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Disease Atlas · 神経 · 症候群

胸郭出口症候群

Thoracic outlet syndrome

別名
TOS
臓器系
神経循環器運動器
科目
Macroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)Neurology
トピック
解剖学 8.5:頸部:頸部の根(頸胸移行部)解剖学 2.1:胸部:骨と関節解剖学 2.7:胸部:局所解剖神経内科 G1-37:末梢神経絞扼症候群
鑑別疾患
手腕振動症候群末梢神経絞扼症候群腕神経叢損傷頸椎・腰椎椎間板ヘルニアによる神経根症
続発疾患
Paget-Schroetter症候群肺血栓塞栓症
症状
知覚異常筋力低下頸部痛肩痛腫脹チアノーゼ蒼白橈骨脈拍減弱

🧠 全体像:は「でが圧迫される」という一言でまとめられがちだが、実際には圧迫される構造がか・か・かで、頻度もも治療もまったく別の3つの病気である1。数の上ではが90%を大きく上回り、が3〜5%、が1〜2%にとどまる23。しかし臨床の重みは逆で、多数派のは所見に乏しく数か月単位の保存療法から入るのに対し、少数派の・は血栓症・塞栓症という時間の勝負になる。「TOS」という1語で片付けず、まず型を決めることが最初の一手になる。

用語:「胸郭出口」は胸郭上口ではない

解剖学でいう(第1・・で囲まれた輪)と、臨床でいうは同じものではない。臨床的なは胸郭から腋窩へ向かう神経血管路を指し、圧迫はその経路上の3区画で起こる3(解剖学 8.5・解剖学 2.1)。

区画 境界 通る構造
() ・・ 、(は通らない)
との間(前方は) 、・
() と胸壁の間 、腋窩動静脈

⭐ がを通らないことが、型の分布を決めている。 静脈が圧迫を受けうるのはから遠位だけなので、は「とに挟まれる」病態にほぼ限られる。一方、とは3区画すべてを通る。

素因:頸肋は「あるだけ」では発症しない

は第7から出るで、をさらに狭める。(141研究・77,924人)では、のは患者で29.5%、健常者で1.1%と大きく異なっていた4。ただし裏を返せば、健常者にも一定割合で存在する所見であり、の存在だけでは診断にならない。をもつ症候性患者の内訳は血管性51.3%・48.7%で、全体の型分布(が圧倒的多数)とは大きく違う4——があるときは血管型の比重が上がると読める。

このほか、、、頸部外傷(が最多)によるの、後の変形、反復するが素因になる23。の(肺癌)はこの部の構造を巻き込むとして、常に除外しておく。

3型の比較

(NTOS) (VTOS) (ATOS)
頻度 90%超3 3〜5%3 1〜2%3。1%を超えない2
圧迫される構造 (C8-T1優位が多い)
主な症状 上肢98%、痛92%、88%、肩・上肢痛88%2。挙上位で悪化 上肢の腫脹・チアノーゼ・重苦しさ・疼痛2 上肢の虚血(疼痛・蒼白・)、の塞栓
典型的な背景 頸部外傷後の瘢痕、反復動作 活動的な15〜45歳、後の急性発症3 ・をほぼ必ず伴う2
画像 単純X線で骨性異常を確認、/で神経を評価 、/、 単純X線で、/で狭窄・動脈瘤
低〜中(保存療法から) 高(血栓症) 高(塞栓症・虚血)

💡 は「()」という別名で呼ばれる。 でに圧迫され内皮が傷んだに、を契機として血栓が形成される。を10〜20%に合併するため、「若く健康な人の片側上肢の急な腫脹」を軽く扱ってはいけない3。ただし同じ資料は、下肢のに比べると血栓量は通常わずかで、致死的になることは稀であるとも述べている3——頻度の高さと重篤度は分けて理解する。

診断:神経原性は「除外」を含む定義になっている

血管型は超音波・というで決着するが、には確定的な検査がない。そのため科学会(SVS)の報告基準は、を次の4項目のうち3項目を満たすものと定義した1。

  1. 部の病変を示す症状・所見(疼痛または圧痛)
  2. の症状・所見(末梢の変化。挙上位や下垂位で悪化することが多い)
  3. 症状を説明しうる他の病態がないこと
  4. 適切に実施されたへの陽性反応

⚠️ 「4項目すべて」ではなく「4項目のうち3項目」である。 を行えなくても、他の3項目が揃えば定義を満たす。逆に、他疾患の除外(第3項)を飛ばして症状だけで診断してはいけない。

⚠️ を診断の根拠にしない。 での拍動減弱をみるこの試験は臨床的価値がないことが示されており、3型のいずれの診断にも依拠すべきでない——の大半では陰性であり、同時に健常ボランティアの多くで陽性になりうる2。代わりに、上肢を90度外転・位に保つ誘発試験(EAST/Roos試験)で通常60秒以内に症状が再現されるかをみる2。

flowchart TD
    A["上肢の症状(疼痛・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='paresthesia'>知覚異常</span>・腫脹・虚血)"] --> B{"上肢が急に腫れて<br>チアノーゼを呈するか"}
    B -->|"はい"| C["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='venous'>静脈性</span>を疑う<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='color-flow duplex US'>デュプレックス超音波</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='contrast venography'>静脈造影</span>"]
    B -->|"いいえ"| D{"上肢の虚血・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='digits (fingers and toes)'>指趾</span>の塞栓・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulselessness'>脈拍消失</span>があるか"}
    D -->|"はい"| E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='arterial'>動脈性</span>を疑う<br>単純X線で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervical rib'>頸肋</span> → <span class='jp-term jp-term-diagram' title='computed tomography'>CT</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance angiography'>MR血管造影</span>"]
    D -->|"いいえ"| F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neurogenic'>神経原性</span>を疑う"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cervical radiculopathy'>頸椎神経根症</span>・末梢神経絞扼・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='brachial plexus'>腕神経叢</span>病変・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='Pancoast tumor'>Pancoast腫瘍</span>を除外する"]
    G --> H["誘発試験(EAST/Roos・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='upper limb tension test'>上肢緊張試験</span>)<br>単純X線・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='electrophysiological study'>電気生理学的検査</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='magnetic resonance imaging'>MRI</span>"]
    H --> I["SVS基準の4項目中3項目を満たすか判定"]
    C --> J["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>の決定"]
    E --> J
    I --> J

既存ノートとの役割分担

  • は、1本の末梢神経が決まったトンネルで絞扼される病態(・など)を扱う。は絞扼される対象がという神経の束であり、症状が単一神経の支配領域に収まらない点で別枠になる。など遠位の絞扼と併存し、近位と遠位で二重に絞扼される状態はありうるが、頻度は低い(におけるの合併は約1%)3。
  • は・・反射が単一神経根に一致する。では複数根にまたがり、(挙上・下垂)で症状が変わるのが手掛かりになる。
  • は明確な外傷歴と急性の脱落症状で始まる。は慢性・体位依存性である。

治療:型ごとにまったく違う

型 初期治療 手術
姿勢指導・を含む。手術を検討する前に少なくとも4〜6か月行う3 保存療法無効例に+(切離)3
抗凝固(ヘパリン)とを先行させる3 血栓溶解後に()3
塞栓・虚血への緊急対応 に加えて、の狭窄・動脈瘤に対する

⚠️ ・で「まずを4〜6か月」をやってはいけない。 保存療法から入るのはだけであり、血管型では血栓・塞栓の処理が先行する3。型を決めずにを選ぶことが、この疾患で最も大きな誤りになる。

💡 の大半は、所見を欠く型である。 学的な異常や()を伴う「真の型」は稀で、症例の95〜99%は所見を欠く型とされる(この数値は総説が別の原著を引用したものである)3。が正常でもは否定できないが、同時にそれは他疾患の除外を丁寧に行うべき理由でもある。

まとめ

  • は(90%超)・(3〜5%)・(1〜2%)の3つの別個の病態で、頻度もも治療も違う。まず型を決める。
  • 圧迫部位は・・の3区画。はを通らないため、は以遠の病態になる。
  • は患者の29.5%・健常者の1.1%にみられ、あるだけでは診断にならないが、あるときは血管型の比重が上がる。
  • の診断はSVS基準の4項目中3項目で、他疾患の除外を含む。は根拠にしない。
  • 治療はが4〜6か月→+、が抗凝固+→、が緊急の+。はを10〜20%に合併する。

出典

  1. 1.Reporting standards of the Society for Vascular Surgery for thoracic outlet syndrome(Society for Vascular Surgery / Journal of Vascular Surgery・2016)胸郭出口で圧迫を受ける構造が腕神経叢・鎖骨下静脈・鎖骨下動脈の3つであり、それぞれ神経原性・静脈性・動脈性胸郭出口症候群を生じる別個の病態として扱われること(併存・重複はありうる)、委員会が神経原性胸郭出口症候群を4項目(胸郭出口部の病変を示す症状・所見(疼痛または圧痛)、神経圧迫の症状・所見(末梢の神経学的変化。挙上位や下垂位で悪化することが多い)、症状を説明しうる他の病態がないこと、適切に実施された斜角筋ブロックへの陽性反応)のうち3項目を満たすときに存在すると定義したことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-02
  2. 2.Diagnosis of thoracic outlet syndrome(Journal of Vascular Surgery・2007)神経原性胸郭出口症候群が全胸郭出口症候群の90%を大きく上回って最多であり動脈性は最も少なく1%を超えないこと、動脈性は鎖骨下動脈の狭窄・動脈瘤に由来する塞栓で生じX線でほぼ必ず頸肋または異常第1肋骨が描出されること、静脈性は鎖骨下静脈閉塞による上肢腫脹・チアノーゼ・疼痛を呈すること、神経原性は頸部外傷(むち打ちが最多)後の斜角筋瘢痕化による腕神経叢圧迫が通常の原因であること、誘発肢位で橈骨動脈拍動の減弱をみるAdson試験は臨床的価値がないことが示されており3型いずれの診断も同試験に依拠すべきでないこと(神経原性の大半で陰性となる一方、健常ボランティアの多くで陽性になりうる)、90度外転・外旋位で通常60秒以内に症状が誘発されることを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。⚠️ 本ノートが神経原性の症状頻度として挙げる上肢知覚異常98%・僧帽筋痛92%・頸部痛88%・肩/上肢痛88%は、Jones 2019 全文が本文献を典拠として引用している数値であり、本文献の抄録には百分率の記載がないため原著本文では未確認である(Jones 2019 経由で本文献に帰属)。閲覧 2026-09-02
  3. 3.Thoracic Outlet Syndrome: A Comprehensive Review of Pathophysiology, Diagnosis, and Treatment(Pain and Therapy・2019)胸郭出口が斜角筋三角・肋鎖間隙・小胸筋後隙(烏口突起下隙)の3区画からなること、神経原性が全体の90%超、静脈性が3〜5%、動脈性が1〜2%を占めること、神経原性のうち電気生理学的な客観的所見を欠く「disputed」型が神経原性症例の95〜99%を占めること(ただしこの95〜99%は本総説自身の報告ではなく、本総説が Ferrante 2012 を引用したものである)、静脈性(Paget-Schroetter症候群)が活動的な15〜45歳に生じ肺血栓塞栓症を10〜20%に合併する一方、下肢深部静脈血栓症に比べれば血栓量は通常わずかで致死的になることは稀であること("In comparison to lower extremity DVT, however, clot burden is typically minimal and infrequently life-threatening")、神経原性の初期治療が姿勢指導・活動調整を含む理学療法であり手術を検討する前に少なくとも4〜6か月行うこと、手術は第1肋骨切除に斜角筋切除/切離を併施するのが基本術式であること、静脈性ではカテーテル的血栓溶解とヘパリン投与を先行させたうえで減圧術を行うことを確認した。閲覧 2026-09-02
  4. 4.Cervical Rib Prevalence and its Association with Thoracic Outlet Syndrome: A Meta-Analysis of 141 Studies with Surgical Considerations(World Neurosurgery・2018)141研究・77,924人のメタ解析で頸肋の統合有病率が胸郭出口症候群患者29.5%、健常者1.1%であったこと、頸肋を有する症候性患者の51.3%が血管性、48.7%が神経原性胸郭出口症候群であったことを確認した。抄録のみを閲覧しており全文は未取得。閲覧 2026-09-02