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Disease Atlas · 神経 · 先天性疾患

過剰驚愕症

Hyperekplexia

別名
驚愕病Startle diseaseStiff-baby syndrome
臓器系
神経小児
科目
PediatricsPharmacology
トピック
小児科 2-09:新生児・乳児で疑う遺伝性疾患の特徴Core4:薬物の分子標的
鑑別疾患
Tay-Sachs病てんかん
治療薬
クロナゼパム
症状
過剰驚愕反応筋強直転倒チアノーゼ

🧠 全体像:は、グリシンによる抑制が効かないためにが止まらなくなる遺伝性疾患である。⭐ の全身の硬直と、予期しない刺激(とくに音)に対する過剰なの2つが柱で、のあとに短時間の全身硬直が続く。⚠️ てんかんとされやすいが、の間意識は保たれており、ではない。臨床で決定的なのは、この疾患が診察室で誘発でき、その場で止められ、薬で治せるという三拍子である——を軽く叩けばが過剰に出て、硬直発作は体幹へ頭と下肢を屈曲させる手技で止まり、がよく効く。⚠️ 放置すれば無呼吸からに至りうるので、診断がつくかどうかが生死を分ける。

⚠️ まず「遺伝性」と「症候性」を分ける

「過剰な」という所見は多くの病態で見られる。所見の名前と疾患の名前を混同しない。

遺伝性(本症) 症候性の
本態 抑制の遺伝的破綻 別の疾患に伴う一症状
発症 出生時から。非進行性 原疾患の経過に従う
代表 GLRA1・SLC6A5・GLRB の など、破傷風、、脳幹の、
経過 硬直は加齢とともに軽快する 原疾患が進行すれば悪化する

GeneReviewsは後天性の原因として脳幹の構造的機能障害・感染(破傷風)・・を、を誘因とする他の病態として・・を挙げている1。

⚠️ 既存ノートで「」が出てくる文脈は、たいてい症候性のほうである。 たとえばのでは生後3〜6か月の進行性筋力低下にが伴うが、これは進行性のの一症状であって本症ではない。⭐ 鑑別の軸は「出生時からあって進行しないか」「を伴うか」である。

病態

flowchart TD
    A["GLRA1(受容体α1鎖)・GLRB(受容体<span class='jp-term jp-term-diagram' title='beta chain'>β鎖</span>)・SLC6A5(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='presynaptic'>前シナプス</span>性<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycine transporter'>グリシントランスポーター</span>GlyT2)の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathogenic variant'>病的バリアント</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='glycinergic'>グリシン作動性</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='inhibitory synaptic transmission'>抑制性シナプス伝達</span>の障害"]
    B --> C["脳幹・脊髄の抑制性回路が働かない"]
    C --> D["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='startle reflex'>驚愕反射</span>が正常な抑制を受けずに増幅する"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='startle (response)'>驚愕</span>に続く運動ニューロンの<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hyperexcitability'>過剰興奮</span>"]
    D --> F["過剰な<span class='jp-term jp-term-diagram' title='startle response'>驚愕反応</span>(<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blink(ing)'>瞬目</span>・体幹の屈曲性攣縮)"]
    E --> G["短時間の全身硬直。呼吸筋が巻き込まれれば無呼吸"]

遺伝子診断が確定した97例では、GLRA1 が61〜63%、SLC6A5 が25%、GLRB が12〜14%を占める1。GLRA1 と GLRB は・潜性のいずれもとりうるが、SLC6A5 は原則として(まれに)である1。⭐ GLRB・SLC6A5 の変異例では発達遅滞がより多く、SLC6A5 例では反復性の乳児無呼吸が有意に多い1。

💡 は型ので、の分子標的でもある。が本症とよく似た全身硬直との攣縮を起こすのは、同じ抑制系を薬理学的に遮断しているからである。

臨床像

  • の全身硬直。抱き上げると「棒のように硬い」と表現される状態で、覚醒はしているのに自発運動が乏しい1。
  • 過剰な。予期しない無害な刺激、とくに音に対して、と体幹の屈曲性攣縮が生じる1。
  • に続く短時間の全身硬直2。歩行できる年齢では、この硬直のために防御姿勢を取れないまま転倒する。
  • ⚠️ 無呼吸と。として呼吸が止まり、チアノーゼに至る。との関連が・治療の重要性を裏づける12。1989年のLancet報告が本症を「回避しうるの原因」と題して以来、この点が繰り返し強調されている3。

ベッドサイドの2つの手技

⭐ 本症の実地の要点は、診察室で誘発でき、その場で止められることにある。

手技 やり方 意味
の 鼻の先を軽く叩く(・・上唇・でも誘発されうる) 過剰なが誘発される。触覚刺激に対する過剰なの一形態1
頭部と下肢を体幹に向かって強く屈曲させる 新生児の()を止められる12

⚠️ Vigevano の名は手技に付いている。で誘発される所見は、GeneReviewsでは「過剰な(HRR)」と呼ばれており、人名では呼ばれていない。

⚠️ は家族に教える。 発作は自宅で起こる。手技そのものがになりうる以上、診断がついた時点で家族が実施できる状態にしておく必要がある。

⚠️ てんかんとの区別

もっとも多い誤りは、新生児の硬直との攣縮をと読むことである。

意識 保たれる1 型により障害される
誘因 予期しない感覚刺激(とくに音・の接触) 通常は誘因なし
中断 で止まる 手技では止まらない
経過 硬直は加齢とともに軽快 型により異なる
治療 が第一選択 発作型に応じた

GeneReviewsは「の間、意識は変容せず、これらの反応はではない」と明記している1。⚠️ の代償は小さくない——不要なにさらされ、効くはずのに到達せず、家族はを教わらないままに対処することになる。

💡 「劇的に崩れ落ちる」病態としてはとも紛れる。⭐ 区別の軸は誘因である——は笑いなどの情動が引き金で、脱力する。は予期しない音や接触という感覚刺激が引き金で、硬直する。

治療と予後

⭐ が第一選択である。の硬直も、に伴う硬直も、この治療で軽減する。推奨される1日量は小児で0.01〜0.1 mg/kg、成人で0.8 mgとされる1。

の全身硬直は通常、生後数年で正常化する(2歳までに、範囲0.7〜5歳)1。症状は加齢とともに軽快し、乳児期から思春期の間に消失するか、薬物治療下で寛解することが多い1。

⚠️ ただし「治って終わり」ではない。 フランス9施設の(STARDEV、28例)では、IIで運動領域を除いて適応能力は保たれていた一方、早期発達で53%に神経がみられ、57%が(主に)を発症した。および/またはは5例に認められている2。症状は生後3年間に最も多く、その後もと転倒が持続した。を中止できたのは4分の1にとどまり、遺伝的バリアントは85%で同定された2。

💡 従来「は正常か、遅れても追いつく」とされてきた点について、この研究はの併存が高頻度であるという異なる像を示している。硬直が消えたあとも、学習面の評価を続ける理由がここにある。

まとめ

  • 遺伝性は抑制の破綻による疾患で、GLRA1(61〜63%)・SLC6A5(25%)・GLRB(12〜14%)が主なである。「過剰な」という所見だけなら症候性の原因が多数あり、など進行性のに伴うものと本症を混同しない。
  • 中核は出生時からの全身硬直と、予期しない感覚刺激(とくに音)に対する過剰なで、に続いて短時間の全身硬直が起こる。硬直が呼吸筋に及べば無呼吸・チアノーゼとなり、につながりうる。
  • の軽いで過剰なが誘発され、は頭部と下肢を体幹へ強く屈曲させるで止められる。この手技は家族に教える。
  • 中に意識は保たれ、ではない。誘因が感覚刺激であること、手技で止まることがてんかんとの区別になる。
  • が第一選択(小児0.01〜0.1 mg/kg/日、成人0.8 mg/日)。の硬直は2歳までに(範囲0.7〜5歳)正常化することが多いが、28例の長期追跡では57%がを発症し、を中止できたのは4分の1にとどまった。

出典

  1. 1.Hereditary Hyperekplexia Overview(GeneReviews (NCBI Bookshelf)・2019)2007年7月31日初出・2019年12月19日最終改訂版(Balint B・Thomas R)の全文を確認した。中核症状が「予期しない無害な刺激(とくに聴覚刺激)に対する過剰な驚愕反応(典型的には瞬目と体幹の屈曲性攣縮)」と「出生時からの全身の持続的な硬直」であること、本症が stiff-baby syndrome とも呼ばれ、新生児を水平に抱えると「as 'stiff as a stick'」と表現される状態になること、この全身硬直が通常は生後数年で(2歳までに、範囲0.7〜5歳)正常化すること、「Consciousness is unaltered during startle responses, and the responses do not represent epileptic seizures.」と、驚愕反応中に意識が保たれ、てんかん発作ではないと明記されていること、触覚刺激に対する過剰な頭部後退反射(head-retraction reflex, HRR)が「とくに鼻尖への軽い叩打」で誘発されること、新生児の強直性チアノーゼ発作(無呼吸発作)が「forced flexion of the head and legs towards the trunk」というVigevano手技で止められること、乳児突然死との関連が早期診断・治療の重要性を裏づけると述べられていること、遺伝子診断が確定した97例で GLRA1 が61〜63%・SLC6A5 が25%・GLRB が12〜14%を占めること、GLRA1 と GLRB が常染色体顕性および潜性・SLC6A5 が常染色体潜性(まれに顕性)遺伝を示すこと、GLRB あるいは SLC6A5 の変異例で発達遅滞がより多く SLC6A5 例で反復性の乳児無呼吸が有意に多いこと、「Clonazepam is the treatment of choice for HPX.」であり新生児期の硬直と驚愕に伴う硬直がこの治療で軽減すること、推奨される1日量が小児で0.01〜0.1 mg/kg・成人で0.8 mgであること、症状が加齢とともに軽快し乳児期から思春期の間に消失あるいは薬物治療下で寛解することが多いことを確認した。閲覧 2026-09-03
  2. 2.STARDEV Study: Neurodevelopmental Trajectory and Long-Term Outcomes of Patients with Startle Disease/Hyperekplexia(Movement Disorders Clinical Practice・2025)Europe PMC経由でPMC12481448の全文XMLを取得し、抄録・導入・方法の各節を確認した(結果の詳細な図表は未確認)。フランス9施設の後方視的多施設研究で臨床診断基準に基づく28例を組み入れたこと、組み入れ要件が「過剰な驚愕反応」に加えて「筋緊張亢進」または「短時間の硬直」のいずれか1つ以上であり、二次性の過剰驚愕反応やニューロダイバージェンスの二次的原因をもつ例を除外したこと、Vineland適応行動尺度II(VABS-II)で運動領域を除き適応能力が保たれていたこと、早期発達では53%に神経発達の遅れがみられ57%が神経発達症(主に限局性学習症)を発症したこと、知的発達症および/または自閉スペクトラム症が5例に認められたこと、症状が生後3年間に最も多く過剰驚愕反応と転倒が持続したこと、4分の1の患者がクロナゼパムを中止したこと、85%で GLRA1・SLC6A5・GLRB のいずれかに遺伝的バリアントが同定されたこと、導入部で本症の3徴が「新生児期の筋緊張亢進・予期しない感覚刺激への過剰な驚愕反応・驚愕反射に続く短時間の全身硬直」と記述され、新生児・乳児の重篤な合併症としてチアノーゼに至る無呼吸と突然死が挙げられていること、Vigevano手技が「頭部と下肢を体幹へ急速に屈曲させる」ものとして硬直発作を止めうると記述されていること、GLRA1 が60%超・SLC6A5 が25%・GLRB が12%とされていることを確認した。閲覧 2026-09-03
  3. 3.Startle disease: an avoidable cause of sudden infant death(The Lancet・1989)PubMedの書誌レコードで、Vigevano F・Di Capua M・Dalla Bernardina B が1989年にLancet誌へ、驚愕病を「回避しうる乳児突然死の原因」と題する報告(1巻8631号216頁)を発表しており、本手技の人名由来にあたることを確認した。本文は未取得で、記載内容そのものは確認していない。閲覧 2026-09-03