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Disease Atlas · 循環器 · 症候群

Paget-Schroetter症候群

Paget-Schroetter syndrome

別名
労作性血栓症
臓器系
循環器運動器
科目
Macroscopic Anatomy and Embryology (Macroscopic Anatomy)Internal MedicineCardiology, Heart Surgery, Angiology, Vascular Surgery
トピック
解剖学 8.5:頸部:頸部の根(頸胸移行部)内科学 L-09:表在静脈血栓症と深部静脈血栓症循環器内科 B-11:深部静脈血栓症の症状・診断・治療と合併症
上位概念
深部静脈血栓症
続発疾患
肺血栓塞栓症
治療薬
ヘパリンアルテプラーゼ
症状
腫脹チアノーゼ四肢痛
原因となる疾患
胸郭出口症候群

🧠 全体像:は「若く健康な人の利き腕が、急に腫れて青くなる」病気である。中心静脈カテーテルを抱えた高齢のに起こる二次性の上肢血栓症とも、の下肢とも、患者像がまるで違う。原因は血液ではなく骨格にある——はとに挟まれたを通るため、腕を繰り返し挙げる人ではここで静脈が押しつぶされ、内膜が傷んでする1。だからこの疾患の治療は抗凝固では終わらない。血栓を溶かしても、挟んでいる骨格をそのままにすれば同じことが起こる。を切除してを広げるところまでが標準の道筋になる。

位置づけ:胸郭出口症候群の別名ではない

は圧迫される構造によって・・の3型に分かれる。そのうち(全体の3〜5%)がの血栓症にまで進行した状態が、ないしである21。

⚠️ 「の別名」と覚えない。 の多数派はで、そちらは数か月単位のから入る慢性疾患である。はという少数派がした急性疾患で、時間の勝負になる。名前を同一視すると、治療の入口を間違える。

⭐ 上肢のとしては「一次性(特発性)」に分類される。 これに対して、中心静脈カテーテル・・・悪性腫瘍に伴うものが二次性である。で必ず区別する——カテーテルが原因なら、を切っても意味がない。

💡 この疾患は凝固の問題ではなく機械の問題である。 では初診時にの異常がみられることがあっても、遺伝性のを示す指標は通常陰性であり、この点がを「凝固異常の病気」ではなく「押しつぶされる病気」として区別する2。だからこそ、治療の最後に骨を切る必要が出てくる。

なぜ肋鎖間隙なのか

⭐ はの前を通り、を通らない。 したがって静脈が圧迫されうるのはとそれより遠位だけであり、これが「はの病気」と言い切れる解剖学的根拠になる(解剖学 8.5)。

はの最前部でとの接合部を通過するため、構造的に損傷を受けやすい。しかも問題は外から押される力だけではない——この部位に繰り返し力がかかると、静脈そのものに固定した内因性の損傷が生じ、周囲にはが形成される1。

flowchart TD
    A["反復する上肢挙上・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='overhead activity'>オーバーヘッド動作</span>"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='first rib'>第1肋骨</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='clavicle'>鎖骨</span>の間で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='subclavian vein'>鎖骨下静脈</span>が繰り返し圧迫される"]
    B --> C["静脈壁の固定した内因性損傷"]
    B --> D["静脈周囲の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scar tissue'>瘢痕組織</span>形成"]
    C --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='intimal injury'>内膜傷害</span>と<span class='jp-term jp-term-diagram' title='blood flow stasis'>血流うっ滞</span>"]
    D --> E
    E --> F["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='axillary-subclavian vein'>腋窩鎖骨下静脈</span>の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombotic occlusion'>血栓性閉塞</span>"]
    F --> G["上肢の腫脹・チアノーゼ・重苦しさ"]
    F --> H["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonary embolism, PE'>肺血栓塞栓症</span>"]
    F --> I["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='post-thrombotic syndrome, PTS'>血栓後症候群</span>"]

💡 「瘢痕が残る」ことが、治療が2段構えになる理由である。 血栓を溶かして静脈の中を空けても、静脈を挟んでいる骨と、その周りに巻きついた瘢痕は残っている。血栓溶解だけで終えると、しばしばその下に潜んでいた狭窄が姿を現す1。

臨床像:下肢の深部静脈血栓症と患者像が正反対

カテーテル関連の二次性上肢血栓症 下肢の
典型的な患者 活動的な15〜45歳2。基礎疾患がないことが多い 中心静脈カテーテル・を持つ患者、 高齢、不動、術後、悪性腫瘍
側 古典的には利き腕()に多いとされる2 カテーテル挿入側 下肢
きっかけ 反復する挙上動作(投球・水泳・挙上競技・塗装・棚上げ作業)や、その直後 留置そのもの 不動・手術・
発症 数時間〜数日で急に 緩徐なことが多い 数日

主症状は片側上肢の腫脹・チアノーゼ・重苦しさ・である。胸壁・肩のがとして怒張して見えることがある。

⚠️ 「腕を使いすぎた」「筋肉痛」として帰さない。 若く健康で、外傷歴がなく、も正常であることがこの疾患の常であり、そのすべてが「大したことはない」方向に誤って働く。⭐ 腫れて色が変わっているなら、それは筋肉痛ではない。

診断

  • を第一に行う。非侵襲で反復でき、の画像診断でまず用いられる検査である。
  • 確定と治療計画には・・を用いる。血栓溶解を行うならが治療手技と一体になる。
  • 上肢を挙上したでの撮影は、血栓がない側や治療後に動的な圧迫を評価するのに使う。
  • ⚠️ で二次性の原因(カテーテル・リード・悪性腫瘍・)を必ず洗い出す。 一次性と二次性で治療の道筋が根本的に違う。

合併症:頻度と重篤度を分けて理解する

  • を10〜20%に合併する2。「上肢だから軽い」という一般化は成り立たない。
  • ⚠️ ただし同じ資料は、下肢のに比べると血栓量は通常わずかで、致死的になることは稀であるとも述べている。理由として、外からの機械的な閉塞が血栓の近位へのを理論上妨げることが挙げられている2。塞栓を起こす頻度が高いことと、起こした塞栓が重いこととは別の話である。
  • が最も多い長期である。全体(62研究・3,550例)のでは、のプール割合が19.4%、再発が7.5%であり、平均6か月の追跡では一次性(誘因のない)例のほうが二次性より多く、再発は二次性で多かった3。
  • ⭐ 正しく治療すれば長期のはごくわずかである一方、放置すれば有意な長期罹病と結びつく1。この非対称が、積極的な治療をしている。

治療:抗凝固で止めない

flowchart TD
    A["若年者の片側上肢腫脹・チアノーゼ"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='color-flow duplex US'>デュプレックス超音波</span>で<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='axillary-subclavian vein'>腋窩鎖骨下静脈</span>血栓を確認"]
    B --> C["二次性の原因(カテーテル・リード・悪性腫瘍)を除外"]
    C --> D["抗凝固を開始"]
    D --> E["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thrombus formation'>血栓形成</span>から10〜14日以内なら<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='catheter-directed thrombolysis'>カテーテル的血栓溶解</span>"]
    E --> F["背後の静脈狭窄・瘢痕が明らかになる"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='first rib resection'>第1肋骨切除</span>による<span class='jp-term jp-term-diagram' title='thoracic outlet'>胸郭出口</span>の減圧"]
    G --> H["残存静脈病変の扱いは施設により異なる"]
  1. 抗凝固(ヘパリン)を開始する2。
  2. を行う。(など)をカテーテルから局所に投与する手技で、から10〜14日以内に開始すれば通常は成功する。ただし、しばしばその下にあった病変を露わにする1。
  3. の減圧へ進む。大多数の研究者が必要と考えている術式は、・部分切除・切除・十分な外的である1。
  4. 静脈病変そのもの(残存狭窄に対する・・再建)の要否と方法については、意見が一致していない1。

⭐ このアルゴリズムで、多くの研究者が95〜100%の長期成功率を報告している1。

⚠️ 抗凝固単独で終えないことには、数字の裏づけがある。 のでは、は抗凝固単独の患者で、血栓溶解やを受けた患者より多かった3。出血の面でも、大出血は抗凝固単独で5.0%、血栓溶解ないし手術で3.8%であり、介入を加えたほうが出血が増えるという単純な図式にはなっていない3。

⚠️ の「まずを4〜6か月」をここへ持ち込まない。 保存療法から入るのはだけである。時間が経つほど血栓溶解の成功率は下がる。

⚠️ ただし、この治療体系はに支えられているわけではない。 原著自身が「本疾患を扱ったは驚くほど乏しい」と述べており、合意は経験に基づくものである1。

まとめ

  • はがの血栓症へ進行した状態で、の別名ではない。のうち一次性に分類される。
  • はを通らずを通るため、との接合部で反復する力を受け、固定した内因性損傷と周囲のを来す。
  • 典型像は活動的な15〜45歳が、腕を繰り返し挙げる動作のあとに片側上肢(古典的には利き腕)の急な腫脹とチアノーゼを来すこと。カテーテル・リード・悪性腫瘍に伴う二次性上肢血栓症と必ず区別する。
  • を10〜20%に合併するが、下肢に比べれば血栓量は通常わずかで致死的になることは稀とされる。長期はで、上肢全体では19.4%、一次性でより多い。
  • 治療は抗凝固に始まり、10〜14日以内の、そしてを含むの減圧へ進む。この道筋で長期成功率95〜100%が報告されている一方、は乏しい。

出典

  1. 1.A comprehensive review of Paget-Schroetter syndrome(Journal of Vascular Surgery・2010)静脈性胸郭出口症候群が腋窩鎖骨下静脈血栓症にまで進行した状態がPaget-Schroetter症候群ないし労作性血栓症と呼ばれること、正しく治療すれば長期の後遺症はごくわずかである一方、放置すれば有意な長期罹病と結びつくこと、鎖骨下静脈が胸郭出口の最前部で第1肋骨と鎖骨の接合部を通過するため損傷を受けやすいこと、外的圧迫に加えてこの部位での反復する力が固定的な内因性の損傷と外的な瘢痕組織の形成をしばしばもたらすこと、一次性血栓症と認識された後のカテーテル的血栓溶解療法は血栓形成から10〜14日以内に開始すれば通常成功するがしばしば背後にある病変を露わにすること、大多数の研究者が第1肋骨切除・前斜角筋部分切除・肋鎖靱帯切除・十分な外的静脈剥離による静脈性胸郭出口の減圧を必要と考えている一方、静脈病変そのものの治療の要否と方法については意見が一致していないこと、このアルゴリズムにより多くの研究者が95〜100%の長期成功率を報告していること、本疾患を扱った前向き無作為化試験が驚くほど乏しいこと(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02
  2. 2.Thoracic Outlet Syndrome: A Comprehensive Review of Pathophysiology, Diagnosis, and Treatment(Pain and Therapy・2019)胸郭出口が斜角筋三角・肋鎖間隙・小胸筋後隙の3区画からなり、鎖骨下静脈は斜角筋三角の前方を走ってこの区画を通らないこと、静脈性胸郭出口症候群が全体の3〜5%を占めること、Paget-Schroetter病(労作性血栓症)が上肢の激しい反復動作に続いて生じる腋窩ないし鎖骨下静脈の血栓症であること、静脈性が身体的に活動的な15〜45歳に多く重量物の挙上や反復する上肢挙上動作を伴う作業・余暇活動に従事する者が多いこと、肺血栓塞栓症を10〜20%に合併する一方、下肢深部静脈血栓症に比べれば血栓量は通常わずかで致死的になることは稀であり("In comparison to lower extremity DVT, however, clot burden is typically minimal and infrequently life-threatening")、その理由として外的な機械的閉塞が血栓の近位への塞栓化を理論上妨げると説明されること、労作性血栓症では初診時に凝固検査の異常を示すことがあっても遺伝性の凝固能亢進の指標は通常陰性であり、これが静脈性を凝固の問題ではなく機械的な問題として区別すること、静脈性は反復する上肢動作と関連するため若く健常な人に多く「最も多くは優位側の上肢を侵す」と述べられていること(ただしこれは本総説自身の報告ではなく、本総説が参照文献[8]を引用したものである)、動脈性・静脈性では初期介入がしばしば外科的であり、カテーテル的血栓溶解と全身へのヘパリン投与がまず試みられうることを、PMC版の全文で確認した。⚠️ 本総説は同一本文内で数値が割れており、Epidemiology節では静脈性3〜5%・動脈性1〜2%と書く一方、Pathophysiology節では静脈性を10〜15%・動脈性を2〜5%と書いている。本ノートが採ったのはEpidemiology節の3〜5%である。閲覧 2026-09-02
  3. 3.Post-thrombotic syndrome and recurrent thromboembolism in patients with upper extremity deep vein thrombosis: A systematic review and meta-analysis(Thrombosis Research・2019)1970年以降の観察研究・無作為化試験・20例超の症例集積62研究・3,550例を対象とした上肢深部静脈血栓症のシステマティックレビューとメタ解析で、血栓後症候群のプール割合が19.4%(95%信頼区間 11.3〜27.6)、再発が7.5%(95%信頼区間 4.1〜10.9)であったこと、平均追跡6か月で血栓後症候群の割合は一次性(誘因のない)上肢深部静脈血栓症で二次性より高く、再発は二次性で高かったこと、血栓後症候群は抗凝固単独で治療された患者のほうが血栓溶解や外科的減圧を受けた患者より多かったこと、大出血のプール割合が抗凝固単独後5.0%(95%信頼区間 0.3〜9.7)、血栓溶解ないし手術後3.8%(95%信頼区間 2.4〜5.8)であったこと(抄録のみを閲覧しており全文は未取得)閲覧 2026-09-02