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Disease Atlas · 循環器 · 症候群

Ortner症候群

Ortner syndrome

別名
Cardiovocal syndrome心血管性嗄声カーディオヴォーカル症候群
臓器系
循環器耳鼻咽喉科
科目
Cardiology
トピック
循環器内科 B-14:大動脈瘤と末梢動脈瘤
上位概念
声帯麻痺
症状
嗄声反回神経麻痺

🧠 全体像(心血管性嗄声、cardiovocal syndrome)は、拡大した心血管構造が左を機械的に圧迫・牽引して片側性の嗄声を来す病態である。1897年にOrtnerがの3例で報告したのが最初で、以後はに限らずなどへ原因が広がった。診断の核心はの原因検索そのものであり、心血管性の原因に飛びつく前に、頻度としてより多い悪性腫瘍(特に肺癌・)や医原性損傷を除外する姿勢が欠かせない。多くは基礎にある心血管疾患の治療で改善しうる点が、を単なる「治らない嗄声」で終わらせてはいけない理由になる。

病態

は右より縦隔内の走行が長く、の下を回り込んでから頭側へ戻るという解剖学的な特徴を持つ。この長い走行路のどこかで拡大・拡張した心血管構造に圧迫・牽引されると、片側性のを来す。心血管性の圧迫によるは左側が優位で、右側の関与は一部の報告で30%にとどまるとされる1

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='left atrial enlargement'>左房拡大</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aortic aneurysm'>大動脈瘤</span>・肺動脈拡張などの心血管病変"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='aortic arch'>大動脈弓</span>下を走行する左<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recurrent laryngeal nerve (RLN)'>反回神経</span>を圧迫・牽引"]
    B --> C["直接圧迫"]
    B --> D["伸展・牽引"]
    B --> E["周囲の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='scarring'>瘢痕化</span>による神経の固定"]
    C --> F["左声帯の運動障害"]
    D --> F
    E --> F
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='breathy hoarseness (breathy voice)'>気息性嗄声</span>・声量低下"]
    F --> H["誤嚥・むせ"]

代表的な原因は拡大した左房による圧迫)、(特に部)、による肺動脈拡張、Takayasu動脈炎などである。直接圧迫だけでなく、炎、大動脈肺動脈窓のによる神経の固定、・胸水による二次的な牽引も機序として関与しうる。

は嗄声の外喉頭性原因全体の1〜3%を占めるにとどまる比較的まれな病態である1のみを対象とした系統的レビューでは、その病因の内訳は大動脈・心臓系疾患が55.47%と最多で、など弁膜・左房性疾患が7.81%、が5.47%と報告されている1

臨床像

  • 成人では、声の疲れやすさ、軽度の嗄声、、発声時の努力感、誤嚥として気づかれることが多い。
  • 小児(が背景の例)では、呼吸困難、チアノーゼ、な誤嚥を伴う哺乳困難として現れることがある。
  • 声帯所見としては、患側声帯の緊張低下によるギャップ、声帯の・弓状変形、固定などがみられる。

⚠️ 心血管疾患の診断がすでについている患者に新規の嗄声が出現しても、それだけで「心血管性」と決めつけてはならない。 全体でみれば、悪性腫瘍(肺癌・が主体)が原因の過半数を占め、医原性損傷、特発性がこれに続き、のような心血管性の圧迫は少数派である2。心血管疾患の既往はを省略する理由にならない。

診断

flowchart TD
    A["片側性の嗄声・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='breathy hoarseness (breathy voice)'>気息性嗄声</span>を確認"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='laryngoscopy'>喉頭鏡検査</span>で片側声帯運動障害を確認"]
    B --> C["頭蓋底〜縦隔まで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='recurrent laryngeal nerve (RLN)'>反回神経</span>の走行全体を画像評価<br>造影CTまたはMRI"]
    C --> D{"心血管構造による圧迫所見があるか"}
    D -->|"なし"| E["肺癌・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='esophageal cancer'>食道癌</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='skull base tumor'>頭蓋底腫瘍</span>・医原性損傷など<br>他の原因を優先して検索"]
    D -->|"あり"| F["心エコー・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='cardiac MRI'>心臓MRI</span>で基礎心疾患を評価"]
    F --> G["基礎心疾患の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='treatment strategy'>治療方針</span>を決定"]
  • (フレキシブルで患側声帯の運動障害を確認する。
  • 画像検査の走行全体を評価するため、頭蓋底から縦隔までを含む造影CTまたはMRIを行う。片側そのものを示唆する画像所見として、患側の拡大、の内方偏位、の拡大などが報告されている1
  • 心エコー・で基礎にある心血管疾患(など)を評価する。
  • は回復可能性の評価に有用で、発症後6週間〜6か月が至適施行時期とされる1
  • 原因不明の左側嗄声では、心血管精査と並行して悪性腫瘍を除外する画像評価(CT/MRI、必要に応じPET/CT)を省略しない。

治療

は必ずしも不可逆ではない。 基礎にある心血管疾患を治療することで嗄声が改善しうる点が、悪性腫瘍や特発性のと大きく異なる。の血管内後に嗄声が改善したとする報告がある1

方針 内容
基礎心疾患の内科的治療 の管理、決定など、原因心血管疾患そのものへの介入を優先する
経過観察 や対側代償により症状が軽微な場合
声帯内方移動術 長期にわたり改善が得られない場合の対症的な音声改善術式

⚠️ 声帯内方移動術の絶対適応は、の既往患者本人の音声改善への希望の2つとされる2。誤嚥リスクの高い患者では、音声改善だけでなく誤嚥予防の観点からも手術介入を検討する。

まとめ

  • (心血管性嗄声)は、拡大した左房・・肺動脈などが左を圧迫・牽引して片側性の嗄声を来す病態で、嗄声の外喉頭性原因の1〜3%を占める。
  • 代表的な原因はなどで、系統的レビューでは大動脈・心臓系疾患が病因の過半数を占める。
  • 全体でみれば悪性腫瘍(肺癌・)が最多の原因であり、心血管疾患の既往があっても悪性腫瘍・医原性損傷の除外を省略しない。
  • 診断はでの片側声帯運動障害の確認と、頭蓋底〜縦隔の画像評価、心エコー・による基礎心疾患評価を軸とする。
  • 基礎心疾患の治療で嗄声が改善しうる点が特徴で、改善しない場合はの既往や音声改善の希望を踏まえて声帯内方移動術を検討する。

出典

  1. 1.Etiopathogenesis of Cardiovocal Syndrome (Ortner's Syndrome): A Systematic Review of the Literature(Indian Journal of Clinical Cardiology・2023)24件の研究を対象とした系統的レビューで、Ortner症候群(心血管性嗄声)は嗄声の外喉頭性原因全体の1〜3%を占めること、その病因の内訳は大動脈・心臓系疾患55.47%、僧帽弁など弁膜・左房性疾患7.81%、先天性心疾患5.47%であったこと、右反回神経麻痺は一部の研究で30%にとどまり左優位であること、喉頭筋電図の至適施行時期が発症後6週〜6か月であること、大動脈瘤の血管内治療後に嗄声が改善した例が報告されていること閲覧 2026-08-11
  2. 2.Ortner's Syndrome (Cardiovocal Syndrome): A Case Report(Cureus・2023)先行文献のまとめとして、反回神経麻痺全体の原因の内訳が悪性腫瘍(肺癌・食道癌が主体)52%、医原性22%、特発性11%、外傷後5%、Ortner症候群11%未満とされること。声帯内方移動術の絶対適応が誤嚥性肺炎の既往と患者本人の音声改善希望の2つであること閲覧 2026-08-11