classification scoring for diagnosis of chronic pancreatitis(Gastrointestinal Endoscopy・2010)14名の専門医が50本の超音波内視鏡動画を、標準スコア(9項目)とRosemont分類の両方で読影した多施設比較。観察者間一致はRosemontでκ=0.65(95%CI 0.52〜0.77、substantial)、標準スコアでκ=0.54(95%CI 0.44〜0.66、moderate)で、差は統計学的に有意ではなかった(p=0.12)。Rosemont分類を使っても観察者間一致は有意には改善しなかったと結論された閲覧 2026-08-25
  6. 6.Exocrine Pancreatic Insufficiency Dosing Guidelines for Pancreatic Enzyme Replacement Therapy Vary Widely Across Disease Types(Digestive Diseases and Sciences・2024)257文献の系統的レビュー。膵酵素補充療法の投与量勧告は疾患ごとにも同一疾患内でも大きくばらついている。最も一般的な勧告は1食あたりリパーゼ40,000〜50,000単位で開始し、追加薬剤に進む前にこの2〜3倍まで増量するというものである。多くの患者が過少投与のままであり、勧告は上限ではなく開始量として書かれていることに注意が必要である閲覧 2026-08-25
  7. 7.Etiology, Diagnosis, and Modern Management of Chronic Pancreatitis: A Systematic Review(JAMA Surgery・2023)慢性膵炎の長期疼痛制御では外科治療が内視鏡治療より優れ、早期手術が有利であること閲覧 2026-08-25
  8. 8.Pancreatitis and the risk of pancreatic cancer. International Pancreatitis Study Group(The New England Journal of Medicine・1993)6か国の施設から集めた慢性膵炎2015例の多施設歴史的コホート研究。平均7.4年の追跡で56例に膵癌が発生し、年齢・性別で調整した期待値2.13に対する標準化罹患比は26.3(95%信頼区間19.9〜34.2)だった。追跡2年以上に限ると16.5、5年以上に限ると14.4となお高い。追跡2年以上の対象での累積膵癌発生率は、膵炎診断から10年で1.8%(95%信頼区間1.0〜2.6%)、20年で4.0%(95%信頼区間2.0〜5.9%)であった。危険上昇は性別・国・膵炎の型によらないと結論された閲覧 2026-08-25