精神医学

精神医学 · A-10

気分(感情)障害の病因・診断・亜型・経過・鑑別

Mood (affective) disorders: etiology, diagnostic criteria, subtypes, course and outcome, differential diagnosis

前提:正常
情動・動機づけの神経回路
疾患
気分障害(うつ病・双極性障害)月経前不快気分障害重篤気分調節症遷延性悲嘆症統合失調感情障害

🧠 全体像:を見分ける幹は「があるか」だけではなく、過去に躁病またはがなかったかを生涯にわたり確認することである。躁病が1回でもあれば双極I型、との組合せなら双極II型を考える。

気分エピソード

エピソード 中核と期間 機能・
または興味・喜びの喪失を含む5症状以上が同じ2週間に存在 苦痛または機能障害を生じ、物質・身体疾患で十分説明されない
気分の高揚・・と活動性/活力増加が通常1週間以上。入院が必要なら期間を問わない 著しい機能障害、入院の必要、またはのいずれかを伴い得る
同様の変化が4日以上続き、他者からも明らかな変化 明白な機能変化はあるが著しい機能障害や入院を要せず、を伴わない

大うつ病エピソードの9症状

、興味・喜びの喪失、食欲・体重変化、睡眠障害、/制止、、/過剰な、集中・決断困難、死・自殺についての反復思考を評価する。

躁病・軽躁病の症状

気分変化に加え、、、多弁・、、、または精神運動活動の増加、損失を招き得る活動への熱中のうち3症状以上を確認する。気分がのみなら4症状以上が必要である。

⚠️ 資料の「精神病歴があれば双極I型」という記述は広すぎる。が中にあれば、そのエピソードはではなく躁病と判断する。一方、中のだけで自動的に双極I型とはならない。

うつ病性障害

大うつ病性障害

は1回以上のをもち、躁病・歴がない。患者はを明言せず、倦怠感、頭痛、腹痛、筋緊張などのを前景に出すこともある。

病因は単一の神経伝達物質不足では説明できず、、、慢性ストレス、神経回路・内分泌・炎症系の変化が相互作用する。甲状腺機能低下症などの身体疾患も状を来す。

⚠️ 「うつ病はセロトニン欠乏で起こる」という単純化は避ける。 セロトニン代謝物濃度、5-HT1A、、枯渇試験、SERT遺伝子関連という主要な研究領域を統合したアンブレラレビューは、セロトニン濃度低下や活動低下がうつ病を引き起こすという仮説を支持する一貫した証拠を見いだせなかったと報告した1。これに対し多数の精神者・精神科医はレビューの手法・を批判し、がうつ病に関与するという証拠は明確に存在すると反論しており2、決着していない論争として扱う。

特徴づけ 典型像
著しい喜びの喪失、、、精神運動変化、食欲・体重低下、過剰な
、、・体重増加、、
精神病性の特徴 またはを伴う
特定季節と発症・寛解が反復して対応する

持続性抑うつ障害

は、成人で2年以上、小児・青年では1年以上、またはが大半の日に続く慢性病態である。食欲、睡眠、活力、自尊心、集中・決断、希望の6領域から2症状以上を伴い、症状のない期間は一度に2か月を超えない。

その他のうつ病性障害

  • :月経前に感情不安定、、抑うつ、不安などが反復し、前方視的記録で周期との対応を確認する。
  • :に不釣合いな激しいが週3回以上、間欠期にも持続的があり、12か月以上・複数場面に及ぶ。診断年齢は6〜18歳で、発症は10歳以前である。

双極性障害

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='mood episode'>気分エピソード</span>の生涯歴を聴取"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='manic episode'>躁病エピソード</span>あり"]
    B --> C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bipolar I disorder'>双極I型障害</span><br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='depressive episode'>うつ病エピソード</span>は必須でない"]
    A --> D["躁病なし・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypomania'>軽躁病</span>あり"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='major depressive episode'>大うつ病エピソード</span>あり"]
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='bipolar II disorder'>双極II型障害</span>"]
    D --> G["完全なエピソード基準を満たさない変動が2年以上"]
    G --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cyclothymic disorder'>気分循環性障害</span>"]
  • :が少なくとも1回ある。は多いが診断に必須ではない。
  • :とがあり、躁病歴がない。「I型より軽い」とは限らず、うつ病負荷と自殺リスクは大きい。
  • :成人では2年以上、小児・青年では1年以上、完全な・基準を満たさない症状が反復し、期間の半分以上に症状があり、無症状期間は2か月を超えない。

は再発性で、無治療では躁・・うつ・混合症状を反復しやすい。遺伝的寄与が大きいが、睡眠・の乱れ、ストレス、物質、薬剤も発症や再発に関与する。

鑑別診断

鑑別 手掛かり
がない時期にもが持続する
への反応性が強い短時間の感情変動、な自己像・の不安定性
物質・薬剤誘発性 アルコール、刺激薬、ステロイド、抗うつ薬などの開始・増減と時間的に一致
身体疾患 、、感染、自己免疫疾患、睡眠障害など
正常な 喪失に結びついた波のある感情が中心。ただしは併存し得る

💡 では後のうつ病を除外していた「除外規定」が撤廃された。 に伴ううつ病は他の文脈で生じると遺伝的影響・既往歴・併存症パターン・慢性/再発のしやすさ・抗うつ薬への反応性が変わらないという再検討が根拠とされた3。一方でこの撤廃には異論があり、撤廃の根拠とされたデータを再解析すると、を満たしていた症例はその後の抑うつ再発率がむしろ有意に低く、除外規定のを支持する結果になるという批判もあり、決着していない4。

⭐ すべての抑うつ患者で、過去の、多弁、活動増加、浪費・性的逸脱、抗うつ薬による、家族歴を尋ねる。

まとめ

  • は2週間、躁病は通常1週間、は4日が期間の目安である。
  • 躁病とは、期間だけでなく著しい機能障害・入院・で区別する。
  • の見逃し、物質・薬剤、身体疾患、自殺リスクを必ず評価する。

出典

  1. 1.The serotonin theory of depression: a systematic umbrella review of the evidence(Molecular Psychiatry・2022)セロトニン代謝物濃度・5-HT1A受容体結合・セロトニントランスポーター・トリプトファン枯渇試験・SERT遺伝子関連という主要な研究領域を統合した結果、うつ病がセロトニン濃度低下や活動低下によって生じるという仮説を支持する一貫した証拠は見いだせなかったこと閲覧 2026-08-26
  2. 2.A leaky umbrella has little value: evidence clearly indicates the serotonin system is implicated in depression(Molecular Psychiatry・2023)Moncrieffらのアンブレラレビューの手法・除外基準を多数の精神薬理学者・精神科医が批判し、セロトニン系がうつ病に関与するという証拠は明確に存在すると反論していること閲覧 2026-08-26
  3. 3.The bereavement exclusion and DSM-5(Depression and Anxiety・2012)死別関連のうつ病は他の文脈での大うつ病エピソードと遺伝的影響・既往歴・併存症パターン・慢性/再発のしやすさ・抗うつ薬への反応性が変わらないとして、DSM-5で死別除外規定を維持すべきでないと結論したこと閲覧 2026-08-26
  4. 4.Validity of the bereavement exclusion to major depression: does the empirical evidence support the proposal to eliminate the exclusion in DSM-5?(World Psychiatry・2012)死別除外規定の撤廃根拠とされた先行研究を再検証すると、除外基準を満たす症例はその後の抑うつ再発率が有意に低いなど、むしろ除外規定の妥当性を支持する証拠が示されており、撤廃の根拠は存在しないと論じたこと閲覧 2026-08-26