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Lab values · Published

高ナトリウム血症

Hypernatremia

別名
高Na血症Hypernatraemia
臓器系
腎・泌尿器内分泌・代謝神経
科目
PathophysiologyInternal MedicineAnesthesiologyPediatrics
トピック
病態生理学 2-18:ナトリウム(Na+)と水分平衡の異常内科学 L-40:低Na血症・高Na血症内科学 L-43:多尿・多飲の鑑別内科学 S-09:尿崩症と抗利尿不適合症候群麻酔科学 B-13:生命を脅かす電解質異常(Na・K・Ca)の補正小児科 2-21:小児のNa・K異常:低/高Na血症・低/高K血症
関連疾患
脱水尿崩症

🧠 全体像:血清Na濃度がNaと水の比を映すという低Na血症で扱ったとおりであり、ここでは繰り返さない。高Na血症の本質はNa過剰ではなくの欠乏であり、が保たれ自由に飲水できる人にはまず起こらない。したがって診断の中心は原因を細かく分類することより、「なぜこの人は水を飲めなかったのか」を問うことにある。の枠組みは、実測浸透圧の解釈は浸透圧に譲り、ここでは高Na血症そのものの・原因の絞り方・の補正に集中する。

定義と重症度

血清Na >145 mmol/Lを高Na血症と呼ぶ。低Na血症のような確立した国際はないが、目安として軽度145–150、中等度150–160、重度>160 mmol/Lに分けて考えることが多い。

背景で分けると理解しやすい。院内発症は、意識障害・鎮静・など医療者がを管理している状況で見逃されて生じることが大半で、多くは予防可能である。市中発症は、高齢者の独居・施設入所、乳幼児の下痢、猛暑下の労作など口渇や飲水行動そのものが破綻した状況で生じ、にはすでに高度に進行していることが多い。

⭐ 高Na血症は基礎疾患の重症度そのものより、それを防げなかった環境を映すであることが多い。

病態生理

体はに対して三重の防御を持つ。口渇で摂取を増やし、AVP分泌で腎からのを減らし、腎の濃縮能でその指令を実行する。このうちどれか一つだけが破れても口渇による代償で重症化しにくく、複数が同時に破れたときに危険になる。口渇が保たれ自由に飲水できれば、AVPや腎濃縮能に異常があっても血清Naはたいてい正常〜軽度高値にとどまる。

防御 何をするか 破れる状況
口渇 飲水行動を起こす 意識障害、乳幼児、高齢者の低下、視床下部病変
AVP分泌 腎からのを減らす AVP欠乏症(
腎の濃縮能 AVPの指令を尿濃縮として実行する AVP抵抗症()、

細胞は水を失うと縮む。急性の高張化では、脳細胞は数時間のうちに電解質を取り込んで浸透圧を上げ、水を引き戻そうとする。慢性に経過すると、さらにグルタミン酸・などのを細胞内に蓄積して容積を守る適応が進む。

💡 この適応が、急性と慢性で危険の方向を逆にする。急性では脳が縮みきる前に脳血管の破綻・のリスクがあり、輸液が遅れることが危険になる。慢性ではすでにを蓄えて適応済みのため、急速にを補って血清Naを下げると、細胞内が相対的にになり脳浮腫を招く。低Na血症の慢性例を急速補正するとを招くのと対称的に、高Na血症の慢性例では急速補正そのものが脳浮腫という形で神経障害を招く。

⚠️ 誰に起こるか(見逃してはいけない状況)

高Na血症の大半は、次のいずれかで口渇による代償が働かなかった人に起こる。

状況 なぜ危険か
意識障害・挿管・鎮静中 口渇を訴えられず、投与が医療者任せになる
高齢者・施設入所者 の閾値上昇と腎濃縮能低下が重なり、されにくい
乳幼児 /体重比が高く、自分で飲水量を調整できない
adipsicな 視床下部の自体が障害され、AVP欠乏症と口渇消失が同時に起こる
処方された水分量が代謝負荷に対して不足しやすい
高血糖が水を強制的に喪失させ、口渇の代償速度を上回る
口渇を感じられない患者へのAVP拮抗薬投与 は自由飲水で代償できない患者では禁忌とされ、は高Na血症を招きうる

⚠️ の原因となる視床下部病変は、AVP分泌障害との障害を同時に起こしうる。この場合、だけを補充しても口渇という安全弁が働かないため、飲水量そのものの管理をあわせて行う必要がある。

原因の絞り方

flowchart TD
    A["高Na血症を確認"] --> B["尿量・尿浸透圧を確認"]
    B --> C{"尿を十分濃縮できているか<br>目安:尿浸透圧800 mOsm/kg超"}
    C -->|"はい"| D["腎外性の水喪失<br>発汗・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='insensible perspiration'>不感蒸泄</span>・下痢・摂取不足"]
    C -->|"いいえ・多尿を伴う"| E["腎性の水喪失を疑う"]
    E --> F{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='desmopressin'>デスモプレシン</span>で尿を濃縮できるか"}
    F -->|"できる"| G["AVP欠乏症"]
    F -->|"できない"| H["AVP抵抗症"]
    B --> I{"<span class='jp-term jp-term-diagram' title='body fluid volume'>体液量</span>正常〜過剰でNa投与歴があるか"}
    I -->|"あり"| J["Na過剰負荷を疑う"]
分類 代表例 手がかり
水喪失・腎外性 発熱・発汗、熱傷、下痢、人工呼吸中の増加 尿浸透圧は高く、尿量は少ない
水喪失・腎性 高血糖)、AVP欠乏症・AVP抵抗症 尿浸透圧は不適切に低く多尿を伴う。への反応で両者を鑑別し、詳細はに譲る
水摂取不足 意識障害、乳幼児、高齢者、飲水制限下の経過 病歴と介護・診療環境の確認が鍵になる
Na過剰負荷 、NaHCO3大量投与、 医原性が多く、投与歴で判明する

は、2022年の国際的な作業部会がそれぞれAVP欠乏症AVP抵抗症への改称を提唱しており1、本ノートもこの呼称に合わせる。

⚠️ 測定・解釈上の注意

輸液ライン側の腕から採血すると、ブドウ糖液やが混入して見かけ上のNa値がゆがむ。可能な限り輸液路と反対側または末梢から採取する。

高血糖を伴う例では、細胞外へ引き出された水の分だけ測定Naの解釈が変わる。高血糖時のの考え方はに譲る。

血清Naとは方向が一致するはずである。乖離があれば、浸透圧で扱うなど未計算の溶質)を疑い、単純な水喪失として片付けない。

治療と補正速度

循環を最優先で安定させる

⚠️ ショックや高度のがあれば、Na値にかかわらずまずで循環を立て直す(5%ブドウ糖液や経口水)は循環が安定してから投与する。この順序を守らずから入ると、を長引かせる。

自由水欠乏量を見積もる

量は、次の式で概算できる2

量(L)=×(実測Na目標Na1)\text{量(L)} = \text{} \times \left(\frac{\text{実測Na}}{\text{目標Na}} - 1\right)

は体重×比率で近似し、比率は性別・年齢・体格で変わる。この式はその時点までの欠乏しか表さないため、発熱・下痢・など進行中の喪失と、通常の維持必要量を別に見積もって投与量にする。

⭐ 可能な限り経口・を優先する2。消化管が使えるなら水そのものを飲ませる、または経管から投与するほうが、での5%ブドウ糖液より安全に速度を調整しやすい。持続嘔吐や意識障害でが続けられない場合に限りへ切り替える。

補正速度の上限

慢性の経過が確認できる例、または発症時期が不明な例では、血清Naの低下を1日あたりおおむね8〜12 mmol/L以内にとどめる3。急な低下は脳浮腫・痙攣を招く。

明確に48時間以内に発症した急性例(Na過剰投与など原因がはっきりしている場合)では、これより速い補正が許容されうる2。ただし専門的な監視下で行うべきで、「急性だから急いでよい」と自己判断で速度を上げない。

いずれの場合も、初期は2〜4時間ごとにNaとを再検し、進行中のに応じて投与を調整する。尿量の急増や神経症状の悪化は、補正速度を見直すである。

近年の議論——緩徐な補正は本当に必要か

⭐ 従来の「慢性・不明例では緩徐に」という原則は、主に新生児のデータやNa低下時の脳浮腫という理論的懸念に基づいて広がってきた。近年、成人の重症高Na血症を対象にした観察研究では、急速な補正(時間あたり0.5 mmol/L超)が緩徐な補正より死亡率を高めず、急速補正に起因する合併症も認めなかったという報告がある4

ただしこれは観察研究であり、重症度の高い患者ほど慎重に緩徐な補正が選ばれた可能性(適応による)を否定できない。現時点の総説は、なお1日8〜12 mmol/Lという上限を目安として示しており3、この根拠の揺らぎを踏まえつつも、慢性例では従来の慎重な速度を基本とし、変更は今後のエビデンスの蓄積を待つのが妥当である。

まとめ

  • 高Na血症の本質はの欠乏であり、口渇が保たれ飲水できる人にはまず起こらない。診断は「なぜ水を飲めなかったか」を問うことから始まる。
  • 口渇・AVP分泌・腎の濃縮能という三重の防御のどこが破れたかで原因を絞り、急性と慢性では補正の危険の方向が逆になる。
  • 意識障害、高齢者、乳幼児、adipsicなは口渇による代償が働かない代表的な状況である。
  • 循環不全があればまずで循環を安定させ、その後にを補う。経口・を優先し、進行中の喪失と維持必要量を別に見積もる。
  • 慢性・不明例の補正速度は1日8〜12 mmol/Lを目安とするが、この上限を支持する根拠は近年の観察研究で揺らいでおり、今後の推奨改定をする。

出典

  1. 1.Disorders of Plasma Sodium — Causes, Consequences, and Correction(New England Journal of Medicine・2015)慢性・発症時期不明の高Na血症では、補正速度を1日あたり8〜12 mmol/L以内に抑えることを確認した。閲覧 2026-08-02
  2. 2.Hypernatremia(New England Journal of Medicine・2000)自由水欠乏量の推定式(総体液量×(実測Na/目標Na−1))、経口・経腸投与を優先する原則、および明確な急性例では1 mmol/L/時までの補正が安全とされることを確認した。閲覧 2026-08-02
  3. 3.Changing the Name of Diabetes Insipidus: A Position Statement of the Working Group for Renaming Diabetes Insipidus(The Working Group for Renaming Diabetes Insipidus・2022)中枢性尿崩症・腎性尿崩症をそれぞれAVP欠乏症・AVP抵抗症へ呼び替える提案が2022年に国際的な作業部会から出されたことを確認した。閲覧 2026-08-02
  4. 4.Rate of Correction and All-Cause Mortality in Patients With Severe Hypernatremia(JAMA Network Open・2023)成人の重症高Na血症を対象にした観察研究で、急速補正(時間あたり0.5 mmol/L超)が緩徐補正より死亡率が高くならず、急速補正に起因する神経学的合併症も認めなかったことを確認した。閲覧 2026-08-02