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Disease Atlas · 神経 · 症候群

ランバート・イートン筋無力症候群

Lambert-Eaton myasthenic syndrome

別名
LEMS
臓器系
神経腫瘍
科目
Neurology
トピック
神経内科 G3-09:神経系の傍腫瘍症候群(ニューロパチー・小脳変性・ランバート・イートン症候群)
鑑別疾患
ボツリヌス症重症筋無力症
関連疾患
傍腫瘍性小脳変性
治療薬
ピリドスチグミン
症状
筋力低下倦怠感複視便秘
原因となる疾患
肺癌
禁忌薬
ボツリヌス毒素

🧠 全体像:ランバート・(LEMS)は、にある(VGCC)に対する自己抗体が、アセチルコリン放出そのものを障害する疾患である。シナプス膜の受容体が標的となる重症筋無力症(MG)とはが鏡合わせの関係にあり、下肢近位筋優位の脱力+/消失+自律神経症状(口渇・便秘・)+運動後の一過性筋力増強という組み合わせがMGとの鑑別の核心となる。半数程度がに伴うであり、神経症状が癌の診断に先行しうるため、症候の同定と並行して腫瘍検索を進め、腫瘍治療を最優先する姿勢が実地で重要になる。

病態

腫瘍細胞(特に)表面に発現するに対する免疫応答がのカルシウムチャネルを攻撃する、傍腫瘍性の自己免疫機序が主体である(腫瘍を伴わない特発性LEMSも存在する)。カルシウムチャネル数の減少によりへのカルシウム流入が低下し、アセチルコリン放出量が減少することでが障害される。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='P/Q-type voltage-gated calcium channel'>P/Q型電位依存性カルシウムチャネル</span>(VGCC)に対する自己抗体"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presynaptic membrane'>シナプス前膜</span>のVGCC数減少"]
    B --> C["活動電位到達時のカルシウム流入低下"]
    C --> D["アセチルコリン放出量の低下"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neuromuscular transmission'>神経筋伝達</span>障害=<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fatigability'>易疲労性</span>の筋力低下"]
    D --> F["自律神経終末でも同様の伝達障害"]
    F --> G["口渇・便秘・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='erectile disorder'>勃起障害</span>などの自律神経症状"]

💡 でのパターンが病態を直接反映する:低頻度反復刺激では利用可能な放出小胞がさらに減少し(CMAP)振幅がするが、高頻度刺激または短時間の直後には、蓄積したカルシウムにより一時的にアセチルコリン放出がされ、CMAP振幅が著明に増大する()。これはMGのでみられるパターンとは対照的な所見である。

重症筋無力症との鑑別

項目 LEMS 重症筋無力症(MG)
シナプス シナプス膜(AChR等)
筋力低下の分布 下肢近位筋優位が典型、眼球・は相対的に軽い 眼筋→球筋→四肢近位筋→呼吸筋と進展、が初発になりやすい
腱反射 低下・消失(自律神経症状とあわせて特徴的) 保たれる
運動・反復刺激との関係 短時間の運動後に一過性に筋力増強、高頻度反復刺激でCMAP漸増 運動・反復使用でさらに増悪)、低頻度反復刺激でCMAP
自律神経症状 口渇・便秘・などを伴いやすい 通常伴わない
主な抗体 P/Q型VGCC抗体
腫瘍関連 約半数がに伴う を伴うことがある(腫瘍の種類が異なる)

・自律神経症状・運動後の一過性増強という3点が、のみを示すMGとLEMSを分ける最大の鍵である。 また、感覚障害を伴わずとする点はLEMS・MGに共通し、末梢神経そのものをとするや、同じくのアセチルコリン放出を障害するが感染性の(毒素がを切断し放出機構自体を破壊する点でLEMSの抗体機序とは異なる)とも比較すると病態の位置づけが整理しやすい。

臨床像

  • 運動症状: 下肢近位筋優位の対称性筋力低下(昇降・起立困難)、歩行時の。上肢近位筋・頸部屈筋も障害されうるが、はMGに比べ相対的に軽度で、進行例でのみ目立つ。
  • 腱反射: 低下または消失するが、罹患筋を数秒間させた直後に反射が一時的に増強・出現することがあり、診察上のとなる。
  • 自律神経症状: 口渇、便秘、発汗異常、など。これらの存在はMGとの鑑別だけでなく、LEMSを積極的に疑う手掛かりになる。
  • 症状が数週〜数か月かけて亜急性に進行する経過が典型的で、特に高齢者・喫煙歴のある患者で新規に出現した場合は腫瘍検索の契機となる。

診断

flowchart TD
    A["下肢近位筋優位の筋力低下+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyporeflexia'>腱反射低下</span>+自律神経症状"] --> B["転移・感染・代謝性疾患・薬剤性など他の原因を除外"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='repetitive nerve stimulation'>反復神経刺激</span>検査:低頻度刺激で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='tapering'>漸減</span>、高頻度刺激/運動後で著明な増大"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='single-fiber electromyography'>単線維筋電図</span>で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='jitter (single-fiber EMG)'>ジッター</span>増大・ブロックを確認(診断感度が高いが特異的ではない)"]
    D --> E["P/Q型VGCC抗体を測定"]
    E --> F["年齢・喫煙歴に応じ胸部CT・FDG-PETで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='small cell lung cancer (SCLC)'>小細胞肺癌</span>を検索(初回陰性でも高リスク例は一定期間反復)"]
    F --> G["腫瘍の有無に応じ<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"]
  • 検査: 低頻度(2〜3 Hz)刺激でCMAP振幅の、高頻度刺激または最大の数秒後にCMAP振幅の著明な増大(目安として100%以上の増加)を認めることがLEMSに特徴的である。
  • 増大やブロックを高感度に検出するが、MGを含む他のでも陽性となりうるため特異的ではない。
  • 抗体検査: 抗体の陽性はLEMSを支持する所見だが、陰性でも臨床像・からLEMSと診断される例がある。
  • 腫瘍検索: 診断確定後(あるいは臨床的に強く疑う時点)で、年齢・喫煙歴を踏まえて胸部CT・FDG-PETなどによりを検索する。初回検索が陰性でも、腫瘍発見までに時間差が生じうるため高リスク例では一定期間ごとに反復する。

治療

最優先は基礎にある腫瘍(多くは)の治療である。 腫瘍が寛解すると神経症状が改善することが多く、腫瘍治療そのものが最も重要な介入となる。

目的 治療
症候治療(第一選択) (3,4-ジアミノピリジン)。を阻害しての脱分極を延長し、カルシウム流入とアセチルコリン放出を増やすことで筋力を改善する。複数ので有効性が確認されており、現行ガイドラインでもLEMSの症候治療の第一選択に位置づけられる
症候治療(補助) )をに併用することがあるが、単独での効果はMGに比べ限定的である
免疫治療 症候治療で不十分な例や腫瘍を伴わない特発性LEMSでは、副腎皮質ステロイド、、難治例ではリツキシマブ等の免疫治療を検討する
リハビリテーション 転倒予防、嚥下・呼吸機能の評価を含む理学・を組み合わせる

⚠️ 腫瘍を伴うLEMSでは、症候治療のみに注力して腫瘍検索・腫瘍治療の開始が遅れることを避ける。 神経症状の出現が癌の発見に先行することがあるため、初回検索が陰性でも高リスク例では追跡検索を継続する。

まとめ

  • LEMSはのVGCCに対する自己抗体により、アセチルコリン放出が障害される疾患で、下肢近位筋優位の筋力低下・・自律神経症状が中核像である。
  • が標的の重症筋無力症とは対照的に、運動後の一過性筋力増強高頻度反復刺激でのCMAP漸増が特徴的で、・自律神経症状の有無とあわせて鑑別する。
  • 検査・・P/Q型VGCC抗体で診断を進めつつ、約半数を占めるの検索を並行する。
  • 治療はを中心とした症候治療を行うが、腫瘍を伴う例では腫瘍治療が最優先であり、症候の改善だけに満足せず腫瘍検索・治療を継続する。