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Disease Atlas · 運動器 · 症候群

線維筋痛症

Fibromyalgia

臓器系
運動器
科目
Internal Medicine
トピック
内科学 S-49:変形性関節症・関節症・線維筋痛症
鑑別疾患
変形性関節症
関連疾患
過敏性腸症候群間質性膀胱炎気分障害(うつ病・双極性障害)片頭痛・一次性頭痛症候群
治療薬
プレガバリンデュロキセチンミルナシプランアミトリプチリン
症状
しびれ倦怠感体重減少頭痛不安片頭痛慢性広範痛侵害可塑性疼痛

🧠 全体像は、関節や筋そのものが壊れているのではなく、中枢神経系が痛みの信号を過剰に増幅してしまう「」の代表疾患である。もX線も基本的に正常で、慢性の広範痛に疲労・不眠・(fibro fog)・IBS・頭痛・気分症状が重なるのが特徴。診断は今はもう指でを数える時代ではなく、を使うACR 2016年改訂基準で行う。治療の軸は薬より先に運動療法・であり、薬物療法はなどを症状に合わせて選択的に追加する補助的な位置づけである。

病態

中枢性感作という枠組み

は、のような関節構造の破壊や、関節リウマチのようなという末梢の病変が主因ではない。中枢神経系(〜脳)レベルでの痛み処理経路の機能異常により、本来なら痛みと感じないはずの刺激まで痛みとして知覚してしまう状態と理解されている。

  • (セロトニン・ノルアドレナリン系を介する)の機能低下により、痛み信号の「ブレーキ」が弱くなる。
  • ・脳内での痛み信号のが生じ、健常者では痛みを感じない程度の刺激(触覚・圧刺激)でも痛みとして知覚される()。
  • 睡眠障害・心理的ストレス・(家族内発症の集積)が感作の閾値を下げる方向に働く。
  • 末梢のや自己抗体の異常は本態ではなく、末梢からの持続的(外傷、感染、慢性疼痛疾患の併存)がを誘発・維持する一要因になりうるにとどまる。

💡 「による)」「(神経そのものの損傷による)」に対し、は第三のカテゴリーであるの代表例とされる。組織にも神経そのものにも明確な損傷所見がないのに痛みが持続する点が鍵。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genetic predisposition'>遺伝的素因</span>+心理<span class='jp-term jp-term-diagram' title='social'>社会的</span>ストレス+睡眠障害"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='descending pain inhibitory system'>下行性疼痛抑制系</span>の機能低下"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='dorsal horn'>脊髄後角</span>〜脳での痛み信号の増幅(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='central sensitization'>中枢性感作</span>)"]
    C --> D["本来無害な刺激も痛みとして知覚(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='allodynia'>アロディニア</span>)"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chronic widespread pain'>慢性広範痛</span>"]
    C --> F["疲労・睡眠障害・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cognitive symptoms'>認知症状</span>(fibro fog)"]
    C --> G["IBS・頭痛・気分症状などの併存"]

⭐ 末梢の(CRP、ESR)、自己抗体、画像検査は原則正常。これが・関節リウマチなど疾患との重要な鑑別点になる。

変形性関節症との対比

項目
関節構造の変性(軟骨・・滑膜)
痛みの分布 全身の広範痛(多部位) 罹患関節に限局
増悪・軽快因子 ストレス・睡眠不足で増悪、運動で長期的に改善 関節の使用で増悪、休息で軽減
画像・検査 基本的に正常 X線で・骨棘・軟骨下硬化
併存症状 疲労・不眠・・IBS・頭痛・気分症状 通常なし(局所症状が主体)
治療の軸 運動療法・+中枢性 運動療法・減量+局所/経口NSAID、末期は人工関節置換

臨床像

症状

  • :体幹・上下肢の両側性の痛みが3か月以上持続する。特定の関節に限局せず「あちこち痛い」という訴え方が典型的。
  • 疲労:休息しても改善しない持続的な感。
  • 睡眠障害:熟眠感の
  • :集中力低下、物忘れ、思考の鈍さ。
  • 頭痛片頭痛の頻度が高い。
  • 消化器症状(IBS)の合併が多い。
  • 気分症状:不安・抑うつ()の合併率が高く、痛みと気分症状は双方向に増悪させ合う。
  • その他、(光・音・匂いに対する過敏性)、感(異常所見は伴わない)。

⚠️ の診断があっても、新たな局所症状・炎症所見・体重減少などの「」が出現した場合は、他疾患(炎症性関節炎、甲状腺機能異常、筋炎、悪性腫瘍など)の合併・見落としを常に考慮する。の診断は他疾患の合併を除外するものではない。

診断

ACR 2016年改訂基準(現行の基準)

の診断は、かつて用いられた1990年基準の18触診から、2010/2011年の予備基準を経て、現在は2016年改訂基準(ACR 2016 revised criteria)が標準となっている。を指で数える診察は必須ではない。

診断には以下をすべて満たす必要がある。

  • :身体19部位における疼痛部位数を評価(0〜19点)。
  • :疲労・の重症度(各0〜3点)と、頭痛・下腹部の痛み/けいれん・抑うつの有無(頭部・胸部・腹部の痛みそのものはWPIには含まれない)を加算(0〜12点)。
  • 上記に基づき、WPI ≥7 かつ SSS ≥5、またはWPI 4〜6 かつ SSS ≥9を満たす。
  • 全身性の痛み:5部位(左上肢・右上肢・左下肢・右下肢・体幹)のうち少なくとも4部位に疼痛があること。
  • 症状が同程度の強さで3か月以上持続していること。
  • の診断は他の疾患の存在によって除外されない(他疾患合併下でも診断できる)。

💡 2016年改訂の要点は、①予備基準にあった「の症状評価」を自己記入式に統一して臨床使用を簡便化したこと、②「全身性の痛み(generalized pain、5部位中4部位以上)」の要件を明示的に加えたことである。

⭐ 甲状腺機能異常、炎症性関節炎、、睡眠時無呼吸、薬剤性の痛み・感などは、病歴・身体所見に基づいて必要な範囲で除外するが、症状が典型的であれば広範な血液検査・画像検査を繰り返す必要はない。

flowchart TD
    A["3か月以上持続する広範痛+疲労・睡眠障害等"] --> B["WPI(19部位の疼痛評価)とSSS(症状重症度)を評価"]
    B --> C{"WPI≥7かつSSS≥5<br>または WPI4-6かつSSS≥9"}
    C -->|"満たす"| D["全身性の痛み:5部位中4部位以上に疼痛があるか確認"]
    D -->|"満たす"| E["病歴・診察で他疾患の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='red flags'>危険信号</span>がないか確認"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibromyalgia'>線維筋痛症</span>と診断(他疾患合併があっても診断可能)"]
    C -->|"満たさない"| G["他の慢性疼痛疾患・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='organic (structural, as opposed to functional)'>器質的</span>疾患を再検討"]

治療

非薬物療法(第一選択)

現行のEULAR()改訂管理指針では、を治療の出発点とし、痛みの強さ・機能障害・併存症状・患者の希望に応じて多職種でテーラーメイドに組み立てることが推奨されている。

  • ・筋力運動:段階的に負荷を上げる運動療法はエビデンスが最も強く、痛み・機能・QOLの改善に有効。
  • :痛みの認知的対処、と過度の安静の両極を避ける)を学ぶ。
  • 指導、患者教育(疾患の性質の説明・)。
  • 不安・抑うつなど併存する精神症状への並行した介入。

💡 「痛いから動かない」を続けると性の悪化サイクルに陥りやすく、運動療法は痛みを一時的に増悪させても中長期的には痛み・機能・気分のいずれも改善させるというエビデンスに基づく説明が、患者の治療継続を支える。

薬物療法

薬物療法はを置き換えるものではなく、症状パターンに応じて選択的に追加する補助的治療である。

薬剤 薬効分類 FDA承認状況( 使い分けの目安
承認(2007年、で承認された最初の薬剤) 痛み・睡眠障害が主体の症例
SNRI(抗うつ薬) 承認(2008年) 痛み・抑うつ・不安が併存する症例
SNRI(抗うつ薬) 承認(2009年) 痛み・疲労が主体の症例
(低用量) 未承認(だが広く使用され、承認薬と比べの報告がある 睡眠障害が主体の症例、就寝前低用量から開始

の3剤がでFDA承認された薬剤である。だが、安価で長年の使用経験があり、ガイドライン上も選択肢として位置づけられている。いずれも痛みへの効果は中等度(部分反応が中心)で、全ての症状(特に疲労・機能障害)を十分に改善するわけではない。

💡 2025年には、就寝前投与用のが約15年ぶりの新規承認薬として米国で承認されており、今後の位置づけが注目される(本邦未承認、2026年現在)。

⚠️ オピオイドはの痛みに対する有効性のエビデンスが乏しく、長期使用による害(依存、の悪化)のリスクが上回るため推奨されない。長期の全身性グルココルチコイド投与や、炎症のエビデンスなしにNSAIDを漫然と継続することも避ける。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='fibromyalgia'>線維筋痛症</span>の診断確定"] --> B["疾患教育+<span class='jp-term jp-term-diagram' title='shared decision-making'>共有意思決定</span>"]
    B --> C["段階的な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aerobic exercise'>有酸素運動</span>・筋力運動を開始"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cognitive behavioral therapy'>CBT</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='sleep hygiene'>睡眠衛生</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='activity pacing'>活動ペーシング</span>"]
    D --> E{"痛み・疲労・睡眠障害が持続"}
    E -->|"はい"| F["症状パターンに応じて薬物療法を追加<br>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pregabalin'>プレガバリン</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='duloxetine'>デュロキセチン</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='milnacipran'>ミルナシプラン</span>/低用量<span class='jp-term jp-term-diagram' title='amitriptyline'>アミトリプチリン</span>)"]
    F --> G["併存する不安・抑うつへの並行介入"]
    E -->|"改善"| H["運動・生活調整を維持しフォロー"]

まとめ

  • は関節や筋の破壊ではなく、によるであり、に疲労・睡眠障害・(fibro fog)・IBS・頭痛・気分症状が重なる症候群である。
  • 診断は1990年の18基準から、現在はACR 2016年改訂基準(WPI+SSS、全身性の痛み、3か月以上の持続)に更新されている。他疾患の合併があっても診断は成立する。
  • 治療は運動療法・などのが第一選択で、薬物療法(がFDA承認、低用量は適応外だが広く使用)は症状パターンに応じて補助的に追加する。
  • オピオイド・長期グルココルチコイド・漫然としたNSAID継続は避ける。