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Disease Atlas · 循環器 · 先天性疾患

Noonan症候群

Noonan syndrome

別名
ヌーナン症候群NS
臓器系
循環器小児全身
科目
Pediatrics
トピック
小児科 39:成長障害(低身長・高身長)小児科 3-56:炎症性心疾患と心筋症
鑑別疾患
ターナー症候群
合併症
肥大型心筋症
治療薬
ソマトロピン
症状
内眼角贅皮
スコア
HCM Risk-Kids

🧠 全体像は、RAS/MAPKの遺伝子(最多はPTPN11)に・オブ・ファンクション変異を持つRASopathyの代表疾患である。同じ経路が全身のほぼすべての臓器の発生に関わるため、という2つの心病変、特徴的な・広い間隔の)、という一見バラな所見が、実は「RAS/MAPKシグナルが効きすぎている」という単一のから説明できる。臨床の最大の落とし穴はとの混同である——という表現型は似ていても、で男女ともに罹患し核型は正常という点が本質的に異なる。

病態:RAS/MAPK経路のRASopathy

RAS/MAPK経路は、細胞膜のからの増殖・分化シグナルをRAS→RAF→MEK→ERKの順に核へ伝える基本的な細胞内シグナル伝達路である。はこの経路のいずれかの構子に生殖細胞系列の・オブ・ファンクション変異を持つ(RASopathy)の代表格で、PTPN11(SHP-2をコードし経路を約50%の症例で説明する最多の)をはじめ、SOS1RAF1RIT1KRASBRAFなど12種類以上の遺伝子が知られる1を示し(LZTR1のみの遺伝形式もとりうる)、罹患者の30〜75%で罹患した親が同定される一方、残りは新生突然変異による孤発例である1

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='receptor tyrosine kinase (RTK)'>受容体チロシンキナーゼ</span>からのシグナル"] --> B["RAS"]
    B --> C["RAF"]
    C --> D["MEK"]
    D --> E["ERK"]
    E --> F["細胞増殖・分化のシグナル"]
    G["PTPN11・SOS1・RAF1・RIT1などの<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='gain'>ゲイン</span>・オブ・ファンクション変異"] --> H["経路が恒常的に活性化"]
    H --> F
    H --> I["心臓発生:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonic valve stenosis'>肺動脈弁狭窄</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertrophic cardiomyopathy, HCM'>肥大型心筋症</span>"]
    H --> J["骨・軟部組織発生:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='short stature'>低身長</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='neck webbing'>翼状頸</span>・<span class='jp-term jp-term-diagram' title='chest wall deformity'>胸郭変形</span>"]
    H --> K["顔面発生:<span class='jp-term jp-term-diagram' title='epicanthal folds'>内眼角贅皮</span>・広い間隔の<span class='jp-term jp-term-diagram' title='palpebral fissure (embryology: optic/choroid fissure)'>眼裂</span>"]

💡 (NF1)も同じRAS/MAPK経路の異常(NF1遺伝子がコードするはRasのGTPase活性化タンパクでRasにブレーキをかける)によるRASopathyの一員であり、両疾患の表現型が部分的に重なることがある。ただしNF1はの機能喪失、はシグナル伝達因子の・オブ・ファンクションという逆方向の異常である点が異なる。

臨床像

系統 所見
心血管 (25〜71%、最も頻度の高い)、(全体で10〜29%だがRAF1関連で約85%・RIT1関連で70〜75%に達する)、など多様な(合計50〜80%)1
成長 出生時身長は概ね正常だが乳児期以降にが明らかになり、成人最終身長は男性161〜167cm・女性150〜155cm程度にとどまる1
、下方傾斜した広い間隔の、鮮やかな青〜青緑色の耳介。年齢とともに見え方が変化し、乳児期に最も特徴的で成人期には目立たなくなる
頸部・胸郭 広頸・、上部胸郭隆起・下部胸郭陥凹の混在した
その他 、リンパ系異常(など)、軽度の発達の遅れを伴うことがある

は乳児期発症が優位で、発症すれば経過がになりうる。 149例のRASopathy関連患者(74.5%が)を対象とした多施設コホートでは、診断年齢の中央値が生後1.4か月と乳児期発症が優位で、23例(15.4%)が死亡し、での入院歴・・Noonan-like症候群の診断がの予測因子であった2。この点は成人発症が主体の遺伝子変異によるとはが大きく異なることを意味する。

⚠️ ターナー症候群との鑑別

⚠️ という表現型の重なりから混同されやすいが、は本質的に異なる疾患である。

項目
遺伝形式・性別 男女ともに罹患する X染色体・モザイクなど、女性のみに罹患する
核型 正常(46,XXまたは46,XY) 異常(45,X、モザイク45,X/46,XXなど)
心病変 など多様 など優位
比較的まれ より高頻度(など)
発達 軽度のを伴うことがある 知能は正常範囲にとどまることが多い

これらの違いから、では検査が正常に出ること自体が診断の手がかりになる1

診断

⚠️ にはに合意された臨床が存在しない。 診断スコアリングシステムはあるが北米では広く用いられておらず、実務上は示唆的な群のLZTR1のみ両アレル性でも可)の組み合わせで確定診断とする1。臨床的に強く疑われる例のうち最大20%は既知の遺伝子に変異が同定されない。

flowchart TD
    A["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='short stature'>低身長</span>・特徴的<span class='jp-term jp-term-diagram' title='leontiasis ossea'>顔貌</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonic valve stenosis'>肺動脈弁狭窄</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertrophic cardiomyopathy, HCM'>肥大型心筋症</span>を疑う"] --> B["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='karyotype'>染色体核型</span>検査で<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gonosome'>性染色体</span>異常を除外"]
    B --> C["核型は正常"]
    C --> D["RASopathy関連<span class='jp-term jp-term-diagram' title='gene panel'>遺伝子パネル</span>検査<br>(臨床的疑いが強ければ標的パネル、<br>非典型例では<span class='jp-term jp-term-diagram' title='exome'>エクソーム</span>/<span class='jp-term jp-term-diagram' title='genome sequencing'>ゲノム解析</span>)"]
    D --> E["PTPN11などに<span class='jp-term jp-term-diagram' title='heterozygous'>ヘテロ接合</span>性の<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='pathogenic variant'>病的バリアント</span>を同定"]
    E --> F["心エコーで<span class='jp-term jp-term-diagram' title='pulmonic valve stenosis'>肺動脈弁狭窄</span>・<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='hypertrophic cardiomyopathy, HCM'>肥大型心筋症</span>の有無を評価"]
    F --> G["<span class='jp-term jp-term-diagram' title='short stature'>低身長</span>の評価と<br><span class='jp-term jp-term-diagram' title='growth hormone (GH)'>成長ホルモン</span>治療の適応を検討"]

心臓の評価は診断確定後の管理の柱の一つであり、を認めた小児ではHCM Risk-Kidsによるリスク評価の対象になる。ただしこのモデルは異常によるHCMを主に想定して作られており、スペクトラムのような・代謝性の心筋症へのは限定的であることに注意する。

治療

  • によるはFDA承認のであり、治療時期・患者背景により身長SDSが0.6〜1.8増加するという一貫した効果が報告されている1
  • :経皮的バルーン形成術が第一選択治療となるが、非例と比べて再介入率が高い1
  • :一般的なHCM診療プロトコルに準じて管理するが、乳児期発症例は経過がになりうるため、の徴候・の有無を含めた早期からの厳重なフォローが重要である2
  • ・発達面の評価など、多臓器にわたる定期的なを併せて行う。

まとめ

  • はRAS/MAPK経路の・オブ・ファンクション変異によるRASopathyで、PTPN11が原因の約50%を占める。で、罹患者の30〜75%に罹患した親を同定できる。
  • (25〜71%)と(全体で10〜29%、RAF1関連で約85%)という2つの心病変が特徴的で、は乳児期発症が優位で経過がになりうる。
  • という表現型はと似るが、で男女ともに罹患し核型は正常という点で本質的に異なり、両者は検査で鑑別する。
  • な臨床はなく、示唆的なの組み合わせで確定診断とする。
  • にはFDA承認の治療、には経皮的には一般的なHCM管理に準じた対応を行う。

出典

  1. 1.Noonan Syndrome(GeneReviews (University of Washington, Seattle / NCBI Bookshelf)・2025)PTPN11がNoonan症候群の原因の約50%を占め次善の単独検査になりうること、RAS/MAPK経路のゲイン・オブ・ファンクション機序でBRAF・KRAS・LZTR1・MAP2K1・MRAS・NRAS・PTPN11・RAF1・RASA2・RIT1・RRAS2・SOS1/SOS2の12遺伝子が原因になりうること、遺伝形式が常染色体顕性(LZTR1のみ常染色体劣性もありうる)で罹患者の30〜75%に罹患した親が同定されること、肺動脈弁狭窄が25〜71%に生じ最も頻度の高い心奇形であること、肥大型心筋症が全体で10〜29%に生じRIT1関連例で70〜75%・RAF1関連例で約85%に達し診断年齢中央値が生後5か月で6か月までに50%超が診断されること、先天性心疾患全体では50〜80%に生じること、成人最終身長が男性161〜167cm・女性150〜155cmであること、Noonan症候群による低身長がFDA承認の成長ホルモン治療適応でありSDS増加が治療時期などにより0.6〜1.8であること、ターナー症候群とは染色体核型が正常である点・心奇形が左心系優位ではなく多様である点・腎奇形の頻度がより低い点・発達遅延がより高頻度である点で区別されることを確認した閲覧 2026-08-11
  2. 2.Natural history and outcomes in paediatric RASopathy-associated hypertrophic cardiomyopathy(ESC Heart Failure・2024)英国・アイルランド14施設の1985〜2020年の後方視的多施設コホートでRASopathy関連肥大型心筋症患者149例(うちNoonan症候群111例、74.5%)を対象とし、HCM診断時年齢の中央値が生後1.4か月と乳児期発症が優位であったこと、23例(15.4%)が死亡し死亡時年齢中央値が24.1か月であったこと、生存率が1年96.45%・5年90.42%・10年84.12%であったこと、うっ血性心不全での入院歴(ハザード比4.31)・非持続性心室頻拍(同5.56)・Noonan-like症候群の診断(同3.81)が全死亡の予測因子であったこと、非持続性心室頻拍と左室流出路圧較差が突然死・同等イベントの予測因子であったことを確認した閲覧 2026-08-11