薬理学

薬理学 · Core4

薬物の分子標的

Core4: Molecular targets of drugs

前提:正常
膜受容体の分類と機能シグナル伝達:受容体・Gタンパク質・セカンドメッセンジャー
応用トピック
コリン作動性・アドレナリン作動性伝達とそのシナプス前調節局所麻酔薬コリン作動薬カテコールアミンカリウム保持性利尿薬・ADH拮抗薬・浸透圧利尿薬ミネラルコルチコイド・外用グルココルチコイド・副腎皮質拮抗薬及びステロイド合成阻害薬膜輸送機構抗菌薬治療の原則:選択毒性受容体理論:作動薬・部分作動薬・拮抗薬・逆作動薬
疾患
過剰驚愕症

🧠 全体像:は受容体だけではない。授業は 受容体・酵素・トランスポーター・イオンチャネル・核酸・・・生物学的製剤/細胞標的 の8区分で整理する。覚えるときの軸は「どの分子に結合し、その分子の働きを上げるのか下げるのか」——この軸で並べ替えると、化学構造も適応もばらばらな薬が同じ引き出しに入る。

主な標的

標的 例 ポイント
受容体 、、GPCR、 古典的で最も大きな分類
酵素 、、、還元酵素 薬物により阻害されることが多い
トランスポーター SERT、NET、、 再取り込み(reuptake)や吸収の阻害で濃度が変化する
Na⁺、K⁺、 やで重要
核酸 、、siRNA 抗がん薬、抗ウイルス薬、でよく用いられる
細胞壁、タンパク質合成、 抗菌薬の標的
胆汁酸、胃酸、 結合、中和、物理的なで効果を示す
その他 サイトカイン、CD20、 生物学的製剤やで重要

💡 「標的そのもの」を分類の第一軸に据える体系がある。 に使われるATCコードが解剖学的部位・治療特性・化学的性質で薬を並べるのに対し、TCAT(Target-Chemistry-Anatomy-Therapy)は作用機序=標的を先頭に置く。提案元が挙げる標的の主要区分は、酵素/基質・代謝物・タンパク質/受容体/イオンチャネル/トランスポーター分子・輸送系/核酸・リボソーム/物理化学的機序//標的不明、の9つである1。

⚠️ 上の表の「」と「その他」は、この9区分には対応する項目が無い。 これらは授業側の整理である。分子のレベルまで降りれば、細菌のは酵素、リボソームは核酸・リボソームの区分に収まり、CD20やサイトカインはの区分に近い。同じ薬を、臨床上の使い道(抗菌薬か生物学的製剤か)で分けるか、結合する分子で分けるかの違いだと理解しておくと、教科書ごとに区分の数が違っても混乱しない。

受容体標的

  • :、。
  • :
  • GPCR(G protein-coupled receptors):
    • Gs:β、D1、、H₂、。
    • Gi:α₂、M₂、D₂、、一部の。
    • Gq:α₁、M₁/M₃/M₅、AT1、一部の。
  • :、受容体、/ANP(guanylate cyclase/ANP)。

⚠️ Gs/Gi/Gq の割り当ては「主たる共役」であって排他ではない。 現行のIUPHAR/BPS総覧は、β受容体を「すべてのβ受容体は Gs に共役してを活性化しを上げるが、とくにβ₂・β₃は Gi も活性化しうる」、α₁を「シグナルは主に Gq/11 だが Gi/o・Gs・G12/13 にも共役する」、α₂を「主に Gi/o だが α₂A は Gs にも共役する」と記述している2。上の表は主共役で覚えてよいが、「この受容体は Gs のみ」と閉じて覚えない——同じ受容体が細胞種や共役するGタンパク質の量で別の経路を使うことが、後のドアゴニズムの話につながる。

💡 標的としてのGPCR——ただし「最大の標的クラス」かどうかは解析によって変わる。 ある総説は、ヒトののうち GPCRが44%・酵素が29%・トランスポータータンパク質が15% とする先行解析(Rask-Andersenら)を引いている。ところが同じ段落に、酵素47%・GPCR 30% とする別の解析(Hopkins & Groom)と、承認標的の50%が酵素とする解析も並んでおり、総説自身のは「承認薬の標的タンパク質では酵素とGPCRがともに際立つ」という書き方にとどまる3。

⚠️ この数値は総説が引用している孫引きであり、の全文までは確認していない。順位が入れ替わるのは、薬を分母に数えるか、標的タンパク質を分母に数えるかが解析ごとに違うためである。一つの割合だけを覚えて「GPCRが最大の標的クラス」と断定しない。

まとめ

  • 受容体・酵素・トランスポーター・チャネル が基本4分類。残りは核酸・・非受容体性・生物学的製剤/細胞標的。
  • 抗菌薬はしばしば 微生物の細胞壁・タンパク質合成・ を標的にする。
  • やは、を介さず に作用する。
  • GPCRは Gs(↑)・Gi(↓)・Gq(IP₃/→Ca²⁺↑) で覚えるが、これは主たる共役であって排他ではない。
  • 「GPCRが最大の標的クラス」は数え方(薬を分母にするか標的タンパク質を分母にするか)に依存する。酵素を最多とする解析も同じくらい多い。

出典

  1. 1.A classification of drug substances according to their mechanism of action(Die Pharmazie・2004)PubMedの抄録で確認した(全文は未取得)。ATCコードに代わる標的指向の分類体系としてTCAT(Target-Chemistry-Anatomy-Therapy)を提案し、標的の主要区分を逐語で "enzymes; substrates, metabolies, proteins; receptors; ion channels; transporter molecules and systems; nucleic acids, ribosomes; physicochemical mechanisms; antigen-antibody reactions; unknown targets" の9つとして挙げている。微生物を独立の標的区分として立てる記述は抄録には無い。閲覧 2026-09-21
  2. 2.The Concise Guide to PHARMACOLOGY 2025/26: G protein-coupled receptors(IUPHAR/BPS(British Journal of Pharmacology 182 Suppl 1)・2025)Europe PMC経由でPMC13242166の全文XMLを取得して確認した。アドレナリン受容体の共役は逐語で "All β-adrenoceptors couple to Gs (activating adenylyl cyclase and elevating cAMP levels), but the β2- and β3-adrenoceptors in particular can also activate Gi"、"Signalling is predominantly via Gq/11 but α1-adrenoceptors also couple to Gi/o, Gs and G12/13"、"Signalling by α2-adrenoceptors is primarily via Gi/o, although the α2A-adrenoceptor also couples to Gs" と記載され、Gタンパク質の割り当てが主たる共役であって排他的でないことを示している。閲覧 2026-09-21
  3. 3.Properties of Protein Drug Target Classes(PLoS ONE・2015)Europe PMC経由でPMC4379170の全文XMLを取得して確認した。ヒトの薬物標的のうちGPCR 44%・酵素 29%・トランスポータータンパク質 15%という数値は、逐語で "Rask-Anderson et al. found that G-protein-coupled receptors (GPCRs) make up 44% of human drug targets, enzymes 29% and transporter proteins 15%" と、本論文が引用する先行解析(Rask-Andersen 2011)に帰属している。同じ段落はOveringtonらを "over 50% of drugs target GPCRs, nuclear receptors or ion channels"、Hopkins & Groomを "enzymes comprise 47% of launched targets, while GPCRs account for 30%"、Zhengらを "enzymes make up 50% of approved targets" として並べ、本論文自身の要約は "One very evident trend in these findings is the prominence of enzymes and GPCRs in the set of approved drug target proteins." である。閲覧 2026-09-21